彼女は、時代も距離も遠く隔たった。その惑星にすでにない"彼女"と話しているように見えた。





103.声





変身を解かず、心奪われたかのように夜空を見上げる後ろ姿。

今宵、街の隅をも照らし出すほど明るい光を放つ、丸く満ちた天体に呼ばれたわけじゃないことは、すぐに分かった。

地球に同じ面しか見せないあの月は、今も昔も守るべきもので、僕たちが還る場所ではないからだ。



彼女が見つめるのは、肉眼で見える星じゃない。

遠く、遠く、なお遠い、深海の星。

そうして"彼女"もまた同じように、星々が浮かぶ宇宙を飽かず見つめていたことは、想像に難くなかった。



異なるのは、月明かりも届かぬ星で。

たったひとり。

誰かの声すら、聞くこともない星で。



不意に、耳に、君の声。

「ウラヌス、わたしの名を呼んで」



度を過ぎた哀しみは、美しさと酷似している。

彼女が美しいのは、哀しみを秘めて生まれてきたからだ。



「"わたし"を呼んで」



何度生まれ変わっても、君のために、その名を呼ぼう。

あの星で動けなかった、海の女神のために。

いまも息づく、哀しく美しき海の星へ。

声なら、いまにでも、そう。

「ネプチューン」

届けばいい。

この声が。

君に。










103.声/20070704
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