Ｔｒｕｅ Ｎａｔｕｒｅ Ａｑｕａｒｉｕｍ
Ⅱ
－－極める－－
今回は「ネイチャーアクアリウム」についての２回目のコラムです。
「ネイチャーアクアリウム」と言うのは某アクアメーカーが提唱する水草レイアウト水槽の１スタイルであり、「Ｎａｔｕｒｅ Ａｑｕａｒｉｕｍ」が英訳された意味のものではありません。
さらに、自然のように、とか、自然をまねて、と言った意味でもありません。
あくまで作られた、または、名付けられた「造語」であり某アクアメーカー、天野氏が確立された天野流水草レイアウトスタイルのことをさして言うのです。
前回のコラムでは一般的な水草レイアウト水槽とネイチャーアクアリウムの違いを検証しましたが、レイアウトスタイルや構築論に違いはあれ、その基本となるものはアクアリウムの基本であり何ら変わるところはありません。
未だに「ネイチャーアクアリウムの何処が自然なんだ・・」などと言われているのをたまに見たり聞いたりしますが、かなり勉強不足というか遅れた認識のままの方だと感じてしまいます。
ネイチャーアクアリウムとは「自然の風景や水中の様子を水槽の中に忠実に再現するのではなく、自然に学び水槽の中に水草と熱帯魚が共存する楽園を創造すること」なのです。
自由な発想により自分が思い描く水景、「こんな風であったらいいのに・・・」とか「こんな別世界、楽園、夢の世界で熱帯魚を泳がせたい・・・」などと言った「創造された」水景を作成しようとするものなのです。
完成度の高いネイチャーアクアリウムはその存在そのものが超高級なインテリアにも匹敵し、そのすばらしさ、美しさから芸術や文化とまで評されることも最近ではごく普通になってきました。
特に海外においては「禅・アクアリウム」などと評され、その完成度の高さに注目されているようですね。
しかしながら作り上げられた高級インテリアは完成すればそれで終わりですが、ネイチャーアクアリウムの水景はまさに生きたインテリアであり、それを継続するというインテリア以上のものであると言えます。
ネイチャーアクアリウムはその完成度の高さから今までにない１っのアクアリウムとして、その全てをさして（水景にとどまらず水槽や様々な器具など）高級なインテリアと例えられたり、その構築理論や維持管理するノウハウから出来上がる水景が絵画にも勝るとも劣らない作品と見なされ芸術や文化とまで言われるようになったようです。
まさにそこにはその他の物にはない「生」があり、始めてみる人々に感動と驚きを与えるものであると思います。
本来のネイチャーアクアリウムというものは単なる水草レイアウト水槽とは全く違ったものであります。
前回は様々な構築論や手法の違いを比較して書きましたが、今回はその神髄の違いとでも言いましょうか、その本筋についてあくまで個人的な見解ですが少しばかり書かせて頂こうと思います。
ネイチャーアクアリウムはその与えられた限られた空間に自然から学び取った生態系を理想とし、ひとつのミクロフローラを作ろうとします。
そしてその中で大地に当たる底床に水草を植栽しそれらの水草が立派に生長して完成を迎えます。
与えられた環境が許す限りはそれを何年も継続させることも可能ですが一般的な水槽の大きさではその限界も早く訪れます。
例えば、完成間近な水景を苦労せずに模倣することは可能で、別の水槽にて水草を育成し状態良く生長した水草をあたかもそこでその姿に生長したかのように植栽しレイアウトすることでまねることは出来るでしょう。
しかしながらそれは見るものが見れば一目瞭然に分かることで、それでネイチャーアクアリウムと騙すことは出来ません。
最も緒著にそれが分かるのは前景草や下草の密集具合です。
これだけはいくら状態の良い水草を持ってきたとしてもまねることはなかなか出来ません。
現実に大地に根を下ろし、例えばランナーを延ばして増えていくような状態は人為的に植栽する事など不可能です。
また、どの水草も同じ様な葉の大きさや色、そして同じ状態で限られた空間に存在することも不可能です。
立体的にレイアウトされた空間では必然的に受ける光の量が違ってくる場所が生まれます。
すぐそばに背丈が高い水草があれば、そのすぐ横にある水草は少し元気がなかったり、底床付近の葉などは全て枯れ落ちてしまっているのが当然なのです。
そうであってこそ、そこはまさに自然から学んだ自然的なワンシーンとなるのです。
その様なことを考えるとネイチャーアクアリウムというのは一般的な水草水槽や水草レイアウト水槽よりはもっと奥が深くハイレベルであると言えなくもありません。
単純な水草レイアウト水槽を突き詰めた、特化した、極めたものであると表現して差し障り無いように思います。
そう言ったことから私はあえて「ネイチャーアクアリウムは難しい」と言いたいのです。
某社では誰でも簡単にネイチャーアクアリウムを楽しむことが出来る、と言うようなニュアンスでネイチャーアクアリウムに対する啓蒙活動などをされているようですが、私から見ればちょっと無理があるように感じてしまいます。
ネイチャーアクアリウムで言う水景の完成とは一部分やメインの水草の状態をさして言うのではなく、全ての要素や部分に対しての完成でなくてはなりません。要するに水槽全てを見て完成してこそ水景の完成となるようです。
そのためには何よりも経験と知識が必要になります。
この水草はどのくらいの生長スピードなのか？このようにトリミングすればどれぐらいでどのようになるのか？はたまた基本的な部分ではこの水草をここへ植栽すればどのようになるのか？など全てにおいて把握していないとこちらの思うような水景には決してなってくれません。
往々にして、この水草はやっぱりこっちへ移した方が良さそうだ、この水草はどうも思っていた感じとは違う、などなど、後から修正したくなるような結果しか招きません。
こちらの水草はすこぶる状態が良く多いに増殖し完成していると言えるのに片方の水草はまだまだこれから・・・と言うような状態になり、いつまでたっても完成しない水景となることも良くあることです。
さらにもっと根本的な水槽の立ち上げ方法から見れば、どのようにすれば最適であるか、水草やバクテリアにとって好条件となるか、など生態系に学んだことを水槽内で再現できるように考える事が可能でなければ、必然的に限界が早くやってきたり水質がなかなか安定しなかったりと言った結果にも繋がります。
また、水景を制作すると言っても人間が毎日手を加えて継ぎ足していったり餌を与えて大きくしたりして作るものではなく、例えれば、種をまいて後は自然の生長に期待し、時としてほんの少し手を加えたりする農耕的なものだと言えることもできると思います。
農耕的と言っても、出来上がる水景は作者が創造した範囲をたいていは超えて出来上がっていくのが現実です。
完成図を完璧に思い描き、その通りに完成させることが出来るのは、まさにネイチャーアクアリウムの達人にしか出来ないことであって、ほとんどの場合は予想とは近くなっても作成前に自分が思い描いたものとは少し違った水景になるのが常です。
逆に言えば、それだけ自然の力や個々の水草の状態を見極めていない、と言うことであって、自然の力は作者が予想するよりも時として偉大であり、時として全く機能しないものなのです。
したがって某らの問題が生じた場合に限り大きく人の手が関わることはあっても、ほとんどはほんの少しの手助けをするだけで勝手に出来上がっていくものなのです。
このような場合でも様々な事態に対する適切な対処法や改善方法を熟知していなくては適切な処置を取ることもできません。
誤った対処や間違った処置を施せば一夜にしてそれまで作り上げられてきた環境がもろくも崩れ去ることもあるのです。
要は自然に出来上がるような環境を構築できそれを維持していけなくては出来上がらないのです。
そう言った意味からも私は「全くの初心者でも、始めて水草水槽にチャレンジする人でも、誰でも気軽にネイチャーアクアリウムを楽しむことが出来ます」とは口が裂けても言えないのです。
ネイチャーアクアリウムの特徴のひとつに、そのレイアウトの骨組みとなる流木や石などのレイアウト素材の配置があります。
これらの配置は訓練と言うよりも天性のセンスの方が大きな要因かも知れませんが、このレイアウト素材の組み合わせや配置で、ほとんどそのレイアウトの優劣が決まるとも言われています。
後は水草をその特長に合わせて配置するだけで時間の経過と共に完成していくのです。
よって最も大切な人為的な作業と言えばこのレイアウト素材の配置かも知れません。
これを説明するのに良く用いられるのが「構図」と呼ばれますが、これはあくまでレイアウトの骨組みを説明するとすればこのようになる、と言うことであってそうでなくてはならないのでは決してありません。
言葉や文字では説明しづらい感性とでも言うかセンス的なことなので致し方ないのでは無いかと思われます。
「構図が出来ていない」などと表現されるのは結局は全体的に見たときにバランスが悪いとか配置が悪いと言うことになるようです。
このようにネイチャーアクアリウムを実践する上でもその「経験」というものが非常に重要なファクターとなってくるのです。
ネイチャーアクアリウムは水草レイアウト水槽を突き詰めたものである、と言う感覚は実際にそれに真剣に取り組んでみて始めて分かります。
ごまかしでない本当のネイチャーアクアリウムは、実践してみてそして幾度も挫折し幾度も挑戦していくその過程で、色々な経験を積み、さらに色々な知識を得て、初めて完成した水景を作ることが出来るようになると思えるのです。
何事も実際にやってみなくては分からないことはたくさんありますよね。
単なる水草水槽や様々な水草をたくさん植栽した水草レイアウト水槽には確固たる完成という時期はありませんよね。
ひょっとしたら植栽した時点が最も綺麗だったりします。（笑）
しかしながらネイチャーアクアリウムには一番の見頃というか最も全体的にバランス良くなっている時点と言った、最も美しいとき、いわゆる完成と言うのがあるのです。
当然その時期は見る人によって多少違ってくるかも知れませんが、少なくとも作者自身が最も良いと思える時期は必ずあるはずです。
ここは大きく違うところのように思えます。
ネイチャーアクアリウムの構築論において何故水槽セット初期から生体を投入しないのか？何故濾材に活性炭を使用するのか？何故ソイルが推奨されるのか？何故これが必要なのか？何故？何故？何故？・・・・・・と言った様々な疑問も実践し学ぶことによって、その様に言われる意味も理解できることもあります。
それらの多くはまだ経験や知識が少ない人々でも失敗する確率や挫折することがないようにと考えられた、１っの構築論として、推奨されている、紹介されているに過ぎません。
そしてそれらの疑問が理解できれば「だったらこうすればいい」とか「と言うわけだからこのようにすればこうできる」等と言った自分のスタイルも生まれることが可能なように思います。
極論を言えば、分かっているなら水槽セット初期から生体を投入してもかまわないし濾材に活性炭を使用しなくても良いのです。
水景に合う生体というのも自分が気にいっていればそれで十分なのです。
だって、こんな水景でこんな生体を・・・・と創造し作ろうとしたものなのですから・・・・。
他人のために作成したり多くの人の目に触れる場所に展示するための水槽ならともかく、その神髄は自分が楽しむ為のもののはずです。
水草水槽を極めたいならその勉強過程としてネイチャーアクアリウムを実践することはとても有意義であるように感じます。
今回は某アクアメーカーの広報記事のようなコラムになってしまいましたが某アクアメーカーが発売している製品群やその商行為とネイチャーアクアリウムはまた別のものであるはずです。
今回はネイチャーアクアリウムという天野流水草レイアウトスタイルだけに焦点を当てているに過ぎません。
ネイチャーアクアリウムは１っのレイアウトスタイルであって、それを実践していく上で自分流のレイアウトスタイルが出来上がっていけば、全ての面において自分のレベルが上がるように思います。
そしてその過程で修得する技法や理論、スタイルが自分の水草レイアウト水槽となり人に感動や驚きを与えることになればこの上ない幸せではないかと思います。
ネイチャーアクアリウムの神髄は水草の美しさを遺憾なく発揮し、その空間で健康で状態の良い輝く熱帯魚が共存する世界です。
それが「できる」と言えるにはやはり「ネイチャーアクアリウムは難しい」と言わざるを得ないのではないでしょうか。
