Happy Together!〜羊師弟の恋愛指南あるいは至難〜vol.3/final
「.........何年待ったと思う、243年だぞ?」 「あやつを意識するまえは、若気のいたりでお互い派手に遊んでおったわ!言っておくがな、おまえたち!童虎もあ〜んな顔して、おなごにモテまくりの泣かせまくりだったんじゃぞ!」 「何事も極めて悟る!!!常識だが、悟りの結果はどうじゃ?あああ、よりによって童虎が一番愛しいとはっ!!!」 「しかし、あやつは、おしべはめしべと合体するのが摂理とばかり...うぅっ。あの農業青年ぶりが災いして、抱き締めるならば百日戦争、接吻をせまれば千日戦争!」 「ふたりだけで生き残り、たっぷり時間をかけて分かり合えると思えば、教皇職か監視係か究極の選択、おかげで243年も単身赴任!」 「ぴちぴちの若さで復活して、これから我が世の春を謳歌しようにも、あやつはなぁんにも変わっとらん!ますます健康優良児ぶりに磨きがかかっておる!」 「儂とて相手に不自由せんわ!じゃが、好き合ってる最中に、あやつ以外の者に手を出したことがバレでもしたら!!!ああっ、死んでも死にきれん!!!」 「せめて、せめて、夜のしとねを一緒できたら...些細な願いではないのか?男のロマンじゃ、なにがいかんのだ???」 「おかげで、右手が腱鞘炎になってるのだぞ!!!もう、我慢できんわっ!!!!!」 「童虎〜〜〜、帰ってきてくれ〜〜〜〜〜っ!!!!!」 ---どこでどう性格が変わったのだろうか?幼い頃の記憶そのまま、威厳に満ちた師を返してほしい。 ゆらりと燃え上がる小宇宙は無敵の強さを誇るが、こっ恥ずかしい内容を真剣に絶叫するのが自分の師だと思うと、本当に頭が痛くなるムウだった。 そこに、小さな声が。赤裸々な叫びに困惑気味だが、おそらくは内容よりも、せっぱ詰まった気持ちに感応したのだろう。紫龍が、おずおずとシオンに向き直る。 「...あの、シオン様...」 「なんじゃ、ドラゴン。言うてみよ」 「はい。あの、老師のことなんですけど...」 誰より愛する童虎の愛弟子は、弟子が誰より愛する人物で、弟子の弟子までなついているとくれば、自分はどうすればいいんだろう。 シオンは、このとき初めて紫龍自身と向き合った気がした。真っ直ぐな瞳が印象的だ。 「このまえ、俺の誕生日に、老師がお話しくださったんです。 今だから言えるけど、神々の仮死の法を受けて、肉体的には1年が1日だった。でも、精神的にはやっぱり1年は1年で。 13年前にムウが、6年前に俺が老師の元をおとずれるまでは、本当に長かったって。 もうすぐ老師の誕生日ですけど、1年に1歳、確実に年を取ることを、とても楽しみにされてるんです。 だから俺、思うんですけど。会話も食事も睡眠も労働や、その...恋愛...とか、そんな当たり前のことが、老師にはすごく意味があって。 長い間、自分の思うよう動けずに出来なかったことを、ひとつひとつ大切にしていきたいんじゃないかなって」 辞書や教科書のように型にはまった堅い発言は得意なのに。 誕生日の夜、月が誘うからと。ムウが先導し酔客が席を外したのは、師弟ふたりきりの時間を取らせるためだったと、あとで気がついた。 師の落ち着いた話しぶりには、内容にふさわしいはずの悲嘆の色はなく、温かさと希望に満ちていて。 そのとき確かに感じたことなのに、言葉にするのが、ひどくもどかしい。 「ごめんなさい、上手く言えなくて。あの、俺が言うのもなんですけど、老師はすごくあなたのこと思ってらっしゃるし。 えっと、だから、その......とりあえず、手をつなぐところから始めてみるとか!」 手をつなぐ???...3人の頭の上を、もこもこで、ふわふわの羊がのんびり渡っていく。間。 ---ベッドイン、お手手つないで、チーパッパ? ---これは、意外や意外、勝負ありか...紫龍、あなたって人は... ---うわー、バカだ、俺!なに言ってんだろうっ! 三者三様の思考の上を、ほこほこ羊が1匹、2匹、3匹.........8匹目の通行を阻んだのは、 「し〜りゅうぅ〜〜〜っ!」 白羊宮へつづく階段を駈けのぼる、はずんだ貴鬼の声だった。一緒に出かけたのだ、あとに童虎も続くはず。 いまさらながらどういう体勢か思い出した紫龍は、顔から火が出るのと同時に慌てて立ち上がり、素早く身繕いを確認する。この際、頬の熱さは日差しのせいにするしかない。 両手に買い物袋を提げ、ぴょこんぴょこんと跳ねるようにして貴鬼があらわれた。 「シオン様、ムウ様、ただいま帰りました!紫龍、コレ、おいらと老師からのおみやげv」 「おかえり、貴鬼。ありがとう、一体なんだろう?」 子供は子供同士、仲良くやっている。母と子にさえ見えてくる。微笑ましいやりとりを見守るムウも、一家の主のようで強く優しく誇らしげだ。 弟子を変えたのは、この子供か。世間知らずだが一生懸命で。 ---よりによって、この儂に、童虎と手をつなげと...? シオンは可笑しくなってきた。まったく可笑しい、愉快だ。腹の底からこみあげてくるものは、胸に達して熱くなった。それも悪くない。 立場上、しかめっ面らしいものを作ると、咳払いをして立ち上がる。 「まぁ、ムウ、あれじゃ。すっかり可愛くないおまえには、ああいうのが丁度いいのかもしれんな」 なにも知らないようで、誰も知らない答を持っている。 シオンも気づいたのだ。 ムウが、閉ざされた部分を引き出し、足りないパーツを埋めることができる唯一の人を見つけたことに。また、互いにそうであることに。 言い方こそ素っ気ないが、十分すぎる言葉には微笑みで返し、次の行動を見越して、声をかけた。 「おや、どこへ行かれるんですか?」 「せっかくの教えだ。ちょっと右手を温めに、な」 「いってらっしゃいまし。どうぞごゆっくり...」 紫龍が料理を温め直したころ、腱鞘炎の右手は、温もりとカタチを感じながら戻ってきた。ひどく幸せそうだった。 さあ、食事の再開だ。 童虎の誕生日の宴を、皆でにぎやかに案を出し合って開放的に語らいながら、大いに食べ、盛り上がり。 気がつけば聖域に住むメンバーがぞくぞくと参加し、出身地の郷土料理や、まぼろしの酒を振る舞う者まであらわれ、さながら前祝いのようになる。宴は深夜まで続いた。 ときどき、テーブルの下で、厚く長い手が、少しだけ丸みを帯びた厚い手を握っていたことを知る者は、あまりいない。 243年に渡るプラトニックラブの行き着く先は.........きっと、Happy!! |
→Happy Together!/the end
2005 OCTOBER
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アホ感!は、ムウ紫龍の流れからするとシオン童虎。
気分転換に書いた「参宿-Orion-」サイドストーリーでした。
天秤座期間中に少しは誕生日を祝えた...かな?
おバカ話です、イージーに受け取ってくださいまっせ。
師匠ズは図らずも未だ関係もたず(もてず?)ですが、弟子たちは、といいますと。
オマケ
↓
+++
「手をつなぐところから始めよう...なんて、いまさら言いませんよね?」
「えっ!?...っと、ムウはどうしたい?」
「赤くなったリンゴを食べたい、かな。食べ頃のようですし」
「また、そういうことを...やっぱりシオン様みたいに、ムウも極めたりしたのかなぁ...」
「ボソボソ言っても、ちゃんと聞こえてますよ。そんなに気になる?知りたい?」
「............」
「おまえは可愛いね。じゃあ、答をひとつ。おまえだけを極めたいと、いつも思ってるよ」
「...!...やっぱり、手をつなぐところからお願いします」
「ふふ、もう遅い。宴は抜けだしましょう、お望みどおり、手をつないで」
「もう、ムウってば...!......っ......ぅんっ...........そのかわり、手を...離さないでくださいね」
+++
結局、アホ感!はムウしぃLOVEですv