ちょこ☆

「リーナ♪」

ノックの音にドアを開ければ、 ガウリイが満面の笑みを湛えてあたしに手を差し出してきた。

「チョコくれ」

はい?
あたしは自分の耳を疑った。
この男は今日が何の日か知ってて、言ってるの??

「な、なんであたしがガウリイにチョコをあげないといけないのよ」
「え〜、くれないのかぁ?」

途端にガウリイはしょんぼりと肩を落とした。
思わずたじろぐあたし。
何であんたの方が背が高いくせに、そんな子犬が見上げてくるような目が出来るわけ??

「あんたねぇ。今日が何の日か知ってるの?」

今日はバレンタイン。
乙女なら誰でも知っている、あの日だ。
その・・・好きな人にゴニョゴニョ・・・
そ、それをいきなり。
あたしとガウリイは別に付き合ってる訳じゃないし・・・
モゴモゴと口ごもるあたしを見て、ガウリイが不思議そうに首を傾げた。

「今日は女の人からチョコを貰える日だろ?
外を歩いてたら一杯貰ったぞ」

あたしは一気に力が抜けた。
こんの、クラゲ〜〜〜。
誰が無差別にチョコをくれるって言うのよ!
どうせこいつのことだから何の気無しに笑顔を振りまいて貰ってきたんだろうけど。
今日だって食堂で女の人の視線を集めてたし。
チョコなんか渡されたら笑って受け取っちゃうだろう。
さっきあたしの前で笑ったみたいに。
あ、何か腹が立ってきた。

「だからリーナ。チョコちょうだい♪」

ガウリイは人の気も知らないで、邪気のない顔でニッパリと笑った。
う・・・
ひとまず胸のムカムカは置いといて。
ぢつは・・・柄にもなくチョコ作ったりしてあるのよね。
どうせ渡せないのはわかってるけど。
あたしだって一応・・・うにゅにゅぅ・・・
で、でもねこれってチャンスじゃない?
ガウリイが何にも知らないんだったら義理とか何とか言い訳しないで済むんだし。
パーッと渡しちゃえ。
あたしにしてみれば渡せるだけでも上出来じゃない。
後で一人で食べるより100万倍もマシ。

「仕方ないわね」

あたしは出来るだけ渋々といった表情を作ると、未だに捨て犬の目で見ているガウリイに言った。

「感謝しなさいよ」

「おう」

あたしが差し出された手にチョコの箱を押しつけると、ガウリイはやっぱりお日様みたいな笑顔で笑った。

「ありがとな、リナ」

ま、この笑顔が見れただけでも・・・

「ホワイトデーは楽しみにしとけよ♪」

ぱたん。

軽い音を立ててドアが閉まった。
ドアの外からはガウリイの上機嫌な鼻歌と、軽い足音。
ガウリイが足音を立てるってめずらしい。
あれってスキップ??
じゃなくて・・・


―――ホワイトデー・・・


はい?????
何であんたがそんな事知ってるわけ?

あたしはずるずると床にへたり込んだ。



もしかして・・・???



あたしは部屋で一人、火照る顔を押さえていた。

この後、ガウリイにどんな顔して会えばいいのよ〜〜〜〜




おわり☆


2001/2
素直に渡せないリナと限りなく疑わしい(笑)ガウリイ(笑)

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