誘 惑

その日、リナのピッチはかなり早かった。
そこには楽しんでいる様子はなく、何が気に入らないのか、オレと視線を合わせようともしない。

「もう止めとけよ」
「ほっといてよ」
やっとリナがこちらを向く。
上気した頬、潤んだ瞳。拗ねる様に睨む瞳に理性が飛びそうだった。

「ガウリイは帰れば。あたし一人で飲んでるから」

こんな所におまえ一人置いておけるかよ。
周りから無遠慮にリナに飛ぶ視線。

お前はまだ気づかない。
周りから飛ぶ視線の意味も、オレの気持ちも。

「ほら立てよ」
「や、だってば」
あまりに嫌がるので無理矢理抱き上げた。
そのまま男達の視線を遮り、リナを腕の中に抱き込む。
リナはまだ暴れていたが、非力なリナが暴れたところで苦にもならない。
オレは勘定をテーブルに置くとリナを部屋へと連れていった。




どさり。

「きゃうん!」
リナをベッドに落とす。
恨みがましい視線。
こんな状態のリナを長々と抱いていられるか。

「ほら、水のめよ」
コップに水をくんでリナに差し出す。
「いらない」
「なに?」
「要らないって言ってるの。お酒が飲みたいの」
こいつはー
ブッチリと何かが切れる音がする。
はっきり言って、今のオレは切れやすくなっている。

・・・誰かさんのせいでな。



コップの水を口に含むと、無理矢理リナを引き寄せ口をふさぐ。
口移しで水を流し込む。
飲み込み切れない水が口の端から滴り落ちる。
リナの手がオレの胸をたたくのも構わず続けた。
その抵抗がやむまで。
口を離すとリナが酸素を求めて喘ぐ。

もう一度口づけたい。

理性と感情がせめぎ合って悲鳴を上げた。
オレは感情を押さえ込むとリナの手にコップを握らせた。
「ほらちゃんと飲め。飲まなきゃ、もう一度飲ませるぞ」
もう一度なんて、理性が持たないけどな。
その時ぽたりと雫がリナの顔から落ちてくる。

涙?

そんなに・・・いやだったのか?

「あ、あたしはもう子供じゃない」
ぽろぽろとリナの瞳から涙がこぼれる。
思わず差し出した手をリナが弾く。

「出てって、出てってよ!もう保護者なんて要らない!
もう、ガウリイなんて・・・」

聞きたくなかった言葉。
胸が張り裂けそうに痛い。
いっそ殺される方がマシ。

続く言葉を聞きたくなくて、リナの口をふさぐ。
オレの口で。
深く、深く。
身体の熱が上昇する。
オレの理性を溶かすほどに。

リナの両手をまとめて押さえつける。
驚愕に見開かれた目。
その怯えがまたオレを煽る。
引き金を引いたのはオレか?リナか?
「やぁぁぁ・・・」
細い悲鳴がリナの口から漏れる。

「保護者じゃ無くてもいいならそうするさ。
その方がオレも楽しいからな」

耳元に囁くと震える身体。
瞳はきつく閉じられ、こちらを見ようともしない。

完全な拒絶。

オレは構わずリナの服に手を掛ける。
服から覗く白い肌がますますオレの理性を焼き切る。
「保護者」なんて鎖はとうに切れていた。
首筋に、胸元に赤い印を散らす。
柔らかい髪に手を入れかき乱す。

この手で守ってきた者を
この手で引き裂く

―――恐ろしいほど・・・甘美な誘惑。



「リナ、好きだ。愛してる」

自分でも都合のいいことを言っている自覚はあった。
こんなふうに力で押さえつけている相手に。
でも、言わずには要られなかった。
リナ、オレは・・・
何度も、何度も囁く。
幾ら言っても足りなかった。


ふと、
ぎゅっと閉じられていた瞳が開きオレと目が合った。
「あ、あたしもよ」
頭の中が真っ白になった。

今なんて?

じっとリナを見つめる。
今まで以上に赤くなった顔を背けるリナ。
夢じゃ無いよな?
思わずじっと見つめると、ますますリナが赤くなった。

「愛してる。
保護者じゃなく男としてそばにいたい。
ずっとずっとそばにいたい」
「バカクラゲ、あたしがいつあんたを「保護者」だって認めたのよ」

それが意地っ張りのリナの精一杯なんだろう。
耳まで真っ赤に染まったリナが可愛くて、リナがオレを男と見てくれるのがうれしくて。
リナを壊さないようにそっと抱きしめた。
オレより高めの体温。
柔らかい身体。
愛しさに息が詰まる。
ずっとこのまま抱いていたい。
触れ合った肌から暖かいものが広がってくる。



どうしたら伝わるだろう。

   ―――この愛しさを―――

どう言ったらいいんだろう。

   ―――この感覚を―――

どう表現したらいいんだろう。

   ―――この胸の内を―――



リナはオレの胸に顔を埋めたまま吐息を一つ。
無意識だろうが、めちゃめちゃ色っぽい。
はだけた胸元から見える白い肌。
白い肌に散る赤い痕。
全部オレがやったんだけどな。
そんなに誘惑されたら、我慢なんて・・・


・・・我慢しなくてもいいんだよな?


リナの気持ちは分かったし。
幸いにして(?)すでに押し倒してるし。
オレはリナの耳朶に舌を這わせる。

「な、な・・・」

身体を捩るようにして逃げようとするリナ。
甘いな。
ここまで来て逃がすかよ。

「オレも男だからな、
好きな女がこんな格好をしてるのに、我慢なんて出来ないな♪」
「が、我慢て・・・」
「覚悟しろよ、リナ(はぁと)」
「や、まっ・・・」

慌てるリナに口づける。
やっぱ勝負は先手必勝だろ?
リナ?



2000/9
勢いって大事だなぁ(^_^;)

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