2001624()

31回中部地区英語教育学会愛知大会

課題別研究プロジェクト: インターネット利用による自作教材共通利用システムの開発

学習者参加型のweb page を活用した英語writing指導

鈴鹿工業高等専門学校

三 上 明 洋

mikami@genl.suzuka-ct.ac.jp

1 はじめに

 

近年、インターネットの急速な普及により、英語を読み、書くことの必要性がますます高まっている。平成131月に発表された「英語指導方法等改善の推進に関する懇談会」による最終報告書では、我が国における英語指導方法を見直し、その具体的な改善策とともに、今後の英語教育のあり方が示されているが、そこには「単にオーラルコミュニケーションだけでなく、インターネットや電子メール等の利用のために必要な読解・作文能力などを含んだ英語力」こそ国民全体に求められるものであると明記されている。これは、1989(平成元)年3月に告示された現行高等学校学習指導要領に「オーラル・コミュニケーションA」「オーラル・コミュニケーションB」「オーラル・コミュニケーションC」の3科目が新しく設置されて以来、オーラル・コミュニケーション能力の育成のみが強調される一方で、文字によるコミュニケーション能力の育成が軽視されがちな現在の中学・高校の英語教育現場に改めて見直しを求めるものではないだろうか。英語を聞くこと・話すことの指導の充実がなされること自体は、もちろん歓迎すべきことではあるが、文字によるコミュニケーション能力の育成がおろそかにされることがないよう十分な配慮が必要であろう。

 

2 コミュニケーションとしてのwriting指導

2.1 writing指導の現状とそのあり方

writinngの学習形態は、大きく2つに分けられる。service activityとしてのwritingとコミュニケーションのためのwritingである。service activityとは、Paulston(1972)が使用した用語であるが、ある内容を表現し伝達するという文字によるコミュニケーション自体にその目的があるのではなく、学習した文法事項の定着を図ったり、readingにおける内容理解度を確認するためにその要約文を書かせたりする活動などである。また、語彙や文法・文構造に関する知識を問うことが中心になる和文英訳もservice activityの一種と考えられる。日本の英語教育の現状を考えた場合、writingの学習あるいは指導は、このようなservice activityの段階にとどまっており、書きことばによって自分の意見や考えを表現したり、あるいは互いに意見交換を行ったりというコミュニケーションとしてのwriting活動は圧倒的に少ないと思われる。垣田(198520)は、「ライテイングには他の技能の学習に奉仕する面だけでなく、書き言葉による表現・伝達という独自の領域が存在しており、これまではどちらかというとservice activityの面が強調されすぎて、この面がおろそかにされてきたきらいがある」とその指導上の問題点を指摘し、書き言葉による伝達・表現に重きをおいたcomposition指導の基本的なあり方や位置づけを示してくれている。

また、Widdowson(1978115)は、

The point of such exercises is not to get learners to make statements in writing which have some communicative purpose but to get them to manifest their knowledge of the working of the system of the language. They are, in other words, exercises in usage.

と、言語に関する知識を身に付けていることとその知識を活用してコミュニケーションを図れるようになることとを区別し、自己表現の手段としてのwriting力の育成という観点から見ると、言語用法の練習だけでは不十分であると述べている。

 結局、我々英語教員は、writing指導において、service activityとしてのwritingをコミュニケーションのためのwritingへいかに発展させていくのかに細心の注意をはらわなければならないと言える。そこで、あるテーマに沿って自分の考えを深め、自分の意見や感情を効率よくまとまりのある英文で表現し何とかそれを相手に伝えようとするコミュニケーションとしてのwriting活動への積極的な取り組みを行っていく必要がある。

コミュニケーションのためのwriting指導というと、量重視あるいは質重視の2つの原理があり、よく議論されるところである。しかし、これまで、この2つの指導法のうちのどちらか一方の有効性を明確に述べた研究結果はみられず、これは、学習者にwritingfluency accuracyのどちらを求めるのかという問題とも直結しており、二者択一に論じられる性質のものでもないが、すでに指摘したようにコミュニケーションとしてのwritingの機会が絶対的に不足している我が国の英語教育の現状を考えると、とにかく、学習者が書きことばで自分の考えなどを表現する機会をできるだけ多く与え、そのなかで必要に応じて質を高めていく指導を取り入れていくことが適切であると考える。そのためには、まず英語で自分の考えを書くことに慣れさせ、学習者の嫌悪感・抵抗感をできるだけ低くすると同時に、英語で表現したいという意欲を高めるための方策・工夫が必要である。

 

2.2 コミュニケーションとしてのwritingの学習到達目標

 

1 英語の文法・語法上の細かい誤りなどを気にせず、自分の伝えたい内容をある程度まとまった

 量の英文で書くことができる。

2 興味・関心のあるテーマに関して、パラグラフの構成に関する知識を活用して自分の考えなど

 を整理して書くことができる。

3 興味・関心のあるテーマに関して、英語(書きことば)で意見交換をすることができる。

4 積極的に英語(書きことば)でコミュニケーションを図ろうとすることができる。

 

3 プロジェクト参加のきっかけ

 3.1 インターネットを活用した「発信」「交流」活動の難しさとwriting指導の難しさ

 

インターネットを活用したwriting指導では、目的・内容・方法などに応じた「発信」「交流」相手探しとその相手とさまざまな細かい調整をしながら活動を継続していくことの難しさだけでなく、教師あるいは学習者のwriting指導・学習への抵抗感やその困難さなどからなかなかその実践が継続せず、期待通りの効果をあげられないのが現状である。

 

3.2 プロジェクト参加

 

上記のようなインターネットを活用した英語による「発信」「交流」活動の実施やwriting指導

に伴う問題点をどのように解決していくかを考えているときに、英語教育関係のメーリングリストで目にしたのがTeachers’ Internet Milestones 編集者主催によるプロジェクト「若人の主張 in English( http://www.hamajima.co.jp/syucho/ )への参加校募集である。上記webページで公開されているその趣旨と内容に関する説明は、次の通りである。

 

趣旨:(省略)英語による自己表現の機会を与えると同時に、他の学校の生徒が書いた英文を読むことにより、「伝えるために表現する喜び」「他者の考えを知り、それに応答する喜び」を実感できる活動の場をウェッブ上で提供したいと考えた。

 内容:中学生・高校生の英語による意見発表・交流の場として、英作文を公開し互いにコメントを寄せ合うウェッブページを作る。参加団体の生徒は、中学・高校別に与えられた課題を英文で書き、担当教員がこのページに発表する。また、他の参加者の英文を読み、それにコメントを寄せることができる。  (上記webページより引用)

 

これまで述べてきた英語writing指導の現状を踏まえて、その改善策として、この学習者参加型のweb pageを活用し、学生が嫌悪感を示しやすい「書くこと」への動機付けを高め、まとまりのある英文で身近な出来事や感動的な経験・体験あるいは趣味など自分の興味・関心ある話題について英語で書いて表現する機会をできるだけ多く提供したいと考えた。

 

4 授業実践

 

1 期間: 200010-12月、週1回90分授業のうち本活動に毎回20-45分間をあてた

(合計4回)。

2 対象: 鈴鹿工業高等専門学校 2年生3クラス(合計127名)

3 テーマ: 「学校行事(北海道研修旅行)」

4 活動内容: 学習者参加型の上記webページへ学生の作品を投稿することを目標に、「学校行事(北

海道研修旅行)」をテーマとして、英語でその感想をまとめさせる。

5 指導の流れ:

10月第2週 研修旅行出発前:  (a) プロジェクト趣旨・内容説明

(b) 作品完成までの手順、書き方、評価方法などの説明

(c) 作品例の紹介

(d) トピックの絞込み

       (課題)旅行後の初回の授業までに、旅行について制限時間2分間で思いつく 

とを出来るだけ多く日本語で書き出してくる(Brain storming)

     第3週 研修旅行: 20001017日(火)―20日(金)

   第4週 旅行後1回目授業:(a)Brain storming の結果から作文にまとめやすいトピック

を1つ選び出させる。

                 (b)The first draft作成・提出

指定された語数(50words)以上で自分の考えなどをとにか

く書いてみる

  11月第2週 旅行後2回目授業: (a)The first draftの教師による点検

理解できない部分、誤解の生じる部分などコミュニケーショ

ンに支障が生じると思われる部分に赤線を引き返却。

                                  パラグラフの構成・展開・主題の統一性について説明

(b)The second draft作成・提出

                 返却された作品の赤線部分を中心に訂正、あるいは再度自分で読み直して書き変えたい部分を訂正、不足している部分を書き加える。さらに、パラグラフの構成等を意識しながらThe first draftを書き変える

  11月第3週 旅行後3回目授業: (a) The second draftの教師による点検

前回のアドバイスを参考に学生が書き変えた作品に再度目

を通し、不十分な点に赤線を引き返却。

(b) The final draft完成・提出

最終的に自分がどうしても伝えたい内容を整理して書く。

        (課題)指定された期日までに、The final draftをメールにて教師に提出する。

1221日 「若人の主張 in English」へ作品投稿

提出された作品の中から優秀作品を各クラス5名分(合計15名分)を選び、上記web

ページへ投稿する。

(その際、学生本人から必ずインターネットによる公開許可をとる)

 

6 指導のポイント

 

1旅行前に、「若人の主張 in English」趣旨・内容説明を十分に行い、作品完成までの手順、英文

の書き方、評価方法などを示した。

2 すでに上記webページに掲載されている学生作品を作品例として紹介した。

3「全国の高校・高専生」を対象に、自分の考えなどを伝えるつもりで英文を書くよう指示を行っ

た。

4 言語形式より表現される内容を重視し、トピックの絞り込み方法についての指導を行った。

5 はじめは間違いを恐れずとにかく書いてみるよう指示をし、学生の書くことへの嫌悪感・抵抗感

を少しでも和らげるよう配慮した。

6 教師による英文の点検は、表現したい内容が全くあるいはほとんど伝わらないあるいは誤解が生

じる可能性がある部分のみ指摘をするにとどめた。また、読み手として、表現があいまいで疑問

に思ったり、もっと知りたいと思ったりする部分がある場合にはそれらを加えるようアドバイス

を行った。

7自分の考えや感情を読み手に効率よく伝えるための手段として、パラグラフの基礎的な知識を与

えた。→パラグラフの構成(topic sentence, supporting sentences)、展開(Introduction, Body,

Conclusion)、主題の統一性(unity (詳しくは橋内、1995参照)

8その後、パラグラフの構成・展開・主題の統一性という観点から、各自に自分の作品を見直しを

させ、必要な部分の書き直しをさせた。

 9 単文の羅列ではなく、1つ1つの英文間に内容のつながりをもたせて書くよう心がけさせた。

10コメント、コメントのコメントへと参加校間の交流をつなげていけるよう工夫した。

 11 自分の作品をインターネット上で公開することへの責任の重さを解説した。

 12 著作権・個人情報の保護・ネチケットについて簡単に触れた。

13 まず教師が学生の著作権を大切・慎重に扱う姿勢をみせ、よい手本となるよう心がけた。各学

生に公開の意思を必ず確認した。

 

7 学習者参加型web page 活用の効果

 

 まず、学習者参加型のwebページを活用することによって、読み手の存在を明確に示し、自分の書いた作品が教室あるいは学校の枠を越えてより多くの人々への意見発表あるいは意見交換を実現させ、相手に書きことばで自分の考えなどを「伝えたい」という学生の意欲を高めることができた。しかも、読み手は、全国の高校(高専)生であり、自分の書いた作品が同年代の学生たちの目に触れるだけでなく、彼らから自分宛にコメントが送られてくることも期待できるとなると学生の動機付けとしては十分でり、同時に「書くこと」への抵抗感を和らげる効果もあったと考えられる。各クラス優秀な作品5名分を選び「主張」のページに掲載されるというのを授業で発表すると選ばれた学生たちは非常に得意げに喜んでいた。ここからも「若人の主張」への作品掲載が今回の活動の大きな原動力となっていたことが伺える。

また、英語によるコミュニケーションとしてのwritingの機会を学生に与えることができた。学生は、研修旅行中の出来事やその時の気持ちなどを何とか表現したいと必死になっており、今でも真剣に作品作成に取り組むその姿が私の目に焼き付いている。もはや、それは、単なるservice activityではなく、内容を重視したコミュニケーション活動と言えるものとなった。

さらに、自分の身近な話題について書いた作品が日本全国あるいは世界の人々への立派な情報発信となると、学生には、読み手の存在を意識させると同時に、書き手としての自己の責任を強く感じさせることができた。

教師として、学生が書いた英語に目を通すことによって、そこに存在する多くの問題点に気づかされた。初歩的な単語つづりの間違え、文法・語法上の細かい誤り、主語と動詞がはっきりせず全く意味の通じない文などに加えて、単なる英文の羅列であり、1つ1つの英文間の内容の関連性が全く考えられていない、言い換えれば、主題の統一性が完全に崩れている文章がほとんどであった。その他、指定された語数を埋めることだけが目的となり、話題の展開が不十分あるいは結論がなく英文が完結していない印象を与える文章が非常に多く見られ、パラグラフの構成・展開などを考えながら自分の伝えたいことを整理して書くことに苦労している学生が多くいることに改めて気づかされた。まさに、service activityとしてのwritingにとどまっていたこれまでの指導を見直すよい機会となった。

そこで、パラグラフの構成・展開・主題の統一性についての指導を取り入れることとなり、「まとまった量の英語をとにかく書く」という指導から「効果的に自分の考え・意見を英語で表現する指導」へと指導の変化が見られた。これは、量重視の指導から質重視の指導への発展とも言える。

 それによって、学生は、パラグラフの構成・展開・主題の統一性に関する知識を活かし、自分の作品を読み直して書き変える作業を行い、自分の考えなどを整理して書くことに意識を向けることができるようになった。しかし、この点に関しては、さらに継続した指導が必要であろう。

その他、ネチケット、個人情報の保護、著作権問題などに簡単に触れ、インターネット活用の危険性などについて考えさせることができた。そして、学生の研修旅行の思い出、感想などを教師が知ることができ、貴重な体験を共有し、学生と教員との交流を深める効果もあった。さらに、日常あるいは学校生活上の身近な出来事と英語授業内の活動を結びつけることができ、学生の感想からは研修旅行の思い出が1つ増えた、楽しかった研修旅行をもう一度思い出すことができたなど、より英語を身近に感じさせることができたのではないか。

 

  

8 学生の作品紹介  若人の主張 in English / 高校生の主張 / 学校行事 /

                  http://www.hamajima.co.jp/syucho/senior/schoolevent/ 参照

                       (20001221日投稿文:全15)

 

9 学生の感想から

 

1 この作品を作成してよかったと思いますか?

(はい 87:いいえ 35、無回答・欠席5名)

     理由:(肯定)まとまった英語を書く機会はめったにないからよい勉強になった。

           辞書をつかって、単語の勉強になった。

           文法の復習ができた。/ パラグラフについて学べた。

    書く力がついた。/ パソコンやインターネットが使えた。

           英語でコミュニケーションをとることの難しさがわかった。

           自信がついた

        (否定)とにかく作文が嫌い / テスト期間と重なって大変だった

            コンピュータ・インターネットの操作が面倒だった

    →本活動に満足している学生が圧倒的に多い。しかし、その一方で、学生の書くことへの嫌

悪感をぬぐいきれていない、コンピュータ操作のよりきめ細かな指導の必要性など改善す

べき点が浮かび上がってきた。

2 自分の言いたい内容をうまく表現できたと思いますか?

(はい 42:いいえ 77、無回答・欠席8名)

     理由:(肯定)何とか自分の言いたいことがまとめられた 

         1つのトピックについて、内容を膨らませて表現できた

     (否定)もっと深く細かいところまで表現したかった

         自分が知っている範囲の英語しか使えなかった

 →否定的な答えが多いものの、その理由は、英語でもっとうまく表現したいのにそれができ

なかった、新しい英語表現を使用した作品に仕上げたかったなど、「書く」意欲の高まりを

示していることがわかる

 

10 今後の課題

 

1 コミュニケーションのために英文を書く機会はまだ不十分。より頻繁に行う必要あり 

→コメント投稿の活用。

 2 必要に応じて、さらにパラグラフの構成・展開の指導をもっと積極的・体系的に行っていき

たい → パラグラフライテイング、プロセスライテイングの指導など

 3 プロジェクト参加校を中心とした学校間交流のさらなる充実 

4 さらなる情報倫理教育の必要性 web pageを活用した情報倫理教育の実践研究必要。

 

5 まとめ

 

このように学習者参加型のwebページを積極的に活用することにより、インターネットの双方向性を最大限活用して、学生の英語による「発信」「交流」へとその活動を発展させていくべきである。その際、我々英語教師には、そのwebページに関する活動を中心に据え、それに関連する活動をいかに量的にそして質的にも充実させていくことができるのかという観点から常に自分自身の実践を振り返ることが求められているのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

参考資料:

1 新プロジェクト紹介

「若者メッセージin English 2001 http://www.hamajima.co.jp/syucho2/

     昨年度よりテーマの数を増やし、画像を添付できるシステムを構築

さらに交流を広げていきたい。是非、プロジェクトに参加を。

随時参加校受け付け中。

 

2 参加校教員MLの役割: 教師の意見交換の場、新しいテーマの提案、指導法報告、

技術的な質問、細かい調整、諸連絡など

 (例)2000年9月 MLにて新テーマ(学校行事)追加を提案→その後すぐに提案了承

       10月 HP上に新テーマ追加。

 

 

参考文献:

 

橋内 武 1995. 『パラグラフ・ライテイング入門』 東京:研究社

垣田 直巳(監修) 1985. 『英語のライテイング 』 東京:大修館書店

文部省 1989.  『高等学校学習指導要領解説 外国語編 英語編』 東京:教育出版

Paulston, C. B.  1972.  “Teaching Writing in the ESOL Classroom: Techniques of Controlled

Composition.” TESOL Q, 6, 1, Mar., pp.33-59 

Widdowson, H.G. 1978. Teaching Language as Communication. Oxford: Oxford University

Press. [東後勝明/西出公之(訳) 1991. 『コミュニケーションのための言語教

育』 東京:研究者]

 

参考webページ:

 

文部科学省 『英語指導方法等改善の推進に関する懇談会』報告

          http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/13/01/010110a.htm

Teachers’ Internet Milestones 編集者主催

(代表:谷口朗、四天王寺高等学校・中学校;犬塚章夫、刈谷市立刈谷東中学校)

『若人の主張 in English( http://www.hamajima.co.jp/syucho/

『若者メッセージin English 2001 http://www.hamajima.co.jp/syucho2/