Risky Game番外

屋根の上を走る黒い影が二つ。
不安定な足場をものともせず、屋根の上をあいつを追って疾走する。
「いいかげん観念しなさい!」
「お前こそ、いいかげんに諦めたらどうだ」
対する男は余裕の態度を崩しもしない。
あたしの放った銃弾をヒラリとかわし、その序でとばかりに隣の屋根まで軽々と飛び移る。
「それともやっとオレのものになる決心でもついたのか?」
「うるさいぃぃぃぃぃぃ
死ね!この変態吸血鬼!!」
その後を追ってあたしの身体も宙を舞った。
そしてそのままの勢いで奴に向かって剣を振り下す。
さくっ―――
家から持ち出した長剣は、バターでも切るように床を――つまり家の天井部分――を切り裂き、さすがのあいつも驚いた表情をした。
ふ・・
ふふ・・・
ふふふふふ・・・
「さあ、覚悟しなさい。
この斬妖剣(ブラスト・ソード)の錆となってもらうわ!」
ビシリと剣を奴に突きつける。
正直なところ、また失敗した時の事を考えると・・・
この剣だってぢつは無断で持ち出してるし。
脳裏を姉ちゃんのニッコリ笑顔がプレイバックする。
ハッキリ言って次も生き残れるか保証は無い。
背中に走った悪寒を何とか押さえ込み、重たい長剣を両手で支えるように構えて、走り出す。
当たりさえすればあたしの力でも楽に止めを刺せる。
大振りにならないように気を付けながら、真横に奴の胴体を薙ぐ。
あいつは一段高い屋根の上に飛び上がってあたしの剣を避けた。
「降りてきなさい!」
屋根の上に叫びながら、油断無く剣を構えた。
戦いに於いて、高い位置を取るだけでそれは強みになる。
来る―――
防御の意味も込めて真正面に剣を構える。
狙うはカウンター。
だがしかし。

「そんな剣が相手じゃ、さすがに分が悪いな」

拍子抜けするほどあっさりと奴は頷き、マントを翻した。
「ちょっと、待ち・・・」
そのまま逃げ出しにかかったあいつを追いかけようとしたあたしは、奴が振り向きざまに放った指弾に剣を弾かれる。
「!!」
あたしの手からすっぽ抜けた剣は綺麗な放物線を描き、重力に従って床に向かった。

さく〜〜〜〜〜〜〜っ・・・
きゃ〜〜〜〜〜〜〜っ・・・

みょーに軽い音と悲鳴が下から聞こえてきた。
ここは屋根の上ってことは・・・
自分の運命を思ってあたしはひっそりと涙した。
勿論あいつの姿など、疾うの昔に消えていた。





キィィィ・・・
小さな軋みに慌ててドアを押さえる。
聞こえ・・・なかったよね?
ドキドキする心臓を押さえて辺りを見回しても、誰も居ない。気配も無い。
良かった。
本当に心臓に悪い。
明日、油をさそう・・・
そう固く心に誓いながら、今度は両手で慎重に扉を閉め・・・

「リナ・・・」

ビビクン。

声は真後ろで聞こえた。
き、気のせいよね。
だって今誰も居なかったし・・・
恐る恐る肩越しに後ろを振り返れば・・・
心霊現象の如くすぐ後ろに姉ちゃんが立って居た。
あはっ。
あはははは・・・
「姉ちゃんあのね、また・・・逃げられちゃったの。
でね、でね・・」
「・・・リナ・・・」
「あ、訓練ならちゃんと受けるから。
その為にも早く寝なくちゃね。
じゃあ、姉ちゃんお休みなさい」
あたしは一息に捲し立てて姉ちゃんの前から立ち去ろうとした。
・・・した。

「待ちなさい、リナ」
「はい・・・」

階段に足をかけたところで、姉ちゃんにキッチリ呼び止められた。
刑場に引かれていく罪人の如く、重い足取りで姉ちゃんの前まで戻る。
「倉庫に仕舞ってあった剣が一本足りないんだけど、どこにやったのか知らないかしら?
ね、リナ?」
「えっと・・・その、ね・・・
ちょこっっと借りたら、ぢめんに刺さって抜け無くなっちゃって・・・」
てへっ。
あたしがにへらっと笑うと姉ちゃんもニッコリと笑い返してきた。
えへ、
えへへへへへ・・・














「リナ?」
「だ、だって〜〜〜。
あいつが、全部あいつが悪いのよ〜〜〜〜〜。
すばしっこく逃げるから・・・だから・・・」
「・・・分かってるわよね?・・・」
「いや〜〜〜。お仕置きはいや〜〜〜。
ねーちゃ・・・いっ、いえっ、おねーさま。
許して〜〜」
「往生際が悪いわよ、リナ」
「みゃ〜〜〜」






結局―――
あたしは思い出したくもないほど、こっぴどく絞られた上、3ヶ月間のお小遣いカット。
加えて、ぢごくの訓練に付き合わされたのだった。


えんど♪


2001/5
勿論某様のイラスト(ゲストルーム)から妄想

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