Wedding March |
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聖堂の入り口に経つのは長い金髪を一つに束ねた白いタキシード姿の彼。 淡い笑みを浮かべたその横にはこれまた純白のヴェールに包まれた花嫁。 彼が手を差し出すと花嫁がそっとその手に腕を絡ませた。 二人が足を踏み出すと聖歌隊が祝福の歌を高らかに歌い出す。 あたしは―――ベンチから立ち上がって二人が入ってくるのを見守った。 たった数メートルの道のりのその先が見えなくなってあたしはふと視線を落とした。 落とした先の赤い絨毯の上を白い物が掠めすぎる。 早く終わって欲しいのかそれとも終わって欲しくないのか。 何も出来ずに立ち尽くすあたしにとっては永遠とも思える長い時間。 「汝、ガブリイ=ガブリエフは・・・ ・・・誓いますか?」 「―――はい、誓います」 力強い彼の声。 良く響く彼の声が頭に響いて思考がまとまらない。 「では、誓いの・・・」 ガンガンと痛む頭を沈めようと目を瞑ったその一瞬に式は終わっていた。 ―――おめでとう・・・ 何も知らない人々が晴れやかな笑みを浮かべる二人を祝福する。 ―――オメデトウ――― 何も知らない人々の笑顔と拍手があたしに突き刺さる。 出口へと向かうガウリイ。 先程とは違い表情までよく見える。 声も出さず立ち尽くしていたあたしに気付いて、微かに、あたしにしか分からないぐらい瞳が緩む。 馬鹿。 笑う相手を間違えてるわ。 いよいよ胸の痛みは堪え難くいほどあたしを襲うが逃げ場などどこにもない。 何処に行くことも出来やしない。 天と地と人々に見守られて、ガウリイは今日結婚式を挙げた。 昼間あれ程賑わいだ教会も今はひっそりと静まり返っていた。 天井のそこかしこに張られたステンドグラスが月光を受け、絨毯の上に複雑な模様を織り上げる。 そちらに向かって足を踏み出だし、赤い絨毯の上を静かに渡っていく。 そう言う作りになっているのだろう。 一番、光が当たるように。 降り注ぐ月光が祭壇前に色とりどりの光の祝福を注ぐ。 踊るように足を踏み込ませれば、今日の為に誂えたスカートが花の様に広がった。 戸口に立つ長身にすぐに気が付いたけれど、広がるスカートが楽しくてあたしは一人、月下のダンスを踊る。 人影は黒い礼服に一つにまとめた金髪を肩から胸に流し、赤い絨毯の上をまっすぐに歩いてくる。 「―――リナ」 「何、よ」 息が弾んで声が途切れる。 「花婿が、こんな所で油売ってても、いいの?」 「リナ、オレは・・・」 最期のターンを決める前にガウリイに腕を掴まれた。 昼間見た光景そのままに祭壇の前で見詰め合った。 目を逸らしたのはあたしの方が先だった。 掴まれた腕が熱くて痛い。 「―――早く花嫁の所に帰りなさいよ」 「・・・結局止めてくれなかったんだな」 「またその話? ・・・もう終わった事でしょ。良いじゃない」 「終わった事?!オレはっ」 腕を引き寄せられて仕方為しに蒼い瞳を見上げた。 「だって仕方が無いじゃない。 他にどうすれば良かったって言うのよ・・・」 「お前な・・・」 ガウリイがすぅと目を細める。 「お前が報酬に目が眩んでこんな依頼を引き受けた所為だろうが!」 「仕方ないでしょ!始めは婚約者のフリだけだったんだから。 それをあのネチネチした男が信じられないとかなんとかってゆーから。 まさか婚約はフリでしたから結婚は出来ませんって言うわけには行かないでしょ!」 「だからって好きでもない奴と結婚式なんてしたくなかった」 「あたしだって・・・」 昼間の胸の痛みが蘇る。 あたしだって女だから。 「・・・あたしだってガウリイが・・・」 「リナ・・・」 ガウリイの大きな掌が頬を撫でる。 「ねぇガウリイ・・・」 「ん?」 その手に自分の手を添えた。 「・・・あたしのこと・・・スキ?」 「ああ、何度も言ってるだろ。 そんなに信用無いのか、オレは」 「ううん。信用してる」 ガウリイを見上げてにっこりと笑えばガウリイも柔らかな笑みを返してきた。 「リナ・・・」 「ガウリイ・・・ ・・・じゃあ大丈夫よね?」 「は?」 「ほらガウリイ、早く帰りましょ。 まだ仕事は終わってないのよ」 「いや、おい、リナ? お前オレが他の女と居てイヤじゃないのか・・・」 「嫌よ、勿論。 でもそれとこれとは別。 ここまできて礼金を諦められますかって」 あたしを抱きしめていたガウリイの腕からスルリと抜け出し、出口へと向かう。 「リナぁ・・・」 情けない顔でガウリイがあたしを呼ぶ。 でも、あたしも女、だから、ね? 「あのね、ガウリイ。 ・・・女って欲張りなのよ♪」 振り返ってそう言うと、ガウリイは参ったと両手を上げた。 |
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2002年6月9日 午前11時〜午後2時まで の限定でした(笑) ← 戻る |