帰郷 〜 Gourry 〜

「おら飲めよ」

オレは突き出されたコップを見つめた。
コップにはなみなみとつがれた酒。
確かにオレは客間で暇を持て余していたんだが・・・

ま、いいか。
暫しの逡巡の後、オレがコップを受け取るとおやじさんも自分のコップに酒をついだ。
お互い無言で酒を飲む。
それにしてもこの人がリナのおやじさんとは、な。
まさかオレの人生を変えるきっかけになった二人が親子とは思いもしなかった。
リナに紹介された時オレは死ぬほど驚いたが、その後感慨に耽ったりする余裕は無かった。
おやぢはただオレに向かってニヤリと笑って見せただけだったし、何ともなれば・・・
『すさまじい』の一言に尽きる食事風景が待っていたからだ。
出てくる量も凄まじかったが、賑やかとゆーか、喧しいとゆーか・・・
女三人寄れば姦しいと言うがありゃあ、嘘だ。
リナとお袋さん、二人だけでも十分だ。
そこへ、ねーちゃんの相づちとおやじの突っ込みが入るもんだから・・・オレが口を挟むスキもない。
そのくせ食べ物は魔法でも掛かっているように見る見るうちに無くなっていく。
リナだけじゃない、家族全員が全員、リナと同じぐらい食べるんだぞ。
さすがのオレも食いっぱぐれるかと思ったぐらいだ。
あの時おやじが言ってた様にこの賑やかさに慣れたら一人旅なんて味気ないだろう。

―――もっともそれだけが理由とは思えないがな。
知ってしまえばもう一人に戻れない。そう言う事だろう。



―――オレと同じように―――




ふと気が付けば酒を飲みながら穏やかに微笑んでいる自分が居た。
昔はこんな気持ちで酒が飲めるとは思ってなかった。
それもこれも・・・




「おい」
「・・・」
琥珀色の液体から視線を上げれば、おやじさんがこちらを見ていた。
強い視線。
リナによく似たまっすぐなもの。
「それで・・・その剣で何かできたのか?」
「ん、ああ、これは光の剣じゃないぞ」
「見たらわからぁ!このボケェ!
相変わらず天然のままか、てめぇは!!」
「天然って・・・
ああ、わかってるって」
誰かと同じで相変わらず気が短いおやじを慌てて宥める。
何ができるのか―――何がしたいのか。
光の剣は無くなったけれど、手の中の『剣』は『剣』だ。
誰かを殺すことも・・・・・・誰かを助けることも出来る。
「少なくとも守りたいものは出来たな。
・・・すぐにすっ飛んでっちまうけどな」
「ふん、まぁ俺の娘だからな」
「そうだな」
ひとしきり二人で笑う。


守りきれなかった方が多い。
それでも。
「二度と―――捨てようとは思わないさ。
これはあいつを守る為のものだからな」
「ケッ、お前ののろけなんざぁ聞いてられるか。
ヤメヤメ、酒がまずくならぁ」
「あんたが聞いたんじゃないか」
空になった二つのコップに酒をつぐ。
「言っとくがあいつは手強ぇぜ?」
「そうだな。
おまけにあんたまで居るしな」
「俺なんかまだ序の口だぜ。もーっと手強いのが控えてるからな。
大体てめぇ・・・」
おやじはニヤリとたちの良くない笑みを浮かべオレを見る。
「告白すらしてねえだろ?」
「っっ・・・!!」
「図星か?
そんな嫌そうなツラすんなよ。
顔見りゃわかんだよ。そんくらい」
くそ、嫌なやつだ。
わかってるんならわざわざ聞くなよな。
睨み付けるオレの視線をどこ吹く風と受け流す。
「さっさと告白して、さっさと振られちまえ!
やけ酒ぐらいは付き合ってやるぜ」
おやじは何がおかしいのかゲラゲラ笑い転げながらとオレの肩をバシバシ叩く。
リナ一人でさえ大変なのに。
余裕綽々のおやじを横目で見ながらオレは酒をぐいっと煽った。
今日は飲むぞ!
飲まなきゃ、やってられるか。




「本当にしょうがない人たちね」
「そんなこと言っちゃ駄目よ、ルナ」
う・・・
人の気配に目を開ければ、肩にふわりと布が掛けられる。
「ごめんなさいね、ガウリイさん
あれでもこの人、嬉しくて仕方がないのよ」
振ってくるのは優しい声。
ゆらゆらとゆれる視界。
その向こうに黒髪が見える。
オレはいい気持ちで目を閉じた。



こんな・・里帰り・・も悪くない・・な・・
今・・度は・リナ・・を・・・



2000/11


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