藍藻(らんそう)への対処

藍藻とは、鮮やかな緑色をした海苔のようなべっとりとした物体で、独特の悪臭を放ち、恐らく好きな人はいないであろうと思われるような水草水槽最大の厄介者です。
水槽中に増殖してしまったような場合は、その水槽から放たれる臭いで部屋中が悪臭に満ちてしまうこともあります。
この藍藻はコケの一種として良く紹介されますが、どちらかと言えば細菌の一種に近いようです。
 
この藍藻は強い水流やチューブなどを使用した吸い出しで、簡単にはがれたり吸い取られたりします。
ひげコケのように簡単には、はがれないようなものと違って除去するには容易なものだと言えます。
しかしながら厄介なのは、取っても取っても数日後には次々と現れるその増殖スピードと生命力です。
結局、発生初期の段階で対処できなかったり、完全に除去しきれていなかったりすると、最終的には水槽を乗っ取られてしまい、大切にしていた水草もいつの間にか藍藻だらけになってしまう悲劇に見舞われることが常のようです。

ではまず始めに藍藻についての知識を得ることにします。

藍藻は植物の中でも最も下等な類に属する原始的な生き物で、細菌に近く高等な植物と違って細胞核が無いユレモ目の仲間なのだそうです。
こう言った生き物を原核生物と言うようですが、このような生き物が地球が誕生して初めて酸素を作ったとも言われています。
この藍藻類は他の高等な植物と違って無機栄養だけでなく細菌などが利用する有機栄養も利用して増殖し、その発生原因の多くは水質が有機物過多によるものと言われています。
死んだ生体をそのままにしていたり、ブラインや赤虫を多く与えていたりすると発生する確率が高くなるのかも知れません。
ユレモ目の仲間である藍藻はそれらが滑り運動をするのと同じように動きます。
全体の形が一定でないのがその証拠ですが、活着性が弱い分このような特徴があるのだと思います。
この移動は光を受けるための行動であって、逆に光がないと、暗いと動かない、とも言われています。
 
発生原因の多くは外部から持ち込まれるためだと思われますが水質が富栄養であれば、コケが発生しやすいような状況であれば発生していても不思議ではありません。
外部からの進入とは、購入した水草に付着していたか、生体を購入したときの水に含まれていたか、はたまた空気中から進入したか、などが考えられます。
藍藻がいくら吸い出したり水草を綺麗に洗浄してから投入したとしてもまた知らない内に発生してしまうのは、この物体が目認出来ないようなほんのひとかけらでも存在すれば間違いなく時間の経過と共に増殖してしまう、と言うことなのです。
それだけ生命力が強く生存環境の幅がとても広いと言うことになります。
通常ならば植物やコケが必要としない光の範囲でもこの藍藻は吸収しエネルギーとするようです。
 
その様な物体であれば、いかようにしても発生してしまうではないか?と言うことになってしまうのですが、バランスの取れた安定した水質の環境、とりわけ濾過バクテリアが十分に存在する環境ではほとんど発生しないのです。
万が一、外部より持ち込まれたとしても水槽内に存在する様々な原生生物やバクテリアによって分解されてしまう、と言われています。
藍藻撃退に市販のバクテリア商品を使用される方もいらっしゃいます。
実際、私の経験でも水槽セット初期の段階から底床にべっとりと発生したり、しばらく経過してから急に現れだしたりしたケースがあります。
ですが、ある程度の時間が経過してコケの発生がほとんど見られなくなったような安定した環境ではほとんど発生したことはありません。
しかし、長期維持している水槽において某らかの原因、例えば底床が締まりすぎて嫌気的になってしまったとか、濾過器のメンテナンスをほとんどしていなかったために、ひどい目詰まりを起こし、ほとんど水流が無くなっていた、などの現象が起こっている、その様な水槽でも惨劇に見舞われるようなことも良くあります。
言わずと大量の肥料分を追肥してしまい、その反動が原因となる場合もあります。
 
このように厄介な藍藻を予防するには、第一にコケを発生させないようにする管理に準じますが、ブラインシュリンプや赤虫、特に冷凍物をメインの餌として与えない、と言うことがあげられます。
これらの餌の食べ残しは一般的にはバクテリアによって分解されたり腐ったりして有機物として存在し富栄養化の元凶となります。
これらの有機物は消費される過程が少なく水草水槽にとって有益な物質ではありません。
水草水槽でこのような餌を大量に必要とする生体を飼育することは考えられませんが、カラシンやアピストの飼育にとってこのような生き餌はバランスのとれた餌の与え方にするために必要不可欠で否定することは出来ません。
ですから、これらの餌を常日頃与えるのではなく、定期的に少量、食べ残しが出ない量を与えることを心がけなくてはならないのです。
 
要するにコケがたくさん発生するような富栄養な水質やバランスの悪い環境ではいつ発生しても不思議では無いと言うことになるのです。
 
しかしながら不覚にも藍藻が発生してしまった場合にはそれに対する対処が必要です。
発見次第、3倍に薄めた木酢液を直接スポイドなどで吹きかけて対処したり、チューブなどで吸い出したり、水換えの頻度を上げ、木酢液の添加量を増やしたりして対処します。
その結果、それ以後発生が見られなかったり、その様な対処を何度か行った結果発生が見られなくなれば大ラッキーです。
初期の段階で対処できたと言えるでしょう。
環境がさほど悪化していなかったか一時的な現象だったと言える事になると思います。
また、生物兵器としてはブラックモーリーが少量の発生ならば食べ尽くしてくれるようですので、合わせて対処することも有効な手段です。
 
しかしながら、よくアクア雑誌などでも特集記事として取り上げられていますが、このような対処はまだ藍藻が勢力を拡大していない初期の段階でのみ有効な手段です。
水槽のあちらこちらに発生し、ガラス面を始め色々な水草にべっとりと付いてしまっているような末期症状の状態では、焼け石に水にしかなりません。
特に繊細な草姿の水草に付着した場合には、それを完全に取り省くのは不可能で、頂芽の奥の奥にまで入り込んでいれば、いくら上辺だけを除去してもいずれまた増殖してしまいます。
要するにこのような末期的な状態に陥ってしまった場合には結果的に言ってリセットするしかないのです。
 
しかし、単純にリセットして発生しなくなれば、またこれはラッキーと言えるのではないでしょうか?
最悪の場合は何度リセットしても生き残りがいたのか、また同じ様な結果になってしまう事もまれではありません。
それだけこの藍藻という物体は生命力の強い厄介なものなのです。
 
そうなれば単にリセットするだけでは安心できません。
使用していた物全てを完全に殺菌するか消毒してからリセットしなくてはダメだと言うことになってしまいます。
これを一般家庭で執り行うとなれば大仕事ですね。
アクアリウム、水草水槽に対する熱意も失せてしまうでしょう。
 
と言うことで今回はちょっとしたやる気と勇気がいるが比較的簡単に出来る藍藻撲滅殺菌方法をご紹介することに致します。
 
まず、飼育している生体を一時避難させる水槽を用意します。
水槽がなければ水漏れしない代用品でもかまいません。
そこへ飼育水を半分投入し(間違っても藍藻まで入れないように・・・)残りは新しい水で作ってやります。
水草やレイアウト素材が邪魔で掬えない場合は、それらを全て取りだしてから生体を救い出すようにします。
そして避難水槽へはちゃんと水あわせをしてから投入します。
 
この時に濾過器の生物濾材を取りだし同じ水槽へ入れておきます。
濾材がパケットに入っていないような場合は、台所用の水切りネットにでも詰め込んで投入すると良いでしょう。
そして、濾材の下にエアレーション用のエアストーンをセットし、エアレーションしておきます。
物理濾材はゴミがたまっていれば綺麗に洗浄してから元の濾過器に戻しておきます。

次に水草ですが理想的には全て廃棄するのがベストです。
有茎草に代表される繊細な水草はあきらめた方が無難なのですが、高価なものもあるので本人の判断、と言うことになります。
安価な物はもったいぶらないで全て廃棄しましょう。
 
シダ類などはさほど大株になっていないものなら念入りに洗浄して再利用することも可能ですが、大株になっていて根の部分が複雑に絡み合い容易に綺麗に洗浄できそうもない物は株を分割してしまい対処すると良いでしょう。
この際、思い切ってシンプルにトリミングしてやると理想です。
しばらく経てばすぐに子株同士が複雑に絡み合い元の大株によみがえります。
 
エキノ類は簡単には底床から取り出せないと思います。
特に大株になってしまったものであれば、その様な行為をするだけで底床が全てダメになってしまうでしょう。
しかし、どうしてもキープしたいような場合は何とかして無理にでも底床から取りだしてしまうか、葉を全部カットしてしまうかしか方法がありません。
何とかして取り出す場合には無理に引き抜こうとせずに、株の周囲の底砂を除去しながら根をカットしながら取り出すようにします。
根をほとんどカットしてしまっては植え直したときにスムーズに生長してくれないことにもつながりますが、エキノは根張りがよい分少しぐらい根をカットしてしまっても大丈夫です。
元の草姿になるまでにはかなりの時間が必要になるかも知れませんが致し方ありません。
ただし、大きくなってしまったエキノを再度植え直すのもかなり苦労しますが・・・。
 
逆にクリプト類は丁寧に根を傷めないように抜き取らなくてはなりません。
底床をほじくりながら時間をかけて行って下さい。
 
一般的な有茎草は根本でカットしてしまえば問題ありません。
ホシクサ系などの高価なものは底床内でカットし幾分根を残して取り出します。
 
このようにして水槽から撤去した水草は廃棄できる物と出来ない物に選別します。
廃棄できないものは先述したように念入りに洗浄してトリミングします。
エキノやクリプト、シダ類などは思い切って古い葉をカットしてしまいましょう。
そして300倍以上に薄めた木酢液で数分間沐浴させておくと極力再発を防げます。
 
有茎草も同じ様な処理をしますがそれ以上に念入りに処理しなければ心配です。
出来れば大胆にトリミングしてしまった方がいいでしょう。
最後に300倍以上に薄めた木酢液で沐浴させておきます。
 
木酢液での沐浴の時間はそれぞれの水草によって異なります。
比較的しっかりとした葉を持つシダ類などは少々長く沐浴させても問題ありませんが、そうでない柔らかい葉を持つ有茎草などはあまり長く沐浴させているとそれだけでダメになってしまう場合もあります。
特に赤系の草はその傾向が強いようです。
判断しかねる場合は多めに薄めておくしか無い訳ですが、あまりにも薄すぎると目的とする藍藻撲滅や予防が出来なくなってしまいます。
一か八かと言うことになってしまいますが、全ての水草について把握しているわけではないのでお許し下さい。
 
また、木酢液には色々な品質の物がありますので薄め方はあくまで目安です。
品質の良いものですと薄目方が足りなければ2〜3分の沐浴でも水草を枯らしてしまう場合もありますので注意して下さい。
 
処理した水草は生体を避難させた水槽かバケツやトレイに避難させておくしか方法がありません。
光量を必要とする有茎草は別の水槽がないと非常に不便ですが、何とか工夫して48時間キープできる方法を選択して下さい。
最悪はロックウールや鉛を巻き付けてバケツに入れたまま照明をつけてやるか、日中明るくなる場所に置いてやることでしのげると思います。
かなり状態が悪くなる場合も想定できますが、後は処理が終了した元の水槽での再起を祈ることにしましょう。

使用していた流木や石などはそのまま残しておいて差し障りありません。
 
以上で、藍藻に犯されてしまった水槽には底床と水、そしてセットされた器具とレイアウト素材しか残っていないはずです。
濾過器には物理濾材だけが入っていますよね・・・・。
 
で、何をするかですが、この水槽へ木酢液を原液のまま大量に投入してしまうのです。
木酢液の殺菌効果を利用してそのままの状態で全てを綺麗にしてやろうというのがこの手法です。
 
で、どのくらい投入するのか?ですが目安としては60センチ標準水槽で約300シーシー程度です。
要するに約60リットルの水に対して300シーシーですから飼育水の全量に対して1/200程度の原液を投入してしまいます。
90センチの水槽ならば全水量が約180リットルですから900シーシーほどの投入量になります。
これはあくまで目安ですが投入量が少なすぎれば効果が低くなる恐れもあり処理にかかる時間も多く必要になると考えねばなりません。
逆にもっと多く投入すれば早く済みますが正常な水質に戻してやるときに何度も水換えを行ったり、そのための時間も必要になります。
また、せっかく購入した木酢液を、それだけのことに一挙に使用するのですからもったいない気もしますね・・・。
 
私は以前、実験もかねて60センチ水槽に水草を残したまま500シーシーの木酢原液を投入した事があります。
ヘヤーグラスやシダ類は持ちこたえたように見えましたが、結果的にはそれまでの展開していた葉は全て落ちてしまいました。
有茎草は全て丸坊主、しっかりとした茎の物だけしか残らず後は全て溶けてしまいました。
クリプトは言うまでもなくアッという間に溶けて無くなります。
丈夫なクリプトならしばらくすればまたすぐに新芽を展開してきますが・・・。

このような使い方をするので安価な木酢液で結構です。
品質があまり良くなさそうでも十分です。
 
木酢原液を投入したら濾過器を稼働させて飼育水を循環させます。
ちょっと部屋が木酢液臭くなるかも知れません。
木酢液を投入した時点でブラックウォーター気味になりますが、時間の経過と共に白濁りが起こったりして、見るに見かねる状態になって行きます。
このような水槽は見ていてもしかたないので何かで覆っておくと良いでしょう。(笑)
と言うより一切の光をも遮断してやると言った方が正解ですが・・・。
 
処理する時間の目安ですが、だいたい半日から丸1日で十分だと思われます。
あまり焦って早く切り上げてしまって効果が半減してはもともこもありません。
この際念入りに行っておいた方が確実だと思います。
 
予定の処理時間が経過すれば一度全換水を行います。
そしてさらに処理した時間と同じ程度そのまま続けて稼働させておきます。
 
終了すれば後は新規セットアップと手順は同じです。
全換水を2回ほど行い、濾過器を洗浄し、取り省いていた生物濾材を持ってきてセットし直します。
底床がかなり乱れているような場合は整えて新しく同じ底砂を上から少し敷いてやります。
 
最後に残しておいた水草や新しく購入した水草でレイアウトを施し、隔離してあった生体を水あわせして生体だけ戻すようにします。
目に見えないような藍藻でも持ち込まないために、けっして隔離していた飼育水は投入しません。

このように処理することによって全ての物がまっさらによみがえります。
物理濾材も新品になってしまいます。
後は水槽立ち上げと同じですが、生物濾材をキープしていた分、格段に早く安定します。
場合によっては一時白濁りする場合もありますが、比較的早期に収まり元の透明感のある水になります。
ほとんどリセットと同じ様な事をするわけですが、大胆に木酢液を投入することによって一挙に殺菌してしまい、掛かる労力を最も低く押さえた手法であると思われます。
このように処理した水槽での藍藻再発率は極めて少なく、再発したとすればその原因は残した水草によるものの確率が最も高いと言わざるを得ません。
 
私の水槽ではこのようにして処理した結果、それまで何故かどうしようもなく厄介で安定しなかった水槽がウソであったかのように、すこぶる良好な環境に変わってしまいました。
これは藍藻に対する処理にとどまらず訳の分からない細菌などによる現象(とろみや粘膜)にも有効であるはずです。
 
いったん水槽に不必要な、害のあるような物質が紛れ込んでしまうと何をやってもうまく行かなかったりします。
ここでは藍藻に対する最終的な処理方法を掲載しましたが、どうにもならなくてリセットを考えているなら試してみる価値はあるように思います。
そのためのリスクは付き物ですが・・・・。
 
勇気のある方は一度おためし下さい・・・。