実践報告4
大学の英語授業での目標を明確にさせるアクション・リサーチ
三重大学非常勤講師 堂 東 由 香
対象クラス:三重大学1年生2クラス
生徒数:生物資源学部32名, 工学部27名
科目名:英語Tコミュニケーション
使用教材:Richards, J., J.
研究期間:平成17年10月〜12月
1.研究の背景
三重大学では1年生は週3回の英語授業を受講する。「英語Tコミュニケーション」「英語T大学基礎(講読)」「英語TTOEIC」である。しかし、担当教師はそれぞれの科目で異なるため、各教師と学生との接触は、週1回だけの授業である場合がほとんどである。
筆者が担当する「英語Tコミュニケーション」では、「聞く・話す・読む・書く」という英語の4技能を総合的に学習し、英語運用能力を向上させることを目指している。同科目は、平成17年4月の入学時に実施されたTOEIC IPテスト得点を基に、クラス編成がなされ、1年を通して同一クラスでの授業となり、年度途中でクラス変更は行わない。リサーチ対象クラスの学生は、TOEIC得点335〜390である。
筆者は4月から7月の前期授業を通して、授業あるいは各英語活動の目標を考え、それらに従って授業を進めようと心掛けていたが、学生にとってはそれらがあいまいなまま授業が進められていたのではないかと反省した。そこで、学生にとっても授業あるいは各英語活動の目標が明確であるような、取り組みやすい授業にして行きたいと考えた。
2.現状把握
筆者は、リサーチ対象クラスの現状を把握するために、平成17年10月(後期の初回授業)より、毎回の授業後にJournalを記録した。その内容は下記の通りである。
「Grammar Focusの説明を行い、演習問題を各自で取り組ませるが、授業の目標となる学習項目を理解していない解答が見られる」(10月7日)
「ペアーワークの準備として各自の意見を英語でノートにまとめさせるが、その授業で学習すべき内容を含んだ英文を使っていない学生がいる」(10月7日)
「授業の目標となる学習項目を使えている学生の中にも、テキストの例文を少しだけ変えたような文もあり、本当にその授業で学習すべき内容を理解しているのか、学生の理解度がわかりにくい」(10月14日)
「テキストのリスニング問題を行ったとき、聞き取りのポイントを事前に提示すると、その授業の学習項目と関連するキーワードはあげることができた」(10月21日)
以上のことから、授業で学習すべき内容が学生にとってあいまいで、授業の目標として明確に提示されていなかったのではないかと考えられる。また10月21日のJournalより、授業の目標となる学習項目を事前に提示すれば、学生にとってその授業の内容がより明確になると思われる。
3.テーマの明確化
大学における英語授業「英語Tコミュニケーション」の中で、学生に授業あるいは各英語活動の目標を明確にさせるためにはどのような指導が必要か?
4.予備調査
予備調査として、アンケート調査とリスニング試験を実施した。
(1) アンケート調査(平成17年10月21日実施)
学生の授業あるいは各英語活動の目標に関する意識調査を行うためにアンケー
トを実施した。
表1 アンケート調査結果(全回答者数56名)
@ あなたは、英語授業(科目名:英語Tコミュニケーション)の目標を理解できていますか?
ア とてもよく理解できている(1名:2%) イ まあまあ理解できている(37名:66%)
ウ どちらともいえない(13名:23%) エ あまり理解できていない(5名:9%)
オ 全く理解できていない(0名:0%)
A あなたは、英語授業(科目名:英語Tコミュニケーション)での各活動の目標を理解でき
ていますか?
ア とてもよく理解できている(1名:2%) イ まあまあ理解できている(32名:57%)
ウ どちらともいえない(16名:28%) エ あまり理解できていない(6名:11%)
オ 全く理解できていない(1名:2%)
B あなたは、英語授業(科目名:英語Tコミュニケーション)での各活動において、何を学
んでいるかを意識して取り組んでいますか?
ア とても意識して取り組んでいる(2名:4%)
イ まあまあ意識して取り組んでいる(21名:37%)
ウ どちらともいえない(18名:32%)
エ あまり意識して取り組んでいない(13名:23%)
オ 全く意識して取り組んでいない(2名:4%)
C あなたは、前期の英語授業(科目名:英語Tコミュニケーション)の予習・復習、定期試
験の勉強において、何を学習したらよいかわからなくて困ったことはありましたか?
ア 全くなかった(2名:4%) イ ほとんどなかった(22名:39%)
ウ どちらともいえない(12名:21%) エ 少しあった(18名:32%)
オ とてもあった(2名:4%)
E あなたは、これからの英語授業(科目名:英語Tコミュニケーション)において、授業の
目標をもっと明確に示してほしいと思いますか?
ア とてもそう思う(6名:11%) イ 少しそう思う(18名:32%)
ウ どちらともいえない(20名:36%) エ あまりそう思わない(11名:19%)
オ 全くそう思わない(1名:2%)
F あなたは、これからの英語授業(科目名:英語Tコミュニケーション)において、授業で
の各活動の目標をもっと明確に示してほしいと思いますか?
ア とてもそう思う(6名:11%) イ 少しそう思う(16名:29%)
ウ どちらともいえない(16名:29%) エ あまりそう思わない(15名:27%)
オ 全くそう思わない(2名:4%) (無回答1名)
質問@Aより、授業あるいは各活動の目標を「まあまあ理解している」学生はそ
れぞれ6割、5割を超えている。一方、約3割あるいは4割もの学生は「どちらと
もいえない」「あまり理解できていない」と答えている。特に約4割もの学生が各活
動の目標を理解できていないということは、実際何を何のために学習しているの
かわかっていないということである。授業あるいは各活動の目標を、さらに明確
に示していく必要があるのではないか。
質問Bより、何を学んでいるかを意識して取り組んでいるかという質問に肯定
的に回答した学生は、合計約4割しかいない。また質問Cより、予習・復習、定
期試験の勉強において何を学習したらよいか困った学生も4割近くいる。Dでそ
の理由として学生は、「テキストを見ても何をしたらよいか分からなかった」「予習
の時に、テキストの問題が解く側に何をさせようとしているのか分からなかった」
「この教科書や授業の意図があまり見出せない」とあげている。これらの意見は、
授業あるいは各活動の目標が学生に全く伝わっていないと感じさせる。つまり、
授業あるいは各活動の目標がより明確に示されていたならば、もっと効率的に学
習が進められたのではないかと思われる。
質問EFより、授業あるいは各活動の目標を明確に示すことに関して、約4割
の学生が肯定的に回答しその必要性を感じているようである。すなわち、目標の
明確な提示が実際に英語学習に役立つと考えていると思われる。「どちらともいえ
ない」という回答は、おそらく目標の明確な提示ということについて関心が薄いの
ではないか。それゆえ、実際に目標を明確に示すことによって、その学習効果へ
の影響について考えさせてみたいとも思う。
(2) リスニング試験
後期授業において最初に学習したUnit 5 Crossing culturesに関して、授業の目標
となる学習項目を含むリスニング試験を行った。これは、Unit 5の内容であるliving
abroadに関する4つの会話を聞いて、その概要把握を確認する問題であり、各会
話につき2問ずつ合計8問の出題で、多肢選択式の問題である。本リスニング試
験問題の作成には、テキスト付随のミニテストを参考にした。
表2 全受験者数53名
実施日 |
満点 |
平均 |
最高 |
最低 |
標準偏差 |
2005/10/28 |
8点 |
5.3点 |
8点 |
2点 |
1.32 |
平均点が7割に近いので、試験の結果は決して悪くはなかったといえる。しか
し、Unit 5 での各活動の目標をよりはっきりと提示し、授業中にそれと関連する
学習項目を何度も確認させることで、リスニング力はさらに向上するのではない
かと思われる。
5.トピックの絞り込み
大学における英語授業「英語Tコミュニケーション」の中で、授業あるいは英語活動の目標をあまり意識していない学生に、目標を意識して授業に取り組ませ、授業に対する満足感・達成感を高めるとともに、学習効率を上げるためにはどのような指導が必要か?
6.仮説設定
仮説:
(1) 教師が毎回の授業において、授業あるいは英語活動の目標を学生に明確に示
すことによって、学生がその目標を意識して授業に取り組むことができ、授業
に対する満足感・達成感を高めることができる。
(2) 教師が毎回の授業において、授業あるいは英語活動の目標を学生に明確に示
すことによって、学生がその目標を意識して授業に取り組むことができ、その
目標と照らし合わせて、自分の到達度を把握することができるようになる。
(3) 教師が毎回の授業において、授業あるいは英語活動の目標を学生に明確に示
すことによって、学生の英語学習の効率を上げることができる。
7.計画
Unit 6 What’s
wrong with it? について、11月11日から12月2日の4週にわたって指導計画を立てた。Unit 6の内容はmaking complains and describing problems であり、各授業で取り扱う英語活動は、Grammar Focus, Listening, Conversation, Pronunciation,
Word Power, Reading といったように様々である。
どの授業においても、上記の仮説を検証するためには、Unit 6における授業あるいは各英語活動の目標を明確に提示する必要がある。Richards (2001:120) は、”In
curriculum discussions, the terms goal and aim are used
interchangeably to refer to a description of the general purposes of a
curriculum and objective to refer to a more specific and concrete
description of purposes.” と述べている。このaimに相当する本授業の目標は、「聞く・話す・読む・書く」という英語の4技能を総合的に学習し、英語運用能力を向上させることであり、それだけでは不十分である。学生に授業あるいは英語活動の目標を明確に示すためには、Richardsが指摘するように、各ユニットあるいは各活動のobjectiveを示す必要があると判断した。そこで、今回の学習範囲であるUnit 6についてobjective を英語で示したプリントを作成し、学生に配布することにした。そこでは、ユニット全体のobjectiveとそのユニットで取り扱う各活動のobjectiveを示した。
そして、学生にそれらの目標を意識させるために、授業の開始時にその日のすべての活動についてobjectiveを示しながら概要を説明し、さらに、各活動の開始時点で改めて該当するobjectiveについて確認を行うようにした。また仮説(2)の実践計画として、上記の例に示したとおり、示された目標に照らし合わせて学生が自分の到達度を把握できるようにした。各活動ごとに学生による自己評価を実施し、学生は、授業の終了時点で、自己評価を5段階(Very well 〜 A little)で記入することにした。
なお、学生に配布したプリントの例は、次の通りである。
Unit 6: Practice
making complaints and describing problems.
@ Listen to people describing complaints; see
past participles as adjective in context.
Very well
OK
A little
□ □ □ □ □
A Practice describing problems with past
participles as adjectives and with nouns.
Very well
OK
A little
□ □ □ □ □
B Listen to customer complaints; develop
skills in listening for main ideas and details.
Very well OK
A little
□ □ □ □ □
8.実践
立案された計画に従って、11月11日から12月2日の4週にわたり、週1回計4回の授業を行った。
今まで明確に授業や各活動のobjectiveを提示されたことがない学生にとって、objectiveの提示は不慣れなものであるに違いないと考え、なるべく詳しく説明を試みた。英語で提示したことについては、最初の段階から英語で慣れておく方がよいと思い、簡単なわかりやすい英語を使用し、学生にとって理解できると思われるobjectiveの提示を心がけた。学生はobjectiveの説明を非常に熱心に聞いて、プリントも活用している様子がよくわかった。学生は、objectiveの説明を受けると、各自わかりやすいようにobjectiveを補足していたようである。特に学習項目に関しては、テキストにある例文を記入しているものも見られた。
また自己評価に関しては、実施した練習問題の正解率を問うものではなく、各活動の終了時点で、学習目標をどれだけ自分が達成できたと感じるかについて回答するよう強調して説明した。つまり、活動を始めた段階ではあまりよく理解できなかったものでも、活動を終える頃には問題なく行えるようになったのであれば、到達度は十分高くなるということである。学生たちは楽しそうに自己評価を行っているようであった。次第に慣れてくると、教師が指示する前に、授業の終りには自然に自己評価を行っていたようである。
9.検証
(1) アンケート調査(平成17年12月2日実施)
表3 アンケート調査結果(全回答者数54名)
@ あなたは、英語授業(科目名:英語Tコミュニケーション)の目標を理解できていますか?
ア とてもよく理解できている(5名:9%)
イ まあまあ理解できている(43名:80%)
ウ どちらともいえない(5名:9%) エ あまり理解できていない(1名:2%)
オ 全く理解できていない(0名:0%)
A あなたは、英語授業(科目名:英語Tコミュニケーション)Unit6の目標を理解できまし
たか?
ア とてもよく理解できた(9名:17%) イ まあまあ理解できた(41名:76%)
ウ どちらともいえない(3名:5%) エ あまり理解できなかった(1名:2%)
オ 全く理解できなかった(0名:0%)
B あなたは、英語授業(科目名:英語Tコミュニケーション)Unit6の各活動の目標を理解
できましたか?
ア とてもよく理解できた(12名:22%) イ まあまあ理解できた(38名:70%)
ウ どちらともいえない(3名:6%) エ あまり理解できなかった(1名:2%)
オ 全く理解できなかった(0名:0%)
C 英語授業(科目名:英語Tコミュニケーション)で今回示されたobjective は、Unit6の目
標や各活動の目標を理解するのに役に立ちましたか?
ア とても役に立った(18名:33%) イ まあまあ役に立った(24名:45%)
ウ どちらともいえない(11名:20%) エ あまり役に立たなかった(1名:2%)
オ 全く役に立たなかった(0名:0%)
E あなたは、今回のように各活動のobjective を明確に示されたことによって、何を学んでい
るかを意識して各活動に取り組むようになりましたか?
ア とてもそうなった(17名:31%) イ まあまあそうなった(27名:50%)
ウ どちらともいえない(8名:15%) エ あまりそうならなかった(2名:4%)
オ 全くそうならなかった(0名:0%)
F あなたは、今回のように各活動のobjective を明確に示されたことによって、その目標と照
らし合わせて、自分の到達度を把握できるようになりましたか?
ア とてもそうなった(9名:17%) イ まあまあそうなった(33名:61%)
ウ どちらともいえない(8名:15%)
エ あまりそうならなかった(3名:5%)
オ 全くそうならなかった (1名:2%)
G あなたは、今回のように各活動のobjective を明確に示されたことによって、英語授業(科
目名:英語Tコミュニケーション)に対する満足感・達成感は高くなりましたか?
ア とてもそうなった(15名:28%) イ まあまあそうなった(27名:50%)
ウ どちらともいえない(10名:18%) エ あまりそうならなかった(2名:4%)
オ 全くそうならなかった(0名:0%)
H あなたは、これからの英語授業(科目名:英語Tコミュニケーション)においても、授業
の目標や各活動の目標を明確に示してほしいと思いますか?
ア とてもそう思う(28名:52%) イ 少しそう思う(23名:43%)
ウ どちらともいえない(3名:5%) エ あまりそう思わない(0名:0%)
オ 全くそう思わない(0名:0%)
質問@〜Bでは、授業目標、Unit 6の目標、Unit 6 の各活動の目標、どれにおいても、約9割の学生が「とてもよくまたはまあまあ理解できている」と回答した。これは予想以上に良い結果である。授業あるいは英語活動の目標を学生に明確に示すことに関しては、うまく伝わったように思う。
質問Cにおいて、Unit 6の目標や各活動の目標を理解するのにobjectiveが「とてもまたはまあまあ役に立った」と約8割の学生が回答し、objectiveを有効に利用できたようである。Dでその理由として学生は、「活動を始める前に目標を知り、意識して行うことができた」「ポイントがわかったので取り組みやすかった」「objectiveに書いてあったので、先生の言っていることがよくわかった」「自分がどれだけ理解できたか確認できた」とあげている。このように、授業の目標となる学習項目を事前に確認しそれらを意識して授業を受けることで、授業に取り組みやすく、理解度も把握しやすくなるといった、objectiveの有用性が感じられる。
質問Eより、何を学んでいるかを意識して各活動に取り組むようになったと、約8割の学生が肯定的に答えている。これを、予備調査アンケート(質問B)の結果と比較すると、圧倒的に多くの学生が意識して取り組むようになったことがわかる。また質問FGより、提示された目標と照らし合わせて自分の到達度を把握することができるようになったり、授業に対する満足感・達成感を高めることができたりと、それぞれ約8割の学生が肯定的に答えている。このような結果から、授業あるいは英語活動の目標をあまり意識していなかった学生に、目標を意識して授業に取り組ませ、授業に対する満足感・達成感を高めることができたといえるであろう。
質問Hより、授業や各活動の目標を明確に示してほしいと、9割以上の学生が肯定的に答えている。予備調査アンケート(質問EF)の結果と比較すると、その数が圧倒的に増加しており、目標の明確な提示が英語学習に役立つと実感してそれを今後も継続してほしい学生が増えたといえるのではないか。授業や各活動の目標を明確に示すという新しい試みが、学生たちに好意的に受け入れられ、その結果今後もこうした試みを続けてほしいという期待感となって現れたように思う。 Iでその理由として学生は、「Unit 5までやっている事が分からなかったこともあったけど、Unit 6はobjectiveがあったことでよく分かった」「授業の目的がわかるのでやる気が出る」「分からないところが分かるので、次はしっかりやろうとか意識が変わった」「自分の理解度の向上につながると思う」「勉強したことを頭に残して置きやすかったし、次に授業で思い出しやすかった」とあげている。このように、授業の指針となったり、やる気にさせたり、理解度の把握につながったり、復習に活用できたりと、objectiveの利用法は各自様々であり、objective の可能性が感じられる。
(2) リスニング試験
今回の範囲Unit 6 に対しても、前回の範囲Unit 5 と同じ要領で、授業の目標と
なる学習項目を含むリスニング試験を行った。
表4 全受験者数51名(U5とU6の両方を受験した者のみ対象)
|
実施日 |
満点 |
平均 |
最高 |
最低 |
標準偏差 |
Unit 5 |
2005/10/28 |
8点 |
5.3点 |
8点 |
2点 |
1.33 |
Unit 6 |
2005/12/2 |
8点 |
6.9点 |
8点 |
4点 |
1.12 |
予備調査(Unit 5)の結果と比較すると、平均点も最低点も向上している。それらの平均値の差についてt検定を行ったところ、統計的に有意な差が確認できた(P<.01)。よって、授業における学習項目の習得が深まったと考えられる。それは、Unit 6 では明確に授業や各活動のobjectiveを提示して、何度も目標となる学習項目の確認を行っており、そのことが学習項目の定着に効果があったためとも考えられる。このように、リスニング試験において、学習項目に自然と学生の意識が高まり、その成果がリスニング試験の結果として現れたといえるのではないだろうか。
10.内省
上記の効果の検証におけるアンケート調査やリスニング試験の結果から、仮説の(1)(2)にあるように、授業あるいは英語活動の目標を学生に明確に示すことによって、学生がその目標を意識して授業に取り組むことができ、授業に対する満足感・達成感を高めるとともに、その目標と照らし合わせて、自分の到達度を把握することができるようになったと考えられる。さらに仮説(3)のように、学生の英語学習の効率を上げることができるようになったと言えるのではないか。
また、授業あるいは英語活動の目標を明確に示すことによる効果は決して学生だけにもたらされたわけではなく、教師自身にとっても大きな成果となった。例えば、授業中にobjectiveを何度も確認させることで、授業を円滑に進めやすくなり、学生の理解度も把握しやすくなった。また、授業後に学生の自己評価の結果をチェックすることで、教師が授業目標に対する学生の到達度を把握するための目安となり、指導上の問題点を発見できた。さらに、授業あるいは各活動の目標提示は、授業終了時点での全体のまとめとしても役立った。
一方、効果の検証におけるアンケートでの学生の意見の中で次のようなものが気になった。「目標はわかりやすかったが、もう少し詳しい目標を明記してほしい」「やっている内容や目標はわかりやすくなったけど、本当に自分がそこまで到達しているかわからない」。このように、objectiveの提示に更なる改良の余地が残されていることがわかる。つまり、より具体的な目標を提示する必要があるのではないか。それによって、授業あるいは各活動の目標に対する学生の理解を促進させるとともに、自己評価における基準をより明確に示すことにつなげることができるであろう。ある学生が、「今回は慣れていないので戸惑ったが、うまく使えば役に立つと思う」と指摘するように、授業あるいは英語活動の目標を明確に示すという試みは今回が始まったばかりであり、今後アクション・リサーチをさらに進めて行くことで、その最も適した利用法を探し出していきたい。
11.まとめ
今回のリサーチを通じて、アクション・リサーチによる授業改善の可能性を実感できた。リサーチを行うには、十分な観察と準備が必要であり、授業が進む間も常に考察の連続であった。何気なく行っていたことを改めて考え直すことで、多くの新しい発見があった。学生に教えられたことも非常に多かった。このような機会を与えられたことに心から感謝するとともに、今後とも継続して行くことを心がけていきたい。
参考文献:
Richards, J. 2001.
Curriculum Development in Language Teaching.