173.三色限定
水を得た魚のように、きらびやかなディスプレイの間を行く君。
その手には、小さな紙袋。
右へ左へ揺れる、美しい光沢の中に、三色限定の口紅があるのを、僕は知っている。
みちるの姿を追いかけながら、すれ違う女の子達を眺めて思う。
恋する女の子は可愛らしい。
好きな相手のために努力する姿は、それだけでもう、魅力的。
恋は魔法。
メイクに洋服、掃除、炊事、洗濯。
あれもこれも、身につけたくなる。
それもこれも、試してみたくなる。
自信をもって、好きというため?
振り向いてほしい、振り向かせたい。
守って攻めて、恋に弾けるその姿。
その恋、実ればイイね。応援してるから。
大丈夫、君たちはずいぶん綺麗になった。
実らなくても、つぎに繋がればイイよね。
だって、君たちは、きのうより、可愛い。
恋は秘薬の美容液。
つけた途端に分かる効果。
見違えるような肌。
手触りが変わる髪。
街中のウィンドウが、君たちの変化を映す鏡になるんだね。
---鏡よ鏡、世界で一番きれいなのは...?
なんて聞く柄じゃないけど、それはきっと、世界で一番ステキな恋をしているひと。それは---
限定色にふちどられた潤い濡れた唇が、僕の名を呼んだ。
「はるか」
ストップモーションのようで、釘付けになる、その笑顔。
ああ、皆が君を見ている。
その美しさに感動している。
隠しきれない、あふれる美しさよ。
ダメだ。
きみは綺麗だ。
恋する女の子。大好き。君を愛してる。
なにもしなくても誰よりも美しい君なのに。
それ以上綺麗になって、どうするの?
誰をつなぎ止めるためのメイクなの?
だって、僕はこんなにまで君に夢中。
ね、僕のためになら、それ以上、綺麗になんてならないで。
贅沢な、悩み。
173.三色限定/20071018
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