Risky Gameおまけ1 |
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あたしの目の前には黒く大きな扉。 長い歳月を風雪に耐え続けた扉は無言の重圧であたしを圧倒してきた。 表面こそ飴色になってはいたが、そこに付いている鉄製の枠が扉を酷く頑丈なものに変えていた。 枠だけではない。 扉の内側には鉄板が仕込まれ、屋敷の至る所に敵の侵入を防ぐためのあらゆる手段が講じられているのだ。 それは二階であっても言うに及ばず、結果玄関から入るのが一番安全と言うことになる。 あたしは息をゆっくりと吐くと、扉に手を掛けそっと押した。 扉にカギは掛かっていない。 少し力を込めただけで、内側へと開いていく。 慎重に、慎重に、隙間を開け中を覗いた。 扉の中は広間になっており、誰の姿も気配も無い。 天井からはシャンデリアが下がっているが、明かりは灯ってはいない。 あたしが開けた扉からもれる月の光だけが光源。 人一人がやっと通れる広さまで扉が開いたところで、あたしは中へと身体を滑り込ませた。 すばやく、でも音のしない様に扉を閉める。 そのまま、気配を殺したまま、暗闇に目が慣れるのを待つ。 程なくして、部屋の家具達が浮かび上がってくる。 真正面には時計。 カチカチと正確に刻まれる音が、感に障る。 まるで屋敷中の注意を引こうとしてるよう。 その時計の両サイド、広間の奥から2階へと続く階段が伸びている。 目的の部屋はその階段を上がった所にある。 取りあえずそこまで行けば・・・ あたしは意を決すると足を踏み出した。 喉はからからに干上がり、心臓がドキドキと鼓動を打つ。 大丈夫、分厚い絨毯はあたしの足音を消してくれる。 「リナ・・・」 「!!」 ホールの中程まで進んだ時、突然声は掛けられた。 それと同時にカーテンが引かれ、煌々とした月光が狼狽しているあたしを照らし出した。 気配はしなかった。 でも、現実にその人物はそこに立っている。 階段の踊り場で、月を背にして・・・ あたしはごくりと息を呑んだ。 こちらからは逆光になっていて、その表情は見えない。 しかし、静かなプレッシャーがちりちりと肌を刺す。 「・・・随分遅かったじゃない・・・」 「あのね、ねーちゃん」 あたしは強ばる舌を必死で動かした。 冗談抜きで自分の命が掛かっているのだ。 必死にもなる。 「今日の獲物ね、すごくすばしっこい奴でさ、あたしに恐れを為して、その・・・逃げちゃったの。 あ!でも次は絶対に逃がさないから。 だから・・・」 ここで一端言葉を切ってチラリとねーちゃんを見上げれば、階段の上からあたしを黙って見下ろしていた。 ひぃぃぃぃ・・・・この沈黙が怖いぃぃぃぃ・・・・・ ダラダラと冷や汗を流すあたしとは対照的に、姉ちゃんは表情を動かさない。 「リナ・・・」 「はひ・・・」 姉ちゃんが階段を下りてこちらに向かってくる。 逃げ出したいぃぃぃ・・・ でも、逃げられないいぃぃぃぃ・・・ 「ま、逃げちゃったものは仕方ないわね。 でも、次は仕留めなさいよ」 「はいっ」 姉ちゃんはとあたしの横をあっさり、すり抜けていった。 助かっ・・た? その場にへたり込みそうな自分を叱咤して、台所の方へと向う姉ちゃんの背中を見送る。 が、姉ちゃんは不意に何かを思いついたかのように立ち止まり、首を傾げた。 「そう言えばリナ。 その首はどうしたの?」 「!?・・・こ、これはつまりその・・・虫に・!?」 首筋を押さえて懸命に言い訳をしかけたあたしは次の瞬間固まった。 バンパイアの印が人の目に映ることはない。 ってことは・・・ さぁっと血の気が落ちていくのが分かった。 も、ダメ。 あたし、死んだ――― 「やっぱりね・・・おかしいと思ったのよ・・・」 「ね、ねーちゃん・・?」 廊下の暗がりに立つねーちゃんの目が光った。 ―――様な気がした。 「リナ?」 「はいっ!」 身体がビクリと跳ね上がった。 ねーちゃんの声はいつものものだが、その奥に背筋が凍るほどの何かが潜んでいた。 でも、掛けられた言葉は意外なものだった。 「もう寝なさいよ、リナ」 へ? 「明日からは訓練のやり直しだからね」 そ、そんなぁ・・ 茫然とするあたしを気にも止めず、姉ちゃんは今度こそ台所へと続く廊下へと消えた。 一人残されたあたしを月が照らす。 月もこれで見納めかもしんない・・・ 訓練と称する姉ちゃんのしごきを思い出し、あたしは階段の手すりに力無く寄りかかった。 何とか次の日の月を拝んだあたしが、あいつに対する怒りを更に燃やしたのは言うまでもない。 くっそ〜〜憶えてなさいよ〜〜〜 絶対に仕返ししてやるんだから! えんど♪ |
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2001/4 ← 戻る |