「水草を育成する=水景を完成させる」上で無くてはならない物の1っである”ひかり”について、記念すべき第1回はスポットライトを当ててみました。
ひかりの元であるライトは水草を育成する上だけにとどまらず、それを鑑賞する上でもとても重要な要素であります。
このひかりは明るければそれでいい、と言うものではなく、ひかりにも色々な種類や質があるのです。
従って照明器具にも色々な製品があるように、ひかりの元となる発光体にも色々な物があるのです。
一般的にアクアリウムで使用される照明器具は、そのほとんどが蛍光灯を利用した照明器具です。
最近では少ない消費電力でより明るい光を照射する物や耐用照射時間が飛躍的に長くなった物もあるようです。
しかしながらちまたで宣伝されているような要素は果たして水草を育成する上でも効果がある物なのかどうかというと、実はあまり関係がなかったりするのです。
ここで、ひかりの質について少しだけ簡単にまとめてみます。
ひかりにも水質のように数値に置いて色々と違いがあるようです。
演色性
照射されている物がどれくらい本当の色を再現しているかを平均演色評価数(Ra)で表します。
この数値が100に近い物ほど自然な光と言うことになるでしょうか。
一般的には80を越える物がよいとされているようです。
ケルビン
これは光源の色合いを表したもので数値が低いほど赤く、数値が上がるに連れて白い色、黄色みを帯びた昼光色、そして青みがかった白色になっていきます。
この色合いの違いはアクアリウムで言うところの水槽全体の雰囲気を決定する要素となり、高ケルビンの物ほど水槽の中がクリアーに(涼しげに)見えます。
これは好みの分かれるところでもありどれが適しているとは言いにくいですが、昼光色のような黄色みを帯びた光はあたたく感じ、8000ケルビンを越えるような物になるとはっきりとシャープに見えるように感じます。
光束
これはランプから照射される光の量をルーメンと言う単位で表します。
同じワット数のランプでもこの値が大きいほど明るく感じます。
この数値をワット数で割った物がランプ効率と言われ、この数値が高いほど効率よく光を照射するランプと言うことになります。
照度
これは光を受ける物の明るさを表すものでルクスと言う単位で表されます。
1ルクスは1平方メートルの面状に1ルーメンの光が照射されている、と言うことになります。
言い方を変えれば手持ちの照明器具で1ルクスの光をどれだけの距離から照射すれば得られるか、等とも考えます。
実は水草水槽に置いて最も重要なのはこの照度なのです。
水槽に照射された光は水面で大きく反射され、また水中に入り込んだ光も散乱、吸収されてしまい、利用できる光の波長領域は赤色系が著しく減少しかなり限定された光となってしまいます。
海を潜っていくのを想像すると良く分かると思います。
次に水草が光合成に利用できる光に付いてですが、水草には葉緑体という光合成を行う物質を細胞内に持っていて、この葉緑体の中に光をエネルギーとして吸収するクロロフィルと言う物質があるのです。
このクロロフィルは青色領域と赤色領域の光を吸収することが出来、逆に緑色領域の光は強く反射するのです。
従って私達が見ることが出来る美しい緑色は水草が必要としない反射した色になるのです。
(注!私達が目にするのは反射された光だけではありません。もともと鉄分が多く赤色領域の光を反射するような物は赤く見えます。)
水草をちゃんと育てる=光合成を活発に行わせる、には適切な環境(理想的なCO2濃度や水温、水質など)での光合成速度をより大きくしてやる、と言うことになります。
この光合成速度は光の強さに比例します。
しかし、何処までも比例するかと言うとそうではなく、それぞれの水草の種類や置かれた環境によって、それぞれの限界点という物が存在するのです。
さらに、細かく見れば水面に達している葉とその下部に位置する葉や、葉そのものの形状、または、水面からの距離など光をさえぎる障壁となる物の存在が、それぞれの光合成速度を大きく左右するのです。
それぞれに限界点があるとしても、例えば一般的な陽性の有茎草の場合で言えば、かの評価が高いN○ランプを60センチ標準水槽に4灯設置したとしても、水面付近の頂芽の位置ですらその限界点には達することはありません。
それ以上に強い光で無ければ水草の光合成速度を限界点まで増加させるには至らないのです。
ですから底床表面での話になれば水槽上部に設置できるだけのN○ランプを設置したとしても到底不足する光量しか得られないわけで、さらに水深が深くなるに連れて水草の光合成速度は減少していくことになります。
特に強烈な光量を必要とされる南米産の有茎草などの場合にはその弊害も大きく現れるものと思われます。
したがって、水深がある大型水槽クラスになれば底床表面までしっかりと届く強いひかりが必要になります。
言い替えれば水面に達した水草の光合成速度が最大点に達するぐらいのひかりの強さでなくては、水深のある底床表面では十分なひかりが得られなくなる、と言えることになるのです。
よって、光合成を支配している物はケルビン数や演色性ではなく「照度」であって照度が高くなければ最高な状態の水草育成や抜けるような透明感のある緑色は実現しにくい、と言えるようです。
では強いひかりとはどのようなひかりでしょうか。
先述したように強い光というのは光束(ルーメン)の高いひかりと言うことになります。
現実的にはその様な蛍光ランプを用いて、照射したい最下部に必要な照度を実現できるような照明器具を用いると言うことになります。
また、強い光という物はその光源が小さいほど強くなると言われています。
一般的な蛍光灯では確かにたくさん設置すれば明るく見えますが実は弱い光と言うことになるようです。
ここで登場するのがメタルハライドランプです。
数年前まではアクアリウムにおいてもこのような特殊なランプを使用するのはごくごくまれで、しかも目が飛び出すような販売価格だったそうです。したがってマニアな方々でもなかなか蛍光灯以外の物を利用することはなかったようですが、その様な方々の中でもさらにマニアックな方々は主に水銀灯を利用されていたようです。
言うまでもなく水銀灯よりもメタルハライドランプの方が演色性等優れているのは言うまでもありません。
しかしながら現在ではメタルハライドランプもその効果が再認識されたのか続々と安価で良質な物が登場しているようです。
一昔前なら150ワットのセットを1台設置するのに10万円ぐらいはかかったものですが、現在ではおおよそ半額ぐらいにまでなってきているようです。
これからもっと一般化してくるかも知れません。そうなればさらに安価な商品も登場してくるのではないでしょうか。
もともとこのメタルハライドランプというのは海水水槽から出てきたもので、私は専門ではないので詳しくは知りませんが、ライブロックと呼ばれる石を水槽内に積み上げ、そこへ強烈な光を当てることによって濾過を行わせるベルリン式だか、モナコ式とか呼ばれるシステムが始まりのようです。その様なシステムにおいて、水の状態もすこぶる良いという現状からそれを淡水の水草水槽に置いても使えないかと注目されてきた物のようです。
このメタルハライドランプは機種にもよりますが100ワット以上の物であれば非常に強い光を小さな光源から反射板を利用し照射することが出来、その光は遠くまで届くことになります。
ですので、たかが水深60センチ未満の水槽であれば十二分にその光は底床表面まで達し、その上部に位置する物体の陰影を映し出すほどの照度を得ることが可能になります。
また蛍光灯ではその効率が数ヶ月を境にして著しく低下してしまうのに対して、メタルハライドランプではランプ効率が落ちにくいと言う特徴も兼ね備えています。
NAランプでは1年以上使用したものと新品とではかなり違ってきますよね。
ただこのランプをチョイスするには少し面倒な場合もあります。
設置にあたっては専門の知識や電設技術者でないと消費電力の問題から危険になる場合もあると言うことや設置にあたっての工事も必要な場合があります。
また、安定器と言われる付属機器が必要になり電源が確保できたとしてもよけいな物の設置場所も必要となります。
さらに消費電力が大きいために一般家庭では目に見えて電気料金の増加に繋がります。
ただ、とことんまで凝ってみるならば迷わずメタルハライドランプを選ぶべきです。
これは実体験した人でなければ分からないことですが、水草の生長スピード、大きさ、色合い、、、どれを取っても蛍光灯下での育成とは全く違った世界を体験できます。
さらに実質的なことだけでなくメタルハライドランプによってもたらされるオープンアクアリウムの陰影は水槽周辺の物全てに現れ、それが作り出す雰囲気たるや言葉では説明しがたいものとなります。
まさに水草天国へ導いてくれるような感じです。
ただし、ひかりが強くなった分、全体のバランスが取れていないと間違いなくコケの大発生を引き起こしたり、思わぬ事態に陥ってしまったりします。
ランプと水面までの距離を上手に設定し、全体のバランスが崩れないように注意していればその様な事態に陥ることも少ないように思いますが、あえて言えばある程度経験を積んだ中級から上級者には是非にともお勧めしたい一品と言えると思います。
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