七夕

「星がキレ〜〜〜」
あたしは地面に座ったまま空を見上げて感嘆の声を上げる。
「こんなのもたまには良いわね」
しかし隣から同意は返ってこない。
「綺麗な空気、綺麗な星。
最近落ち着いて星を見る余裕なんて無かったもんね」
空を見ながら独り言を続けるあたしに、ガウリイが横から口を挟む。
「・・・お前なぁ、何が『たまには』だよ。
お前の所為だろ。こんな所で野宿するはめになったのは・・・」
あはっ。
やっぱりガウリイってばそーとー怒ってる。
「だって偶々森の中を歩いてて、偶然盗賊のアジトを見つけちゃったら、盗賊退治をするのは人間としてとーぜんの事じゃない」
まあ、その盗賊達が思ってたより貯め込んでいたお宝を整理するのに、ちょこっと時間が掛かったのは事実だけど。
お宝が無いよりある方がいいに決まってるんだから、そんなに怒ること無いのに。
「そっか、お前が強引に『こっち』って決めた方向に『偶々』『偶然』盗賊のアジトが有ったって訳だ・・・」
うっ・・・
ガウリイが昼前のことを覚えてるなんて・・・
じゃなくて、やけに『偶々』と『偶然』を強調したわね。
「そうよ。偶々、偶然よ」
ここで動揺したら負けよ。
あたしは胸を張って自分の意見を押し通す。
「『偶然』なら仕方ないよな。『偶然』なら・・・」
「何よ、なんか文句あるの?」
「い〜や、べつにぃ・・・」
ガウリイは口では別にといいながら、恨みがましい視線を投げかけてくる。
え〜い、しつこい男は嫌われるのよ!
男ならスパーッと諦めなさい。
この際、野宿に男とか女とかあまり関係ないと言うことは置いておく。
どっちにしてももうぶっ飛ばしちゃったんだし、今更野宿なのは変えられない事だしね。
そんなあたしの気持ちが通じたわけでは無いだろうが、等々諦めたらしいガウリイがゴロリと草の上に横になる。
「天気がいいのが不幸中の幸いだったよな」
不幸中って・・・まあいいか・・・
あたしもガウリイにならってゴロリと地面に横たわった。
「うわぁ〜」
草原に寝転がってみるとまさに壮観だった。
銀の粉をふったような夏の夜空を彩る星座達。
その間を流れるのはミルキーウェイ・・・
「そっか、今日は七夕なんだ」
「『たなばた』 って何だ?」
でた・・・クラゲ星人の何だ攻撃。
う〜みゅ〜
あたしは何と説明しようかと暫し考えて・・・
一番ポピュラーとな伝説を思いっきり端折って話す事にした。
「あのね、天の川の両岸に居る、織り姫と彦星ってね、年に一回、七夕の日しか会えないの。
おまけに天気が悪いと天の川が渡れなくなって、会えないんだって」
うむ、我ながら完璧な説明。
これでも判らないって言われたら・・・どーしよう・・・
「・・・なんで一年に一回しか会えないんだ?」
おおおっ、ちゃんと話に付いてきてるじゃない。
「それはね、彦星と織り姫が恋人同士になった途端、二人とも働かなくなっちゃったの。
それを見ていた神様が二人を引き離したんだって。
頑張って働いたら一年に一回会わせてやるって・・・」
あたしから言わせると余計なお世話って気もするけど・・・
まあ、働かざる者食うべからずよね。
「そっか・・・一年に一回しか会えないのか・・・
でもリナなら大丈夫だよな」
ガウリイは身体を起こしあたしを覗き込むとニヤリと笑った。
「オレの織り姫はあんな川なんて飛び越えてくるだろ?」
っぁ〜〜〜〜
この馬鹿クラゲはぁ〜〜〜
思わず赤くなるあたしを見ながらガウリイはクスクスと笑う。
どーやら、野宿になった事への仕返しのつもりらしい。
そっちがその気なら・・・
「そぉねぇ・・・それよりもそーならないように頑張って『お仕事』しましょうか。
当然彦星さんにも『働いて』もらうからね」
「っ、ちょっと待てそれって・・・」
「大丈夫よ。心配しなくったって。
ここら辺には盗賊が一杯いるらしいから当分『お仕事』には困らないわよ」
「リナ〜〜〜」
情けない声を上げるガウリイを後目にあたしはほくそ笑んだ。
あたしをからかってばっかりいるからこうなるのよ。
精々がんばって働いてもらいましょう。














・・・もしそんな事になったら神様だってぶっ飛ばしてみせるけどね。








えんど♪


2000/10


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