Risky Gameおまけ2

まったく、簡単なものだ―――
手を伸ばして差し招けば、嫌々をするように首は振られるが、身体は彼の魔力に逆らえはしない。
自分の意志に反してふらふらと彼に近づいてくる。
この少女はよく持った方だ。
大概の女は魔力を使うまでも無い。
彼の姿を見るだけで魅入られた様に全てを差し出してくる。
「いい子だ」
彼が伸ばした腕に、栗色の髪の少女が倒れ込んできた。
声を出さないのか、出せないのか。
悲鳴一つ上げない少女をマントで絡め取る。
どちらにしてもこの少女は彼の獲物だ。
逃がすつもりは毛頭無い。
震える少女の頤に手を掛けて白い咽をさらけ出させる。
「あ・・・」
掠れた少女の声、華奢な躰が震えるが抗いはしない。
やがて―――
彼以外動くものの無くなった部屋に低い声が流れる。
「早く来い。
オレはここだ」
彼女らは生き餌。
唯一の獲物を捕まえる為の。
明日になれば目を覚まし、彼の事を伝えるだろう。
あの存在に。



代わりばえのない夜。
代わりばえのない女達。



ただ闇雲に時を重ねて。



あの夜、あの瞳に会うまで・・・



「動かないで!」
燃え立つような緋色の瞳。



彼は自分の胸に手を当てた。
そこには何も残っていない。
傷痕もなにも。
油断はあった、確かに。
華奢な見かけとは裏腹に燃え立つような緋色の瞳。
闇に身を置きながら自ら光を放つ少女。
通常闇を狩るものは、闇と同化する。
それが獲物に近づくのに一番楽な方法であり、例えその気が無かったとしても、 殺しの技法を学ぶ度に獲物を手に掛ける度に、何かが深い澱の様に少しずつ堪っていき、やがては闇に染まっていく。
それがあの少女には感じられなかった。
では、ろくに腕も磨いていない駆け出しだろうと思い込んだのがまずかった。
100年来、かすり傷の一つも付けられた事の無いこの身に、致命傷となり得る傷を付けた少女。
あの少女の事を思うと心が沸き立つ。
キッチリと礼はさせて貰わないとな。
ガウリイはマントを閃かすと、床に倒れた少女を顧みる事無く闇の中に姿をとかした。



後に残るは、甘い睦言の様な囁きだけ。



「早く来い、リナ・・・」







2001/4


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