277.手と手





思えば、あなたでなくても良かった。

どんなに恋い焦がれても、会えなくて会えなくて会えなくて。

会いたくて、ただ、願うだけのひと。ただ、祈るだけのひと。

どれだけ求めても、望んでも、触れあうことのない、手と手。

凍える手には、剣。

凍える手には、鏡。

無限に、無慈悲な、宇宙の広がり。乾き色あせた前世のビジョンは、いまも哀しさだけが増していく。



だから、あなたでなくても良かった。



この時代にふたたび戦士として生まれ変わった、その意味を悟っても。

ただのひととして、世界に愛される自分がいるから。

あなたでなくても、愛してくれるひとたちがいるの。

わたしはそれを知っている。手放したくはない、無償に注がれる愛情。



だから、あなたでなくても良いと。そう、思っていたのに。



いつの日からか見始めた破滅のビジョンに、心を裂かれた。

助けを求めるように伸ばした手の先には、いつも、あなたがいた。間違えるはずのない、そのシルエット。



この手は。あなたを望んでる。あなたの手しか、つかめない。



差し伸べたこの手を、あなたが気づいて、そして、掴んでくれるなら。

この世界を救うより、あなたの未来を守るために戦おうと決めていた。



キャンパスに筆を走らすより、ヴァイオリンを奏でるより。

戦うために、この手を差し出そう。





『......沈黙が迫ってる。早くメシアを探さなきゃ......』


幼い頃から目指した、夢をつむぐはずの両手が折れても後悔はしない。

迷ったけれど、わたし自身が選んだ道だから、決して逃げたりしない。


『それができるのは、わたしと...』


輝く月の意思に背いても。

あなたと共にいられるのならば、罰でさえ、甘んじて受けたいと思う。


『...あなた』


たとえ、この手が、もがれても。

もう一度、あなたに触れたい。





277.手と手/20070520
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