水草を育成するとは
今回は水草のお話です。
水草水槽は何度かトライしてみたけど全然育たなくてうまくいった試しがない、いくら新しい水草を買ってきてもすぐに茶色くなったり枯れてしまう、etc・・・・・よく聞くお話ですね。
多くの場合は水草水槽に適さない環境や設備に問題があってうまくいかなかったりするのですが、そうではないもっと深い意味での「水草が育たない」という現象があります。
一般的な水草やアジア・アフリカ系の水草ならば問題なくそこそこに育成でき、レイアウト水槽と呼べる水槽を管理しておられる方でも、こと南米産の水草になると綺麗に仕上がった試しがない、と言うような場合があるようです。
特に珍種や希少種、採取物、しかもアマゾンの上流地域などからやってくる水草はプロでも手を焼くようなものがあります。
価格もびっくりするようなものがたくさんありますね。
これらの種は特に水草に力を入れておられるショップや専門店でしか見ることが出来ませんし買うこともできません。
しかも、国内の数件のショップにしか無い、と言うようなものもあるのです。
このような貴重な水草は購入することが出来たとしても1本が○万円もするような価格が当たり前のようです。
この価値はマニアでなければ理解することが不可能なことは言うまでもありません。
しかしながらこのような種類の水草であってもその数が増え、色々なところに登場するようになると、うんとお求め安い価格となり販売されたりします。希少種でなくなるわけですね。
国内の数件のショップで増殖に成功し、または、マニアックなユーザーによっても増殖され、始めは仲間内からそしてそのお友達、そして・・・・と言うようにも増えていくようです。
ここまで来ればその水草の特徴や育成に関するデータも揃ってきますので育成に関してもさほど苦労しなくなるようです。
しかしながら国内に始めて入ってきた水草を数人のプロの方が育成を試みる場合、その目安となるのは今までの経験と知識、そしてその水草の学術的な種別の特徴しかありません。
これらの水草は数も少ない代わりにとんでもない価格で手に入れるのだそうで、それなりのルートと関係があるようなプロの方の手にしか渡らないのが現実だそうです。
さらに、手元に届いた原価○万円/1本の水草の状態たるや最悪なのだそうです。
考えてみればアマゾンの奥地で採取されたり現地でキープされていた水草がその様な方々の手元に届くまでにどれぐらいの時間が必要か、そして、どれぐらいの流通経費がかかるかを想像すれば容易に理解できますよね。
物によっては手元に来た時点ですでに溶けてしまっていたりゆでた野菜のようになってしまっている場合もあるのですから、その様な水草を手に入れるという行為は一種の掛けのようなものとなるようです。
このようなことを考えるとそのようなプロの方は多大なリスクを背負って新種の水草の育成にチャレンジしているとも受け取れますし、それ以上にプロの中でもマニアックで商売優先ではなく自分の趣味が優先しているとも言えると思います。
アマチュアがその様な行為に出ることは比較的想像しやすいのですが(笑)、プロの方がその様な行為に走ることはプロであるが為に想像しがたい面があります。
それで生計を立てているわけですから、うまく行かなかった場合のことを考えれば、しかもそうなる確率は非常に高いのですから頭の下がる思いです。
さて、話の本題にはいると、よく言われることに「この水草はどのようにしたらうまく育ちますか?」とか「どのような育成条件にすればいいですか?」と尋ねられることがあります。
回答例として「Aと言う草はペーハーは6以下にKH・GHとも1以下、底砂はソイルを使用して光量は目一杯、CO2の添加量は・・・・・」そして「Bと言う草はAと言う水草の条件プラス鉄分の補給その他カリウムも忘れずに、そして何よりも導電率の低いピュアな水が・・・・・」などとレスポンスされていたりするのを見かけるときがあります。
果たしてこれで良いのか?と私は良く思うのです。
確かにそれぞれの水草に対して色々な特徴があり、学術的な種別による違いもあります。
また、採取地や分布地の水質や各種の条件の違いも必ずあります。
しかしながらその様に違いのある水草を忠実に現地での条件を再現して我が家の水槽で育成することなど不可能であり、ましてや微妙に違う水質や条件の水草を同じ水槽内で育成することなど到底出来なくなってしまいます。
特に育成難易度が高い南米産の水草、その中でも珍種や希少種と言った特別な水草は完璧に育成するのであれば専用の水槽を用意して可能な限り採取されたり自生している地域の水質と条件を整えてやらなくてはならなくなります。
それでも大自然の中と限られた空間である水槽とでは違いがありすぎるぐらいです。
果たしてこのような水草はそうしなければ育たないのでしょうか?
まず、私達がその様な水草を手に入れる為にはそれなりのショップへ足を運び、そのショップで増殖したものやキープされていた物を購入することになるはずです。
アマゾンの奥地へ行って自ら採取し持ち帰ったとか、自ら個人的に輸入した、分けてもらったなどと言う事例は例外中の例外ですよね。
と言うことは私達が購入する水草のほとんどは購入するショップで生育されてきた水草なのです。
時としてショップがどこかのファームや問屋から仕入れてすぐのものの場合もあるでしょうが、流通量の少ない珍種や育成難易度が高いとされる水草はその様な流通経路をたどらないのが一般的で、逆に何処のファームや問屋にもあるような水草は難易度の低い一般種と言うことが出来ると思います。
ここで、「適応・順応」と言う言葉があります。
これは「生物が周りの様子にうまく合うように形や性質を変えること」と言う意味ですが、生物である水草にも当然の事ながらこの「適応力・順応力」と言うものがあります。
これは生物が与えられた環境で繁殖し生き延びるため、子孫を残すために備わっている力で「本能」と呼べるもの、「遺伝子の中に組み込まれたもの」と言うこともできると思います。
私達人類はその能力が高く世界中のあらゆる環境に適応し生き抜く力と知恵を持っていますよね。
これと同じ様な力が水草にもあるのです。
ただ、育成難易度が高いとされる南米産の水草の類は、長い年月の間、もしくは何世紀もの間、変わることのない大自然の中で進化を遂げ、1つの種として確立されたもので、気候の変化が激しくない地域に分布するような種は違う環境への適応力や順応力が高くないのです。
従ってあまりにも違いすぎる環境にいきなり変化するとその変化に付いていけずに枯れていくようです。
しかし、ゆっくりとした、長い時間をかけて変化する環境には生き延びるためにその変化に適応しようとする本能的な力が働き、変化した環境に適合して自らを変化させて行くのです。
水質が変われば微妙な葉形の違いや色の違いが生じる事はよくあることですよね。
しかし、その様な力を持った水草でも前述したように長い時間をかけてプロの手元に渡った時は、運が良くて瀕死の重体状態でたどり着いたと言える程度です。
これをその水草の持つ生命力と適応力に期待して再生、育成、増殖させようとするわけですから、可能な限り現地に近い水質と条件を整えた水槽を用意しなければならないと言うことになってしまうのです。
この時点で大きな水質の変化を与えることはその水草を殺してしまうに等しい行為と言えるかも知れません。
先ずは自生地に近い水質の「水槽内という環境」に適応してくれるのを期待するのです。
それでも、ダメだったと言うことは数知れずあるようですが・・・。
話を元に戻して、私達が購入する水草はこのような経過をたどりショップの水槽(水質や諸条件)で生育してきたものです。
と言うことは、完全ではないにせよとりあえずは自生地に近い水質の「水槽内という環境」に適応してくれている水草であると言えます。
また、ショップでは増殖に成功すればさらに色々な条件の違う環境での育成を試みたりします。
ですから私達が購入するその様な水草は原生地からショップの水槽に適応し、そして場合によっては現地とは少し違った水質にも適合し育成されてきた水草なのです。
これらの水草を枯らすことなく上手に育成し、または増殖させるためにはどうしたらいいのでしょうか?
そう、原生地からショップへ来たときと同じようにその水草の生命力と適応力に期待して、それまで生きてきたショップの水槽の条件に出来る限り近づけた水槽を用意してやることとなるのです。
そのためにはその様な水草を購入するときにはそれまで育成されてきた水槽の状況をよく聞いておく必要がありますし、場合によっては購入前に新しい環境の水槽を準備しておかなければならない場合もあるでしょう。
このようにして少しずつ環境の変化に適応させながら最終的に我が家の水槽環境に適応してくれればその水草の持つ本来の生命力によって爆発的に増殖するようになるのだと思います。
育成難易度の高い水草は環境の変化への適応力・順応力が高くないので急な環境の変化を与えてはいけない、これが1つのキーポイントだと思います。
次に、水草自身について。
例えば、育成難易度が高いとされる南米産有茎草の心臓部、最も大切なところとは何処でしょうか?
それは根を出し葉を出す茎の部分です。
この部分がしっかりしていなくては良好な生長は望めません。
太くてしっかりとした堅さのある茎ならば適応した環境において十分な栄養分があればすぐに発根し葉を展開します。
そして環境が少し変われば新芽を展開し新しい茎を作り出します。
これが環境に適応しようと言う能力の現れでここで生まれ生長する新芽がその環境に適合した茎なのです。
よくなかなか生長しない、新芽が出ない、と言うようなことも聞きますが、どうも我々は水草時間感覚が麻痺しているようです。
新婚さんの所に赤ちゃんが産まれ、ハイハイするようになり、一人で歩けるようになるまでどれぐらいの時間が必要でしょうか?
それを考えると水草の生命力、生長スピードはあまりにも早いためにどうしても育成者としては待ちきれないこととなるようです。
新しく導入した水草が順調に生長するにはまず与えられた環境に適応するための時間が必要となり、また、発根していない状態の水草を購入した場合(ほとんどがそうですが)は発根しその根が伸びて栄養分をしっかりと吸収出来るような状態になるまで、目に見えて生長するようにはならないものです。
そしてその間は購入した水草本体の体力だけが生き延びるすべとなります。
当然親となる水草は日に日に弱っていくかも知れません。
コケが付き出し葉が落ちだし見るも無惨な姿に変わっていく場合もあるでしょう。
そして、運良く体力のある内に発根し栄養分を吸収できるようになって、与えられた環境に適合した新芽を出しそれが生長して始めて生き延びたと言うことになります。
当然葉面からの栄養吸収がさかんな水草はそのリスクは少なくなります。
しかし、結局根本がしっかりと底床をつかまない限りは結果はおのずと見えています。
新芽を出すと言うことはどういうことか?
これは一般的に言えばそれまで生長してきた、生き続けてきた茎が環境の変化に耐えられずに子孫を残しそれに託した、と言うことになると思います。
と言うことはその茎はいずれ枯れていくか死んでいく運命にあるのだと自覚したからかもしれません。
現実的にもその様に新芽を展開してきた茎はコケだらけになったり次々と葉を落としていったりします。
しかし、新芽はいくいくと育ち大きくなっていきます。
そのまま放置しても茎の下の部分と根の部分がしっかりしていれば育ちますが新芽は太く丈夫な茎にはなりにくいです。
ですからある程度生長した新芽は親茎から分かれた場所でカットし差し戻します。
このようにしてその与えられた環境に適合した水草を育成していくのです。
最終的に親茎に余力があればまた新たに新芽を展開するでしょうし力が残ってなければそのまま枯れて行ってしまいます。
これが世代交代、繁殖に当たります。
このように本来の「水草を育成する」とは購入してきた水草をそのままの状態を保ちながら生長させるのではなく、植栽した水槽の環境に適合して生まれてきた新芽を生長させることなのです。
購入してきた水草本体はあくまで親とし、そこから子を取りそれを維持していくのが水草を育成すると言うことだと思います。
特にちょっとした環境の変化で頂芽がいじけたりするタイプの水草は、頻繁に環境に変化を与えると新芽を展開する力さえなくしダメになってしまったりします。
俗に言う、シビアな水草、ナイーブな水草と言うことになるでしょう。
最後に、Aと言う水草は・・・・・・と言うような条件で、Bと言う水草は・・・・・・・と言う条件が・・・・というのは決して間違いではありません。
しかし正確に言うと「最終的には南米産水草にとって必要な基本的な環境であれば育成は可能」です。
ここで言う基本的な環境というのは水質だけでなく、底床の状態、含まれる肥料分、光の質と強さ、CO2の添加量、水流の程度から微量元素の含有量まで、様々な要因の全てがバランス良く成り立っている状態のことです。
この基本的な環境の構築というのが最も難しく、それを維持し継続させていくことが水草育成における最大のポイントとなるのです。
そして育成難易度が高いとされる水草は、育成しようとする水槽内でも最も条件がよい場所、位置に植栽するようにします。
いわばVIP席ですね、このように水槽内での優先順位を上げてやることで環境の変化へ適合しようとする力を助けてやることが出来ると考えます。
水槽内でも周りを生長した水草に覆われていたり、他の水草の根が張り巡らされているような位置、日当たりの悪いような位置は選ぶべきではありません。
せっかく生長した新芽をその様な位置に差し戻した結果、ダメにしてしまったと言うこともよく起こることです。
差し戻す場合にも出来る限りそれまでの環境と変わらないようにしてやることが成功の秘訣のように思います。
このように難しいとされる水草の育成はいかにして自分の水槽に適合させるか?
そして安定した良い環境をいかにして維持管理していくのか?、が最大のポイントであるように思います。
そのためには、購入したショップではどうだったのか? 適合させやすい物を購入できたか?
そして、それらの元になる基本の水槽が状態良く安定した水槽であるか?と言うことが大切であると「わたしは」思います。
「水草を育成すると言うことは、購入した水草を親とし新芽を出させそれを大きくする、自分の水槽の環境に適合した水草を育てると言うこと」だと考えます。
さぁ、あなたも育成難易度の高いとされる、南米産水草の珍種の1つにでもチャレンジしてみて下さい。
ダメなときはダメですし、うまくいくときは知らない内に素晴らしい水草と生長してくれます。
私達は水草の力を信じ少しだけ手を貸すだけです。
やってみなければあの美しい姿を自分の水槽で見ることは出来ませんよ・・・・。
きっとうまく行くはずです・・・・・・・。(笑)