実践報告2
身につけた英語を使い自己表現できる生徒の育成のためのアクション・リサーチ
広島県福山市立幸千中学校 土手美代子
対象クラス:福山市立幸千中学校3年4組 生徒数:39名
科目名:英語
使用教材:COLUMBUS
21 English Course 3 (光村図書)
研究期間:平成17年11月1日〜12月13日まで
1.研究の背景
(1) 学校
生徒数456名の14学級(障害児学級2学級含む)で、教職員数29名の中規模学校である。学校は福山駅から北に約5kmの所、芦田川が東へ大きく蛇行するあたりにある。学区は南北に約6kmと細長い。2・3学年は一斉授業であるが、1学年は少人数授業(習熟度別ではない)を行っている。
(2) 担当クラス
筆者が担任をしているクラスということもあり、他のクラスと比べると教師に対する緊張感が薄く、課題に集中する場面と気を抜く場面の切り替えを苦手としている。また、課題には取り組むが、全員が楽しみながら、意欲を持ちながら取り組んでいるわけではない。英語力については他のクラスと差は見られない。
2.現状把握
与えられた課題には真面目に取り組むが、「やらなければいけないから」という印象を受ける。授業始めの英語コミュニケーション活動の1つである2 minute chat では、2分間その日のパートナーと与えられたトピックについて会話を行う。机間巡視から、英語力が高いパートナーや英語好きの生徒とのペアは2分間会話を行っているが、英語が苦手な生徒や、活動することに意欲が低い生徒は、最初のやり取りで終了し沈黙したままである。
一方、単元最後に行うライティング活動では、自ら辞書を引き、与えられた行数以上の英文を作成する生徒も多く見られた。自分のレベルに合い、かつ興味関心に合った題材であれば、意欲的に取り組む姿勢が見受けられる。
3年生ということもあり、ドリル的なゲーム(インタビューゲーム、インフォメーションギャップなど)に興味関心がなくなり、活動が意欲的でなくなってきた。また、学んだ文型を繰り返し使用する場面が少なく、1・2年次に学んだ文型や表現がすでに記憶からなくなっている。日々の授業で繰り返し使わせることで、確実に定着させたい。
3.テーマの明確化
学んだ文型を使って、身の回りの事を表現できる力を付けさせるためには、どのような指導が必要か?
4.予備調査
(1) 2 minute
chat(授業開始時のコミュニケーション活動)
2 minute chat(2分間、その日のパートナーと与えられたトピックについて英語で会話をする)では、「週末何をしましたか」「昨日何時間勉強しましたか」など、生徒の日常生活に基づく質問を与えているが、多くのペアが2分間会話を継続できないでいる。また、「サッカーをしますか」「犬は好きですか」など、自分が英語で表現できる内容へ変更するため、与えられた話題に対して、全くつながりのないものへと変えている傾向が見られた。
彼らの活動状況から、十分な表現を身に付けておらず、また、学んだ文型を自由に使いこなせないが故、自己表現をできないでいることに気づかされた。毎回パートナーは変わるが、初対面の相手とどのように会話を膨らませていけばよいのか、会話の作り方について知らないことにも気づかされた。
(2) アンケート調査
@ 目的
1) 英語による会話に対する意欲の把握
2) 2 minute chatの活動状況の把握
A 結果
表1 アンケート調査結果 (実施日:11月21日、生徒数:37名)
|
Yes |
Neither |
No |
1 英語を使って話すことは好きか。 |
7 |
18 |
12 |
2 パートナーと2分間話す活動において、十分な情報(自分の言いたいこと)が伝えられているか。 |
5 |
21 |
11 |
3 自分の意見を話したり書いたりする場面が欲しいか。 |
3 |
21 |
13 |
1. 会話することを苦手としているが、嫌いではない。
2. パートナーと2分間話す活動において、十分な情報(自分の言いたいこと)
が伝えられていると思っていない生徒が多い。
3. 自分の意見を話したり、書いたりする場面を積極的に欲しいかというと
NeitherあるいはNoという生徒が大半である。
英語で会話することについて、約半数の生徒は嫌いではないようである。よって英語を話すことに対して苦手意識が強いわけではないことが判明した。2minute chatでは、Neitherと Noと返答した生徒が多いのを見ると、机間巡視による観察どおり、十分自己表現が行えていないようである。また、会話や書く活動を積極的に求めていないところから、自己表現するための「時間」と「労力」を億劫だと感じている生徒が多いので、Neitherと答えた生徒に働きかけることによって、Yesの生徒を増やすことができるに違いないと感じた。
5.トピックの絞込み
英語を使って話すことを苦手としている生徒が、学んだ文型を使って身の回りのものについて自己表現できるようにするためには、どのような指導が必要か。
6.仮説の設定
(1) 授業の目標:会話の基本的な流れを学び、会話で使える代表的な表現を覚え
る。
(2) 身に付けさせたい力:学んだ文型を使って、身の回りのことについて英語で
表現できる力。
(3) 設定した仮説:
英語を使って会話を継続することが苦手な生徒に、会話のパターンを示し、会
話で使える表現を身につけさせることで、生徒は会話のパターンに従って自ら
話を作ることができ、2分間会話を継続することができる。
7.実践計画
11月21日(月) アンケート調査の実施
11月22日(火) 会話の手順と表現の導入
会話の流れをつかみ、与えられたトピックについて、最低
3つの英文で返答させる。また、代表的な会話の表現も学ぶ。
(1) 一般的な会話の流れについて、次のような見本を示す。
<会話の流れ> A: 質問1 B: 応答ー3文以上で(感想・具体例など) A: コメント 質問2 B: 応答ー3文以上で(具体例・感想など) |
---|
J Useful expressions! J
《コメントいろいろ》
Great! /
Really? / Me, too. /
No way! / Why? /
You are kidding! /
Good for you!
《感想いろいろ》
It was interesting. / It was fun. / It was funny (hilarious).
It was good. / It was great! / It was awesome.
It was okay. / It was
boring. / It was terrible.
11月23日(水) 与えられた話題について、パートナーと実践練習を行う。
(3) 次のようなワークシートを活用する。
< 2 MINUTE CHAT
> Conversation 1 Question
1: Did you watch TV last night? Answer:
@
Yes I did. A I watched Sazae-san. Question
2:
Answer: @
A
|
12月5日(月)・6日(火)・7日(水) 2 minute chatで練習する。
12月12日(月)・13日(水)Assistant
Language Teacher(ALT)による個別面接で、
2分間英語で会話を継続できるかの確認を行う。
8.実践
(1) 留意点
漠然と会話をするのではなく、会話には決まったルールがあることを生徒に
意識させる。また、相手への質問にはつながりが無ければならないことも指導
しなければならない。
(2) 考察
生徒は、聞かれたことに対して3文で答えることは、何とか行えていたよう
である。しかしながら、会話を発展させていくための追加の質問を考えるのに
苦労している姿がうかがえた。また、Yes - No
Questionで尋ねるため、会話が
あまり発展していないようであった。まずは5W1Hを中心に、疑問詞を使った
質問を考えるよう指導しなければならないようである。
問題点であった「つながりのある会話」については、自らが持つ英語力で3
文作らなければならない為、会話しやすい話題(スポーツや塾について)へ変
更する姿が未だ見られた。限られた英語力を使いながら、相手へ様々な質問す
るということは、十分な語彙力と文法が備わっていない生徒には難しいようだ。
さらに、会話を継続するための「相手へのコメント」については、自ら英文
を作り出すのに必死で、相手の返答に耳を傾ける余裕が見られず、どのコメン
トを使えばよいのか分からずにいるようであった。単に多くの表現を提示する
だけでなく、それらが使われる状況と、常に会話を発展させるため「コメント」
を必ず入れるよう声かけを行うことで、意識して使用させなければならないと
感じた。
9.検証
(1) 検証方法
ALTによる個別面接
どのくらい会話を続けられることができるようになったか、ALTと1対1で
2分間会話を続けるconversation testを実施する。検証項目は下記の通りであり、
項目ごとに、ALTが5段階で評価をする。
(2) 検証項目
意欲関心: eye
contact / volume / give up too soon
表現: choice of words / length
理解: answering correctly
表2 調査結果 (全38名 欠席1名)
|
Eye contact |
Volume |
Give up too soon |
Choice of words |
length |
Answering correctly |
5 |
30 |
35 |
35 |
19 |
9 |
11 |
4 |
8 |
3 |
3 |
18 |
28 |
25 |
3 |
0 |
0 |
0 |
1 |
1 |
2 |
2 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
(3) 結果分析
生徒は全ての項目に対して、高い得点を得ていた。特に、ほとんどの生徒が
Eye contact、 Volume、Give up too
soonに関しては、満点に近い点をとっている。
それに比べると、Choice of words、length 、Answering
correctlyでは、少し低く
なっている生徒が多い。会話の相手が外国人ということもあったが、全員が緊
張感しながらも、2分間会話を続けることができたようである。特に"give up
too
soon”に関して低い評価を得た生徒がいなかったことは、今回の取り組みの成功
した点である。個別面接後、生徒が「緊張した」「通じた」「Why?って聞かれて
なんて言ったらいいか分からなかった」と言い合う姿がみられ、自分の英語が
ALTに通じたことに対して、一様にうれしそうであった。しかし、3文で返答
することにより、2分間会話を継続することはできるようになったが、内容と
なると、語彙や長さについてもっと努力が必要のようである。1つ1つの文が
短く、同じ内容の繰り返しであったようだ。2分間継続後は、内容の充実に目
を向けさせていきたい。
10.内省
今回のアクション・リサーチを通して、生徒たちに2分間会話を続けることができる表現力を身につけさせることができたかは、実践期間が短すぎたため、変化を見極めることが難しかった。しかしながら、成果としては2分間会話を継続しようとする姿勢を養うことができたのではと思う。また、Yes-Noの質問で会話を継続していくことは難しく、疑問詞を使いこなせることの重要性に気づかせることができたのではと期待する。適切な疑問詞を使いながら質問するには、パターン化された会話の流れを念頭に考えねばならず、生徒へは話題を与え、どのような質問が想定されるか考えさせることによって、会話の流れを身に付けさせなければならない。それにより、つながりのある会話の構築ができるようになるのではと思われる。
相手へのコメントについては、様々な表現を知り、適切な場面で使えるようにならなければならない。現状では、十分な表現を知っていない上、自分の質問を考えるので精一杯で、相手の意見を落ち着いて聞き、それに合ったコメントを返す余裕はないようである。よって、会話で使える表現は短期間に多量に教えるのではなく、1年次から徐々に生徒に蓄えさせていくべき、会話の時間も短い時間から少しずつ引き伸ばしていくなど、段階を経た指導が重要であると思われる。
会話の流れをつかむことと、表現力をつけさせることが、果たして会話継続とつながりある会話の構築に成果があるかを見極めるには、さらなる研究が必要であると思われる。
11.まとめ
ALTとの面接より、生徒の表情の硬さや、時制が適切に使用できていない点などの指摘を受けた。会話の継続、つながりのある会話が構築できた後は、内容の充実へと発展させたいと思うが、そこで時制についても生徒に意識させる取り組みをさせなければならない。
また、自己表現することは時間と労力が必要である。その作業を億劫であると感じさせないよう、日々の授業で活動を仕組むことで、表現することになれ、相手と交換する楽しさが味わえるような場面を設定することが大切である。
本来会話をすることは、相手に興味関心を抱き、相手についてより知ろうとする姿勢から始まるものである。しかしながら、普段の生徒を観察してみると、友達同士でさえあまり活発に会話をしておらず、黙ってただ一緒にいるという姿をよく見る。よって、会話を日本語ではなく英語で行うことは、彼らにとってさらに困難ではなかろうか。まず言語より前に、相手に関心をもち質問したいと感じる心づくりをしなければ、2分という短い時間であっても日本語でも会話ができないのではと感じた。