−−前書き−−一般種でなじみの深い水草の一つに「ブリクサ・ショートリーフ」と言うのがあります。少しでも水草をかじったことのある方ならよく分かる名前の一つでしょう。 そのほかにも「ブリクサ」と頭に名の付く、ショップなどでたまに見かける水草もありますね。 ブリクサ・ロングリーフそしてブリクサ・ヤポニカ等。 自称、水草野郎、水草マニアであればこれも周知と言ったところでしょう。 しかしながらこの水草は現実では非常に曖昧な分類によって、いわば適当な呼び名で販売されているのが現状なのです。 言い替えれば、正しくない分類、間違った名称で、名前とは違ったものを平気で販売している、それを分からずに?、信じて?、騙されて?購入して思いこんでいる、と言うのが現在のこの業界での常識となっているようです。 このような現状は、ほとんどの場合インボイスと呼ばれる仕入れの際に表記されていた名前をそのまま信じてプライスカードをつけ販売している、と言うのがその最たる原因で、さらにさかのぼれば、水草ファームや採取者が間違って、(であって欲しいが現実としては確認をしていないだけと思われる)もしくは、そのような知識がないまま流通させていることにもつながります。 このような現象はブリクサにとどまらず、たくさんの水草や熱帯魚、著名なのはアビストの分類に言えることですが、その姿や特徴が酷似しているものであれば致し方ない面もあると思われますが、極端な場合は全く似ても似つかないものを間違って流通させていることには憤りを感じます。 何もそこまで考えなくても・・・というご意見もあると思われますが、例えばスーパーの特売で「カニの身のパック」を買ったのに、家に持ち帰りよく見てみたら「カニ蒲鉾」であった?、とか、「タラバガニの身」を買ったのに「上海渡りガニの身」であった?ことを思うとなかなか笑ってすまされませんよね・・・・・(??) と言うより、このような種の水草を好んで買っていく方々の多くは、「これから水草水槽を始めよう」とか、「なかなか水草水槽も難しいものだ」、「だんだんとコツが分かってきたぞ・・・」と言った初心者の方が大半のようなのです。 このような方々はさほど知識もなく、と言うよりこれから色々なことや色々な水草と出会っていき、そして知識を増やしていきます。 しかしながら、ここで間違った知識が頭の中に入ってしまうと、それがその水草の本当の名前や特徴になってしまい、ほとんどの場合そのまま信じ込んでしまうのです。 それだけならまだしも、そのいわば「間違って覚えさせられた知識」が第3者に伝わり、また伝わっていく、という現象も生まれます。 それならば図鑑などをよく見ている方や雑誌などを欠かさず購読している方ならばそのような間違いはないだろう、と思われますが、「それも間違っている」=多くの図鑑や雑誌も間違っていることが多い、のが現実なのです。(アクアの世界において) ところが日本の植物や水草に関する図鑑やホームページではほとんど間違っていません。 このような状況は水草水槽を趣味とする者として恥ずかしい限りであり、何とかして正常にしたいと常々感じておりました。 だからといって国内の数ある水草専門店、水草にも強いお店の全てがそうであるわけではありません。 自分の目で確かめたり文献を参考に調べたりしているお店、いわばインボイスを無条件には信用しない、知識や眼力のあるお店ではちゃんと販売されています。 悲しいかな私の知る限りでは数店しかないようですが・・・・・(私が知ってる世界は狭いですよ) しかし、初心者の方々はなかなかこのようなお店に初めて出会うことは近所でない限りまれです。 だからこそ正しい分類と名称を確立して(って確立しているんですが・・・)浸透させる必要があり、それが水草の世界の常識として、言い方を変えれば、常に正しい学名や分類、名称で流通しなくては、いつまで経っても日本の水草愛好家のレベルは世界の中でも低いままになってしまうように思います。 特に直接お客様と接するショップにおいては「それは当たり前のこと」であって欲しいと思うのです。。 市販されている関連書物においても、代表的な水草図鑑の数も少なく、また、その対象となる水草においては想像を絶するほどの種類が存在するわけで、一朝一夕に叶うものでもありませんが、せめて一般種として容易に入手できるような水草ぐらいはそうあって欲しいと思います。 −−ブリクサについて−−ブリクサというのは学名の頭にあたる” Blyxa” から来ています。これを植物の科目で見ると、ブリクサと言う植物は単子葉植物網トチカガミ科スブタ属に属する植物となります。 一般的には世界で10種、日本には4種があると言われていますが、この真偽性は定かではありません。 この種の水草は与えられた環境や自生地の環境によってその草姿に違いが現れるようです。 特に葉の色の違いなどは端的に現れます。 さらにアクアリウムの世界の水草ファームなどでは突然変異種を固定させたり、作出したりと言ったことも行われるようですので、何種類存在するのかとなればはっきりしたことは分かっていないのが現状のようです。 しかしながら自然界だけをターゲットとした場合には多くても20種程度以内ではないかと言うのが一番妥当な表現かもしれません。 自然界における自生分布地域は日本を初め朝鮮半島、中国大陸、台湾、フィリッピン、マレーシア、インドと言ったアジア地域と言われています。 生育環境が水田などの水湿地に群生するようですので米を主食とする水田が多いこの地域に分布したのではないでしょうか。 自然界では沈水性の1年草とされており、繁殖形態は種子、特徴として白いひげ状の根を多数だし強い根張りをするとあります。 アクアリウムにおける適合育成環境は幅広く、それらに対する順応性はありますが、順応速度は遅く、ものによっては完全に与えられた環境に順応するまでにかなりの時間を要します。 ![]() 数少ない図鑑や雑誌などで紹介されている場合もこのような水上葉のものを単に底床に植え込んで撮影したような画像が多く、完全に与えられた水槽環境に適合し見事な草姿になっているものを見るのはまれなことです。 いったん環境に適合してしまうとその増殖スピードも増し大株に成長するのですが、某らの要因で調子を崩したりコケまみれになってしまったりすると、それを完全に立ち直すにはこれまたかなりの時間を要することになります。 色々な水質や底床への適合性はある、と言える水草なのですが、自然界での育成環境から考察すると、最も適するのは泥状の土壌で酸性の水質であるようです。 よって、大磯砂やセラミック系の底床でも育成は可能ですが、より適しているのは新しいソイル系よりも使い込んだソイル系であると言えるでしょう。 また、その根張りの良さからも分かるように底床内には肥料分がしっかり目に必要で、特に使い込んだソイルなどでは定期的な追肥が必要になるでしょう。 水質においては強い酸性が好ましいようですが、中性付近でも育成は可能で、時間はかかりますが順応させてしまえば問題なく増殖します。 総硬度やKHには特にうるさくないように思いますが、頻繁に水替えされる環境よりも、こなれた水での育成の方を好むようです。 しかし、これも違った環境になれてしまえば何ら支障は見られません。 CO2の添加は無くても育成は可能ですが微量でも添加するのとしないのとでは、その草姿にかなりの差が出てきます。 言うまでもなく強制添加していた方が立派な株に育ちます。 光に関してはさほどの高光量が必要なわけではなく一般的な水草が問題なく生長するような環境よりも幾分少ない光量でも問題ありません。(一部の種では太陽光のような強烈な光の方が楽に育成できる種があります。) 以上のような様々な水槽環境における育成条件は言うまでもなく水草にとってよりよい環境であればあるだけ立派で美しい草姿になる、と言うことであって、特に特化した条件が必要な訳ではありません。 よって、育成や増殖に関してもその他の水草でも言えるように水上葉での育成が最も早く確実なのです。 (だからショップで売られているようなポット物の多くがファームから送られてきたままの水上葉であることが多いのですが・・・) 幅のある環境への順応性を持つブリクサですが最大の特徴として、与えられ、順応した環境によってブリクサの中のある種は大きくその葉色を変えます。
−−ブリクサの種類−−一般的に「ブリクサ・ショートリーフ」や「ブリクサ・ロングリーフ」などと言われる名前は、言い替えれば「かに玉に入っているカニの身」(笑)のような表現であって、何のカニの身かは定かでない表現に等しいことです。これを正しく表現すると、「ブリクサ・ショートリーフ」というのは「ブリクサの中で短い葉を持つもの」を総じて表しているにすぎません。 実はショートリーフと言っても色々とあるのです。 ですからショップのプライスカードなどで見かける「ブリクサ・ショートリーフ」というのは実は正しい名称や学名ではなく「詳しく分からないからそう書いてある」と解釈してください。 (現実としてあちこちに出回っているこの「ブリクサ・ショートリーフ」はある一つの種のブリクサをほとんどの場合指しているのですが・・。) では、ブリクサにはどのような種類があるのか? 分かっていない部分が多い上に、全てが国内において流通している訳でもありませんので、ここでは日本にも自生する代表的な種類について紹介してみます。 ある程度経験を積んでこられた水草マニアの方々や良くショップ巡りをされるような方々は時々目にするような名称であると思われます。
![]() ![]() 短茎種で脇目を出して増殖します。 一般的に出回っているブリクサ・ショートリーフのほとんどがこれに当たります。 実はこの種がブリクサの種を曖昧にしている元凶かもしれません。 ショップが仕入れる問屋や水草ファーム、それも国内ファーム、東南アジアファーム、ヨーロッパファームから来るほとんど全てのブリクサ・ショートリーフ、ブリクサ・ヤポニカ、ブリクサ・エキノスペルマがこのブリクサ・ノボグイネエンシスです。 入荷する草体の多くが水上葉のものです。
![]() ![]() 根元からたくさんの葉を出し茎がほとんどないのが特徴です。 株別れをするように増殖してゆき上記のノボクイネエンシスよりもたくさんの葉を密生させ放射状に広がっていきます。 水槽内において状態によってはノボグイネエンシスと見間違う可能性はありますが、水槽内から取り出すとその違いははっきりと確認できます。 葉幅も若干ながらノボグイネエンシスよりも狭くなりますが、かなり良い状態の物同士で比べないと一見しただけでは確認しにくいです。 このエキノスペルマも時としてヤポニカと間違われているケースがありますが、国内ではあまり流通しておらず水草専門店でも必ず入手できるとは限りません。 流通価格が1株あたりノボグイネエンシス−200〜500円であるのに対してこのエキノスペルマは1株あたり1000〜2000円です。
![]() ![]() 完全な有茎草で水槽環境での育成はかなり難しく流通量もかなり少ない。 その多くの理由がショップでの維持が出来ていない、難しいという理由からである。 国内産の物は黄緑色に近い鮮やかなグリーンの葉を展開するが葉数はさほど多くない。 また、東南アジアのファームから来る物は赤みがかった葉色で、こちらの方が育成はしやすくなる。 特徴として這うように増殖していくが、ある程度の高さまでは長伸する。 育成のコツとしてはpHが5台でこなれた水の環境、こなれた底床で豊かな土壌がよい。 エビによる食害に会いやすい。 (画像は購入直後のもの。その後赤みがかった葉色になったため東南アジアファーム物であると思われる。)
![]() ![]() これが本物のヤポニカ。アルテルニフォリアとよく似た草姿だが前者よりは小振りで葉数も少ない。(Photo Oyama) 正確な判別は種子によって可能なようだが同じ水槽内で育成していても見分けることは可能である。 アルテルニフォリアと同じく育成はかなり難しいが前者が問題なく育つ環境であれば良い。 ただし、成長・増殖スピードはかなり環境に適合していないと遅く、新しい環境への適合にはかなりの時間を要す。 多くの場合はアルテルニフォリア同様、溶けるようになくなってしまう。 さらにエビの食害にも会いやすい。 葉色は鮮やかなグリーンで有茎草とはっきり確認できる。 残念なことはまず入手困難でありほとんど流通していないこと。 入手できたとしてもその流通量の少なさから価格は1株2000円以上となっているようだ。 ☆ヤポニカに関しては、すいらくさんのホームページ(AQUARIUMの壷)の「水草の壺」に「ヤナギスブタ」のページで詳しく解説されております。 是非ご一読下さい。 このブリクサ・ヤポニカは和名があることからも分かるように簡単にどのような水草であるか確認できます。 それなのに色々なファームなどから入荷するインボイスがヤポニカと言うだけでこの名称で販売されているのが現状です。 しかも、似てもにつかない草姿であり誰でもが判別できる程度です。 このような事例はブリクサだけに言えることではないと冒頭でも書きましたが、その選別にかなりの知識や経験が必要なアビストの選別などと違い、大きな違い、言い替えれば見間違うはずもないようなものを間違った名称で販売されている現状には、ほとほとレベルの低さを感じます。 まず、ショップで確かめていない、知識がない、調べようとしない、名前などどうでよい、等と言った扱われ方をされているのが水草界の現実なのです。 たとえそれが水草に強いと言われるショップでさえ、その多くがインボイスのまま販売しています。 まさに「タラバガニの身を・・・・・・」と同じ事です。 −−その他のブリクサ−−ここでは上記以外のブリクサの種について少し紹介します。
通称 ブリクサsp・キンバリー(H.B.D) (学名 不詳)
これらの他にもブリクサと名の付く水草は数種知られているようです。 −−あとがき−−如何だったでしょうか?今まで自分の水槽にあったヤポニカが実は偽物だった・・・・なんて初めて知った方が多いのではないでしょうか? 実は私もその一人だったのです。 どちらかと言えばこのページはショップの方々に見ていただきたいショップのためのページになるかもしれません。 さらに、この業界に関わる方々や、出版関係の方々にも見ていただきたいページです。 水草の種などどうでも良い方々にはどうでも良い話ですが、自分が買った水草がどのような水草かちゃんと知りたい方や、正しい知識を身につけたいと思っている方々がいらっしゃることも事実です。 ましてや間違って覚えていたりそれを人に伝えたりする事になれば、いつになっても日本の水草愛好家の種に対する認識の低さ、レベルは改善されず諸外国の愛好家から認めて貰えることなどあり得ません。 優れた育成技術や優れたレイアウトセンスをいくら兼ね備えていてもそれでは一流とは言えませんよね。 一流ホテルのシェフが取れたての車エビと冷凍のブラックタイガーを見間違うわけがないように、水草愛好家もごく当たり前な事としてそうあって欲しいのです。 そのためには何よりもそれを一般消費者に販売するショップがそうでなくてはなりません。 ヤポニカを発注したのにノボグイネエンシスが届いたときには胸を張ってクレームや返品できなければいけないのです。 これは雑誌にレイアウト水槽を紹介し使用水草を明記する際にも同じ事です。 全く知らない人間はそのような表記やプライスカードを見て覚えていきます。 理想としては学名がはっきりとしているものは学名で表記し、はっきりしていないものについてのみ通称やインボイスネームを採用してもらいたいものです。 |