幸せのおもさ

ただ待つ。
それがこんなに苦痛だと思った事は無かった。
ついにオレは我慢が出来なくなって、意味もなく部屋を歩き回る。
こんな事しても意味がないとわかっている。
わかっているが落ち着かないんだよぉ。
「おい」
リナのおやじさんが何やら言いたげに声をかけてくるが構うもんか。
そう言う本人だってさっきから貧乏ゆすりが止まらないし、タバコをくわえては捨てくわえては・・・
そんな事はどうでもいい。
問題はリナだ。
お袋さんと姉ちゃんはリナについてる。
オレも一緒に居たかったんだが、邪魔だからと追い出された。
せめて一緒に居てやりたかったのに。
オレにとっては永遠とも思える時間が流れ、待ち望んだ声が聞こえた。
「ガウリイさん」
名前を呼ばれるのも待ちきれず、開いたドアをすり抜けて部屋に入った。
そこではリナがベッドの上でオレを待っていた。
汗で濡れた髪は額に張り付き、やつれた顔。
それでもその笑みは今までで一番綺麗だった。
お袋さんも姉ちゃんも気を使ってくれたらしく部屋を出ていく。
「ちょ、ちょっと待て!俺だって一目ぐらい・・・」
「駄目よ、父さん(あなた)二人の邪魔したら」
ついでにおやじさんも二人に引きずられていった。
ちょっとおやじさんには悪い気もするが。
でもこれはオレだけの特権―――







「リナ」


名前を呼んでギュッと抱きしめた。


「ありがとう」


―――他に言える言葉はなかったから。


「男の子。双子だって」
はにかんで、でもどこか誇らしげにリナが囁く。
「大変だったろう?」
少し艶の無くなった栗色の髪にそっと口づける。
「子供、抱いてあげて」
「ああ」
返事はしたものの・・・自分の無骨な手とベビーベッドに眠る金色の宝物とを見比べる。
「どうしたの?ガウリイ」
「さわったら・・・壊しそうだ」
オレは真剣に言っているのにリナはクスクスと笑う。
そんなに笑うことないだろ。
軽く睨み付けてやると「ゴメン」と言って子供を抱き上げてみせた。
子供を産んだばかりなのにもう「母」の顔。
「ほら、こうやって、ちゃんと頭の後に手をやって・・・
そーそー」
リナの言う通りぎこちないが何とか抱き上げる。
初めて抱いた我が子はあたたかくて柔らかくてそして・・・


――――――重たかった。


「重い・・・な・・」
どんなものより重い。
リナは、母親は、子供を産む前からずっとこの重さを感じてたんだな。
道理で母親が強くなるわけだ。


「名前・・・決めないとね」
「そうだな」
「二人ともガウリイによく似てる」
「そうか?」
「そうよ」
お互いの腕の中を覗き込む。
「次はリナに似ている女の子がいいな」
「・・・次って・・・」
「リナは女の子、欲しくないのか?」
「・・・・・・欲しい・・・・・・」
これだけでうっすらと頬を赤く染める。
いつまでたってもこういう所は変わらないよな。
オレはさっき笑ってくれた仕返しをしてやる。
「リナにも協力してもらうからな♪」
「〜〜〜〜〜〜」









いつまでもこの重さを忘れないで行こう。





春でも夏でも秋でも冬でも
雨の日でも風の日でも雪の日でも





オレとリナと二人の子供なら
どんな時でも大丈夫。



2000/10


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