永久(とわ)の月 |
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―――月を見ていた。 明かりもつけず、月光だけが差し込む部屋で。 まるで誰かを思い出させる月。 いつも空にあって、優しい光で照らしてくれるけれど決して手に入らない。 らしくないなー。 あたしはベッドに倒れ込んだ。 明日は、いやもう今日はあたしの誕生日。 だからかな、こんなセンチになるなんて。 でも考えずにはいられない。 いつまで一緒に居られるのか。 ああやっぱりあたしらしくない。 あたしがベッドから勢いよく起きあがるのと、窓に何かが当たるのとはほぼ同時だった。 ―――? 窓から外を覗けば、窓の下にガウリイが立っていた。 月の光に溶けてしまいそうな金髪。 引き締まって無駄のない体躯。 こちらを見上げる瞳は蒼天。 いつも見慣れているはずのその顔に、思わず見とれて声を掛けるタイミングを失う。 そんなことを知りもしないガウリイがあたしをみとめて微笑んだ。 いつものように笑ってくれたので、近寄りがたい雰囲気は消えあたしは何故かほっとした。 「なにやってるのよ」 「・・・ちょっと降りてこないか?」 「・・・ま、ちょっとだけなら」 こんな時間にどうしたんだろ? どうせ眠れないのなら、月夜の散歩もいいかもね。 なんでガウリイがあたしを呼ぶのか疑問だけど、手早くマントを羽織り窓から「浮遊(レビテーション)」で降り立った。 「なに?」 「まあ、こっちこっち」 ガウリイが珍しく強引にあたしの手を引く。 ちょっと、手掴まないで欲しいんだけど。 顔が赤くならないように祈りながらガウリイに付いていく。 「ほら」 ガウリイがあたしを連れていった先は宿屋の裏手の野原だった。 その野原には白い小ぶりの花が一面絨毯を引いたように咲き誇っていた。 「きれー」 「だろ?」 ガウリイがちょっと得意そうに笑った。 「この地方のこの時期、夜にしか咲かないんだってさ。 宿の人に聞いたからどうしてもリナに見せたくて」 なんか・・・うれしい。 でも。 「なんで?」 つい聞いてしまった。 しかもあたしの右手はまだガウリイに握られたままだし。 「おまえなー」 何故かガックリとするガウリイ。 はれ? 変なこと言った?? 「今日はお前の誕生日だろ?」 「あ・・・」 覚えててくれたんだ。 凄くうれしい。 自分でも珍しいと思うくらい素直に礼の言葉が出てきた。 あたしだってたまには素直になる時だってあるわよっ。 「あ、ありがと」 「まあまてよ。 これはおまけ。こっちがプレゼント」 ガウリイがやっとあたしの手を離したかと思うと、その手に懐から出した小さな箱を乗せる。 「ハッピーバースデイ。リナ」 「あ、ありがと」 うにゃー。 プレゼント?ガウリイが? 今日はガウリイなんか変だよ。 キャラが変わってるんじゃない? 戸惑うあたしにガウリイは尚も言う。 「ほら、開けて見ろよ」 箱を開けると出てきたのは――― 蒼い石のはまった銀の指輪。 指に填めればサイズはピッタリで、その右手を月に翳す。 ガウリイの瞳のような蒼い石。 うわー、照れくさい。 でもうれしい。 でもやっぱり照れくさくて、あたしはガウリイを茶化す。 「おおおっ、ガウリイがあたしの誕生日を覚えてるなんて。 明日は剣でも降ってくるかも」 「そりゃあ、覚えてるさ。リナのことだし」 照れくさくてガウリイを茶化して、いつものようにガウリイがぼけるかと思ったのに。 何故かガウリイはじっとあたしを見つめる。 青い、蒼い、どんな宝石よりも輝く瞳。 なぜだか逃げ出したいような、ずっと見ていたいような・・・ ガウリイの瞳は怖いほど真剣で、その瞳から目が逸らせない。 なんでそんな目をするの? 何が言いたいの? 言ってくれなきゃ分からないわよ、ガウリイ。 「お前、オレが何言いたいのか分からないんだろ?」 いつもの声、でも瞳の色は変わらぬままで。 「わ、分かんないわよ」 上擦る声と、ばくばくいってる心臓をなだめすかす。 お願いだから静かにしてよ。 ガウリイが変に思うじゃない。 お子様が何考えてる?って言われるのがオチなのに。 でも、ガウリイも悪い。 そんな目をしないでよ。 期待だけが暴走する。 「あのな・・・」 優しい光の中に違う光がチラチラ混じる。 もうやだ。 多分あたしは泣きそうな顔をしていたのだろう。 「そんな顔するなよ。もっといじめたくなるだろ」 気が付くとあたしはガウリイの腕の中にいた。 「好きだ。リナ」 耳元で聞こえる低くて掠れた囁きと、あたしを包む腕の熱さと。 何も考えられなくなって頭がクラクラする。 「ここまで言えば、幾ら鈍いお前でも俺の気持ちが分かっただろ?」 「き、気持ちって・・・・・・・」 ってことは、ガウリイはあたしが・・・ すき??!!!! ぼふん。 あたしの顔が爆発した。 うそ、でしょ。 だったそんな素振り・・・ 「言っとくけど、一緒に旅してきた奴らはみーーんなオレの気持ちに気づいてたぞ。 気が付かなかったのはリナぐらいだ」 「う・・・・・・」 き、気が付かなかった・・・ ガウリイがあたしを・・・なんて・・ 「さ、オレはちゃんと言ったぞ。 リナ、返事は?」 あたしはガウリイの腕の中で藻掻くのが精一杯で逃げることも出来なかった。 あたしを見つめる瞳、その瞳に宿る熱。 その熱に浮かされて。 「あたしもガウリイが好きよ」 いつもあたしの頭を撫でる大きな手がゆっくりと頬をなぞる。 「ずっとこうして、リナに触れたかったんだ。 キスしていいか?」 少しからかうようなガウリイをあたしは軽くにらみつける。 「バカ」 そしてゆっくりと瞳を閉じた。 |
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2000/9 ← 戻る |