並び立つもの〜side L |
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一瞬遅れてやってきた爆風に少女は自慢の髪を抑えた。 風が運んできたのは砂埃と何かが焦げる匂い。 煤けた大地に倒れ伏すのは思い思いの武器を手にした男達。 彼女をただの少女だと侮った時に彼らの負けは決まっていた。 怯えたように見せかけて彼らをまとめるように動いていたのだと、気づく暇すら少女は与えなかった。 振り向きざま、ただ一言。 力ある言葉を解き放つ。 爆煙が晴れた後には物言わぬものたちと、大きくえぐり取られた大地。 先と少しも変わらぬ太陽だけが、彼女に刃向かる愚かしさを余す所なく照らし出す。 それらを一瞥することなく、少女は踵を返した。 赤い瞳が正面だけを見据える。 少女は振り返りもしない。 振り向く必要など―――無い。 少女が酒場に入ってきた瞬間、ざわめきが消えた。 小柄な姿とは裏腹に圧倒的な存在感。 薄暗い照明の中にありながら、自ら光を発しているよう。 全てのものの目を引きつけて止まない。 それは少女が身に纏ったオーラであり、瞳に浮かぶ光。 近づくものを焼き尽くす烈火の炎。 闇をも見透かすその赤い瞳で酒場をぐるりと見渡した。 少女の視線がある一点で止まった。 そこにあるのは少女と対照的に、凍てつく氷を具現した様な青年。 少女の視線に気づかぬはずはないのに、ただ黙々と酒を煽るのみ。 コツリ。 少女が足を踏み出すと、自然に出来る道。 マントの裾を揺らしながら、悠然と青年に近づいていく。 誰もが息を詰めて見守る中、少女は青年の前に腰を下ろした。 甘い笑みなど浮かべはしない。 無言で相手の言葉を待った。 「何も言わないのか?」 「何のこと?」 今日、彼は人を殺した。 突然襲いかかってきた者達の標的は明らかに自分だった。 しかし、自分が呪文を唱えるより早く、彼の剣が閃いていた。 自分か、彼かの違い。 ただ―――それだけ。 少女は視線を青年の持っているグラスに移す。 慎重に一嘗め。 グラスの中身は酔えればいいと言わんばかりの強い酒。 ピリピリと舌を刺す味に思わず顔を顰めた。 「あんた良くない酒飲んでるわねぇ」 そのまま青年にグラスを返さず手の中で弄ぶ。 手の中のグラスに青年の蒼い瞳が写り込む。 ゆらゆらと揺れる酒に合わせて、その瞳も揺れる。 やがて。 コトン。 少女が手を離すと、小さな音を立ててグラスが転がった。 広がる琥珀に今度は揺れること無く青年の顔が写る。 少女は視線をあげると微笑んだ。 「お酒は程々にしときなさいよ」 キッチリ一杯分の酒の代金を机に置いて立ち上がる。 そして去り際に一言。 青年にしか聞こえないほどの小さな声。 『次は手を出さないで』 少女は振り返ることなく酒場を後にした。 振り向く必要が無いことを知っているから。 後ろから追ってくるガウリイの気配に、リナは微かに笑みを浮かべた。 |
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2001/1 ← 戻る |