お返し★

「リーナ♪」

ノックの音にドアを開ければ、 ガウリイが満面の笑みを湛えてあたしに手を差し出してきた。

「これ、この間のお返し」

はぁ?
お返し?お返しって・・・
あたしは動揺しそうな自分を慌てて叱咤する。
ダメよ。この間のことで懲りたでしょう?
一ヶ月前は不覚をとったけど、今日はそうはいかないんだからね!
今日はホワイトデー。
何の日か説明するまでもない。
そしてちょうど一ヶ月前。
あたしはガウリイにその・・・チョコをあげた。
その後のガウリイの『ホワイトデー』の言葉に思いっきり動揺させられたんだけど・・・
こいつってば・・・

次の日からも全然様子が変わらなかったのよ!

何のことはない、ガウリイはバレンタインが何の日か把握してなかったわけだ。
ほっとした反面なんだか腹が立つ。
どうせホワイトデーだってチョコをくれたお姉ーちゃん達に聞いたに決まってるのよ!
たったそれだけの事で狼狽してしまった自分が口惜しい。

「今日が何の日か知ってるの?」

「ホワイトデーだろ?」

用心深く尋ねるあたしに、当然といった風にガウリイが言ってくる。
問題はここからよっ。

「ホワイトデーって何か知ってる?」

「チョコもらったお返しをする日だろ?
チョコくれたねーちゃん達が言ってた。 10倍20倍返しは当たり前、だって」

やっぱり。
分かっていてもなんだか胸がムカムカする。
あたしのチョコをそこいら辺の姉ちゃんのチョコと一緒にしないで欲しい。
だって、あたしはずっと・・・

「リナ?」

黙り込んでしまったあたしをガウリイが心配そうに覗き込んできた。
そしてその手をあたしの額に当てようとする。

「熱でもあるのか?顔が赤いぞ」

「だ、だ、だ、大丈夫よっ!」

伸ばされた手から身を引いてあたしは断言した。

「それより!
そのチョコくれたお姉ちゃん達に10倍でも20倍でも100倍でも好きなだけ 『お返し』してくればいいでしょう!?」

思わず声がきつくなる。
ガウリイが他の人にあげるのと同じもの。
そんなお返しもらったって嬉しくない。

「そんな事言ったって、あの町はここから遠いし。
それに・・・」

「それに!?」

「だってオレ、相手の顔覚えてねーもん・・・
だから、リナにその分お返ししようと思って」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・プッ・・・・・・・・・・・・・・・・

あははは・・・
そりゃ、そーだ。
ガウリイがホワイトデーの事を覚えてただけでも、奇蹟だもんねー。
あんなに沢山の姉ちゃん達の顔覚えられるはずないのよ。うん。

―――そうか・・・覚えてないのか・・・
何か、嬉しいかも・・・

「仕方ないわね」

あたしは緩みそうになる頬をおさえ、精一杯のしかめっ面で手を差し出した。

「受け取ってあげるから感謝しなさい」

「おう」

ガウリイはあたしの差し出した手に綺麗にラッピングされた小さな箱を乗せるとお日様みたいに笑った。

「じゃあこれでオレ達は晴れて恋人同士だよな♪」

ま、ガウリイ相手じゃって・・・
・・・へ?

「リナってば照れ屋だから大変だったんだからな。
迂闊に告白でもしようものなら返事の代わりに魔法の嵐だろ?
仕方がないから無い知恵絞って考えたんだぞ。
やっぱりリナの言うとおり、たまには頭も使わないといけないよなぁ〜。
でもこれで遠慮もいらないし。
次は気持ちの100倍返しな♪」

ぱたん。

かちゃり。

軽い音を立ててドアが閉められ、次いでカギの掛けられる音がやけに大きく耳に響いた。

部屋の中にはお日様みたいな笑顔のままのガウリイとあたし。

はい?????

もひかひて・・・???




「だっ、騙され・・・むぐっ・・・・・・・・」

















ちなみに。
何というか箱の中身は金の地金にピジョンブラッドの、そりゃあ見事な指輪だった。


まったく、この男は・・・




2001/3
星が黒いのがポイント♪

← 戻る