鳴り止まない拍手が耳の奥でこだましていた。
思いきり踏み込んだアクセルに高鳴るエンジン音。身体が重力に引っ張られても、心は深い海の底にいて。甘く澄んだメロディに酔っている。
いつものことだけど、みちるの奏でるヴァイオリンの音色は深い余韻を残して消えない。さざ波のような感動に癒され、ゆったりと包まれる。
そんな感じがするんだ。
助手席で眠りにつく美しい顔を、高速のライトが照らしては沈ませるのを愛しく見つめて、僕はCDのスタートボタンを押した。
流れるのは、愛のメロディ『Mon amour, c'est bien』今回のリサイタル用にと、みちるが書き下ろした曲だった。
「あなたが、好きよ。とても」
もっと聞いていたい告白。
「あなたのことを考えて浮かんだメロディが一番好き、だから捧げるわ。百万人よりも、あなたひとりにだけ、このメロディを」
そう言って、美しく微笑むみちるの顔に手を伸ばし、そっと抱き寄せたまどろみの午後。
あきるほど愛の言葉を囁き、互いを激しく貪りあったとしても、いつも心だけは子供のように純粋に君を求めてやまない。
掌が熱くなるまで相手を求め待ち続ける、そう、まるで鳴り止まない拍手みたいにずっと君のメロディに包まれていたい。
だけど君よりも僕が「Mon amour, c'est bien」。
「狂おしいほど愛している」と知っていた?
知らないフリをするなら伝えたい。
君が夢から醒めたとき、あふれる愛のメロディを口唇にのせながら---
Mon amour, c'est bien.
(2001OCTOBER)
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