外伝発売記念 一発書きSP〜パターンB〜


「あ、父ちゃん!」
リナがいきなり駆けだしたかと思うと、黒髪の男の首に飛びついた。
長い黒髪に整った顔、くわえタバコ。
オレはその男に見覚えが有った。
あれは・・・
「いよう」
リナを首にぶら下げたまま、男はオレに軽く手を上げて挨拶してきた。
そのタバコには相変わらず火がついていない。
父ちゃんって・・・
「ま、ゆっくりして行くんだな」
ちょっと皮肉な感じに口の端を持ち上げた男・・・
なんてこった。
オレは本気で倒れそうだった。
しかし、オレはまだまだ甘かったんだ。



「ガウリイはここでゆっくりしてて」
パタパタとスリッパの音を響かせながらリナが香茶を運んでくる。
母親は店の方に居るとかで、一人でクルクルと動いているリナを何とはなしに眺める。
こーゆう所を見ると、やっぱりリナも女の子だって思う。
やっぱいいよな。
白い小さな家で、リナと二人・・・
・・・いや子供は何人いてもいいな。
女の子は絶対欲しいし。
リナに似た女の子。
絶対可愛くなるぞ。

「顔がにやけてるぞ」
うわぁ!
慌てて振り向くとおやじさんが立っていた。
腕が立つのは分かっていたが、このオレに気配も感じさせないとは。
恐るべしおやじ。
おやじはオレの向かいのイスに座ると台所へ声を掛けた。
「オーイ、俺にもお茶」
「ハーイ」
リナの元気な声に眉じりを下げる。
「まさか、あの子がおまえさんと旅をしてるとはなぁ・・・
世間は狭いもんだな」
「ハァ・・・」
オレは気を落ち着けるため香茶に手を伸ばす。
本当なら酒が欲しい所なんだがそういう訳にも行かないよな・・・
「あいつなぁ、可愛いだろ?」
「ええ、可愛いですよ」
頷いてから気が付いた。
リナのおやじさんに何言ってんだオレ。
いかん、オレらしくもない。
動揺してるみたいだ。
リナの両親への挨拶は色々と考えたが、まさか顔見知りとは思ってなかったし。

「でもなァ―――」
何やら遠い目をするおやじ。
「・・・手を出すのが早過ぎるぞ」

ぶ―――――っ!!

オレは思いっきり香茶を吹き出した。
「俺も同じ男として、気持ちもわからんでも無いが・・・」
「何甘いこと言ってるのよ、父さん」
うえ?
思いっきりむせ返っていたとはいえ、こうも易々と背後を取られると悲しいものが有った。
しかも今度は若い姉ちゃんだ。
思わず落ち込むオレに向かってその姉ちゃんは軽く頭を下げる。
「初めまして。リナの姉のルナと申します。
お噂は色々と聞いてますわ。・・・色々とね」
その時になって気が付いた。
ものすごいプレッシャー。
あまりに強すぎて感覚がマヒしてたんだ。
っつーか、ほんとに人間かぁ??
「まあ、あなたもルナもお客様に失礼ですわよ」

だぁぁぁあ!

またかぁ?
どうなってんだここん家は。
だからなんでみんな気配を殺して人の後に立つ??
それともオレの腕が落ちたのか?

リナのお袋さんだろうな。
これまた気配も感じさせず現れた女の人がふわりと微笑んだ。
「リナがいつもお世話になっているようで・・・」
笑うとリナに似てるよな、ってそうじゃなくて、おやじさんの発言が・・・
「あ、母ちゃん、姉ちゃん!」
台所から香茶を運んできたリナが嬉しそうに叫ぶ。
「まあリナ。表にお友達が来てるわよ」
「え、ほんと?
あたしちょっと行って来る。ガウリイは大人しくしててね」
オレが止める暇も無くリナは部屋を出ていく。
ちょっと・・・ちょっと待ってくれ。
激烈に嫌な予感が走り抜ける。
悲しいことに今までの経験からいって、オレのカンは外れたことがないんだよな。
いつの間にか3人がオレを取り囲むようにして立っていた。



「俺から一本でも取らんと、リナはやらんぞ」
「嫁入り前の娘に手を出すなんて、どうなるか分かってるのかしら?」
「まあまあ二人とも落ち着いて・・・でもガウリイさん?
責任はきっちりとって貰いますから」



3人とも顔は笑ってるが、目は笑ってない。
そしてオレは薄れゆく意識の中で思った。


さすがリナの家族だ・・・


一筋縄じゃいかん。


2000/10
AよりBが気に入ってたのでこっちだけ

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