シャワークライミング初体験記・金剛山妙見谷(大阪)
2004.5.9
「沢登りに挑戦したい」というのは永年の夢であった。それが今年、ついに実現したのだった!!
もう10年来のおつきあいをさせていただいている山仲間みっちゃんが、ある日突然メールをくれた。
「沢登りに連れて行ってくれる人を見つけました!一緒に行きませんか?」と。
ヘヘーイ!!行く、行く!!!
喜び勇んで返信。しかし・・・沢登りに行くには専用の靴が必要。たった一度きりのことにお金を使うのもなぁ・・・と思っていたところ、再びみっちゃんからメール。
「私は今後も続けるつもりなので、靴を買います」と。
みっちゃんが続けるというのなら、私もそれについていけばよい。そして私はなんのためらいもなく、沢登り用の靴を買いに出かけたのだった。
意外に安かった(6000円くらい)。見かけは普通の短靴なのだが、足を入れてみるとつま先が地下足袋のごとく二つに割れていた。そして靴底はフェルト製。コケの生えた岩の上も滑らずに歩けるようになっている。
飛び跳ねながら心待ちにした5月9日・・・しかし雨。早朝から駅で待ち合わせた我々は開口一番、
「で、どうする?行くの?」
雨の中の沢登りなんて・・・しかし「やめましょう」と口に出すのも悲しい。
今回、超初心者の我々を導いてくださるS氏が
「地上天気図と高層天気図を見て分析した結果、僕の予想では昼から大雨だ」
と言う。
地上天気図とはテレビや新聞などで一般的に報道される天気図のこと。高層天気図はいわゆる「山の天気図」で登山に行く際に参考にすべき「高所での天気図」のこと。
S氏の提案で我々は行先を変更。当初は滋賀県の比良山に行く予定だったが、金剛山の妙見谷に行くことにした。
金剛山とは大阪の南の方にあり、一応大阪府最高峰(1125m)だが、地元の小学生が集団登山をする山。
展望もイマイチだし、はっきりいってショボイ。でも行けないよりはマシ。我々はS氏に従うことにした。
登り始めは普通の土の道、しばらくするといよいよ沢の中へ足を入れる。ひやー!ドキドキ!
「怖かったらムリしなくていーからね」
と、S氏が言う。今回の沢登りは超初心者向け。沢沿いにずうっと普通の登山道がついているのだ。
最初のとりでは上の写真。でかい一枚岩を登らなければならない。S氏に手取り足取り指導を受けつつ、ハーネスを装着する。
ハーネスとは腰につける装着具で布製。それにはカラビナ(鉄製のフック)がついていてそれにザイル(命綱)を通して、上から引き上げてもらう。
S氏が先に登り、上からザイルを投げてくれた。
まずはみっちゃんが登る。次にかまちゃん、最後に私。3人ともけっこう苦戦した。岩がつるつるして滑るし、足をどこにひっかけていいかの判断が難しい。
最初からこんな調子では・・・。
「まぁ、全部の沢を登らなくてもいーよ。巻き道があるんだから、登れる沢だけチャレンジしたらいいから」
S氏がひそかになぐさめてくれるが、みっちゃんは、
「私たちってさ、そこらのヤワな女とは違うから。登れなかったら『どうして登れないのか』『どうやって登ったらいいのか』必死で考えつつ、どうしても登ろうとするからね。間違っても『いやぁん、こわぁい♪』なんて言わへんから。なあ、あっこちゃん?」
私が山に登り始めたのは大学を出た年の夏で、大学の友達と先生と一緒にこぢんまりとした人数で白馬に登った。先生以外は全員初心者だったけど、その初心者全員が山にハマってしまった。
次の年にはメンバーそれぞれが自分の友達や彼氏や彼女を連れてきて、前年の倍の人数でゾロゾロ登った。総勢15人。
みっちゃんはその15人の中のひとりだった。山にハマった友達に連れられて来た大勢の中のひとり。
15人もいりゃあいろんな性格の人がいる。日頃は物静かなのにみんなが疲れてくるとリーダーシップを発揮する人、どんなに疲れていても他人に対する心配りを忘れない人もいるが、ザンネンながらその逆もいる。
女性の場合はやはり・・・依存系と自立系とにはっきり分かれる。
10年前に穂高に登ったときの話。
天候に恵まれず、一日中霧の中を歩き続けたのでびしょぬれになってしまった。体が冷えたせいで、頭痛を訴える者が多数出た。山小屋へ着くなりカップル3組は部屋にこもって寝てしまった。男達は頭痛に苦しむ彼女達を気遣って添い寝を始めた・・・。
いたたまれなくなって外に出たメンバーの中にみっちゃんと私もいたのだった。
「私も頭痛いんやけどなぁ」
と、ぼやきながら外で熱い茶などを飲み、ガマンしたことがなつかしい。
いろんな女の子がいたなぁ。たいしたことない岩場で「きゃぁ怖い♪」とか言いながらもたもたするヤツ、荷物が重いからって彼氏のザックに自分の荷物を押し込んでラクラク登山をするヤツ、彼氏とばっかりくっついて他のメンバーと話をしないヤツ・・・。
ま、要するに彼氏のいない女のやっかみだけど。みっちゃんも私もそういう女達に苦しめられたのだった。
15人いたメンバーも次々に結婚。子供ができるととうとう山には来なくなり、今では私とみっちゃんだけになってしまった。
「ま、最初から予想はできたわ、最後まで残るのは私らふたりやろうな、と」
私とみっちゃんは固い絆で結ばれる同志なのだった。
「Sさん、私とあっこちゃんは『同類』だから。間違っても『キャー』なんて言わへんで」
「うーん・・・男としてはちょっとくらい『キャー』とか言ってくれたほうがウレシイんやけどなぁ」
「ありえへん」
同類「みっちゃん」が最初の沢を登る
今回のメンバーは4人。リーダーのS氏は東京生まれの東京育ち。高校時代から山岳部でバリバリ鍛えた山男。就職で大阪に来て、今では4人のお子様のパパ。みっちゃんとは仕事関係の知り合い。みっちゃんは市会議員という特殊な職についているため、大変顔が広いのだ。
みっちゃんの話によると、S氏は学生時代は山岳部でいろんなところを登っていて、子供ができてしばらくは山から遠ざかっていたけど最近また登り始めた。でもしばらく遠ざかっていたために山へ行く連れとも遠ざかってしまい、今ではひとりで登ることの方が多いので、私たちのような連れができてSさんもウレシイはずだ、とのこと。
「みっちゃん、ええ人見つけたなぁ」
「そやろ?」
※ふたりはただの知り合いで、けしてアヤシイ関係ではないので念のため
そしてもうひとり、かまちゃんもみっちゃんの知り合い。保育士さんで、毎日0歳児を片手でかついで走り回る日々だそうだ。仕事柄、基礎体力がきっちりしているせいか、彼女はなかなかスジのいい登り方をする人だった。
彼女のスジのよさ、下の写真でごらんください。
かまちゃん、あなたも同類ね♪
いくつかの沢を越え、とうとうやって来ました。この沢一番のヤマ場、もはや沢ではない、これは滝だ。落差15メートル!
「これに登りたかったんや!前はザイル持ってきてなかったからあきらめたけど、今回は登らせてくれ!」
と、S氏は目を輝かせつつ、巻き道を一気に駆け上がり、滝の上の木にザイルを固定。再び下に下りてきた。私達は滝の下でザイルを支持する役目に回った。
「本には『登るな』って書いてあったけどな、登れないことはないよ」
と、軽々と登っていくS氏に私達は羨望の眼差しを送った。
「あー・・・これは私らにはムリやな。悔しいけど巻き道登ろうか」
と、ため息まじりでS氏を見上げた。滝の上でS氏はニヤリと笑い、颯爽と下りてきた。
「さ、次どうぞ」
S氏は私の目の前にザイルを・・・
目の前に出されては・・・ほとんど無意識に、私はザイルを受け取り、登る体勢に。
さっそく取り付いた。下から見上げるほど難しそうでもなく、結構たくさん足場があった。何の苦もなく3分の2は登れた。
が・・・最後の一息がどうにもこうにも・・・岩が途中から土に変わっているのだった。どこをつかんでもボロボロと土がこぼれてしまう。
「おーい!下見てみい!気持ちいいで!」
と、S氏が下から叫ぶ。顔を後ろに向けると、ものすごい水しぶきをあげつつ滝が落下しているのだった。気持ちいー!!!(私、高い所大好きなのよね♪)
と、喜んでいる場合ではない。早く登らなければ。しばらくあちこち足場を探したがやっぱりどこもかしこもボロボロ崩れる・・・。どうにもならないので、草の根っこをつかんで腕力で登ってしまった。
やったーーー!!滝の上で思わずガッツポーズ!
こんな感じで登る。上の黄色いのが私
みっちゃんもかまちゃんもなんとか登ってきた。わーい、オメデトー!
さ、次行こか!
昼から大雨とは誰が言った?天気は上へ行くほど回復してくるようだった。
ほどなく次の岩場が現れた。
「え!?まだ登るの?もうザイルしまっちゃったよ」
先ほどの滝で満足したと思ったのか、S氏はザイルをザックになおしてしまったのだ。めんどくせーな、と顔に出しつつS氏はザックからザイルを取り出していた。私達は見て見ぬフリをした。
まだまだ登るで〜 | 新緑がキレイ♪ |
結局全ての岩場を登ってしまった。S氏もびっくり、「初心者のくせに全部登るとはなぁ」
「あたりまえや」
根性のみでキビシイ社会を生き抜いている私たちの辞書には「あきらめる」という文字はない。
やがて源流に到着し、そこから上は普通の登山道に。そして金剛山頂上に到着。
着いたら宴会。お約束のビールで乾杯、喉を潤し、S氏が持参したワインやチーズをつまみつつ、コンロでお湯を沸かしてラーメンを作る。山で食べるものはなんだっておいしいのデス!!
というわけで何から何までS氏の世話になりつつ(車の運転も)終えた今回の沢登り。普通の登山とは違う視点で山を見られたことは貴重な体験だった。GWの最終日だというのに山はひっそりとしていて、何にも邪魔されずに楽しめた。
今後は自分でザイルを結べるように勉強し、信州の沢にもチャレンジしたい。せっかく靴を買ったんだからね!
後日、私達はみっちゃんの家に集まった。
駅まで迎えに来てくれたみっちゃんと共に玄関を開けると・・・ダシのにおいが!!
「うわー!!かつおダシのにおいがしてるぅぅぅ」
「そやろぉ?玄関開けたらダシのにおい!いつもこんなんやったらえーのになぁ!」
実はS氏は料理の達人。この日は早くから仕込みに来てくれたのだった。私が「和食好き」だということで、和食中心の豪華料理を作ってくれた。茶碗蒸し・揚げ豆腐のあんかけ・ふきの煮物・煮魚・海鮮イタリアンサラダ・中華ちまき。ぜーんぶ手作りよ!!!
「大したことないよ、特に和食なんてコンブとかつおでダシさえとれば、なんにでも応用がきくしね」
と、S氏は笑うが・・・
・・・それがめんどクサいのよねぇ・・・
そして私達はS氏の手作り料理に舌鼓を打ちながら、楽しかった沢の話で盛り上がったのだった。
「私達がこうやって喜んであげることが、Sさんにとって何よりもウレシイことなんだから」
と、みっちゃんは私にささやいた。
「そうやな、せいぜい喜んで、また連れていってもらおう!」←どこまでも彼を使う私たちなのであった。
山はスギの人工植林がすすんでいます。新緑の時期だったのでそれが遠目からでもよくわかりました。山はつぎはぎ状態です。上の写真、左半分は植林、右半分は自然林です。
一度伐採してしまうと、こういうことになるんですね・・・自然の美しさは元に戻らないのです。