実践報告3

授業「時事英語」の宿題提出に関するアクション・リサーチ

三重県立久居高等学校 倉 田 紀

 

  対象クラス: 三重県立久居高等学校 普通科国際コース 22

  生徒数:38

  科目名:時事英語

  使用教材:主にBBC Online からの英文記事をALTが易しく書き直した英文

  研究期間:平成154月〜平成163

 

研究の背景

 (1) 学校・クラスの紹介

   久居高校は普通科の中に各学年普通コース6クラス、国際コース1クラス、

  スポーツ科学コース1クラスを有する全日制の高等学校である。平成9年度よ

  り単位制を導入し、生徒の進路希望に応じた科目選択ができるようになってい

  る。本研究の対象になったクラスは2年生国際コースで、主な進路先は私立文

  系の大学、短大、専門学校である。

 

 (2) クラス・生徒の実態

   英語に対する興味や関心は高い生徒が多いが、中には入学後に英語に関する

  科目を多く選択しすぎて、負担になっている生徒や興味を失ってしまった生徒

  もいる。授業は常にALTとのティームティーチングのため、興味のある生徒

  たちは積極的に英語を聴いたり話したり、またALTにわからないことを質問

  したりする姿勢がある。

 

 (3) リサーチを実践するきっかけ

   この授業の目的は、実際に世界で起きている出来事を英語で読み理解し、そ

  のことに対する生徒自身の考えを英語で表現できるようになるということであ

  る。したがって、週に1時間だけの授業では、十分にその活動はできず目的は

  達成されない。そこで、家庭学習で時間をかけてゆっくり考えたり調べたりす

  る姿勢を身につけ、たくさんの英文を実際に書くことで、表現力をつけさせた

  いと考えた。しかしながら、ただ宿題を提出するようにという指示だけでは期

  日を守りきちんと提出する生徒の数が少なく、本来の目的が達成できないと考

  えた。

   そこで、宿題の提出率をあげるにはどうすればいいのかについてリサーチを

  実施することにした。

 

 (4) リサーチの目的

   高校生が語学を習得するのに必要な家庭学習を習慣づけ、課された宿題を期

  日を守り提出することにより、生徒の思考力を深めたり、英語力を高めたりす

  ることが、目的である。また、回数を重ねることで、より長く複雑な構文を用

  いた英文を書き、表現力が高まることを目指す。

 

現状把握

 ・宿題のテーマの設定と各宿題の提出率について

 (1) 宿題のテーマの設定

  @ 1学期(4月から6)

    毎時間、BBC Online からの英文記事をALTがやさしく rewriteした英

   文の聴きとり練習(ブランクの穴埋め)と、グループで手分けして日本語に

   訳させ各グループの代表が発表する活動と、その記事の内容に関する英語で

   のQ and Aを授業時間内に実施した。宿題として、次回の授業時までにその

   記事に関連したテーマを設定して英語で自分の意見を書いてくるという宿題

   を課した。以下にその宿題のテーマと提出率を記す。 

 

    *テーマ

    第1回目 エジプトの博物館に盲人用の説明が設置されたことについて

    第2回目 鉄腕アトムの記事を読みロボットは人間の友達になれるか

    第3回目 あなたはテレビがなくても過ごせますか

    第4回目 パンダが絶滅の危機にさらされているという記事を読んで

    第5回目 タマちゃんの記事を読んで

    第6回目 宇宙開発について

    第7回目 フットボールについて

 

  A 2学期前半(9月から115日まで)

    授業はほぼ1学期と同様に実施し、宿題の提出も同じ形を用いた。その結

   果は以下の通りであった。

 

 

    *テーマ

    第8回目 愛知博について          

    第9回目 あなたはどんな冒険がしてみたいですか

    第10回目 オーストラリアについて

    第11回目 環境問題について

    第12回目 ナイアガラの滝についての記事を読んで

    第13回目 スマトラ洪水の記事を読み自然災害について考える

 

 (2) 提出率(表1

 

  1学期

1回目

2回目

3回目

4回目

5回目

6回目

7回目

59

76

53

45

55

53

45

  

  2学期前半

8回目

9回目

10回目

11回目

12回目

13回目

79

79

58

42

55

55

 

 (3) 時事英語の宿題についてのアンケート調査の実施 

   平成1511月に対象生徒38人に対してアンケートを実施し、33人より回

  答を得た。その結果次のようなことがわかった。

 

  ア、宿題を提出しない理由 

      テーマに沿って自分の考えをまとめるのは、日本語で表現する場合でも難しい/自分の

       考えたことや思ったことを英語にできない/興味があるテーマならすらすら書けるけど、

    環境問題とかは内容が思いつかなくて書けない/1時間しかないので忘れてしまう

 

  イ、どのようにすれば宿題を出すようになると思うかについて

     テーマを考えやすいものにする/授業の最後の方で、意見を考えて書く時間を与えて欲

    しい/テーマをもっと身近なものにする/楽しいプリントにする/宿題を2週間に1回にす

    る/宿題の量を減らす/テーマを決めずに好きな事を書かせる

 

  ウ、どんなニュースに興味があるかについて

    戦争/地震/芸能関係/最新のニュース/スポーツ/幼児虐待/自分に関係あることや身近な

     こと/イラクへの自衛隊派遣/日本の政治

  エ、時事英語の授業の宿題についての自由な意見

    もう少しわかりやすくて書きやすいテーマにしてほしい/もっと興味のあるテーマにし

    てほしい/もっと楽しくしてほしい/英文の記事の日本語訳を作ってくれると意見も書き

    やすくなると思う/なるべく簡単な宿題にしてほしい/ニュースの記事を読むことは、自分

    にとって力になるので、更に自分の意見を言うということで、もっと自分の考えをしっ

    かりしたものにできると思う

 

テーマの明確化

 テーマごとの提出率や生徒から回答を得たアンケート結果により、以下のようにリサ
ーチをするテーマを設定した。

 

  授業でとりあげるどんな英文記事に生徒が興味をもつかを模索し、また授業

 の展開の仕方と宿題の課し方をどのように関連付ければ、生徒が積極的に宿題

 に取り組むことができるかについてリサーチを実施する。

 

予備調査

 (1) テーマごとの宿題の提出率を調べた。(表1参照)

 (2) 生徒にアンケート調査をした。

 @ 結果

   1学期2学期とも学期の初めは生徒の意欲も旺盛で、宿題の提出率は比較的

  高かった。しかし徐々にその提出率は減少していく傾向にあった。また、アン

  ケートの結果からもわかるように、生徒にとって身近なテーマについては、考

  えをまとめることが容易で、宿題の提出率も高かった。

 A 結果からわかったこと

    生徒の意欲を持続させるための手立てが必要である。また、テーマを設定す

  る時には、生徒にとって身近な話題を取り上げることが必要である。

 

トピックの絞込み

 アンケート調査から、生徒は英語で自分の考えを書くことに、困難さを感じている
ことが判明した。また学期の初めには意欲的であった生徒が徐々に意欲をなくしていっ
てしまう傾向にある。そこで、教師が生徒の質問に答えて英文を書く際に手助けをした
り、宿題をしてこなければ、授業中に発表ができなかったり、成績に影響することを具
体的に生徒に伝えることを実践する。

 

仮説設定

   仮説:

   (1) 授業の方法を変え、英文記事を日本語に直す時間をやめて、あらかじめ

    指名された2名の生徒が宿題で書いてきた意見の発表をし、そのことにつ

    いて、生徒やALTJTEが意見交換をする時間をとれば、宿題の提出率が

    あがる。   

     (2) 指名された生徒が発表しやすいように当該の時間までに日本語を英語に

    直す手助けをALTJTEがすれば宿題がしやすくなる。

     (3) テーマをもっと生徒に身近でわかりやすいものにすれば、意見も考えや

    すく書きやすくなる。

 

計画

 (1) 新たな実践の計画

   授業中に宿題を発表する機会を生徒に与える。生徒が英文を書きやすくする

  ために、テーマを身近でわかりやすくし、ALTJTEがアドバイスする。

 

 (2) リサーチの目的と期間

   生徒が自ら宿題に取り組み、提出しさらに授業で発表する意欲を高めること

  を目的とする。そのために、授業計画をALTJTEが綿密に立て、約3ヶ月間

  その計画に従って授業を実践し、宿題の提出状況や内容についても点検をきち

  んとする。

 

 (3) 1回の授業の流れ

  @ 前時の授業の復習

    前時に読んだ英文記事の内容について、いくつかの質問を生徒にして内容

   が理解できているかを確認する。

  A 宿題の発表

    あらかじめ指名しておいた2名か3名の生徒に宿題で書いてきた、英文記

   事に対する感想や意見を他の生徒の前で発表させる。

  B 発表した内容に対する生徒と教師からの質問と応答

    発表の内容に対して、他の生徒が質問する。また教師からも質問する。

  C 本時の英文記事の説明

    ハンドアウトを配布し、その記事について教師がなるべく日本語をつかわ

   ずに、できるだけ易しい英語で説明する。必要な箇所については日本語で説

   明する。

  D 宿題のテーマの発表

    本時の内容に関する感想や意見を英語で与えられた用紙に書いてくるよう

   に指示する。

  E まとめ

    時間があれば、授業時間内に宿題をする時間を与える。その際、教師は生

   徒からの質問に積極的に答えたり、アドバイスを与えたりする。次回の授業

   で発表する生徒を指名する。発表があたらない生徒にも必ず宿題を提出する

   ように伝える。

 

実践

 新しい授業計画に従って実践する際に、内容が難しくなりすぎないように、特に
注意した。英文を日本語に訳さないので、内容が正確に把握できたかどうかを確か
める。また、宿題のテーマを設定する際に生徒が意欲的に取り組める内容にするよ
うに考案した。実践はほぼ計画的にできたが、
1時間の時間内に発表の時間をとると、
どうしても時間がたりなくなることが多かった。また、発表する生徒の声が小さく
て他の生徒が聴き取りにくい時があったので、
OHPを使用してあらかじめコピーし
ておいた生徒の原稿を見せるようにした。

 

検証

 1112日から2学期の終わりまでと、3学期4回の授業を上記の仮説に基づき実施し
た。授業への取り組みも前向きで、また自分が発表しなければならない時間の前まで
に質問にきたりしてしっかり準備する姿勢がみられた。また他人の意見が聞けるのを
楽しみにしている様子であった。

 以下は1112日から3学期の終わりまでの宿題のテーマと提出率である。

 (1) テーマ

   第14回目 ダイエットについて    18回目 My favorite animation

   第15回目 戦争について       第19回目 Asian countries

   第16回目 スーパースターについて  第20回目 My ideal friend

   第17回目 My ambition   

 

 (2) 提出率 (表2)   

14回目

15回目

16回目

17回目

18回目

19回目

20回目

68

66

66

79

66

63

63

 

10内省

  これまでのリサーチ結果の内省から次の点が浮かび上がってきた。

 @ テーマを生徒にとって身近なものにしたら、提出率が上がった。

 A 発表する生徒をあらかじめ指名し、その内容について意見交換する場を設け

  ることにより、宿題に対する真剣さが増した。

 B 提出率があがったものの、まだまだ全員提出には至らなかった。その点につ

  いて分析し、改善する必要がある。

 C 今回は提出率という観点のみについて、調査したが、英文の内容、長さ、正

  確さについてもよりよいものにするための指導が必要である。

 D 授業の進め方と宿題の出しかたや点検方法についても、調査研究する必要が

  ある。

 

11まとめ

  本リサーチは授業と宿題の提出というテーマで実施した。表1と表2から読み取れる
ように、授業改善により提出率は徐々に上昇して一定の効果があった。しかしながら、
宿題を全員に提出させるという目標は達成できず、また宿題のテーマに関しても一貫性
があるとはいえない。今後の課題は生徒に語学の習得には、家庭での学習が極めて重要
であることを理解させ、自ら進んで宿題に取り組む姿勢をつけさせることである。