お祭り〜G〜


遠くから聞える喧騒と太鼓の音がまだ祭りが続いている事を知らせてくれた。
せっかくの祭りの夜だと言うのに、オレ達は何をやってるんだ。
オレは声がしたと思われる方向へ走れば、等々街外れの近くまで来てしまった。
リナは・・・
居た!
道の真ん中にしゃがみ込むようにして紺のゆかた姿。
足に手を翳し何やら呪文を唱えている。
あいつ、怪我してるのか?
「リナ?」
近づきながら呼びかければ、リナがビクリとオレを振り返り・・・
走って逃げ出した。
ちょっと待てよ。
何で逃げるんだ?
オレの頭は疑問符で埋め尽くされた。
だがともかくリナを追うのが先決で・・・
夜の静寂にカラカラと履物の音が響く。
こんな直線距離ではオレの方が断然早くて、数メートルも行かないうちにリナを掴まえた。
「リナ!!」
「やだぁ!」
ぱしっ。
「あ・・・
ご、ごめ・・・」
オレを振りほどこうと暴れるリナの手が、頬に当たった。
こんなのオレに取っちゃあどうって事無いんだが、叩かれたオレより、叩いたリナの方が傷ついた顔をしてまたもやオレの前から逃げ出そうとした。
だが、そう何回も逃がすかよ。
オレはあっさりとリナの両手を掴まえると、どこか落ち着ける場所が無いかと、辺りを見渡した。
できれば宿屋に連れて行きたいが、この状態のリナを連れてあの人ごみの中歩けない。
きょろきょろと辺りを見渡して・・・そうだ、あそこがいい!!
すぐ横にある林の中程に小さな広場があり、テーブルとベンチが置いてあった。
オレは大人しくなってしまったリナを抱き上げ、そこへと向かった。
オレはリナをベンチへと座らせるとその前に立った。
リナはオレと目を合わせようともしない。キュッと口を引き結び、地面を睨むように見ている。
「どうしてオレの前から逃げだしたりしたんだ?」
「・・・・・・」
リナは口を開こうとしないが、オレは畳み掛けるように続ける。
ともかく理由が分からなければどうしようもない。
「オレが何かしたのなら言ってくれよ」
「・・・・・・」
オレはため息を吐き出し、日ごろ使わない脳味噌をフル回転させて考えた。
少なくとも宿を出るまでは機嫌は良かった。
それは間違い無い。
「なぁリナ、オレはクラゲだからちゃんと言ってくれないと分からないだろ」
「・・・・・・」
「・・・それともオレのことがイヤになったのか?」
信じられないぐらい低い声が出た。
そんな事考えたくない。
でも考えられる原因はソレぐらいしかなかった。
だんまりを続けるリナを「何故だと」と締め上げ揺さぶってやりたい。
オレは苛立ちもあらわにリナを見下ろしていた。
一方オレの言葉に顔を上げたリナは最初こそ驚いた顔をしていたが、その言葉が浸透するに従って瞳に怒りが浮かび上がってきた。
オレを突き飛ばす様にして立ち上がる。
「それはガウリイの方でしょ。
奇麗な女の人ばっかりみてデレデレして。
何度呼んでも上の空だし!
あたしと居ても楽しくないんでしょ?
だったら無理して付き合ってくれなくてもいいわよ。
さっさと大人の女の人の所へ行っちゃいなさいよ!
あたしならすぐにでも別れてあげるからっっ」
は?オレの方?
オレがリナをイヤになる??
唖然とするオレを見ようともせず、リナは一息に捲し立てると、急に糸が切れたようにベンチに倒れ込み声を絞り出す。
「お願いだから、さっさと行ってよ。
あたしをこれ以上惨めにさせないでよ・・・」
そしてそのまま項垂れてしまった。
こんな事を思うのは不謹慎かも知れない。
でも・・・
まさかリナが嫉妬してくれるなんて。
オレは嬉しいぞ〜〜〜
「・・・本当にリナはかわいいなぁ・・・」
気が付けばリナを引き寄せ、ぎゅーぎゅーに抱き締めていた。
だがリナは何故か腕の力を込めてオレから身体を離そうとする。
「何してるのよっ」
「リナを抱いてる」
「そーいう意味じゃない〜〜〜〜」
何を分かりきった事を聞くかと思えば、オレの言葉を聞いたリナは腕どころか足まで使って暴れ出す。
いや、意味は有ってると思うが・・・
ともかくリナを落ち着かせるべく、オレは今日の出来事を説明しだした。
「暴れるなって。全部誤解なんだから。
あれは、リナが一番可愛いな。って考えてただけで他の女の事を考えてたわけじゃないぞ。
確かにぼーっとしてたのは悪かったけど・・・」
「・・・・・・」
説明すれば藻掻く腕の力が少しずつ弱くなっていく。
「リナが嫉妬してくれるなんてオレは嬉しいぞ♪」
「だ、誰が嫉妬してるのよ!!」
リナは激しく否定をするが、そこまで上擦った声じゃちっとも説得力がないぞ。
だがリナは嫉妬したのがばれたのがよほど悔しいのか、オレの腕の中で小型の台風のように暴れ回る。
ったく、そんな事言ったらオレがいつもどれだけ嫉妬してるか分かってるのか?
お前は自分がどれだけ人を引き付けるのちっとも分かってない。
オレはいつだって・・・
ま、これも惚れた弱みか・・・
「オレがリナ以外に惚れる訳ないのにな」
腕の力を少し緩め、その顔を覗き込む。
これはオレの本心。
ヤバイぐらいにオレはリナにイカレちまってる。
それで不都合は無いから別にいーけどな。
「―――どーだか・・・」
さっきまでも十分赤かったが、今や耳も首筋までも赤くしたリナがそっぽを向く。
「大体ガウリイが悪いのよ。
恥ずかしいことばっかり言ってないで、態度で示しなさいよね」
「態度、で示していいのか?」
オレが言った途端、リナの顔がひきりと引きつった。
「いや、それは普段の態度って事で・・・」
「うんうん」
オレは深く頷いた。
勿論リナの言いたいことは分かった。
が、まぁせっかくだ。
せっかくだから。
「いや、だからちょっと・・・」
しどろもどろに言い訳を口にするリナ。
だがもう遅い。
「態度、で示せば良いんだよな」
ニヤリ。

















「愛してるよ。リナ」
わざと大声で愛を告げれば周りのざわめきが一段と大きくなった。
それもその筈。
ここは祭りの真っ最中の大通りで、周りには人がうじゃうじゃと溢れている。
いやそれどころかギャラリーが増えて来てるかな?
オレは周りの、特にやろーどもに見せ付ける様にリナの肩を抱き寄せた。
「やっぱり、リナが一番奇麗だ」
途端に上がる黄色い悲鳴と喚声。
おぉ、ご声援ありがと〜
リナがこれで安心してくれるんだったら幾らでもするぞ。
こうやって歩いていればリナにコナ掛けてくるバカどもも居ないだろうし。
第一オレが楽しいし♪
何かに堪えるように俯くリナを抱き寄せながらオレは1人ほくそ笑んでいた。
ふ・・・
まだまだ甘いな、リナ。
どーせ祭りが終わるまでの辛抱だとか思ってるんだろうが、祭りが終わった所で止める気は更々無いぞ。
だってお前が言ったんだぜ。『普段』から『態度』で示せってな。
取りあえずは今日からだな♪
リナが本当の意味で自分の失言に気付いた時にはもう遅い。
そう、それこそ―――



『後の祭り』だ





えんど♪



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