002.
囚われた娘



 さっき女の子がこの塔につれてこられた…
 ルタ=ジェンマが倒れながらも教えてくれた。
 こんなところ…魔物の巣窟、ダームの塔へ!?

 階層を上がるごとに強くなる魔物たち。
 この塔は何の為に作られたんだろう?
 手元集まってくるイースの本に書かれているのかも知れないが、古代文字で書かれていて、アドルにその本は読めなかった。
 塔の外にでることができれば、ジェバ婆さんに読んでもらえることができるのだが、この塔は中に入ることはできても出ることはできない。
 厳重な封印…それほどに強い魔物がそこかしこにいる…。

 16階。
 他の階とは違って、塔の外側に向かって一本の長い廊下が続いている。
 その先に小さな部屋。まるで隔離されたような場所。
 ラドの塔。
 部屋に続く廊下や、扉の前にも屈強な魔物がいてアドルに襲い掛かるが、なんとかそれを凌いで扉の前へ立つ。
 だが、扉にも封印が…、魔物しか通ることができない魔法がかけてある。
 このままでは入れない。
 封印の形が…ふと自分が手に入れた指輪、悪魔の指輪の紋章と同じことに気付くが、それを身に着ければ、たちまち自分の体力が削られて一歩も動くことができないまま死に至ってしまう。
「くっ…どうすれば…!」
 扉にもたれかかると、疲れて重く感じる鎧がガチャリと鳴る。

「どなたか扉の外にいらっしゃるのですか?」
 部屋の中から、聞き覚えのある少女の声。
「その声はレア!?どうしてこんなところに!」
 ミネアの街で出会った吟遊詩人の少女。
 魔物に奪われた銀のハーモニカを取り返すと、美しい調べを聞かせてくれた。
「ああ、アドルさんなら必ず助けに来てくれると信じていました。どうしてもあなたに会わなければならなかったのです!」
「でも、この扉が開かないんだ!魔物の封印が…」
「聖なる首飾りと悪魔の指輪を使ってください!そうすればこの扉を抜けることができます」
 邪悪を祓う首飾りが聖なる光でアドルを包む。その指に邪悪なオーラを発する指輪をするが、なにも…体調的な変化は無かった。
 そのまま扉を押すと、重いはずの扉は難なく開いた。
 アドルの後ろで扉が音を立てて閉じる。
 部屋の奥に、レアが微笑んでいる。

「アドルさん、あなたにこれを…」
 レアが差し出したのは、不思議な輝きを放つメガネだった。
「これがあれば、あなたはイースの本を読むことができるようになります。あの本は、限られた人間にしか読むことができません。そして、あなたには読む権利があります」
「…そのために、この塔に来たのか?」
 自分がイースの本を読めるようになるために、危険を冒してこんな場所まで来たのかと思うと、アドルの胸は感謝と謝罪の気持ちでいっぱいになる。
「ありがとう…でも、どうして?」
「…申し訳ありません。運命の渦の中に…あなたを巻き込んでしまったのは私たちなのです」
「そんな、この冒険は僕がやりたくて始めたことだ。だから君が気にすることなんて…」
 レアは静かに首を横に振る。
「いいえ。あなたは…この国を救うことのできる、ただ一人の剣士です。どうか…どうかエステリアを…イースを救ってください」
 彼女は、ただ故郷の変貌を憂いているだけの少女じゃない。古代国イースの謎を知っている!?
「この塔の頂上にいるのは、ダルク=ファクト。エステリアを混乱に陥れた黒マントの男です。ファクトは魔物の力を利用してこの国を自分の物にしようと企んでいます。ですが、ことはそれでは済みません。世界が…闇の力に包まれてしまいます!アドルさん…あなただけが、闇を打ち破ることのできる光なのです」
 鈍く光る銀のハーモニカを胸元で抱きしめるレア。
「もう、私たちの力は届かないのです…」
 沢山の疑問がアドルの中に生まれたが、それを問う言葉が出てこなかった。
 今はただ、前を向いて進むことしかないと思った。
 そして、それがレアの望みでもあるのだから。
「わかった。必ずファクトを倒す」
「お願いします」
「すべてが終わったら、また会えるだろう?」
「ええ…。でも、そのときには私はもう今の私ではありません」
「え?どういう意味なんだ?」
 レアは曖昧な笑みを浮かべて、答えてはくれなかった。
「行って下さい。塔の上へ」
「君は?レアはどうするんだ?」
「私はここにいます。心配しないでください。アドルさんこそ気をつけて進んでくださいね」
「ああ…じゃあ、行くよ。さようなら、レア!」
 笑顔で見送ってくれるレアに、手を振って答えて、アドルはまたラドの塔からダームの塔へ、長い通路を戻って行く。

 閉ざされた部屋の窓から、去ってゆく赤い髪の少年を見つめて、レアは初めて『誰か』の為に祈る。
「さようなら、アドルさん。私はただ使命のために生きていました…。あなたに会えて本当に嬉しかった」



おわりー。




ごっつぅネタバレちゃうん?
…あ、でも、でもさぁ!イースって説明不足っぽいから、これくらいでもいいやんっ!なっ?なっ!?(滝汗)

囚われた娘。
使命に囚われた…という意味で、イース(1)のレアです。
ゲーム中ではアドルとカップリング扱いにはなってません。えー?なんでー?と言いたい私。(笑)
知らない人の為にちょっとだけうんちく垂れ。
吟遊詩人のレアと記憶喪失の少女フィーナ(こっちがヒロイン)は、古代国イースの双子の女神で有翼人の生き残りだそうです。赤毛の冒険者アドル=クリスティンが渡った国エステリアで二人と出会い、アチコチ苦労してイースの本を集めると…まるでラピュタのようなイースに到着します。
昔ゲーなので、ストーリーに説明が足りないとか、今のお子様たちは文句タラタラなゲームだと思うのですが、今も…本当に今でも支持されている名作「イース」です。

2003.01.11


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