実践報告1
生徒が自信を持って英語で自己表現する喜びを高めるための
アクション・リサーチ〜Writingの指導を通して〜
広島県深安郡神辺町立神辺中学校 小畠俊雅
対象クラス:神辺町立神辺中学校 3年4組 習熟度別クラス(基礎コース)
生徒数:15名
科目名:英語
使用教材:NEW CROWN ENGLISH SERIES 3 (三省堂)
研究期間:平成17年10月22日〜12月22日
1.研究の背景
(1) 学校・クラスの紹介
@ 学校について
福山の近郊に位置し、町内3中学校の中でも1番古い歴史を持つ。1年生5クラス、2年生4クラス、3年生4クラスでどの学年も習熟度別指導(基礎コースと発展コース)を行っている。どの学年も2〜3名の教員で指導を行っている。町内では、小学校の英語活動に力を入れており、そういった英語活動を経験した生徒が入学してくる(現在、英語活動が始まって2年目である)。ALTがどの小学校にもいて活発な授業を行っているようである。現在の1年生はそれを経験してきた。
A 対象クラスについて
習熟度別クラスの基礎コースの生徒である。各クラスを発展コースと基礎コースに分け(点数および希望によって)ている。受験やテストのために英語はやらないといけないと感じている生徒と、わからないとあきらめてしまっている生徒の2つのタイプに分かれる。授業中の練習などやらなくてはならないことはきちんとやろうとしているし、自分が何をすればいいのか納得するとやり始める。授業中は遠慮がちで、静かであり、音読の声も小さい。積極的に取り組もうという生徒は数名であり、残りの生徒は受け身的に授業を受けている。
学力は、学年4クラスの中で4番目である。しかし、授業については聞こうとする態度や、やらなくてはいけない課題をやることについては、4クラス中1番頑張っている。音読を4月より力を入れてやっており、実際読めるようにはなってきているが、いざテストとなると、点数に結びつかない。そのためか、意欲的に取り組んでいこうとする生徒が少ない。最初から英語は嫌いな教科であると決めている生徒がほとんどである。もっと自分から練習するなど、積極的に、意欲的に取り組ませたい。また、生徒にとって力になると実感するような内容とはどんな活動なのだろうか?楽しいと感じるような内容とはどんなものだろうか?このような疑問を筆者は抱いている。簡単なものにはどんどん活動をしていくがそれ以上のものを求めない今の状態を改善していきたい。
(2) リサーチを実践するきっかけ
定期テストで、毎回英語による自己表現の問題を出題している。しかし、なかなか自己表現ということになると、今までの文法を駆使して答えなければならないため、生徒達は大変不安を感じている。間違えてしまうという不安、自分の言いたいことを英語で表現できないという不安など英語を表現するにあたって様々な不安を抱える。また、毎年行われている広島県内の基礎・基本調査においても、表現の能力に関しては、県レベルを下まわる結果である。しかし、英語を教える者にとって最終的な到達目標は自分の言葉で表現できるようになり、英語が使えるものであると実感できることであると感じている。現在の中学校英語では教科書中心の授業であり、教科書を使って教えることで満足してしまってはいないだろうか。しかし、現実は生徒の実態を見ると、今まで習ったことを駆使して表現することはできていない。そこで、書くことにおける自己表現活動を通して、自分の言葉で表現できたという実感を味あわせたいと感じたのが本リサーチを開始するきっかけである。
(3) リサーチの目的
今まで「英語を使えるようになる」という感覚で授業を行っていなかったという反省を基に、3年生を対象に3年間の文法事項を学び終えた後で、3年間の文法事項を駆使して、「中学校生活の思い出」と題して自分のことを英語で書いて表現させたいと感じた。その中で、生徒達には今までの文法事項の復習をし、また、自分たちの言いたいことは中学校英語で表現ができるのだという実感を持たせるのが目的である。そして最終的にいろいろ苦労はしたけれど、3年間の文法をいろいろ考えて使えたという充実感や自分で自分の英文を作ったという満足感を味あわせたい。
2.現状把握(Journalの記録より)
英語を書いてコミュニケーションをさせるということは、生徒にとって一番苦手とするところである。また、授業内でも書くという活動については大変消極的である。およそ5分の4の生徒の活動が停滞してしまって、どうしていいのかわからない状態になる。また、自分のことを英語で表現するという活動自体に興味を示していないようである。なぜならば、英語は苦手とする教科であり、味わったり、楽しむという段階までは至っていない様子だからである。書くことを始めても、わからない英語という厚い壁に遮られ、日本語で語る方が簡単に感じてしまい、あえて英語で表現するという選択をしないという姿が見える。そのことは、話すことに関しても、しばしば日本語で言ってくださいと要求されることが多いからだ。それは次のような原因が考えられる。
・英語の語順がわからない。
・書きたいことは決まってもそれを英語に変えることができない。
・日本語の表現がうまく英語の表現に変えることができない(日本語ほど内容が
深まらない)。
・今までに自分のことを英語で表現する機会が少なすぎる(経験不足)。
・大変根気のいる活動である
そのような実態がわかる状況が次の例である。英文を書く活動をした際に、主語になる部分で次のような間違いがある。
Play baseball makes me happy. /
Baseball make me happy. など
ターゲットとなるmake + O
+ Cの語順は合っているのだが、1,2年生の文法事項である動名詞や三単現のsなどを忘れることが多かった。最初は「〜すること」ということがingを使って書くということも忘れている生徒がほとんどだった。説明をしてもどこがどのように違っているのかピンと来ない。結局は指導者の言われるままに訂正し、その場を終えようとする。
2つめの課題は質問に対して、自分なりの答えが書けない。つまり、自分の意見を持つことが苦手な生徒がいるということだ。今までそんなことを考えたことがないので、いざたずねられると困ってしまうのである。また、自分のことを英語で表現することが何の利点があるのか考え、テスト(受験)のためには知識的な問題を求めているような様子である。答えが複数考えられるような英語で表現をするような問題に対しては、あまり興味を示さないのが実態である。
3.テーマの明確化
英語で自己表現をすることにあまり慣れていない生徒が自分から英語を使ってどんどん表現できるようにするためには、どのような指導が必要か?
4.予備調査
アンケートと定期試験の自由英作文について、予備調査を行った。
(1) アンケート調査
12月13日に、クラスの生徒全員を対象に、アンケート調査を実施した。回答者数は合計15名である。
表1 アンケート調査結果
@ 英語を書くことに興味がありますか?
|
とても興味がある |
1人 |
7% |
|
まあまあ興味がある |
3人 |
20% |
||
あまり興味がない |
8人 |
53% |
||
全く興味がない |
3人 |
20% |
A 英語を書いて自分を表現(自己表現)することが好きですか?
|
とても好き |
0人 |
0% |
|
まあまあ好き |
3人 |
20% |
||
あまり好きではない |
8人 |
53% |
||
全く好きではない |
4人 |
27% |
B 現在、英語を書いて自分を表現(自己表現)することができていますか?
|
とてもできている |
0人 |
0% |
|
まあまあできている |
0人 |
0% |
||
あまりできていない |
12人 |
80% |
||
全くできていない |
3人 |
20% |
C なぜそう思いますか?
単語がわからない/調べるのが面倒だ / 苦手だから / あまり英語を使うことがないから。また、英語が好きではないから / 英語の言葉と意味が全くわからないから / 難しいから / 英語はとにかくわからない / 全然書くことができないから / 英語のテストの点数がよくなかったから / 機会があまりないから / 復習しないとすぐ忘れてしまっているから / まだまだ英文を素早く書くことができないし、聞かれたことを文にできないから / 英語が嫌いだから / どうやって文を作っていけばいいのか全くわからないから
D これから、英語を書いて自分を表現(自己表現)したいと思いますか?
|
とてもそう思う |
3人 |
20% |
|
まあまあそう思う |
6人 |
40% |
||
あまりそう思わない |
3人 |
20% |
||
全く思わない |
3人 |
20% |
E なぜそう思いますか?
英語がわかりたいとは思うから / できたらうれしい / 英語がわかるようになりたいから / 自分で書いてみたいし、自分で書けたら将来のためになると思うから / いつか使う時があるかもしれないから / 英語がきらいだから / できるようにはなってみたい / テストもあるし、できるようになると楽しそうだから / 英語は嫌い(苦手)だから / 作れた方が自分の(将来の)ためになると思うから / 自分の役に立つと思うからです / 今、国際社会の中で英語をもっと学習し、将来に活かしていきたい / 楽しいから / 英語がいやだから / 英語が全くできないのはいやだし、ある程度使えるようにはなりたいから
アンケート調査では、英語を書いて自己表現することに関する質問@〜Bのすべてにおいて、かなり英語の学習に対してまた、英語で自己表現する活動に対して消極的であることがわかった。Journalでの授業における生徒の実態把握から感じたように、こういった生徒の英語に対する消極的な思いが授業態度となって現れているのだということを再確認した。しかし、その中でも、1つの救いは、質問D, Eに対する生徒たちの回答である。生徒の多くは、英語を書きたい、書けるようになりたい、あるいは書いてコミュニケーションを図りたいと考えていることがわかる。やっぱりできるようにはなりたいという気持ちは持っているということを教師側はかなえていくよう努力していかなければならないと感じた。アンケート結果から言えることは、現在の指導に対する満足感があまり高くない。それはもちろん学習意欲が低いということからだと思う。よって、今回のリサーチを通して、生徒に達成感を体験させ、自分でも書けるという自信をつけさせることをめざしていきたい。
(2) 定期試験の自由英作文
11月25日に行われた定期試験では個人のある1日の日記について英文で表現しなさいという問題で出題した。その時の条件は3つあった。@6文以上で書くこと、A主語は3種類以上使うこと、B動詞は4種類以上使うことである。その問題に対する生徒の解答を、筆者が、@文の数 A単語数 B主語の種類 C動詞の種類 D内容のつながりの観点から、次の通り、総合的に5段階で評価をした。
5 英語で自分のことをとてもよく書くことができている 4 英語で自分のことをまあまあよく書くことができている 3 英語で自分のことを何とか書くことができている 2 英語で自分のことを書くにはもう少し練習が必要である 1 英語で自分のことが全く書けていない |
その結果は、次の通りである。
表2 定期試験の自由英作文(全15名)
@ 文の数 |
5文以上 |
3人 |
20% |
4文 |
2人 |
13% |
|
3文 |
2人 |
13% |
|
2文 |
2人 |
13% |
|
1文 |
1人 |
7% |
|
0文 (無回答) |
5人 |
34% |
A 単語数 平均 11.3語 |
40語以上 |
0人 |
0% |
31〜40語 |
2人 |
13% |
|
21〜30語 |
2人 |
13% |
|
11〜20語 |
2人 |
13% |
|
1〜10語 |
4人 |
27% |
|
0語 (無回答) |
5人 |
34% |
B 主語の種類 |
4種類 |
1人 |
6% |
3種類 |
2人 |
13% |
|
2種類 |
4人 |
27% |
|
1種類 |
3人 |
20% |
|
0種類 (無回答) |
5人 |
34% |
C 動詞の種類 |
4種類 |
5人 |
33% |
3種類 |
3人 |
20% |
|
2種類 |
2人 |
13% |
|
1種類 |
0人 |
0% |
|
0種類 (無回答) |
5人 |
34% |
D 内容のつながり |
ある |
3人 |
20% |
ない |
7人 |
46% |
|
無回答 |
5人 |
34% |
E 総合評価 |
5点 |
0人 |
0% |
4点 |
1人 |
6% |
|
3点 |
4人 |
27% |
|
2点 |
3人 |
20% |
|
1点 |
2人 |
13% |
|
0点 |
5人 |
34% |
この問題については事前に問題を知らせておいたため、定期試験の中の問題ではあるが、十分事前に準備ができる問題である。よって即興での作文力を問う問題ではない。英文を書こうとする態度を見ると、15人中無回答の生徒が5人いるということ。語数についても文の数は7文かいていても語数が30語そこそこであったり、1文あたりの語数が少ないのである。つまり1文が短いということである。また、総合評価から見ても10人の生徒は十分に英文が書けていたとはいえない。また、主語について条件を満たしていた生徒は3人である。つまりIを使った表現が多く、内容の広がりがない傾向であった。最後に内容のつながりであるが、つながりのある英文が書ける生徒は3人である。つまり事実の羅列でおわってしまって、内容自体は何のことを書いているのかわからないという状況であった。
5.トピックの絞り込み
英語で自己表現をすることにあまり慣れていない生徒が、与えられたテーマに関して、5文40語以上で、自己表現できるようになるためには、どのような指導が必要か?
6.仮説設定
これまでのリサーチ結果を踏まえて、次のような仮説を設定した。
仮説: 教師が示すいくつかの観点から自分が書いた英文を見直して繰り返し書き変えることによって、生徒はより多くの量の英文を書けるようになり、その内容も充実させることができるようになる。
7.計画
上記の仮説に基づいて、具体的な目標、指導内容、そして、実施計画を立案した。
(1) 目標: 全生徒が5文(40語)以上で、まとまった英文を書けるようにする。
(2) 指導内容:
その1 語順を学習する中で、パターンに当てはめできるだけ1文を長く書くことができるように指導する。
その2 接続詞を学習する中でwhen やbecauseを使って複文、重文を書くことができるように指導する。
その3 1年生レベル(文法学習事項)から2年、3年レベルが1つでも使えるように指導する。
その4 同じ表現の繰り返しをさけるなど、単調にならないよう工夫することや自然な流れで話が展開されるように指導する。
その5 主語の種類、動詞の種類、内容のつながり、語数などの観点から、教科書の例文を分析し、それを模範として自分の英文に活かせるよう指導する。
(3)指導計画
12月13日(火) アンケート調査実施、
トピック(書く題材)決定、内容を日本語で考える。
12月15日(木) その1 語順の学習(1文を少しでも長く書く指導)
12月19日(月) その2 接続詞の学習(複文、重文を書くことへの指導)
12月20日(火) その3 文法内容を1年生内容から2,3年生内容への指導
12月22日(木) その4 教科書の例文を分析、自分の英文の推敲を行う。
(主語、動詞、内容のつながり、語数)
12月22日(木) 英文完成、自己評価を行う。
授業1回のうち本活動に費やす時間は20分にする。20分間の流れは次の通りである。
@ 1年生の既習文法を使って例文を作成する。(7分)
A 4つの観点を盛り込んで英文を推敲していく。(3分)
B 作成している英文を読んで、自分の文章内での推敲箇所を探す。(4分)
C 教師によるアドバイス、添削(Bの活動を含めて10分)
ただし、実際には、上記の計画は一部変更をして実践した。詳細は、次の「8.実践」で報告する。
8.実践
生徒は、今回も英文を書くことに対して抵抗感があった。まずは中学校生活の思い出についてトピックを決定することはスムーズにいった。生徒は様々な経験を中学校生活で行っており、そのことを生徒はまず英語で書きたいという興味を引くまでの第1歩は踏み出せた。また、それについて箇条書きで事実→感想の流れを作りながら日本語で思いつく限り表現してみようというと、これも生徒は簡単に書いていくことができた。しかし、大きな壁にぶつかったのはここからである。1回目を終えて、基礎クラスの生徒について、英語で表現をすることはとても苦痛に感じていた。まず、語彙が少ないと言うことなので言葉が出てこないという苦労があった。また、文法事項が自由に出てこないという苦労もあった。しかし、「これは2年生の文法事項が使えるね」なんて言うと、一生懸命に何を使えばいいのか考えて答えようとしている姿があった。また、3年生の文法事項についても積極的に使おうとしていたので今回の作品については1年生の文法表現から少々発展して考えるようになってきていた。もう1つ発見したのは、こういった表現活動は、今までの文法事項をどんどんと引き出すために効果的であること。たとえば「とても〜なので・・・・・だ」という内容が来たときに「この言い方って習ったね」なんて言うと一生懸命に思い出そうとしていた。すぐ思い出せる生徒と、なかなかの生徒・・・・つまりこういうすぐ引き出しから出せる状態にすることが必要なのである。つまり、outputも根気よくやると、本当に今までの復習になったり、語彙を増やすきっかけになったり・・・・ととても効果的であることを発見した。また、2回目以降で感じたことはだんだんと自分の作る文章に愛着がわいてきているということであった。何度も書き直しをする中で、だんだんと自分の英文の内容を理解し、内容を深めようと一生懸命に書こうとしている生徒が増えてきたということが感じられた。
当初の計画では項目を分けて指導するようにしていたが、それではうまく進まなかった。生徒のニーズが全く違うということと進度が違ったためである。そこで、生徒の状況に応じて、4時間とも各項目を合わせて指導することとした。また、時間については、4時間の授業をそれぞれ20分ずつ使いながらという計画であったが、英文の作成にずいぶん時間がかかり、4時間のうち2時間は50分間すべてを使って指導を行った。しかし、残りの2時間については計画通りの20分ですすめていった。
9.検証
(1) 生徒の英作文
予備調査での5つの観点(@文の数 A単語数 B主語の種類 C動詞の種類 D内容のつながり)に加えて、E文法事項使用についてという観点を加え、筆者が総合評価を行った。その結果は、次の通りである。
表3
@ 文の数 |
7文以上 |
4人 |
27% |
6文 |
6人 |
40% |
|
5文 |
5人 |
33% |
A 単語数 平均 47.5語 |
56〜60語 |
1人 |
7% |
51〜55語 |
4人 |
27% |
|
46〜50語 |
5人 |
32% |
|
40〜45語 |
4人 |
27% |
|
40語以内 |
1人 |
7% |
B 主語の種類 |
5種類 |
4人 |
27% |
4種類 |
6人 |
40% |
|
3種類 |
3人 |
20% |
|
2種類 |
2人 |
13% |
C 動詞の種類 |
8種類 |
1人 |
6% |
6種類 |
7人 |
47% |
|
4種類 |
3人 |
20% |
|
4種類 |
4人 |
27% |
D内容のつながり |
ある |
14人 |
94% |
あまりない |
1人 |
6% |
|
ない |
0人 |
0% |
E文法事項使用 |
1年生で学習した文法を使用 |
15人 |
100% |
2年生で学習した文法を使用 |
15人 |
100% |
|
3年生で学習した文法を使用 |
5人 |
33% |
F 総合評価 |
5点 |
7人 |
47% |
4点 |
5人 |
33% |
|
3点 |
3人 |
20% |
|
2点 |
0人 |
0% |
|
1点 |
0人 |
0% |
以上の結果を予備調査と比較をするとはるかに語数は増加している。全体平均も11.3語から47.5語へと文の数は増加しているが、語数の方がはるかに増加しているということは1文に費やされる単語数が増加しているということがわかる。また、内容についても接続詞を使って内容がつながるように工夫されている。内容の深まりは主語の種類にも現れている。1つの出来事を多面的に表現をするためには多くの違った種類の主語を使わなくてはならない。そういったことが、指導の結果現れていることもわかる。英文を読んでみて、明らかに予備調査の段階とは違った多くの文法事項を使った、内容の深い英文に変化してきている。また、今まですぐにあきらめたり、投げ出すような習慣があったが今回英文を作成するにあたり、最後までやりきるようにねばり強く取り組んでいた生徒たちの様子も確認できた。
(2) 自己評価結果
次に、自分自身の作品を自己評価させてみた。その結果は次の通りである。この結果から、ほとんどの生徒は苦労したけれどもあきらめずに自分の書きたいことを書き進めることができたと感じていることがわかる。2と評価している3人については、最後までどのように英文を書けばいいのか悩んでいて、結局、指導者による支援が過剰に入り、自分の力で作ったという実感を持つことができなかったようである。
表4
5 英語で自分のことをとてもよく書くことができた |
5人 |
33% |
4 英語で自分のことをまあまあよく書くことができた |
4人 |
27% |
3 英語で自分のことを何とか書くことができた |
3人 |
20% |
2 英語で自分のことを書くには少し練習が必要であった |
3人 |
20% |
1 英語で自分のことを全く書くことができなかった |
0人 |
0% |
(3) 生徒のwritingの作品の変化
ここでは、2名の生徒のwritingの変化を紹介したい。
生徒A・第1回目
Win is happy. Don’t win is very sad. Everyone play basketball very enjoy. We had a good time.
(主語が何なのかをアドバイスした。事実からどんなことを感想で持ったのか聞きながら英文を作る。)
生徒A・4回の授業後
I have played
basketball for three years. When I played in the game, I hurt my foot.
My teammate said to me, “Are you
OK?” At last we were defeated by Chitose Junior
High Shool. I was very sad but we
had a good time.
生徒B・1時間目
Had a good time. Many people was looked to us. We
cooperation. I am very hot. It
was last school festival but I
think that good memory.
(主語を明らかにする。適切な動詞を使用することや時間や場所を記入してよ
り話題を広げることをアドバイスした。)
生徒B・2時間目
I dance. I was play dance. Many people came to
watch our dance. We cooperated
with each other. I was very hot.
It was the last school festival so I think that it was a
good memory.
(内容がつながりが持てるように並び替えて、接続詞を使用することをアドバイスした。)
生徒B・3時間目
I danced Soran. I had
a very good time. Many people came here to watch our dance.
We cooperated each other when we
practiced. We did well and after dancing, I was very
hot. It was the last school
festival so I think that it was a good memory.
(いつ、どこなど入れることで、より具体的になり、わかりやすい文になることをアドバイスした。)
生徒B・最終日
I danced Soran.
On November 3, many people came here to watch our dance. We
cooperated with each other when we
practiced it. We did well and after dancing, I was
very hot. It was the last school
festival so I think that it was a good memory. I had a very
good time.
このように、1時間目の英文と4時間目の英文はずいぶんと改善されている。明らかに多くの量をかけるようになっており、内容も充実してきている。この英文を書くにあたって語順を復習したことは効果的であった。語順を確認することで、新たな情報を付け加えることができた。次に、接続詞を使って1文を長くしていく工夫をすることは大変効果的であった。しかし、すべてを自力でというわけではなかった。自分の力で見直すことができ、英文を書き直すことができるように今後していきたいと感じている。
(4) アンケート調査結果
表5 自分の作品に満足していますか?
4 とても満足 |
8人 |
53% |
3 まあまあ満足 |
6人 |
40% |
2 あまり満足しない |
1人 |
7% |
1 全く満足しない |
0人 |
0% |
今までは、英文を書くことを敬遠していた生徒達だったが、今回の活動を通して苦労はあったけれども、最後までやりきって作品を完成させたことは、満足した内容だったと感じているようである。また、今まで英語で表現する時には1年生の文法内容から抜け出すことができなかったが、今回は2, 3年生の文法事項を使うことができたということや、辞書をよく使って調べることができたことなど完成までにさまざまな努力があって自分の納得のいく英文ができあがったと感じているようである。あまり満足していない1人の生徒については一番最後に完成した生徒であり、自力で完成させたという実感というよりもよく援助されたという実感の方が強いためであろう。
10.内省
今回のリサーチを通して、一緒にやる意志も意欲もなく、どうすればいいのやら・・・・という生徒にどうかかわればいいか大変悩まされた。生徒はすぐにあきらめようとする。結局は学年の中で今のリサーチをしているクラスが、一番難しかったように感じた。また、このリサーチは、1クラスを対象に行ったが、他のクラスの授業運営にも役立ったような気がする。また、検証の結果、教師の示すいくつかの英作文を充実させるための観点によって、生徒は確実に書く量を増やしている。特に量を増やす点では、接続詞を使用することや、1文の中により多くの情報を入れる(いつ、どこなど)ことにより、1文の内容は充実してくるということは効果的であり、読む人にとってより英文の内容を理解できるような組み立て方になるような観点であった。検証結果の生徒作品を読んで、そういった情報が書かれて、読みやすく理解しやすい文章に変化してきている。仮説はほぼ設定したとおりの成果が確認できたように思う。そして、そういう成果とともに今回の英文を作り終えて自分の作品に満足している生徒は90%を超えている。英語で自己表現をすることに消極的であった生徒たちであったが、1つの作品から、満足感を得られていることは指導者としてもとてもうれしいことである。
また、このリサーチで効果的であった点は次のようなことである。
@ 今までやる気でなかった生徒達が一人一作品作っていた。1クラスは12月の授業を終了したが、全員取り組むことができ、それぞれの生徒が自分の英文を最終的には作ることができた。以前であれば、半分くらいできなかったように思う。今回、かなり支援を行い、生徒達も授業の後残って英文を作っていったり、放課後質問に来たり、残って作る生徒もいた。自分から課題に取り組む姿は今までにない光景であった。
A もう1つ発見したのは今まであれば英文でかかれていることが理解できず、英文を読む気にもならなかった生徒が多かったが、今回は自分達の作った文章だったので、生徒は内容をよく理解していた。また友達は何を書いているのかという興味がわき、読もうとする態度が見られた。そして、友達のいい表現や、使えそうな表現を見つけていた。40語程度の英文を数多く読むことは、基礎コースにとってとても有効であった。
B 特に2年生半ばからの文法事項を使って書くことを意識してアドバイスを行ったので、生徒にとってはよい復習になったようである。
一方、今回のリサーチでさらなる問題として考えられることは次のようことである。
@ 語順のつまずきが未だにある
誰が→どうする→だれ(何を)という順番や、一般動詞とbe動詞を同時に使い、I am played tennis.の類の文が多かったり、play tennis.しか書かなくて、主語がなくなっていたり、と何回もこれは誰がしたことなのかと質問をし続けた。また、I tennis played.という間違いもあった。こういったことを修正することが多かったように思う。
A 語彙力が乏しかった
書きたいことは日本語ではいっぱい思いつくのだが、なんと書いていいのかわからない。文法も思いつかないということもあるが、言葉が出ないということもあった。
B 日常話している日本語が英語でも話せるんだという意識が低かった。(観察より)
英語がまるで暗号のように今まで別世界のものとして感じられたらしく、1年生の文法事項くらいで、とても簡単な英語で書こうとしていた。しかし、少々複雑な日本語(〜したとき、・・・・だったなど)となると、生徒にとってこれは言うことができない表現だと判断していた。しかし、アドバイスをするたびに、ほとんど自分が思っていることが英語に直せていたので、満足そうであった。というのも、生徒はやはり自分の考えたことを一生懸命表現しようとしていて、他人にその内容を変えられることを嫌うということがよくわかった。今回の結果は予想以上のものでした。今回は4回という授業の中での改善であったので、最終的に教師側からのアドバイスで英文を作成した生徒もいた。人の力を借りすぎると満足度も低くなってしまうため、適度なアドバイスをめざしていきたい。また、可能ならば、生徒が自分で気がつけるように日頃のインプットの部分から英語を使うということを意識して授業に取り組んでいきたい。
11.まとめ
自己表現をするということは指導者にとってまた基礎コースの学習者達にとって大変負荷のかかる活動であり、労多くして功少なしといった印象を持っていた。しかし今回のリサーチを通して、自己表現をすることで効果を3点発見した。
@ 文法事項を統合的に使うということは効果的な復習になるということ。生徒のつぶやきが「これどうやって書くのかわからん。何をつかったらいいのだろう。」という言葉が増えた。つまり、そういうときが学習するチャンスであるということを感じることができた。英文を書く中で様々な質問をすることがでた。単語、文法など生徒は必死に思い出そうとしていたのが印象的だった。
A 英語を使うという実感が持てるということ。生徒は日本語でまず考えているが、英語でもその思っている言葉で表現ができるということが実感できるということである。
B 自分の英文は自分の力で作り、繰り返し読むので、内容は十分わかっている。また、友達の英文も読もうとする興味関心が高まってくる。
今回のリサーチで感じたことは3年生にもなると、1年からの残された課題が多くあり、なかなか改善がしにくい状況がある。是非、1年生の時からの積み上げを大切にしていきたい。
最後に、今回英語で自己表現を行うことを題材にあげて取り組んできた。Writingによる自己表現活動は今までの既習文法の総まとめを行えるいいチャンスである。つまり、どのようにすれば、既習の文法事項をどんどん使うようなWriting活動を行うことができるか、ということについて発展させることで自分から積極的に英語で自己表現できる生徒が育つであろうと考える。そして、最後は自己表現につながる授業を作り出し、最後は「使えると実感できる英語の授業づくり」をめざしていきたいと強く決意している。