2 0 0 4 年 ・ 夏 山 紀 行
(笠ヶ岳/北アルプス)
今年はひと山だけ。しかも2泊3日というショートな旅でした。
*8月12日・金曜日 / 天候・晴れ / 歩行時間・1時間
新穂高温泉〜わさび平小屋(泊)
朝8時半頃、バスにて大阪・梅田を出発。お盆のさなかなので渋滞に巻き込まれる。うああああ、そーいえばこんな時期に山に出かけるのは久しぶりかも。いつも「混んでる時期は外す」ので。
新穂高温泉に到着すると17時を過ぎていた。ヤバイ。予定では15時前につくはずだったのに。
登山届を出すとすぐに歩き始めた。日が暮れるまでに行かないとコワイし。
今回はテント泊にした。というのはやはり「お盆」だから。山小屋は混んで混んでかなわないだろうと。
テント泊は3年ほど前にしたことがあるが、その時は1泊のみ、しかも涸沢(からさわ・上高地から6時間ほど。穂高連峰の中腹あたりにある)だったので、今回のように本格的に山頂を目指すテント泊は初めて。
荷物の重さは測ってないけど、かなり重い・・・小屋泊りとは全然違う。
すぐに肩がしびれ、腕の感覚がなくなってきた・・・オイオイ、こんだけしか歩いてないのに大丈夫か、などと不安になる。
幸い日暮れまでに小屋に到着。
小屋にはいろんなものが売ってます。
あー、スイカ食べたかった。やはり山は友と来るべき。
小屋のおじさんにびっくりされてしまった。「女性のテント単独行ですか!かっこいいですねえ」と。
かっこいいと思ってくれれば嬉しいが、大抵の人はオンナがひとりで山に登るなぞ、きっと「友達がいない寂しいヤツ」あるいは「家庭不和で悩んでいる」などと思うにちがいない。
寂しくなんかないもーーーん!!!(実はちょっとさみしかったです)
早速テント設営。小屋のすぐそばにあるテン場(テント場)は広々として木々に囲まれ、地面もなかなかいい感じ。
隣のテントはとてもでかかった。中には若者の集団が入っている様子。そして彼らは歌っていた。歌声からして人数10人はいる気配だった。
「あ、そこ、もっと声を揃えて!ハイ、せえの!ラララ〜」
ただ歌っているのではなく、真剣に「練習」をしているようだ。聴いたことない歌だったけど、歌詞は「山男の歌」。オレは山に行くのさ、止めてくれるな、みたいな。
はて、コイツラは登山部か合唱部か?もしや、この合唱は夜更けまで続くのか?
20時をまわると彼らは静かになった。ホッ。
テントでひとりで寝るのは初めてではないのに、なかなか寝付けない。おかしいな、疲れてるはずなのになぁ。
午前2時頃、隣の若者達が起き出してきた。人の気配に安心してか、やっと眠れた。なさけねー、、、、小心者。
*8月13日・土曜日 / 天候・晴れ / 歩行時間12時間
わさび平小屋〜小池新道を経て鏡平〜弓折岳〜笠ヶ岳
4時に起床。テントを片づけるのに思ったより時間がかかってしまった。
空はまだ真っ暗だけど、登山者の朝は早いのだ。テン場を去って小屋の前で朝食。今日の行程は長いのでしっかり食べておこう。
朝食:水でもどした餅&乾燥アンコ、ほうじ茶
餅は昨年、信州在住のotoさんにいただいたもの。
この日まで大切に保管しておりました。
わさび平小屋は水が豊富なところ。すぐそばにきれいな川が流れていて、そこの水は生でも飲めるくらいきれい。
出発直前、景気づけに一杯!コップをさぶんと川につっこみ、ゴクゴク!!
5時15分、だいぶ明るくなってきたので歩き始める。
昨日あんなに重く感じたザックがなんだか軽い!前に続く林道は静かでだあれもいない。さわやかな夏の朝の空気が充満しているのみ。
「ホホホ、今日も元気だ、空気がうまい!天気もいいし!ホホホ〜」
誰もいないので歌いながら歩く。
ところで、笠ヶ岳に登るにはわさび平ちょい手前から登る「笠新道」という登山道が1番近道であるが、あえて私は遠回りしてみた。2時間ほどしか変わらないし、景色もこちらの方がよさそうだったので。
いや、何よりも私は「笠新道」を登るのを避けたかった。その理由は笠新道は日本三大急登のひとつと言われている。勾配がきついばかりではなく、道は細くてうっそうとしており、展望もない。そんな道を一人で歩くのは悲しいし・・・。
それともうひとつ、私には目的があった。
鏡平に行きたかったのさ!!!その理由はのちほどゆっくりお話しよう。
林道を抜けると岩ゴロの道になった。明るくて広くて気持ちがいい。前にも後ろにも人はいない。あれ、おかしいなあ。お盆なのに人が全然いないよー。
すぐに山道になった。この道を歩くのは2度目。数年前、ここに来たときはちょうどこのあたりで休憩をとったっけ。あの時は8人で登ったはず。
あぁ、あの頃は楽しかった・・・しばし昔を回顧する。
今回どうして単独行になったかというと、「急に休みが取れたから」だった。
部署異動になったばかりで長期休暇はとりづらく、今年の夏はあきらめていたけれど、「盆はヒマだから休んでもいいですよ」と7月も末になってから上司に言われ、「それじゃあ休みますっ!!」と。こんな間際じゃただでさえ少なくなってしまった山仲間の確保もできず。ま、ホントはたまにはひとりで歩いてみたいという気持ちもあったけれど。
清流に心癒されます | さて私はどの道を選んだでしょうか |
道中は素晴らしいお花畑!天気はいいし人はいないし全く快適。去年といい今年といい、天候に恵まれたことはなによりラッキーなことである。
3時間半ほどで鏡平に到着。荷が重いわりにはなかなか好調な足取りだ。アタシって結構イケテるやん、と自己陶酔。
鏡平というところは槍・穂高連峰を一望でき、素敵な池がある。写真集や絵葉書に頻繁に取り上げられる北アルプス有数の景勝地である。下の写真をクリックしてみてね。
どうだろう、少しでも行った気分を味わっていただければ幸い。
私はザックを下ろし、小屋へダッシュ。ここではなんと「かき氷」が食べられるのだ!!私の目当てはまさしくこれでございました。
すでに先客あり。40代くらいの女性がいちご味のかき氷を注文していた。が、その女性がひとこと、
「売り切れだって」
ガーーーーーン
「いちご味が売り切れなんですよね?」
「ううん、メロン味もレモン味もみーんな売り切れ。私がたのんだので最後だって」
ガビーーーーン
「ハハハ、冗談よ!顔色変わってる〜〜〜」
な、なんだ、冗談か・・・。悪い冗談はよしてくれっ!
「いぢわるですねぇぇぇぇ!これを楽しみに歩いてきたのにぃぃぃ」
小屋のおじさんもウケていた。「売り切れ」と聞いたときの私の顔、そんなにヘコンでたのか。
「売り切れたらな、すぐに宅急便で持ってこさせるよ〜。心配無用!」
おじさんはニコニコしながら私の分のかき氷も作ってくれた。私はメロン味にしてもらった。さきほどの女性が「お騒がせしたおわび♪」と言いつつ、練乳をかけてくれた。ほほぉ、練乳持参とはえらいリキの入りようだ。悪い冗談にまんまとひっかかり、精神的苦痛を味わったが、練乳かけてもらえたから許してあげよう。
鏡平小屋名物・かき氷 | 昼食はピザトーストにしてみました |
鏡平があまりに居心地よかったので予定より30分も長居してしまった。しかしまだ10時。あと1時間後には稜線に出られる。別に慌てず用意をし、歩き始めた。
し、し、しんどい・・・・・・。心臓バクバク。ちょっと休みすぎたか。ペースを落としつつ登る。道は陰のない岩の道。暑い、いや、熱いよおおお。汗が滝のように流れ落ちるが照りつける太陽の光であっという間に乾き、そしてまた新たな汗が吹き出てくる。
1時間後、ようやく稜線に出た。水分補給と、そして重要なお仕事を。日焼け止め塗りなおし。こんだけ汗かきゃいくらウオータープルーフといえども全部流れ落ちてるだろう。手のひらに日焼け止めを垂らし、顔へ。
な、なんなんだ!?このざらざら感はっ!!砂埃か?いや、今まで歩いてきた道は埃が立つような道ではなく、カラカラに乾いた岩の道ばかりだった。それに砂埃にしてはこのざらざらの粒は大きすぎる。
も、もしかして「塩」か・・・手についた粒をかじってみた。カライ!やっぱり塩だった。顔に塩が出るほど汗をかいたのは生まれて初めての経験。
こんな目にあうほど運動すれば・・・痩せられるだろうか!今度こそ痩せられるだろうか!!!
熱い希望を胸に再び出発。弓折岳を矢のように通り過ぎ、今度は下る。
下ったら・・・登り返さなければならないのが山登り。あぁ・・・眼前にたちはだかる大きな山、そして急激な登り。えっちらおっちら登る。
それにしても人がおらんなぁ。お盆なのに、こんなに天気もいいのに、みんなどこへ行ってしまったのだろう。槍や穂高に行ってしまったのだろうか。それとも笠新道を登ってるのだろうか。
槍・穂高連峰。左の尖ったのが槍ヶ岳、右方向へ連なるのが穂高連峰。
4、5年ほど前に縦走したけど、かなり険しいところ。
特に写真右寄りにある大きくくぼんだところは「大キレット」と言われ、北アルプスでも有数の難所です。
急登のあと、目の前がぱあっと開けた。そこは秩父平。ところどころに大きな岩があり、目の前には槍・穂高の大展望。
広い場所にただひとり。この景色、ひとりじめ。抜けるような青空、雲ひとつない。今日は天候は崩れまい。
「あー、もうどーでもいいや」
大きな岩に大の字になって空を見上げた。
太陽で暖められた岩が背中に。きもちいー!!あー、もうどこにも行きたくない。ここに泊まりたい。
そういうわけにも行かずすぐに歩き始めたけれど、一度湧いた感情「もーどーでもいーや」。またすぐに休憩。別の岩に寝ころんだ。
そういえば今回は自分の写った写真が一枚もない。私は起き上がって自分にデジカメを向けてパシャリ。
デジカメのいいところは写したらすぐに見られるところ。早速見てみた。
意外に暗い表情をしている私。イケテない。。。もう一枚、今度はニコリと笑ってみた。
あーあ、デカイ顔だなあ・・・。もう一枚、今度は少し上から写す。これなら少しは小顔に見えるだろう。
変わりなし。やはりデカイ顔は小さくはならん。その後もいろんな角度で写してみたがどれもさえないので全部消去した。
あーあ、こんなところでひとり、何やってんだか。
何度も休憩しながら秩父平を登る。これを登りきれば目指す笠ヶ岳が見えるだろう。
そんなに急な登りでもないのにめちゃくちゃつらかった。典型的な『休みすぎによるバテ』だ。
とにかく重い、このザック。
山はこんなに静かじゃないか!こんなことなら小屋に泊まればよかったのではないか。
稜線に出るも、笠は見えない。
あぅあぅ、遠いよぉ、もぉ歩くのヤダよぉ、とぼやいたところで誰もかまってくれはしない。仕方なく歩く。
やっと笠が見えてきた。
げーっ、遠!!!地図で見たらあと1時間ほどで着くはずだが、あんな距離1時間ではとてもムリ。でもペースを上げる体力も精神力もなし。何度も休憩を繰り返しながらとぼとぼ歩く。ここまで来てしまったのなら行くしかない。
ハクサンイチゲ | チングルマ(分類は『小低木』だそう) |
あぁ、もう干からびそー・・・この登山はムリな登山だった。天気がよかったから救われたものの、やはり今度からは「1日6時間行程」を厳守しよう。
化粧を直す余裕もなく、ヨレヨレの姿でひたすら歩く。
ようやく笠新道との合流地点を通過。ヨレヨレ。
と、そこに現れたのは、
まぁ、こんな山ン中ではめったにお目にかかれない、さわやかな青年だこと!
「ひとりで登るなんてスゴイですねえ、学生時代は山岳部だったんですか?」
と、訪ねられ、
「ううん、山は社会人になってから初めたんですよ」
「じゃあ僕と一緒ですね!で、山は何年目くらいですか?」
「ええっと・・・(思考回路がうまく働かん)、ええっと・・・かれこれ12年くらい?」
「12年!? じゃあ、結構・・・・・・」
結構、の次の言葉をおっしゃい!さあ早く!
ところが彼は言葉を濁した。それじゃあ自分で言っとこう。
「私、今年35になるんですよー」
てなわけで、随分気楽になった。連れができると足取りも少し軽くなったような気が。しかしこんな若い人が笠ヶ岳に登るとはなかなか渋い趣味である。若い人は槍や双六や穂高に行きたがるものだろうに。
「実は双六方面に行こうと思ったんですけど、笠新道登ってたらイヤになっちゃって。明日は天気も崩れるらしいので笠に変更しましたー」
これだから若い人はよい。年寄りほどムリな登山をしがちなもんである。余生が短いから焦るのか、私が聞いても驚くようなハードスケジュールで登ってる人が多い。
このさわやか青年の年齢を聞いてみると・・・なんと25歳だという。わ、若ッ!ウチのダーリンより若いのか・・・(なぜか罪悪感)。
予定より2時間以上遅れて笠ヶ岳のテン場に到着。青年の隣にテントを設営させてもらうことにした。ここのテン場は小屋から5分ほど離れていて、かなりダルかった・・・。トイレに行くのにもひと苦労って感じ。
小屋で宿泊申し込みをしたあと、いよいよ笠の山頂へ。
ひょえー、お疲れ様でしたぁ!と自分で自分をねぎらった。なんとか日没までに山頂に立ててよかったわ。写真を撮ったあとテントに戻った。
先ほどの青年がザックの中からあれやこれやとフリーズドライ食品を出してくる。ホントは槍穂高へ行くつもりだったから食料を大量に持ってきていたのだそうだ。荷を軽くしたいから食べてくださいと言われ、遠慮なくいただくことに。
そして考えた。彼はどうしてこんなに親切なんだろう。もしやもしや、山でカノジョを見つけようという魂胆かもかも・・・(ウヌボレすぎ)。
アタシには夫がいます・・・ひとりでお気楽にこんなとこに来てるけど。
私のかついできたテントはでかい。二人用のテントだ。どーして二人用のテントなのか。その理由を彼にさりげなく説明。
「ダンナがね、『結婚したら僕と一緒に山に登ろう』なんて言うからさぁ、だまされた!ハハハ」
彼は明日は笠の山頂の向こう側、クリヤ谷の方へ下山するという。私は夜明け前にここを出て笠新道を下る予定だと言うと、
「僕もそうしようかなあ」
悪いので断ったが、彼は車で来ており、一緒に下山すれば車で送ってくれるという。バスの時間にしばられることもないから朝もゆっくりできる。
「車で送ってもらえるならゆっくりできるなあ」
とつぶやいてみたら、
「じゃあ、一緒に下りましょうよ。だったらご来光も見られるし!せっかくだからきれいな太陽を見て行きましょう、そうしましょうよ!」
と、彼は屈託なく笑うのだった。先ほどのウヌボレを心から恥じつつ、私は彼とともに下山することにした。
食事後、早々にテントで就寝。
彼はまたもや屈託ない笑顔で「朝、起こしてくださいねー」と言いつつテントの中に入っていった。
夜、ものすごい風だった。私のテントはテン場の一番端だったので、テントごと吹っ飛ばされて谷に落ちるんではなかろうか、と思うほどだった。不安で眠れず。
夜中に風の音とは明らかに違う音がした。人が歩きまわる音・・・。こんな端っこをこんな夜中に誰が歩いているのだろうか。
もしかしたら遭難者の霊だったのかもしれない。そうとしか考えられない。
もうすぐ夜明け
翌日、天気は崩れそうな感じだった。私は急いでテントを片付け朝食の用意。ベーコンとたまねぎを炒め、フランスパンを入れたあとコンソメスープで煮込むという「パンがゆ」(山の料理の本に載っていた)にチャレンジ。イマイチおいしくなかった。急いで作ったからたまねぎが半煮え。
もうすぐ太陽が上がってきそうなのに、隣の青年はなかなかテントから出てこない。もしや・・・昨日「起こしてくださいねー」と言っていたのは本気だったのか?てっきり冗談だと思っていたので、慌てて起こす。
外からテントを叩いて「おーい、おーい、おーい」
「あ〜もう朝ですかぁ、ぐっすり眠っちゃいましたー」
そうして一緒にご来光を見たあと、笠新道を下った。
長い長い長い下り道。途中でとうとう雨がしとしとと。でも森の中に降る雨はいいにおいがするので好き。
それにしても距離長すぎ・・・6時間以上かかった。やっとの思いで林道へ出た。
「あーーーー、歩けたぁ」
ツアー登山に参加していたおばさんが林道に着くなり泣いていた。それを見て私までちょっとウルウル。
ほんとに長くてつらい道のりだった・・・。結局この山はどこから登って下ってもキツイのだった。多分、この山には二度と行かないな。
帰りは温泉に入る時間もなく、トイレで体を拭いて着替え、車に乗せてもらって駅に直行!
車の中で名刺をもらった。彼はバリバリの研究職で、大学では数学を専攻してたそうだ。
数学かぁ・・・(羨望)。彼の理知的な面立ちを見て大いに納得。
ゆっくり温泉入って食事でもできたらよかったけれど、バスの時間が迫っていたので駅でバイバイしなければならんかった。こりゃ残念!
そんなこんなであわただしい山行でしたが、自分の限界を知ることができ、教訓を得たので充実してました。
「ムリな登山はやめよう。歳を考えて計画しようぜ」
自分に言い聞かせつつ、今年の夏は終わったのだった。
撮影:ほし君(山で出会った青年) 場所:宍道湖
彼は写真が趣味で、時々メールできれいな写真を送ってくれます。
その中でもこの夕陽の写真は私のお気に入り♪
とってもきれいでしょ?