Boundless future おまけ

「また・・・会えるわよね」
「ああ、また。必ず」
少し潤んだ瞳で俺を見るリナに微笑んでみせると俺は剣を肩に担ぎくるりと踵を返した。
「絶対だからね!」
その声に軽く手を上げて答える。
会えて嬉しかったよ。母さん。
さっき俺をここへ留めていた力が弱まったのが分かった。
もう大丈夫だって事なんだろう。
ここへ来たときと同じように視界が白く霞んでいく。
さぁ帰ろう。
俺のリナの元へ。


長いのか短いのか落ちているのか浮いているのか分からない感覚が俺を包む。
もしかすると一瞬だったのかも知れない。
気が付くと俺は床の上にしっかりと足を踏みしめ立っていた。
目の前には心配そうなリナの顔があった。
ゴメン、そんな顔させたくないのに心配掛けちゃったね。
俺はリナを安心させようとその小柄な身体に腕を廻・・・
「リ・・・」
「リューリー、心配したんだぞーーーっ」
おっと。
俺に向かって飛びついて来たそれをひらりと躱せば、勢い余って壁にぶつかった物体が恨みがましい目でこちらを見てくる。
「・・・・・・なんで避けるんだ」
「避けるに決まってるだろ!」
毎度の事ながら鬱陶しい。
でかい図体で懐つこうとするな。
それよりも・・・
「リナー、ただいま。
心配かけてゴメンね。
俺、若い頃のリナに会ってきたよ。
全然変わってないからすぐ分かったv」
うきうきと話す俺にリナがにこりと笑う。
「多分そうだと思ったわ。
それでも心配したのよ?」
「うん、ゴメンね。
でも自分で意識して行った訳じゃないし」
結界の崩壊と身の危険を感じた子供の俺が何とかしようとした力が反応した、んだろう。多分。
真実は神のみぞ知る。
俺としちゃぁリナを助けられたんだから理由なんてどうでもいい。
どうでも・・・・あ、そうだ。
「俺が消えてからどれぐらい経ってる?」
「んー、数時間ってとこね。
だから今日はまだリューリーの誕生日よ。
それでね、あたしはごちそうの用意をしてくるから。
帰ってそうそうで悪いんだけど『アレ』何とかしといてくんない?」
溜め息を付きつつ困り顔のリナが指さす『アレ』とは・・・
やけに静かだと思ったら部屋の隅で床にのの字を書いている。
ええい。いい年した大人が何だ!
これで腕の立つ傭兵だったってのが信じられない。
「ヤダ」
言い切った俺はプイと顔を逸らす。
幾らリナのお願いでもこれは聞けない。
「・・・せっかくリューリーの好物を作ろうと思ってたのになぁ・・・」
「わかった」
こら、そこ、呆れるな。
言っとくけどリナの料理は絶品なんだぞ。
嫌々ながら料理の為にあいつに近付く。
「おい」
「リューリー!!」
「わーーっ」
「オレだって心配したんだぞ」
「あー、はいはい・・・」
なにが悲しゅうて男に抱きつかれにゃあかんのだ。
苦虫を噛みつぶしたような俺の表情にリナは笑いながらキッチンへと行ってしまった。
そんなに笑う事無いじゃないか。
リナがやれって言ったくせに。
文句を言いたくてもリナが帰ってくる気配はない。
・・・となるとコレをどうするか。
いつもなら力ずくで引き剥がすんだが・・・
俺はちょっと考えた据え、もう暫くの間、許してやることにした。
仕方がない。
リナにお願いされた事だし。
今日は俺の誕生日だし。
もうちょっとだけだからな。





今日は俺の誕生日。
俺の感謝の日。







産んでくれて―――ありがとう。



2002/9


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