236.カモフラージュ





俺らは"幼馴染み"をカモフラージュに。

愛かもしれん、恋にはなれへん。

ぬくい関係に浸かってる。





いらんもんはいらん依頼代を返しついでに、あっちゅー間に事件を解決した。

帰ろか思たら、過去の事件や近所の事件やいうて数日駆り出され。
帰れる思たら、バイクがガス欠するわで、さらに数日遅なって。

髪切る予定が延びてもて、前髪がうっといし、襟足はこそばい。
この、ややこい髪のクセを知ってる人物に、軽くハサミを入れてもらおうと。
やっとこさ見慣れた街に帰り着き、制服に着替えるために家に寄り(正直、オカンがおらんで助かった)、そのまんま1週間ぶりの学校へ。

そんなとき。なんや勘狂うことが多い。

「平次!おかえり〜v」

なんて、和葉の声や笑顔を期待してるわけやのうて、まぁ、なんちゅーか。
昼休み入ったとこやし、アイツの弁当の卵焼きを食うてから学食行こいうんを口実に、おりそうな場所を目指す間にも。
なんでか皆が、

「服部!もう帰ってきたんか!」
「げっ、平次!早いお帰りで...」

こそこそと「もちょっとかかる思てんけどなぁ」「困んなぁ」なんて、ぼやいとる。

--- どういうことやねん、聞こえてるっちゅうねん。
---オマエら、俺が帰る日ィの賭けでもしてんのか???

そう言お思たときに
教室のドアから、ポニテがぴょこん。効果音つきで現れた気がしたのは、気のせいかもしれんけど。

「平次!おかえり〜v」

やっと聞こえた、鈴のように高い声。

やっぱ、ホッとする。
この声で、オレの日常が帰ってくる。

「おぅ、帰ったわ」

オレをリセットできる唯一のオンナは、首を傾げながら近づいてきて、ただでさえデカイ目をネコのように開け、いわく。

「なんか、髪、伸びたなぁ。アタシ切ろか?」
「メシ食ったあとで頼むわ」

---こういうとこが、エエ。

「卵焼き、食べる?」
「食う」

---こういうんも、エエなぁ。

昼休み独特の浮ついた教室の空気ン中。
皆に「おかえり」や「昼から体育やで」なんぞ声をかけられ、それぞれに答えながら。
行儀悪く立ったまんまで、弁当から卵焼きをつまんで、俺は俺で、さりげなさを装って、このオンナを誘てみる。

「オバハンが顔見せぇてうるさいやろうから、今日来るやろ?」
「アタシ、きのうオバチャンと買い物行ったよ。服、選んでもろてん、めっちゃカワイイねんでv」
「...さよけ」

オレがおってもおらんでも、オバハンの和葉贔屓は変わらんようで。

「週末、バイク出すし、どっか行きたいとこあるか?」
「えっ、めっちゃ嬉しい!あ、けどゴメン。野球部の練習試合、頼まれて応援しに行くねん。スゴイで相手。ほら、稲尾クンの学校やって!気合い入るわぁv」

野〜球部〜〜〜〜〜っ!!!なに勝手に、かこつけとるんじゃ。稲尾やと。顔にピッチャーライナー当てて、へこましてまえ。

「......終わっても夕方やろ」
「そやねん、土曜やん?蘭ちゃんと園子ちゃん来るいうから、そのままUSJ行く約束してんねん。ごっつ楽しみやわぁvもう、フリーパスも買うてんで!」
「......そら良かったな」

意識せんでも機嫌の悪い声やったのに、目の前で機嫌よぉ喋れるんは、なんでや。

「んで、アタシん家でお泊まりしてな、日曜は浴衣着て京都行くねん。いろいろ安なんねんて!エエやろvそうそう、沖田クンの練習ものぞこかな、思て」
「なんでそこで沖田の名前が出てくんねん!」
「"練習見に来てな〜"って誘われたて、平次が出かけるときに言うたやん。聞いてへんかったん?」

行くなてクギ刺したつもりで、右から左に受け流してました。

「それにな、沖田クンには悪いねんけど、視察のつもりやで。剣道の試合も近いし...って、平次、まさか忘れてるんとちゃう?」

まさかもまさか。日にち感覚がくるうて、ちょっぴり忘れてました。

「その顔、忘れてたやろ。もぉ、ちゃんとしぃよ!アタシ、今日は野球観に行くから、練習ガンバッテなv」

ちょっと待て、ちょっと待て、ちょっと待たんかいっ!!!

「オマエ、なんでそんな予定詰めとんねん!!」
「なんでて......皆が誘ってくれるから。今日のは大滝さんと行くから、帰り、心配せんでエエよ」
「誰が心配なんかするか、ボケ!なんや、ほしたらなんや!誘ったらオマエはいつでもどこでもホイホイ出かけて、ついて行くんか?」
「なに怒ってんの?野球行きたかったん?そやけど平次、おらへんかったんからしゃーないやん。エヘ、チケット見る?ほら、甲子園の阪神戦やでv」
「オマ、オマエッ...!!!」

魂の叫び。かぁずはっっっ!!!!!





「アイツらふたり揃たら、オレらの日常全開って感じやな」
「遠山の天然も全開やで、完全にピントずれとる」
「あれは、ちょぉ平次も可哀想やな」
「可哀想なんはアタシらやで。週明けに和葉誘てんのに、服部あんなやったら、一緒行かれへんわ」
「部活の応援、手伝い。服部おらん間に誘たぶん、ぜんぶヤバイな」
「勝手に飛び出していくクセに、自分はタナアゲ野郎やんなぁ」
「ホンマにな」

口ゲンカか夫婦漫才を食後の余興とばかり。
毎度見慣れたクラスメートから、おもしろおかしく、ひそかに囁かれている言葉があることを、西の高校生探偵は知らない。

「服部、出席日数足りななって、留年したらオモロイのになぁ」
「それ絶対、オモロイ!」

ただの"幼馴染み"というには、独占欲で干渉しすぎる色黒オトコをデザートのアテ(?)に、ひとときを楽しむ悪友たちだった。





分かってる。"幼馴染み"いうんやったら、その意味を。とっくに超えてもおてるって、分かってる。





せやけど、臆病な俺は。

"幼馴染み"をカモフラージュに。

今日も今日とて進歩のない、ぬくい関係に浸かってる。





236.カモフラージュ/20070617
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