過去のもの

近藤嘉宏 :クリスマスコンサート   2004.12.25 西宮市民会館アミティホール(兵庫)

(第1部)
 ショパン:ノクターン遺作 / ノクターン第8番 / ワルツ第7番 / 小犬のワルツ / 幻想即興曲 
 ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番「悲愴」

(第2部)
 ラフマニノフ:ヴォカリーズ 
 ドビュッシー:月の光 / 亜麻色の髪の乙女
 ラヴェル:水の戯れ
 ベートーヴェン:ピアノソナタ第14番「月光」

(アンコール)
 シューマン:アラベスク


 今週はなんてすばらしい!週に2回も近藤さんが関西に!近藤さんが忙しいと私も忙しい!!
 というわけで西宮へ行ってまいりました。今日は私とダーリン、7回目の結婚記念日だ。夫婦でラブラブコンサート、ラブラブクリスマスや!またふたりでサイン会に並ぼう。
 今日はダーリンが「近藤にこないだのテレビの感想を言ってみる」と何となく落ち着かない。テレビの感想とは、12日に近藤さんがBSの音楽番組で演奏されたのですが、ダーリンも一緒に見ました。
「なんて言うつもり?」と、私も落ち着かない。ダーリンは「それは内緒や」と教えてくれない。。。変なことを言わなきゃいいが・・・でもうちのダーリンも一応オトナですから・・・大丈夫でしょう。

 ホールに到着。入口に看板が。今日の曲名が書いてある。やっぱり変更になっていた。あぁ、いつになったら近藤さんのお手手は治るのかしら。しばらく長引きそうだなあ。
 座席は前でも後ろでもなくちょうど中間のあたり。音を楽しむには一番いい席だったと思う。
 開演。近藤さん、すぐに弾き始める。今日はトークなし。
 今日は私にとって今年最後のコンサート。今年は本当に楽しい1年だった。関西地区はもちろんのこと、北海道や名古屋に遠征したりNYにまで行けた。各地で親切にしてくださったみなさま、ほんとうにありがとう。来年もよろしくお願いいたします。
 今年もたくさんの夢を私にくれた近藤さん。来年も追いかけますわよ、ご覚悟を!
 端正なショパンの調べにしばし酔いしれる。ダーリンは隣でウトウト。今日は私たちの結婚記念日。去年同様、今年も近藤さんの演奏をふたりで聴けるしあわせに酔いしれた。ショパンの調べは甘くやさしく、私の胸に届いたのだった。

『悲愴』、この曲はベートーヴェンなわりには明るくて優しい響き。近藤さんが弾く2楽章、ホントに好き♪私は近藤さんが好き♪結婚とか恋愛の対象にはならないけれど(当たり前だよ!というツッコミはおやめになってネ)、うまく言えないけれど私は近藤さんが好き。あなたがそこでピアノを弾いてれば私はあったかい気持ちになれるんです。
 
 20分の休憩。CDを買いに行く。前回買えなかったCD、というよりあのハガキ!やっと手に入れた!うひょひょ。
 そして近藤さんにクリスマスカードを書く。家で書いて来いよ、と自分でも思うが、なかなかおもしろい言葉が浮かんでこないので、あれこれ深く考えず、電車の中で考えた言葉をそのまま書く。

 来る年も あなたを追いかけ 東へ西へ 
   よろしくどうぞ。(ご覚悟を!!)

 ま、私はいつもこんな感じですから。でも今年の出来はイマイチだったなあ。でも仕方なし。こんなもんでいいだろうと自分を納得させる。

 うろうろしていると友に再会。彼女とはこないだの奈良で再会できるはずだったが、会社の社員旅行とばっちり重なってしまって残念でした。
 先週、近藤さんが奈良で公開レッスンを行なっているあいだ、彼女は某所で酒盛り、マツケンサンバを踊っていたそうだ。そして翌日近藤さんがコンサートの打合せをしているあいだ、彼女は朝食・迎え酒、そして近藤さんが『悲愴』や『月光』をきれいにきれいに弾いているあいだ、彼女はボウリングに興じていたそうだ。
 早朝テニス、夜は酒盛り・マツケンサンバ。翌朝迎え酒にボウリング・・・働くオンナは忙しい。ていうか・・・地獄じゃろう!!!

 席に戻ってパンフレットを読む。ココの主催はいつでもパンフレットが充実している。だいたいのコンサートはアンケートをその日に回収するけれど、ココのは『郵送かファックスで』ということになっていて、締め切りも1ヶ月ほどくれる。家に帰ってじっくり書けるのが魅力です。
 そして次のコンサートの時にいくつかを選んで載せてくれるのです。私もだいたい出しているけど今回は出さなかった。←NY行ってたし。気が向いたらまた出そうっと。
 そして何よりも!近藤さんのインタビュー記事も載るのです。今回は「前回送られてきたファンのみなさんの質問と希望に答える」という趣旨でいろんなことが載っていた。
 まずはやはり・・・近藤さんが最近激ヤセされたことについて。
 お答えは・・・たまに風邪をひくけど健康。現在の身長は171センチ、体重は57キロだそうです。昨年から今年の前半は55キロだったけど、最近太ってきたんですって。でも「ご飯の量は減らしたけど酒の量は減らしてない」らしい・・・。
 裸眼視力は0.008と0.003くらいで、小学校1年の頃は1.5あったのにその後急激に視力が落ちたそうで、お父さんの遺伝もしくは細かい楽譜ばかり見ていたことが原因?だそう。コンタクトを使うのはイヤなんだって。「目の中にモノを入れるなんて考えただけでもイヤ!」なんだって。かわいー♪
 その他もろもろ。なんかファンクラブ通信みたいだぞ。いや、それ以上か!?
 ここに全部書くわけにもいかないので、このへんでご勘弁くだされ。

 2部が始まる前に社長が出てきた。
「近藤が挨拶をすべきなんですが、彼は弾く直前に熱いお湯で手を温めるとラクなようで、いつものようにしゃべっているとその間に手が冷えてしまうので、今回はお話は省略させていただいています」
 へぇーーー、そぉなのかぁ。
「近藤は『来年早々にでも復活!』と言っていますが、私は本人ではないのでよくわかりません」
 続いて、
「ここで私の話を少し。私の話などどーでもいいと思われるかもしれませんが、さっきからいろんな人に『それどうしたんです?』と聞かれるのでお答えします」
 社長、眉の上にバンソウコウを貼っていた。
「私のバンソウコウのことが気になって気になって演奏どころではないと思われてはいけないので」
 社長、いい感じで客の関心をひく。
 20日に某コンサートホールでリハをしているとき、客席の階段を歩いていてこけたのだそうだ。そしてそこには照明器具がたくさん置いてあり・・・それに激突、おでこまっぷたつに・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁ!
「私も関西人ですからねぇ、『あぁ、これでメガネが割れた、何万円かが飛んでいくー!』と思ったんですが、見たらメガネのつるが少し曲がったくらいで安心しておりましたら、なんかおでこがぬるっとするんです。で、鏡を見たら・・・顔面血だらけッ!」
 ぎゃぁぁぁぁぁ!笑ってはいけないが、笑ってしまう。社長、5針縫ったそうです。近藤さんの腱鞘炎といい、社長の大怪我といい・・・今度の正月はぜひとも事務所をあげて『厄払い』に行っていただきたい。←あとで社長に伝言済み。
 社長はその後もしゃべり続ける。病院で縫ったときの話まで。超リアルに・・・。
 社長のトークが聞けて大変貴重な一日でした。面白かったので今後も続けてくれないかなあ。

 2部が始まる。 ウトウトしていたダーリンがやっと起き上がる。そしてついに「水の戯れ」で拍手をしていた。←それまで拍手なし。なんてヤローだ!
「ええなあ、近藤はこういう曲が合ってるわ。『月の光』もよかった」
「そやろぉ!印象派の曲を弾かせたら近藤さんの右に出るヤツはおらんで」
「それはわからん」
 ブゥゥゥゥゥ!!!

 変更されたプログラムとはいえ、なかなかよくできていると思う。私は個人的にショパンはあまり・・・なのですが、2部はとってもいい感じ。同じような曲調ですが、近藤さんの演奏の素晴らしさが凝縮されてる感じ。手の具合はどうなのか知らないけれど、そういう時に選ばれた曲たちはまさに「彼の得意中の得意」な曲なのだろう。近藤さんも気負わずリラックスして弾いてるような感じ。
 でもやっぱり痛いのかな・・・後半はミスタッチの連続でした。結構ハデに鍵盤外してました・・・あぁ。

「月光」は言うまでもなく。熱のこもった演奏で、客席からブラヴォーの声が。
 今回も満員のホール。腱鞘炎など「何のことぉ?」って感じでした。言わなきゃ絶対わかんないよ。
 でも早く治してねー!待っておりまするぞ!!

 サイン会は即効並ぶ。我々、このあと和歌山へ一泊旅行に出かける予定だったので。待っているあいだ、前のご婦人と後ろのご婦人と歓談。全然知らない人に話しかけられ&話しかけるのは関西ではごく普通のことなのであります。前のご婦人は2年ぶりに近藤さんの演奏を聴いたそうですが、実はデビュー直後からのファン。
「久しぶりに見たらすっごく痩せてたんでびっくりしたわあ!前はね、ぽっちゃりしてホントにかわいらしかったんだから〜!」
 後ろのご婦人は4枚もCDを買っていて、CDの封を開けるのに必死。手伝ってくれというので手伝わせていただいた。
 順番が近づいてくると社長が私に気づいて手を上げてくださった。やっと私のことを覚えてくれたみたいだ♪
「大変でしたねー」と声をかけると「そう!死んでてもおかしくなかったよ!」
 いやいや、社長に死なれては困るぞ。「まだまだお元気でいてくださらないと困ります!」
 そしていよいよ。ダーリン、近藤さんに話しかける。

 ダ:「こないだテレビ見ましたよ」
 近藤さん、ちょっと戸惑い気味。
 ダ:「めっちゃくちゃ緊張してましたよねー!」

 おい、ちょっと待て。それって・・・褒め言葉か?イヤミか?・・・・・・微妙。

 近:「いえいえ、とんでもないです」
 ダ:「ブラウン管を通じて、緊張してる感じが」
 近:「いえいえ」
 ダ:「ヒシヒシと・・・」
 近:「いやいや、とんでもないですー」
 ダ:「・・・伝わってきましたよー」
 近:「とんでもないです〜」
 
 全くかみあっていない!!!
 あまりの「かみあわなさ」に憔悴しきり、私は無言でクリスマスプレゼントを渡し、去る。
 近:「今日はご夫婦で?」
 と言ってくれたが、憔悴のあまり、無言で笑顔だけ作ってその場を去った。

 帰り道。
 私:「全然かみあってなかったな・・・『とんでもないです』はああいうときに使う言葉じゃないよなぁ?」
 ダ:「人の話、まるで聞いとらん」
 ダーリンの機嫌はすこぶる悪い。
 私:「これの繰り返しや。3年くらい経ったらちゃんと答えてくれるようになるから・・・」
 ダ:「アイツ、あかんわ!」
 私:「近藤さん、人見知りなんかもなぁ・・・ファンと話すのに慣れてないんやと思うわ」
 そしてその後も「アンタと話すの初めてやから緊張してはったんやろ」「疲れてはったんやろ」などと、フォローを入れまくったけどイマイチ。

 しばらくサイン会は自粛しよう。
 ふたりのかみあわなさになぜか激しく落ち込んだ私なのでした。
 でもよかった。かみあわない会話をしてるのは私だけではなかったのだなぁ。安心した!
 


近藤嘉宏 :ベートーヴェン3大ピアノソナタ   2004.12.19 やまと郡山城ホール(奈良)

(第1部)
 ショパン:ノクターン遺作 / ノクターン第2番 / 小犬のワルツ / ワルツ第7番 / 幻想即興曲 
 ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番「悲愴」

(第2部)
 ラフマニノフ:ヴォカリーズ 
 ドビュッシー:月の光
 ラヴェル:水の戯れ
 ベートーヴェン:ピアノソナタ第14番「月光」

(アンコール)
 ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女
 ショパン:ノクターン第8番
  

 前日(11月18日)夜、私はこたつに入りながらワープロを打っていた。近藤さんに手紙を書いていたのだった。NYでいろいろ楽しかったこと、無礼な発言をして困らせたお詫び、カーネギーホールでの演奏のこと、今日持参したお酒についての説明、そして・・・念願の「関西でのベートーヴェン4大ソナタ」が実現した喜びと。
 今までこんなに真面目に近藤さんに文章を書いたことはなかったので、異様にキンチョウしてしまい、手書きで書こうと思ってもうまくいきそうにもないのでワープロ打ちで失礼させてもらった。
 NYのお礼はホームコンサートで家を貸してくださったMさんと社長にも手紙を書いて渡したが、手書きですらすらと書けたものだった。
 しかーし・・・なぜだろう、近藤さんに書くのはめっちゃくちゃ緊張してしまう私なのだった。今まではプレゼントに添えて『小さなカードにひとこと』系で簡単にすませていた私なのだったが、たまには真面目に書いておかなきゃ、このままでは本当のバカだと思われてしまうではないか!
 というわけで「いかにしてあなたに惚れたか」。やはりある程度こちらの素性を明かしておいた方がよかろう。ということで私が近藤さんの演奏を知り、ハマるきっかけとなった出来事についても書いてみた。
 全部ひっくるめてどれくらいの量になったと思いますか?A4で2枚!私にしては奇跡とも言うべき「短文」!本当はこんなこと書き始めたらあっという間に50枚くらいいってしまいそうですが、がんばりました。
 でもこんなことをするのはこれが最初で最後です。ガラにもないことをするのは疲れます。こんなに真面目くさるなんて、あぁ恥ずかしい!!!

 開演1時間前に着いた。図書館が併設されているのでそこでヒマをつぶす。そして開場。社長がいたのでまずはご挨拶に。
「近藤さんの手の具合はどうですか?」
 『近藤さん、左手腱鞘炎の疑いが』との情報を友達から得ていたので。でもこのあいだもテレビでお元気そうに弾いてらしたから大したことはなかったのだろう、と踏んでいた。しかし。
「うーん、その件ね、あとで僕から皆さんにお詫びするけど、今日はソナタ4曲はやめて「月光」と「悲愴」だけにしたよ」

 がびーーーーん!!!

 オールベートーヴェン、4つのソナタ、アタシがどれだけこの日を楽しみにしていたことか!今まで近藤さんのオールベ−トーヴェンコンサートを聴きたいがために名古屋や東京や北海道にまで遠征していた私。今日はついに「関西でのベートーヴェン」が聴けると指折り数えて待っていたのにい。
 しかしそんなに悪いのか、手の具合は。それは心配だ。
「近藤はどうしても全部弾く、弾ける!って言うんだけど、手を休めないと治らないからね」と社長、とっても申し訳なさそうだ。
 あー・・・やっぱりこの酒、持って来るんじゃなかったなあ。720ml入りの酒の瓶、重いぞぅ。これを手の悪い人に渡すのか・・・?
「今日、近藤さんにお酒を渡そうと思って持ってきたんですけど、ご迷惑ですよね?」
「いいよ、持って帰るよ」と社長は言ってくれたが・・・
「お酒飲むの、ドクターストップかかったりしてません?」
「飲み過ぎはダメだろうけど、昨日もビール飲んでたから大丈夫だよ」
 そうかぁ、じゃあ渡そうかな、せっかく持ってきたしい。
 このお酒、日本酒なのですが、発酵の際にベートーヴェンの曲(田園交響曲)を聞かせながら造ったんだって。ホンマかいな?って感じですけど、話のネタに飲んでみてもらおうと思ったのだった。今日のこの日に!

 14時開演の予定が5分経っても始まらない。もしやまだ近藤さんは社長とやりあっているのか?「どうしても弾くんだ」と言って・・・などと思いながら待つ。
 しばらくして社長が前に出てきた。『近藤さん、腱鞘炎』の事実を伝えると客席から「えーっ」という声が。社長は病院の検査のことやこないだの東京でのコンサートも曲目を変更せざるを得ない状況だったこと、近藤さんは弾きたがっているということ、でも弾かせるわけにはいかないとお詫び、そして今日はその分心をこめてサイン会をしてくださる心づもりだということなどを客席に向かって言ったあと、今日の曲目を。
 結構たくさん弾いてくださることを知り、びっくり!こんなにたくさん弾いたら、結局あんまり「手を休めた」ことにはならんだろうと思った。

 そして演奏が始まった。近藤さん、やっぱりちょっと申し訳なさそうな顔で出てきた。
 でもすぐにいつもの笑顔で。ショパンをずらりと弾いてくださった。本当に腱鞘炎?って思うほどダイナミックな演奏でした。速度も全然緩めてないし。でもホントは痛いんだろうな・・・ガマンしてるんだろうな・・・と最前列に座っていた私は見ていられないほどの心境だった。
 手が痛いことも心配だけど、思うように弾けない近藤さん、きっととても悔しい思いをしてるだろうな、とか、来年デビュー10周年で「さぁ、これからだ!」っていう時にこんなことになってさぞかしつらいだろうなとか、私はそっちの方が心配なのだった。近藤さんの精神状態まで心配するなんて、アタシもいよいよ彼にハマったなあ・・・←危。
 第1部の最後は「悲愴」。とってもよかったよぅ。明るくて優しくて静かで力強くて。全くいつもどおりの近藤さんだった。

 20分の休憩。私は忙しい。なにせ例の手紙・・・書き直さにゃならんだろ。私は手紙を開け(封をしてなくてよかった)、ホワイエのすみっこでしゃがみこんだ。
 手紙の書き出し・・・

「今日は念願の『オールベートーヴェン in 関西!!!』ということで3年ぶりに最前列の座席を取りました。このうえない幸せです!」

 あーぁ・・・またスベっちまったよ、って感じだ。これ、ちょっと渡せないよな。と思いながらも、他のこともいろいろ書いたのでそれは読んでもらいたいよなあ。これを逃すと永遠に機会は巡ってこないような気がする。仕方がないので「昨夜書いたのです、すみません。どうかお気になさらずに」とペンで付け足し。せっかくワープロできれいに打ったのに、つぎはぎだらけの汚い手紙になってしまった。
 お酒も渡さないことに決めた。「全快祝いにさせてください♪」等々、さらに付け足し。たいそう見にくい手紙だこと・・・。

 第2部は印象派を中心に。
 ピアノの中から小さな宝石が無数にこぼれおちてくるような。消え入りそうな弱音も最後の一音も心をこめて弾く彼の誠実さが伝わってきた。「この人、ほんとにいい人なんだろうなあ」と改めて思った。以前に社長が「近藤君は性格もいいんだよ」と言っているのを聞いたことがあるが、私はNYから帰ってくるまではその言葉をイマイチ信用してなかったのですが(失礼!)、近藤さんはとっても真面目で優しくて「いいひと」なんだろうなぁと思う。今日の音を聴いてればね、そう思えるよね。
 月光でラストをしめくくる。大好きなこの曲を特等席で聴く。今日は4大ソナタでなくて最初はがっかりしたけど、でも2曲も弾いてくださったではないか!だからそんなにがっかりすることもないよね。うん。やっぱり来てよかったよ!あの激しい曲調の3楽章だって全然いつもと変わんない演奏だった!

 アンコールをしてもいいものかどうか・・・。戸惑いながらも拍手をする。近藤さんは2曲弾いてくれた。ニコニコ楽しそうに。もっともっと弾いてほしかったけど、今日はこれにて終了。お疲れ様でした&ありがとう。

 サイン会は手首を冷やしながら。近藤さんの座っている隣の椅子にはタッパーが置いてあり、そこには氷がいっぱい入っていた。やっぱり痛いんだろうなあ。腱鞘炎ってどんな感じなのだろう。私の弟も数ヶ月前から腱鞘炎なので、正月に実家に帰ったら根掘り葉掘り聞いてみよう。弟の腱鞘炎なんて全然興味なかったけど、今は違うぞ!
 久々にCDを買ってサイン会に参加。ホントは参加すべきじゃないのかなあと思いながらも、やっぱりお見舞いを言っておきたいし。。。
「おぅ!」
 と、近藤さんはいたってお元気そうだった。
「今日はすみませんでしたねぇぇぇ」
 やっぱり近藤さんはお元気そうだった。
「今日はたくさん弾いてくださってありがとうございました」と私はお礼を述べながらしんみりしてしまった。あぁかわいそうな近藤さん、思うように弾けなくてきっと悩んでいらっしゃるに違いない。こんなときこそファンの力が必要なのだ!今日は真面目にいこう。チャチャを入れてはいけない。私はいつになくしんみりと・・・
「おだいじになさってくださいね」

「いつかは治るモンですからね〜〜〜」

 ほっ。その明るい笑顔に癒された。そうよね、不治の病でもあるまいし。いつかは治るんだよね。このひとこと、すごくうれしかった。
 ケガ人に励まされてどうする!?って感じだけど、このひとことにとっても励まされた私なのだった。

 あまり悩まないで元気でいてね。
 私が言いたかったのはこの一言なのだった。しかし・・・。

私:「あまり悩まないで・・・」
近:「乾かしてくださいねー」(ジャケットにしてくれたサイン。インクが乾かないうちにケースに入れたら字がにじむので、近藤さんは「乾かしてください」と声をかけてくれるのです。ファンなら誰しもがわかってることなのですが)。
私:「お元気でいてくださ・・・」
近:「乾かしてくださいね!乾かしてくださいよ!!」

 と、人の話などまるで聞いちゃいねぇーって感じでした(凹)。
 近藤さん、いつもよりハイテンションな印象。あの人はいつも不可解だ・・・。
 なので私も最後は崩れた。
「はい、これ。ラブレターです」
 手紙も渡せてよかった。あんな手紙、家へ持って帰るのも恥ずかしいのさ!しかし今思えばもっと書くべきことがあったなぁと後悔。2枚ではなく3枚くらいにしといてもよかったかなあ。

 家に帰って考えた。近藤さんの明るい笑顔。「いつか治る」との言葉。
 本当はそんな明るい気持ちではなかったのかもしれない。でも彼が明るくふるまってくれるのならこちらも平常心でいたらいいではないか。うん、そうだよね。

 翌日目覚めて考えた。
 こちらがしんみりと声をかけているのにあのハイテンション。
「いつかは治るモンですからねーーー!」
 心配して損した!心配なんかしてやんないわ、もぅ!

 明日は西宮でコンサート。元気な近藤さんに会いに行こう!!!
 
  

チャイコフスキー傑作選  2004.11.21 ザ・シンフォニーホール(大阪)


チャイコフスキー
ピアノ協奏曲第1番 (ピアノ:ウラジミル・ミシュク)
ヴァイオリン協奏曲 (ヴァイオリン:アントン・バラホフスキー)
祝典序曲「1812年」

 指 揮:アンドレイ・アニハーノフ
管弦楽:レニングラード国立歌劇場管弦楽団

 私は本来、ピアノやヴァイオリンなどの単独モノではなく、オケの方が好みである。それはやっぱり高校大学時代に吹奏楽にかかわってたからだと思う。もちろん吹奏楽とオケは違うけど、交響曲の吹奏楽アレンジ版をたくさん演奏する機会があった。「聴く」のと「演奏」するとのでは親しみ感が全然違う。最初はただ「与えられた曲」を演奏するだけであっても、練習しているうちにすごく親しみが湧いてくる。たとえ嫌いな曲であっても。
 ロシア系の曲は結構演奏する機会があった。ロシアの「壮大なスケール感」のする曲は吹奏楽にもよく似合う。「1812年」も演奏したことがあるけれど、あの独特の華やかさはちょっと他にはない感じがする。
 一度「オケ」で生で聴いてみたいという希望はずっと前から持っていた。
 というわけで少々値がはったけれど、行くことに。チケットを予約した頃には安い席はすでに売り切れ。一番高い席しか空いていなかった。ぴあで聞いてみると2階席しかなかったので、ホールに直接電話。前から9列目の正面を買うことができた。
 いい席が取れたので指折り数えて待っていました。はっきり言って「3大ピアニスト」よりも楽しみにしとりました・・・ゴメン、近藤さん。(だってアレ、もう3度目だったんですものー)。

 ピアノ・ヴァイオリンのソリストはいずれもロシア人。ピアノのミシュク氏は名前だけは知っていた。ハンサムで有名だしねえ♪そのうえかなり上手いらしい。こりゃあ楽しみだ。
 席に着き、思った以上にいい位置だったのでますます興奮。ピアノ弾く手もよおく見えそうだ!
 楽団員登場後、指揮者とミシュクが登場。拍手もさらに沸く。
 指揮者のアニハーノフ・・・すげえアフロ。ミシュクは背が高く、いかにもロシア人て感じだ。ピアノに向かう姿、かなりキマっている。その威厳、なんかピアノが小さく見えるような気までする。

 ピアノ協奏曲第1番。演奏開始。金管楽器のファンファーレ調のメロディーがホールに響き・・・そして。
 ミシュク、余裕の演奏だ。某氏の演奏では「オケとの格闘」みたいな印象を受けたものだが(それはそれで素敵だったけど)、ミシュクは余裕綽綽。指づかいも非常になめらかで「一生懸命回している」印象が全然ない。
 音の鳴らせ方も硬すぎず柔らかすぎず。淡々としていながらも芯がある。うーん、どう言ったらいいかな・・・やはり「地の人」が弾いてる感じ。ロシア人がロシア作曲家の曲を弾くと自然にハマるのかもなあ。背が高くて骨格がしっかりしていて中肉の演奏家が弾いている、というのもいいのかも。「音は骨に反響します。なので演奏家は骨格や肉付きがしっかりしている方がいいのです」と某氏が言っていたけれど、ホントにそうなのかも。

 超有名フレーズを含む第1楽章、郷愁を帯びた2楽章、情熱の3楽章。曲が進むに連れてミシュクも熱くなっていたようだ。時々椅子から立ち上がって弾いていた。
 この人、ハンサムだけど(私の好みではないが)、ものすごく冷たい印象で、ちょっと怖い。まるで機械みたい・・・仮にサイン会とかあっても私、絶対話しかけられません。
 でも客の心を捉えるのは上手い。あの冷たい表情・弾き方でこんなにも聴衆を沸かせようとは!
 第3楽章。終わりに近づくに連れてますます盛り上がる。あぁ、もうすぐ曲が終わる・・・終わるぅぅぅぅ!待ちきれない客が拍手を始め、拍手とピアノとオケが混じりあってのラスト。曲が終わってないのに拍手が湧くコンサートは私は初めてでしたが、こういうことはよくあることなんでしょうか?今までは「曲が終わるまではじっと聴いてなくちゃ失礼だ」と思っていたけど今回はそうは思わなかった。一刻も早くミシュクに拍手を送りたい、私もそんな気持ちになった。こういう気持ちを聴衆に持たせられるってのはスゴイな。(楽章の間で拍手が起こるのはとても興ざめな感じがするけど。でも今回は楽章間の拍手は一切起こらなかった)。

 ここで20分の休憩。私はニットのアンサンブルを着ていたけれど、暑くなったので上着を脱いで半そでになった。聴いてるだけで汗をかいたことって経験ないな。ミシュクはやはりすごいかも・・・。

 どうしよう・・・ミシュクに惚れてもた・・・
 ダーリンに心のうちを打ち明けた。
 そやろ、コンちゃんとは違うやろ。
 と、ダーリン。

 コンちゃんて誰?なぜ急に「コンちゃん」などと呼ぶ?とツッコミを入れるのはやめといた。このまま「コンちゃん」と呼ばせておこうっと。


 第2部。今度はバラホフスキー氏が出てきてヴァイオリン協奏曲を。写真で見る氏はとてもクールな印象だったが、実物は純朴青年風。にこにこと踊るように弾く。
 この曲ってメジャーなのかな?題名も知らなかったけど、実際に聴いても知らない曲だった・・・。ダーリン、眠る。前の席のご夫婦も眠る。私は眠らなかったけど、うーん、ちょっと退屈した。半そでで聴くにはちょっと寒かったです。。。
 ミシュクの時は「ブラヴォー」の声が客席からたくさん出たのに、バラホフスキーのときは拍手しか沸かなかった。なんかカワイそうでした・・・。

 そして次はお待ちかねの「1812年」。
 1812年、ナポレオン率いるフランス軍はロシアの首都モスクワに攻め入ったが、寒さと飢えのために敗退した。1880年、チャイコフスキーはナポレオン軍に焼かれたモスクワ中央大寺院再建祝いのコンサートのためにこの曲を書いたといわれている。曲は3つの部分から成っていて、第1部はフランスに攻め入られたロシアの苦悩を表し、第2部はテンポが上がり、いよいよ戦闘開始へ。フランス国歌のメロディが登場してフランス軍の優勢を伝える。それにあわせてロシア民謡の旋律が歌われ・入り乱れ、激戦の描写になる。第3部になるとロシアの強力な抵抗により退陣を余儀なくされたフランス、高らかに鳴るロシアの主題・・・。
 ロシアの勝利、ロシア万歳!大砲と鐘が鳴り響き、曲は最高の盛り上がり状態を保ったまま終わる。
 大砲の音を表現するのには大太鼓を使用するのが一般的なようだ。学生時代に吹奏楽でやったときも大太鼓をふたつもみっつも用意して、パーカッション担当者は「太鼓に命をかけて」たもんです。まぁ、高校大学生の考えることなので・・・。2階席(客席)の両端にまで大太鼓を持ち込んでドカーンドカーンと打ちまくって演奏した高校があったのを記憶してます。青春だわねえ。
 今回は大太鼓は舞台にひとつのみ。やっぱり弦楽器が豊富なオケで聴く1812年はこたえられない旨みがあった。吹奏楽には管楽器しか存在しないので曲の奥行きにどうしても限界があるのですよね。
 ロシア人指揮者によるロシア人楽団による1812年(楽団にはちらほら東洋人の顔も見えましたが)。どんな気持ちで演奏してるんだろうなあ。やはり「ロシア人の威信をかけて」みたいな意気込みをもって演奏にも気合が入るもんなのかなあ。そこまではわからなかったけど、とても感慨深いものがありました。
 半そででも汗が出ました。ブラヴォーの嵐でしたがアンコールはなし。ロシア人、クールです。
 ミシュクは36歳、アニハーノフも30代、バラホフスキーは何歳か知らないけど、彼も若く見えたから30代かな。でも楽団員はかなり年配だった。年季の入ったオケの音色と若くて才能溢れるソリストの音色との融合も興味深かった。

 帰り道、大いに満足した我々夫婦は1812年の旋律を歌いつつ、ドカーンドカーンと大太鼓の合いの手を入れつつ、指揮者は「ごっついアフロ」、ヴァイオリンは「好青年」、ミシュクは「アチコチでたぶらかしてそーやな」と好きなことを言いつつ帰宅したのでありました。



久石 譲 :Piano Stories 2004  2004.11.13 びわ湖ホール(滋賀)

 先日の松方ホールの時と同じメンバーで、今度はびわ湖のほとりまで行ってきた。演奏者は久石譲。ダーリンは久石の大ファン。去年の3月に行った大阪シンフォニーホール。チェロとピアノのコラボレーションは素晴らしかった。今回はどんな音楽を聴かせてくれるのだろう、私も楽しみにして出かけた。

 びわ湖ホールには初めて行ったけれど、かなり広くて素晴らしいホールだった。私たちは2階席だったけど、1階席からずどーんと続いている2階席で、2階というより1階の後ろの方という感じ。縦に長いホールなのだった。そして雰囲気はまるでオペラハウスのように豪華。

 10分ほど遅れて開演。金髪女性9人がステージ上に登場。コントラバス・チェロ・ヴァイオリン。そしてパーカッション1人(この人は日本人)。
 そして久石が登場。ひときわ大きな拍手が送られる。
 今日のプログラムはなし。配られもしないし売ってもいなかった。こんなコンサートは初めて。何か意図するものがあったのだろうけど。なので曲名は書けません。帰るときに貼りだしてあったけど、メモる時間もなかったのでゴメンナサイ。

 謎の金髪女性の集団は「アンジェル・デュボー&ラ・ピエタ」というグループでカナダのモントリオールを拠点に活躍しているらしいです。久石がバカンスでどこかの島に行ったとき、部屋でシャワーを浴びて出てきたときに流れていたテレビ放送に出演していたのが彼女たちだったそうだ。ピンと来た久石はそのテレビ番組をメモしてネットで連絡先を調べて彼女たちに「一緒にコンサートをしてもらえないか」とテープを送りコンタクトを取ったそうです。
 彼女たちは日本に来るのは今回が初めて。なんとラッキーな人たちだろうか。日本では知らない人はいないくらいのビッグアーティストに共演依頼を受けるとは!!

 びわ湖ホールは「僕は全国いろんなとこに行きますが、他の人たちに聞いてもこのホールはすごく評判がいいので、ぜひともここでやりたいとお願いして今日の日を迎えたわけです。このホールは後ろの方で聞くと素晴らしいという話を聞いてます。縦に長くてすごいですねえ、ここから見るとボーリング場みたいです」
 と、客の笑いを取る久石。
 我々、本日後ろの方の席。確かに音の響きは最高だった。こんなところにこんなに素晴らしいホールがあったなんて!ホワイエからはびわ湖が一望(夜だったので真っ暗だったけど、昼に行ったらきれいだろうなあ)。

 久石は中央でピアノを、女性陣は立ったまま弾く。
 前回のチェロとのアンサンブルは「弾いて弾いて弾きまくる」パワーみなぎる演奏だったけど(このときは最前列の席だったので特にそう感じた)、今回は格式高ーい感じ。曲は宮崎駿の映画やCM曲のアレンジだったけど、まるでクラシック、いやそれ以上の格式の高さを感じた。この高貴な感じはなんだろう。弦楽器が複数あったからかなぁ・・・。
 客層は老若男女様々だったけど、びっくりしたのはだあれも咳ひとつしないこと。あれだけの人数いたら必ず「ゲホゲホ」「ヒーックション」と聞こえるはずなのに、水を打ったように「しー・・・ん」。「しー・・・ん」って音が聞こえてきそうなくらい「しー・・・ん」としてるのです。
 
 アンコールは3曲あったけど、2曲目は泣けました。ヴァイオリンの女性がひとりだけ前に出てきて久石とふたりで演奏。
 かの有名な「もののけ姫」を。映画ではオカマみたいな歌手が歌っていたけど(これはこれでよかったが)、歌のかわりにヴァイオリン。
 ちょっとコレ、ほんとによかった。歌より何百倍もよかった。楽器の威力はすごいなあと思った。映画でもヴァイオリン使えばよかったのになあと思うくらい、感動のあまり久々に泣きそうになりました。次のCDに入れてくれないかなぁ。
 この曲のあと、スタンディングオべーション。当然でしょ。客、沸きに沸く!そしてラスト。曲名は知らないけど聴いたことのある曲でした。ほぼ全員総立ちの拍手の中、終演。

 ダーリン、帰ってから久石のHPを開き、ついにファンクラブに入会した。
「譲のコンサートやったら東京まで遠征しても惜しくはない」
「東京行くの!?わーい!一緒に行こう〜」
「あかん」

 なんでやろぉ・・・ケチやな。

 とても感動的なコンサートだった。もののけ姫、もう1回聴きたーーい!!

  

加羽沢美濃presents 3大ピアニスト名曲コンサート  2004.11.10 神戸新聞松方ホール(神戸)

 (第1部)
 チャイコフスキー:花のワルツ(近藤嘉宏・青柳晋)
 ショパン:幻想即興曲 / 小犬のワルツ / プレリュード第24番・・・(近藤嘉宏)
 ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女 / 喜びの島 ・・・(青柳晋)
 ショパン:英雄ポロネーズ / エチュード「革命」・・・(横山幸雄)
 ラフマニノフ:2台ピアノのための組曲第2番第4楽章「タランテラ」・・・(青柳晋・横山幸雄)

 (第2部)
 名曲メドレー・・・(加羽沢美濃)
 ラヴェル:水の戯れ  リスト:ハンガリー狂詩曲第6番・・・(近藤嘉宏)
 横山幸雄:アヴェマリア(バッハ=グノーの主題による即興)・・・(横山幸雄)
 リスト:超絶技巧練習曲より「マゼッパ」・・・(横山幸雄)
 リスト:愛の夢第3番 / ラ・カンパネラ ・・・(青柳晋)
 横山幸雄:祝祭序曲・・・(横山幸雄・近藤嘉宏)

 (アンコール)
 ショパンの別れの曲による「お別れの曲」・・・(加羽沢美濃・近藤嘉宏・青柳晋・横山幸雄)


 1年ぶりに聴く「3大ピアニスト」。もう3度目なので正直「今回はもういいかな」と思っていたけれど、関西では初公演というわけで、自分が聴くというより知り合いを連れて行かねばと、妙な使命感に燃え、行くことにした。
 今日は会社の同僚1名&マイダーリンを率いて参上。
「3大ピアニスト?ちょっと待て。誰の基準で『3大』やねん?その『3大』の中に近藤も入っとるんか?」
 ダーリン、ホンマ憎たらしい。ま、騙されたと思って聴くがよい。『3大』の威力を思い知り、目覚めるがよい。
 最近、真ん中あたりの席を買うことが多いが、今回久々に前の方の座席をゲットした。3列目!こんなに前の方で聴くのは久しぶり。去年の11月以来。
 うわーーー、ごっつい近い!!なんだか照れるわねえ。

「花のワルツがすごいええからな。ちゃんと聴いときや」
 と、私は隣に座るダーリンにしきりに耳打ち。ダーリンは仕事が忙しく、今日も来られないかもと言っていたが、タクシーを飛ばして来てくれた。嬉しい♪
 いよいよ開演。
 いきなり青柳さんと近藤さんが現れた。今日も衣裳は「黒のシワシワ」
 あれれ、美濃ちゃんのメドレーで始まるんじゃないの?前に行った公演では2回とも美濃ちゃんメドレーで始まったので今回もそのつもりでいたけれど。
 青柳さんは向かって右のピアノ、近藤さんは左のピアノへと・・・向かう直前になんと!こちらに流し目を送るではないか!(ちょっと大げさか、、、でも確かに近藤さんは一瞬だけこちらの方向をじっと見たのです)
「ひゃあああ」
 と喜んだのは私のまん前の席の女性。

 ちゃうでちゃうで〜〜近藤さんが視線を送ったのはアンタとちゃうでえ、このアタシやでぇ〜!
 ヘーイ、come on ベイベー、ドキドキ、ウワァオ!!

 と思った人間、かるーく10人はいただろうな。全く、罪なオトコね。
 その10人の中に私も入っていたが、ダーリンも入っていたのには驚いた。
「近藤、オレが来てることに気づいている」
「じゃあ私が来てることも気づいてくれたかなっ!」
「いいや、お前のことには気づいてない。でもオレのことには気づいている」
 大真面目に言うダーリン。
「近藤はオレを見たんや」と自信満々、確信を持っている。なんやそれ。
「近藤はお前と街なかですれ違っても気づかん。お前はどこにでもある平凡な顔やからな。でもオレのことには気づく。間違いない」
 なんやそれ??? 

 波乱の幕開けとなった「花のワルツ」。あーやっぱりもう少し後ろの席を買えばよかったなあと後悔。ピアノが2台置いてあるので近すぎると全体が見えにくい。音の聞こえ方も微妙に偏ってるような印象が。。。
 でも以前と比べ、ちょっと円熟味を増した「花のワルツ」を聴かせていただいた。

 次は近藤さんのソロで3曲。
 幻想即興曲は・・・雑な感じ。今日は調子悪そうだな。カーネギーホールでのこの曲がかなりよかっただけにちょっとがっかり。プレリュードも西宮での演奏の方がよかったな・・・。今日の座席は右寄りだったので「近藤さんの背中がかっこいい最後の3音」も見えず残念。

 次は青柳さん。うちのダーリンは青柳さんの演奏を1月に聴いて以来、「青柳君の演奏、結構好き」だと言っている。
 亜麻色の髪の乙女と喜びの島。どちらもドビュッシーの代表作ともいえる名曲だ。近藤さんのように『透明感溢れ』てはいないけれど、なんというか、すごい独特の色があるのが素敵。
 喜びの島!私は青柳さんの愛の夢に惚れこんでいるが、今回は喜びの島に惚れた!今日のベスト1だと思った。キラキラしてるのに力があって、キレがいいのに甘さほんのり。これは名演だわ!感動というよりはハッとさせられた感じ。高嶺の花を摘もうと険しい山を登っていたら、足元にすごい美しい花が咲いていて「あっ!こんなとこにこんなにきれいなのが咲いてる!」ってな感じ。
 本当にびっくりした。青柳さんの演奏、じっくり聴いてみたい。来年の6月17日に松方ホールでリサイタルがあるとのこと。やったぁ!!絶対行こうっと!

 横山さんの演奏はすごく硬派だ。文句なしに「上手いなぁこの人」と言える。が・・・実は私好みではないです。もう一回聴きたいと思う何かを彼の演奏から私は見つけ出せないのです。でも同僚は横山さんの演奏がよかったと言っていたので、人それぞれですね。前にも書いたとおり「あまりに完成されすぎていて」聴く側が思いをめぐらせる隙間がないというか・・・。
「横山君てピアニストじゃないみたいやな」とダーリン。
「じゃあ何に見える?」
「・・・・・・」言葉に詰まるダーリンであった。でもその気持ち、なんとなくわかるような気がする。

 休憩を挟んで美濃ちゃんのメドレー。第1部では紺色のドレスだったけど、第2部はブラウンのドレス。色が白くて細くてホントにかわいらしい。彼女のアレンジでクラシックの名曲を数曲メドレーで。
「以前は第1部の初めに弾いてたんですけど、『早く3人を出せよ。お前じゃないんだよ』との客の視線を右腕に感じてツライので、今回は2部の最初に弾くことにしてみました」とのこと。
 美濃ちゃん・・・苦労してるのね・・・どうかご無事で。

 次の近藤さんの演奏に入る前に3人のピアニストと案内人の美濃ちゃんの4人が舞台上に。しばしトークタイム。
 去年からやっている3大ピアニスト公演ですが、いろんなエピソードがあるそうで、今日は時間の都合で1つだけ皆さんにお話します、とのこと。
「近藤嘉宏・焼肉事件、青柳晋・おにぎり事件、横山幸雄・パンツ事件。どれが聞きたいですか?拍手の一番多い分を紹介します」と美濃ちゃん。
 一番多かったのは横山事件だった。私は青柳さんのおにぎり事件を知らないので青柳さんのを聞きたかったなぁ、残念。
 横山幸雄・パンツ事件とは、横山さんが本番で履くズボンを忘れたことに開演直前に気づき、そこらへんにいたスタッフのズボンを片っ端から脱がせてサイズの合うのを履いて出た、というエピソード。
 ちなみに近藤嘉宏・焼肉事件とは、練習終わったあとに4人で「よっしゃ焼肉に行こう!!」と大盛り上がりで焼肉屋になだれこんだのに、注文時に近藤さんは『僕、焼肉定食』と寒い発言をした、というエピソード。
 これは去年の6月にかつしかで聞きましたが、私、1週間笑い続けました。おもろすぎ!でも普通の関西人にはウケないだろうな。だってあまりに寒すぎるんだもん・・・近藤さんのファンで近藤さんの姿を日々追っている人にはめちゃくちゃウケるとおもうけど。『近藤さんなら言いそう!かわいいっ♪』って。
 青柳さんのおにぎり事件は知らないなあ・・・誰かご存知ですか?教えてくださーい。
 青柳さんと近藤さんは同じ高校の1年先輩・後輩の間柄。ピアノ学科は男子学生が少ないので「手を取り合っていかなきゃならないので仲良くしてました。仲が悪いとか噂がたってますが、決してそんなことはありません。僕たちすごく仲良しです」と言っていた。
 高校名は「桐朋女子高等学校(共学)」。桐朋学園大学の付属高校で、音楽関係では名門中の名門校だが、どうして女子高等学校なのか?
「改名してほしいですよねー」と近藤さん。
 開演前の楽屋での過ごし方について。近藤さんは誰かをつかまえてずーっとしゃべっている、青柳さんは楽屋の電気を全部消して瞑想にふけるそうです。
 青柳さんは「僕、バナナを食べるんですけど、知らない間に指にかすがついてたみたいで、弾いてる途中で鍵盤にバナナのかすがついているのを見つけて焦って焦って」という話は可笑しかった。近藤さんは演奏中に目の前をハエが飛びまわって困ったことがおありで、ふーふー息を吹きながら演奏したことがあるそうです。

 再び演奏へ。近藤さんの「水の戯れ」。
 第1部は調子悪そうだったけど、第2部は完璧。彼の水の戯れはまさに芸術作品です。こんこんと湧き出した泉の水が溢れてどこまでもどこまでも流れていくさまが「目に見える」よう。これを聴いたらいつも「細胞のひとつひとつまでひたひた」になったような気がする。
 そして「ハンガリー6番」!カーネギーホールの感動が蘇る。NYツアーの想い出が蘇る・・・。楽しかったなぁ、あのツアー・・・。近藤さんといっぱい話せたしぃ。あの時はまるで友達みたいに身近に思えたけれど、やっぱり近藤さんは遠いヒトなんだな・・・改めて『彼との距離』を感じた。
 う、う、さみしーーーーーと感傷的になる私であった。でもこの「感傷」がなんとも心地よいのよねぇ・・・あぁ、可愛そうなアタシ・・・←危
 華やかで力のあるハンガリーで今日の近藤さんのソロは終了。ブラヴォー。

 次は横山さん。横山さんはピアニストであるばかりでなく、作曲もこなすマルチな人。弾き方はガンガンしているけど、作曲は意外としんみり系が好みなのかなあ。アヴェマリアはもともとの曲がしんみりしているということもあるけど、横山さんのしんみり弾く姿は結構いい感じ。今回の選曲は「英雄ポロネーズ」「革命」「マゼッパ」などガンガン弾きまくる系ばっかりなので「アヴェマリア」は新鮮でした。

 「マゼッパ」、近藤さんも近いうちに弾いてくれないかなぁ。ずっと前にネット掲示板に書いたり、最近はアンケート書いたりしてるんだけど、手ごたえなしだなあ。今度社長に言ってみるかなぁ。

 青柳さんの「愛の夢」。今日は「喜びの島」で感動しまくってしまったので、愛の夢はなんとなく聴いてしまった。でも次の「ラ・カンパネラ」は集中して聴きました。ミスタッチもなく完璧なしあがり。思わずうなってしまった。
 しかし青柳さんは誰かに似ている・・・SMAPの中居くん?いや、もっと近いとこで見たことある。あの顔・・・誰だったっけなあ。思い出せず。

 トリは横山さんと近藤さんの2台ピアノ。近藤さんが右のピアノだったので嬉しかったわん。すごーい近い!手が届くぅ!やっぱり前の方の座席はいいわねぇと単純に喜ぶ私(第1部の「花のワルツ」の時は『あまりに前すぎた』と後悔したのに)。
 回数をこなして慣れてきたのか、お二人とも余裕の演奏。去年聴いたときは独特の緊迫感があったけど、今回はラクラク弾いてるように思えました。

 最後は4人で連弾。別れの曲をベースにアレンジされた曲を。
 演奏者も客も終始楽しい雰囲気で笑いもあって、和やかな秋の夜でした。
 
 全ての演奏が終わり、4人並んで客席にお辞儀を。
 青柳さんが誰に似ているのかどうしても思い出したい私はダーリンに「青柳さんて誰かに似てるよなあ」「タカハシ」「ああっ!そやそや!!」
 青柳さんはダンナの大学時代の友達であり私の後輩でもあるタカハシ君にそっくりです。←そんなことはどーでもいいって感じですね、すいません。
 3回目にもなると、レポートのネタも苦しいでーーーす。(んなら書くなって?うん、そうですね・・・)
 
 終演後はサイン会にも並ばず、お見送りもせず帰りました。ダーリンも同僚も私も翌日仕事でしたので。
 一生懸命サインに応じる近藤さんのお姿をちら見してホールをあとにしました。後ろ髪ひかれましたです。

Ginza Classics in New York  2004.10.12 Weill Recital Hall (at カーネギーホール・NY)

 出演:近藤嘉宏(ピアノ)、荒庸子(チェロ)、Nurit Pacht(ヴァイオリン)、杉山美緒里(ピアノ)

 第1部
 ショパン:ノクターン第8番 / エチュード『木枯らし』 (by杉山さん)

 クライスラー:美しきロスマリン / 愛のかなしみ / ウィーン奇想曲 (byパクトさん)

 サン=サーンス:白鳥 / ポッパー:妖精の踊り / チャップリン(編曲 藤満 健):エターナリ- / ポッパー:ハンガリー狂詩曲 (by荒さん)

 第2部
 メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番第1楽章 (by杉山さん・パクトさん・荒さん)

 ベートーヴェン:ピアノソナタ第14番『月光』 / ショパン:ノクターン第20番 遺作 / ショパン:幻想即興曲 / リスト:ハンガリー狂詩曲第6番 (by近藤さん)

 私の『追っかけ』もついに来るとこまで来たという感じだ。
 今回はニューヨークまで行ってきた。ニューヨークとはもちろんあのニューヨーク、米国のニューヨークである。
 10月8日に日本を脱出、12日の演奏会までNYライフを満喫した。オペラやミュージカルやジャズを聴きに行ったり、エンパイヤステートビルや自由の女神に登ったり、毎夜のごとく呑み歩いたりしたけれど、やはりやっぱり一番の楽しみはこの演奏会!
 開演は19時半だったが、写真を撮りたかったのでまだ明るいうちにホールへ行ってみた。

カーネギーホール正面 我らが王子様はここで演奏されました


 今日は近藤さんのアメリカデビューの日。ホテルに帰り、身支度を整えたあと、荘厳な気持ちでホール入り。自分が弾くわけでもないのに妙に緊張する。
 8日にアメリカ入りしたときに空港で近藤さんに「緊張してますか?」とお聞きしたら「全然!どこで弾くのも一緒ですからね」とおっしゃっていた。さすが我らが王子、異国の地でも堂々としているのが素敵だ。
 ホールに入る。こぢんまりしたホールで、造りもシンプルな感じだったけど、やっぱりなんだか日本とは違う重厚な雰囲気が漂っていた。
 開演前から駆けつけていたファンの人たちは最前列をゲットしていたけれど、私は遅めに到着したので中央あたりに座ることに。ファン一同、緊張の面持ち・・・自分が弾くわけではないのに緊張するのは皆同じ?遠い異国の地で、王子は私達にどんな夢を見させてくれるのだろう。そう思うと幸せのあまり、体中がほてってくる。
「顔が熱い!首も肩も熱い!」と夢子ちゃん。今回このツアーに一緒に参加した彼女も興奮を隠し切れない様子。ふたりして開演前に水を飲み、熱くほてる頬を両手で押さえながら開演を待つ。
 

 19時30分、開演。日本は今何時だろう。朝8時半くらい?
 日本で待つたくさんのファンの人たちのドキドキも聴こえてくるような気がした。それぞれに事情があって来られない人がほとんどなのに、私はここに来られて本当に幸せだ。家族と会社と神様に感謝しよう。

 まずは杉山美緒里さんが登場。流暢な英語で今日の演奏会の内容紹介。彼女は4歳でピアノを始め、10歳のときに家族とともにロスへ移住。その後NYへ移り、クィーンズカレッジ、ジュリアード音楽院大学院で学び、ソリストとしてリサイタルや多くのオーケストラとも共演。現在はクィーンズカレッジの室内楽のコーチやホッフバスルソン音楽学校職員として活躍中。
 杉山さんの演奏で2曲。ショパンのノクターン第8番と『木枯らし』。彼女の演奏は繊細なのにダイナミック。特に『木枯らし』は印象に残る演奏だった。この曲はとても迫力ある曲想なので、力任せに弾いてもかっこよく決まるが、杉山さんの『木枯らし』は一つ一つの音を丹念に吟味しながら細部にまでこだわりを持って弾いてらっしゃるように聴こえた。
 10歳の時に外国へ移住とは、かなりの苦労をされていると思う。日本と違って外国、特にアメリカなんて国では「主張しないと生きていけない」。列をなして順番を待っているようでは生き残れない世界。
 余談ですが、私が働いてる会社はアメリカ企業の日本支社。ものすごい人見知りな私(誰も信じやしないでしょうが)は「そんなんじゃダメだよ!もっと自分をアピールしなきゃ!そんなんじゃ生き残れないよ!待ってちゃダメ!人を押しのけてでも前へ出なさい!」 と言われ続けた結果、ちょっとはマシになったか・・・でもやっぱり厳しい・・・私は絶対外国では暮らせないわあ。
 主張するには個性がないと。杉山さんの演奏はとても独創的で、力強いのに繊細で・・・不思議な感じ。「神秘的」と言うべきか?
「『繊細かつダイナミックな『木枯らし』を聴かせていただきました!」と演奏会後のパーティで杉山さんに言ってみた。
「わぁ!そんなふうに言っていただけて嬉しいです!」と、とっても喜んでくださった。チャーミングな笑顔が印象的な女性。今後の活躍を期待したいです。
 
 次はニューリット・パクトさんのヴァイオリン。伴奏は杉山さん。
 パクトさんはモデルのような美貌、美しい体型で、黙って立っているだけでもかっこいい女性。体にぴったりフィットしたグリーンのドレスで演奏。
 細くて美しい彼女だが、演奏は驚くほどパワフルだ。いやパワフル通り越してワイルド。美しいひとが男性的な音色で弾く。かっこよすぎ。ちなみに私の連れのそおしさんは彼女のトリコになっていた。でもほんとにかっこよかったんだから。
 テキサス生まれ、12歳でPBCテレビにソリストとして出演。1990年、17歳でヒューストンシンフォニーオーケストラとの共演で全米ソロデビュー。以後、アメリカ国内、ヨーロッパの多くのコンクールで上位入賞を果たす。
 もういちど彼女の演奏を聴いてみたいと思い、日本に来る予定があるかどうか聞いてみましたが残念ながら予定はないそうです・・・。
 ヨーロッパの方では活躍されているらしく、近藤さんの話によると彼女はドイツ語が話せるそうで、近藤さんは彼女とドイツ語でコミュニケーションを取っていたそうです。
 私はドイツ語はムリなので、英語で(しかし超ショボイ英語・・・まぁよいだろう、話しかけることに意義がある!?)。
 あなたの演奏はすばらしかったのでもういちどお会いできますように、と。
 またまた余談ですが、そおしさんが彼女のキュートなカーリーヘアに大いに興味を示すので、スタイリングの方法を聞いてみることに。
 なんとなんと「天然パーマ」だそうで、手入れはなんにもしてないそうです。彼女のご家族は全員カーリーヘアで、特にbrotherのカーリーさ加減は『crazy!』ということでした。

 そして次は荒さんのチェロ。前日のパーティで初めて荒さんにお会いしたのですが、、もぉほんとぅに「かわいいっ!」の一言です。写真で見ると「うーん、結構歳とってるのかな」って感じなんですが、まるで野に咲く花のように可憐で可愛らしい女性。私、あんなお嫁さんがほしいです。
「やっぱりねえ、こうやって外に出ていろんなものを見聞きして、そして『美しい人』にお会いしないとねえ。自分はこのままじゃいけない!って思えることがないとダメよね」
 荒さんのキュートさに心打たれた夢子ちゃんが言う。荒さんの可愛らしさ、凛とした瞳、おだやかな話し方、上品な立居振舞。私も荒さんのように可愛らしくて上品で知的な女性を目指そうっと・・・←ムリ?
 荒さんは赤とオレンジの中間色のような鮮やかなドレスで登場。曲目説明を英語で。声もかわいい♪
 中低音の甘い音色がホールに響く。スィートなんだけどしっかりと地に足のついた落ち着いた演奏で、なんの不安もなく安心して聴いていられた(他の人の演奏が『聴いててハラハラ心配だった』というわけではないですが)。
 最後のハンガリー狂詩曲は見ていてホントに難しそうな曲でしたが、完璧な技巧で一音も漏らすことなくあますとこなく聴かせていただいた。チェロも素敵な楽器だなあ。私も何か楽器を習いたくなってきました。
 
 第2部のしょっぱなは女性3人の演奏で。ピアノ・ヴァイオリン・チェロの競演。『最近の女性は強くなった』と改めて思わせるような力みなぎる演奏。
 そして次はいよいよ・・・杉山さんの紹介で王子が登場!!!
 今日はタキシード&蝶ネクタイだわ。
 たくさんの拍手に包まれつつ、近藤さんはピアノへ向かう。

 「月光」が厳かに・・・。
 この曲は熱烈konfanな私の『原点』とも言うべき曲。ファンになったばかりの頃、この曲をこんなところで聴けることになろうとは夢にも思わなかった。
 3年半前、何気なく手に取り、何気なく買った近藤さんのCD。
 あれ以来、彼は次々と私に美しい夢を見せてくださった。夜空にこうこうと輝く月のように、静かに優しく。こんなに美しい夢ならば覚めなくてもいい、夜が明けなくてもいい・・・。
 聴きながら泣いてるファンがいた。いろんな想いを重ねてらっしゃったのだろう。大好きな近藤さんの演奏をここで聴けること、大好きな近藤さんが世界に羽ばたいてゆこうとする姿をこの目で見られる喜び、そしてほんのちょっぴりさみしい気持ち。日本に置いてきた家族のこと、「行きたいけど・・・」と残念がってたファン友達のこと、喜びと寂しさと申し訳なさが重なり、胸が熱くなる。
 近藤さんはいつもと変わらず美しく端正な演奏を。「どこで弾くのも同じ」って言っていたけど、やっぱりいろいろと思うことはあると思う。でも彼はいつもクールでちっとも乱れたところは見せないのです。
 ショパンの2曲。私はショパンは好きではないのですが、ここで聴くショパンは本当によかった。特に「幻想即興曲」は今まで聴いた中で1番よかった。
 日本のホールは広いし音響もよいので、激しい曲調を弾くと音がわんわんすることがある。ここからは私の個人的感想ですが、ここは演奏者の発した音が壁に響かずダイレクトに届いてくるような感じ。だから下手な人が弾くととんでもないことになりそう。響かない分、ごまかしがきかない。
 近藤さんの演奏は、そんなカーネギーホールでも、きれいにきれいに聴こえていた。
 きれいに、きれいに。感無量で言葉が出ない・・・。
「日本で待ってる皆さん、私達の近藤さんは今、素晴らしい演奏をしているわよ・・・・・・私達の王子様はいつでもどこでも本当に素敵よ!!!」

 ラストはハンガリー狂詩曲。近藤さんは「時差ボケでなかなかこちらの時間に慣れないんです」と言っていたけど、時差ボケであんな曲をあんなふうに弾けるわけがない!それとも時差ボケゆえのハイテンションか?!
 明るく、楽しそうに、堂々と弾く近藤さん。その背中には大きな翼が見えた。広い世界へ、今まさに羽ばたいていこうと大きく広げられた翼。
 時差ボケだろうがハイだろうがそんなことはどーでもよい。とにかく彼は、私たちの王子様は今、この瞬間、大きな一歩を踏み出したのだ!!!この記念すべき瞬間にふさわしいこの曲、この演奏。
 曲が終わり、礼をする近藤さん。「どーも、どーも」と口を動かすのはいつもと同じだけれど、確実に新たな一歩を踏み出した彼に大きな拍手が送られた。私も大きな拍手を送った。ここに来られなかったファン友達の分も合わせて。

 一気に気が抜けた感じ・・・私の役目は終わった・・・なんの役目だかわかんないけど、重要任務を果たしたあとのようにぐったり。
 アンコールは4人で。杉山さんと近藤さんは二人並んで連弾。曲名はガーシュインの「サマータイム」(だったと思う。間違ってたらどなたか訂正よろしくお願いします)。

 終演後、ロビーで高嶋社長がある女性と話していた。夢子ちゃんとふたりで立ち聞き。
 話の内容からするとその女性はNY在住の音楽関係者のようだった。彼女の言葉を要約すると以下のとおり。
「素晴らしい演奏会だった。4人とも素晴らしかったけれど、特に彼(近藤さんの写真を指差しながら)、彼はとてもいい!彼の音楽性は光っているし、技巧もしっかりしている。彼はソロでやってもじゅうぶん客は入ると思う。私も彼の演奏をもう一度聴きたい!
 夢子ちゃんも私も後ろで思わずガッツポーズ!これは早速近藤さんのお耳にお届けせねば!
 というわけでこのあとのパーティでは夢子ちゃんとふたり、近藤さんに駆け寄り、この女性が言っていたことを報告しておいた。
「近藤さん、新たな一歩を踏み出されましたね!」
 近藤さんは照れくさそうに目を伏せながら、「いえいえそんな・・・」みたいな感じで黙って首を横に振ってました。ステージの上ではあんなに堂々としていた王子が照れる様子が可愛らしかったです。

 近藤嘉宏さま。アタクシ、今後も変わらず、

 あなたについてゆきますっ!!

近藤嘉宏 :ピアノファンタジー   2004.9.25 西宮市民会館アミティホール(兵庫)

第1部
 ショパン: ノクターン第2番 / ノクターン第8番 / ワルツ第6番 / ワルツ第7番 / ワルツ第8番 / ワルツ第14番 / 幻想即興曲 / 英雄ポロネーズ

第2部 
 ショパン: バラード第4番 
 ベートーヴェン: ピアノソナタ第21番「ワルトシュタイン」

アンコール
 ラヴェル: 水の戯れ / ショパン: プレリュード第24番 / リスト: ハンガリー狂詩曲第6番  


 久しぶりの夜公演。開場は17時半、私がホールに到着したのは17時33分。
 すげー人、人、人。
 とにかく人が多すぎて中に入れない。会場に入るのに長蛇の列をなさなければならないとは!並ぶの嫌いな私は列から離れ、人がすくのを待った。
 近藤さんの演奏を聴きに、こんなにたくさんの人が集まっている・・・ファンとしてこんなにうれしいことはない。彼の演奏はこんなに多くの人に支持されているのだ。
 やはり私の目に狂いはなかった!!非常に誇らしい。

 しばらくして中に入ると次回12月のチケットが売っていた。2枚購入。今日はひとりで来たが12月はダンナと来よう。←強制連行。
 わくわく。

 今日は最後の1曲を除いて全てショパン。うーん、苦しい(レポを書くのが)。一般的にショパンの曲は女性に人気が高いと言われているけど、そうなんだろうか。
「あー・・・ショパンばっかりだ・・・」
 今日のコンサートのプログラムを見たとき、正直言ってがっかりした(ワルトシュタインが入ってたことは大感激だったけど)。
 が!今日の選曲はなかなか面白かった。特にワルツの4連発。

 18時開演。
 まずはスタッフの男性が登場。今回はチャリティーコンサートなので、大きな募金箱を持ってらっしゃった。
「まずは近藤さんにご登場いただきましょう」
 というわけで我らが王子様のご登場。うやうやしく募金する近藤さん。まずはピアノを弾かせてやれよぉと思わないでもなかったが。
 
 一旦退場したあと、いよいよ演奏へ。今日はハンカチ2枚持ってる?紺と白2枚。またまた後ろの方の座席だったので見間違いだったらゴメンなさい。お衣裳はエ・ン・ビ♪
 そして演奏へ。ノクターン第2番。
 この曲ええなぁ・・・
 近藤さん、この曲、アタシんちで弾いてくれないかな・・・(危・しかもウチにはピアノはない)。
 ショパンはジョルジュサンドとどんな恋愛をしていたのかなあ。こんな曲を作れるくらいだからかなりのロマンチストだったのだろうな。
 この曲は甘く弾けばとことん甘くなるし、さらっと流して弾いても素敵だと思う。
 近藤さんの演奏は「とーってもお優しい」のよねぇ。きっと家でもお優しいんだろーなぁ・・・・・・。
 ツメの垢を煎じて飲ませたい、うちのダンナに!!!

 ワルツはおなじみの6番『小犬のワルツ』から始まり、哀愁漂う7番、8番は初めて聴いたような気がする(気のせいかな)、最後は14番。
 同じ人が作った曲とは思えないほど、どの曲も個性豊かで味わい深い。
 秋の夜長、素敵な時間を近藤さんがプレゼントしてくださった。

 ところで今日はリップクリーム塗ってなかったような。もうやめたのかなあ。鍵盤汚れそうだし、ピアノのためにはあんまりよくないのでは?と私はひそかに思っていたのでありますが、近藤さんが手にリップスティックを塗る姿は面白かったです。もうやめたのかなあ。
 そのかわり、見た。燕尾は暑いらしい。近藤さん、首の後ろを拭いていた!微妙におやぢぽい。
 
 後半はバラードの4番を。たまにはショパンに浸るのも悪くはないな。こういう静かぁな雰囲気もオツなものである。隣の子供がガムをクチャクチャさせなかったらなおよかった。←どうして親は叱らないのかな・・・隣でクチャクチャと雑音立てられたらヤじゃないのかな?親としてというより、ひとりの聴衆として。
 ここの主催のコンサートはいつも、前回のコンサートで集まった客の感想文をいくつかピックアップしてプログラムに載せてくれるが、今回のプログラムには「私は精神病を患っています」と書かれている方がいて、「近藤さんの演奏を聴き、近藤さんに教えられたことがあまりにも多かった」というようなことを書かれていた。
 チケット2000円と格安だし、子供の情操教育のためにコンサートに連れて来るのはいいけど、やはり最低限のマナーは守ってもらいたい。クラシックコンサートにほとんどが「未就学児禁止」と掲げられているけど、きちんと聴くことのできる子なら未就学でも連れてきたらいいと思う。要はマナーを守ってほしい。守れないなら退場してほしい。。。と思うのは間違いでしょうか?ガムを噛ませるのだったらせめて飴玉にしてよ・・・。
 聴く方は命がけなんだよーーー!!!ヒマつぶしに来てるんじゃねーんだよぉぉぉ。。。 アー、また子持ち主婦の方にお叱りを受けそうだ(苦悩)。

 そしてお待ちかねの「ワルトシュタイン」。ズバリ私はこの1曲のためにここに来たと言っても過言ではない。
 ぜひとも近藤さんに弾いてほしいと前々から思っていた「ワルトシュタイン」。
 曲が始まる前、ホントに心臓がバクバクした。さぁ、いよいよだ!と。

 連打で始まる。近藤さんの連打と私の鼓動の二重奏・・・。今までさんざんショパンでじらしておいて最後にこの曲を持ってくるなんて。しかも「ベートーヴェンソナタの最高傑作」と名高いこの曲を、こんなに素敵な曲を!
 この曲は「熱情」とほとんど同時期に作曲された曲で、短い恋愛を繰り返していた恋多きベートーヴェンが珍しく4年も続いたヨゼフィーネという女性との大恋愛まっさいちゅうの頃に作曲されたものだそうで。
「あなたにお会いしたとき、けっしてどのような愛情も抱くまいと、私は決心していました。しかしあなたは、私を征服してしまったのです」
 ベートーヴェンはヨゼフィーネにこんな手紙を書いたらしい。

 これ、今の私の心境そのものだ。
 ベートーヴェンを弾く近藤さん。
 あなたは私を征服してしまったのです!!!

 しかしこんな私の想いをよそに、彼は全く知らん顔で超絶技巧を駆使しつつピアノを弾きつづけるのであった・・・。

 2楽章は暗い・・・全くほんとにいやになるほど暗い。1楽章のきらびやかさとは対照的で、まるで海底の泥の底にいるような。しかしこの明暗の差がベートーヴェンの魅力なんだなあ。
 近藤さんはゆったりおだやかに、胸を高鳴らせた聴衆をたしなめるように弾く。

 そこへ突如聴こえた優しい旋律・・・。3楽章へ移ったのだ。暗い海の底に突然光が差し込んできたような、目の前がぱあっと明るくなるような。
 私たちは海底から底引き網で突然地上に引き上げられたのではない。近藤さんは私たちがめまいを起こして倒れないように、徐々に徐々に暗闇から救ってくださったかのようだった。機械の網ではなく柔らかな手でていねいに私たちをすくいあげてくださったのだった・・・。
 2楽章から3楽章へ移る瞬間の優しさと美しさ。ため息。
 個人的にはココが一番の聴きどころだと思った。もういちどあの幸せな瞬間を、ぜひともこの曲を再びどこかで演奏してほしい。
 3楽章は光の嵐に包まれたかのようだった。光と影が入り乱れて目も眩むような鮮やかさ。明るくて暗くて、暗くて明るい。そんな明暗入り乱れた曲想を近藤さんは整然と、でも感情豊かに演奏!
 シビれたわぁぁぁぁ。
 くっきり、くき、くき、と色彩豊かで、明るい光のもと、色とりどりの花が次々と花弁を開くようなさまが目に浮かんだ。

 この曲は近藤さんのために書き下ろされた曲ではないか・・・そんなことを思わせる演奏であった。

 素晴らしい!!!!!

 アンコールは3曲。夏の終わりに聴く「水の戯れ」、そして次は・・・
「プレリュード、プレリュード、プレリュードを弾いてくださいっ!」と私は彼にテレパシーを送った。
「では『プレリュードを』」
 やったぁぁぁぁ、想いが通じたっ!プログラムに載ってた感想文にも『プレリュードがよかった!』と書いてた人が私の他にもうひとりいたものなあ。そうよ、そうそう!近藤さんのプレリュード24番はただただかっこいい!のひとこと!
 今日も背中がかっこよかったわ♪
 最後はハンガリー6番。もうすっかり板についた演奏。10月にはいよいよニューヨークで近藤さんのハンガリーが聴ける!あぁ。

 そうして今回のコンサートは華々しく幕を閉じたのであった。
 

***********

 サイン会はまたまた長蛇。私は今回は救いようのないほど貧乏なため、CDを買うことができず、傍観者とならなければならなかった。
 久しぶりに関西の友、さくらさんと会うことができた。
「なんかまた痩せたような気がする」
 近藤さんとの再会4ヶ月ぶりな彼女は胸を痛めていた。
「そうかなあ・・・そろそろ止まったような気がするけど」
 と私は言ったが、私の場合、頻繁に彼を見ているのでもう目が麻痺してるのかも。
 行列は異様に長い。私たちは遠目から近藤さんを見学しつつ、CD売場の前でしきりにぼやいていた。
 CDを買うともらえるポストカード。1枚だけかと思っていたら2枚セットだった。ベートーヴェンソナタのジャケットの「頬に手をあててる写真」と教則CDの裏ジャケット、「白シャツで笑ってるさわやかな近藤さんの写真」の2枚。
「あー、これ2枚組やったんかあ、知らんかった」
「ほしーな、ほしーな」
 と私とさくらさんはCDを手にとり、悩みまくる。
 さくらさんはピアノを習っていて、「近藤さんの教則のCDなんて聴いたら、自分の演奏とのあまりに違いにショックを受けそうなので怖い」と買うのをためらっているようだった。
「でもさ、こんなCD出して、『もしかして近藤さん、コッチ方面に方向転換するのかなー・・・なんて思った」
 私も思った。青柳さんみたいに教師の道へと進むことも考えてんのかなぁって。手堅く生きる道を模索しはじめたのかなって。考えることは皆同じなのか?
「近藤さんももう結構な歳やもんなあ・・・」
 ピアノ界では若手と言われている彼だが、それはピアノ界だからである。一般社会において36歳にもなれば、お世辞にも若手とは言われない(オマエと一緒にするなって?)。
「あーあ、今日は買わないけど、いずれはこのポストカード欲しさに教則CD買うことになりそう」
 1枚2000円の教則CD買うのに、いいオトナが、しかもふたりとも正社員として働いている身でありながら、しぶりまくり。
「あーあ、このポストカードだけ200円くらいで売ってくれたらいいのに」

 するとCD売場のお兄さんが・・・

「どーですかぁ、このポストカード、2枚で2000円ですよ」

 !!!!!!!!!!
 そうか、この場合、ポストカードがおまけではなく、CDがおまけ!? ポストカードを買うともれなくCDがもらえる・・・
 そう考えれば安い買い物か!? 思わず心が揺らいだ。お兄さん、なかなかの商売上手である。それでこそ関西人!! ブラヴォーだ。
 しかしそれでも私たちはCD買わず。お兄さん、せっかくおもろいネタふってくれたのに無視してゴメンよお。

 サイン会が終わると写真撮影。近藤さんは席を立ち、客席入口のドア前に移動。
 ツーショットの写真は撮らせてもらえず。
「あー、最近めっきりガード固いわ。この調子やったら今度のクリスマスも写真はムリやな」
 今年のクリスマス、ここでコンサートがある。去年のクリスマスもここでコンサートがあった。クリスマスは私にとって『結婚記念日』。去年は近藤さんに『記念日おめでとう』と言わせようとして失敗、ダンナとのスリーショットもいただけない写真でがっかり。今年はリベンジや!と思っていたがムリそうだ。。。
 サイン会に並ばなかった私たちは、近藤さんがどこを通って退場するかあれこれ予測を立てた。
「サイン会には並ばぬも、『アタシたち、ちゃんと来てますヨッ!』て、彼に知らしめておかなければならんよ」と、彼が退場する際に目につきやすそうな場所を求めてウロウロ。
 大勢の人のカメラフラッシュを浴びている近藤さん。しばらくすると、後ろ手に客席のドアを・・・
「あッ!あんなとこから帰るつもりやでっ!!!」
 私もさくらさんもビックリ。予測大外れである。私は慌てに慌てて人ごみかきわけ、彼に手を振った。
 が、彼はこちらを見てもくれまへんでした。

  届かぬ想いやわぁ・・・・・・(凹)

 近藤さんは後ろ手にドアを開け、「ほいじゃあ皆さんさいなら。ドロン!」といった感じで姿を消したのだった。

 がっかりしながらさくらさんと一緒に帰路についた。あーあ。
「ワルトシュタイン、ブラヴォーでした!」って言いたかったなぁ。。。

 あぁ、届かぬ想いやわ・・・(凹凹凹)


及川浩治・近藤嘉宏 :ピアノデュオリサイタル  2004.9.5 文化パルク城陽(京都)


(2台ピアノ)
 チャイコフスキー : 花のワルツ
 ラフマニノフ : 組曲 第1番 第1楽章『舟歌』/第2番 第3楽章『ロマンス』/第2番 4楽章『タランテラ』

(及川浩治)
 組曲『くるみ割り人形より』
 行進曲/こんぺい糖の精の踊り/タランテラ/間奏曲/トレパック(ロシアの踊り)/中国の踊り/パ・ド・ドゥ

(近藤嘉宏)
 ショパン : エチュード『別れの曲』/エチュード『革命』
 ラフマニノフ : ヴォカリーズ
 リスト : ハンガリー狂詩曲第6番

(2台ピアノ)
 ラヴェル : ダフニスとクロエ 第2組曲

(アンコール・2台ピアノ)
 ラヴェル : マメールロワ
 シューベルト : 軍隊ポロネーズ


 今日は及川さんとのデュオコンサート。『野獣』と異名をとる及川さんの演奏も大きな楽しみのひとつ。
 お待ちかね、お二人のご登場。及川さんは思ったよりもすっきりしたお方・・・だってあまりにも「野獣」「野獣」と皆様がおっしゃるものですから。
 1曲目はチャイコフスキーの花のワルツ。以前に近藤さん&青柳さんの「花のワルツ」を聴いたことがあり、それは「軽やかなかわいらしい感じ」で聴いててウキウキしたけれど、今回はあの時より重厚な感じが。『落ち着いて聴く』花のワルツという感じだった。
 続いてラフマニノフの組曲を。
「2台ピアノの魅力はほとんどのオーケストラ作品をカバーできること」と及川さんがおっしゃっていたけれど、今回の選曲はピアノ曲にとどまらず、本格的な組曲がかなりセレクトされていて、すごく贅沢。おふたりも燕尾服を華麗に着こなされ、気合充分。
 そーいえば近藤さんが燕尾を着るのは久しぶり?
 あぁーん、ス・テ・キ♪ 
 最近おなじみのツメ衿の黒い服だと気の毒なくらい痩せて見えるけど、燕尾を着ると風格が出てよろし。「あぁ、あんなに痩せて・・・何かおつらいことでもあったのかしら」と涙することもなく安心して聴くことができた。
 
 向かって左のピアノに及川さん、右側のピアノには近藤さん。しーんと静まり返ったホールに突如として響き渡る音・・・・・・

 バキボキバキボキ ←及川さん、指の関節を鳴らす。

 やはり彼は「野獣」なのか?
 このあたりから野獣は徐々に牙を出し始める。私は熱烈な近藤ファンであるにもかかわらず、視線はもっぱら及川さんへと。
 強烈なタッチで弾きまくる、いや、弾くというより押さえつけるといったような。でもその音に荒々しい印象はない。強いのに繊細な音色、とても不思議な感じだ。
 一方近藤さんはいつものようにcool&clearな音色で聴衆を酔わせる。一見、対照的とも思えるふたりの演奏は「歯ごたえのある麺&こってりしてるようで実はあっさりなスープ」・・・?麺とスープのからみあいが絶妙、てな感じ。
 3曲ともロマンチック系な曲で聴きやすく、メロディーの美しさ・ピアノ音の美しさを思う存分味わえた作品でした。

 そして及川さんのソロに入る。
 そりゃあもう熱かった!ブイブイ弾きまくり。なぜかオリンピック競技の「ハンマー投げ」を思い出した。重いハンマーをブンブン回して投げ飛ばして、ぎゃおぅぅぅぅ!と叫ぶ・・・なんで投げたあとに叫ぶんだろーなぁ。
 及川さんも、これ全部弾き終わって、鍵盤から手を放した瞬間、ぎゃおぅぅぅって咆哮するんじゃなかろうか、、、そんなことを思わせる勢いのある演奏だった。
 弾いてる姿もすごいが、聴いてる側に訴えかける音の力もすごかった。
 音には強い信念が感じられた。そしてそれを自分の中で完結させるだけではなく、一生懸命聴衆に訴えかけようとしている心意気。それがブイブイ伝わってくる。
 及川さんはすごく「高貴」な人だという印象。見た目は確かに野獣、いや「猛獣」並みだが、客席に届けられる音はとても気高い。
 信念と野望。「目指しているもの」はとても高い。音楽家として伝道者として。さらにひとつのピークだけでなく、いくつものピークを踏みつけてやるぜ!!という意気込みが感じられた。
 情熱的な演奏にただただ圧倒されっぱなし。この熱さ加減はどこか他の国の血が入っているのかも???
 及川さんてもしやハーフではなかろうか。そういえばハンマーの室伏も母親は外国人じゃなかったっけ?
 いつまでもハンマーにこだわってしまった私であったが、それくらい及川さんの演奏には迫力があり、放つ音の飛距離は金メダル級であった。

 20分の休憩をはさんで近藤さんのソロ。
 及川さんが出てきて曲目解説を。
「ショパンは言いました。『おい、リストの演奏を聴いたかい?僕は僕の作った練習曲を弾くのに、ぜひとも彼の技術を盗みたいものだよ』」
 及川さんは『演歌の花道口調』で熱く語る。演奏のみならず解説も熱いのだった。
 近藤さんが燕尾の裾をなびかせつつ登場。
 私は今日かなり後ろの方の席にいたので(トイレに1番乗りできるほどの位置におりました)、顔がよく見えなかったのが残念。ハードスケジュールでお疲れではないだろうか・・・演奏だけでなく顔色チェックもファンにとって重要な任務なのである。
 前半ちょっと苦しそうだったけど、ヴォカリーズあたりからいい感じに。ブイブイと何かが伝わってくるというよりは、目に見えない大きな何かにふんわりとやさしく包まれている感じがするのが近藤さんの音の魅力だと私は思う。
 このやさしく、透明感あふれる音色をいつまでも私たちに聴かせ続けてほしい。これからもずっと。
 ハンガリー狂詩曲。その気迫は及川さんに負けてません!近藤さんだって熱いときは熱いのだっ!
 私、この曲好きなのよねえ。一曲なのにいろんな表情があって、まるで組曲のように聴こえる豪華な曲だから。最初は華やかに始まり、中盤はなんともいえない悩ましげなメロディーに変わり、そして最後はとってもとっても情熱的に終わる。
「すっごーーーい」と私の後ろに座ってたおばちゃんがため息をついてました。私ももちろん!ため息出ました。すっごーい。

 そして最後の曲、「ダフニスとクロエ」。この曲のピアノ版というのはとても貴重なものらしい。近藤さんですらこの曲の楽譜が出ていたことを知らなかったというのだから。オーケストラではかなりメジャーな曲だし、私はずっと前に吹奏楽で演奏されるのを聴いたことがある。吹奏楽でもかなりメジャーな曲のはず。でもピアノだけで演奏されるのは聴いたことがない。
 近藤さんがひととおり曲目解説。及川さんはその隣で、
「へー、そうなんですかぁ、あぁ、そうなんですかぁ」
 と相槌を打つ。
「知ってるくせに〜〜〜」
 と近藤さんがツッコミを。このトーク、一応台本があるらしいが、及川さんは近藤さんの語りかけに何にも反応しないことがあり、、、
 及:「うん、ここでなんて言うんだったかなと思って」
 近:「わ、忘れたの!セリフ!!」
 及川さんはちっとも悪びれずニコニコ顔・・・。
 近:「この曲は男女が踊りをとおしてお互いを誘惑しあうというテーマですごく官能的な曲です」
 近藤さんは「官能的」という言葉を連発していたけれど、彼が言うとちっとも官能的に聞こえないのはどうしてかしら。
 及:「近藤君に誘惑されたらどうしよう・・・」
 近:「しません!しませんっ!!!」
 近藤さん、動揺。このやりとりは台本どおりなのか、前々日の札幌公演でも同じやりとりがあったそうです(札幌のファンの人からメールで教えてもらいました)。
 そのわりには近藤さん、動揺。そのあとのセリフが飛んでいったらしい。
 近:「ええっと、アレ?何言おうとしてたんだっけ、おれ。何の話してたんだっけ」
 及:「誘惑する、ってとこまで話しましたねぇ」
 及川さんは静かな笑顔で淡々と。隣で動揺している近藤さんのことなど、まるで他人事(笑)。ズルイぞ、及川!(でも・・・おもろーい♪)
 及:「それではお聴きください。ラヴェル作曲、ギャルバン編曲、ダフニスとクロエ、第2番!!!アチョチョチョチョチョチョチョチョ・・・・第2組曲!」
 及川さん、曲名を言い間違え。大丈夫?
  
 そんなドタバタトークが終わったあとで演奏されたこの曲。
 官能的な曲だとのことだったけど、出だしのメロディーはものすごく神秘的でキレイ。なんて言ったらいいかな、、、
 宇宙船に乗って広大な宇宙へ飛び立ってくような感じがした。「官能」とはちょっと違うような・・・?
 いえいえ!!次第に官能的になってまいりましたわよ。
 近藤さんは向かって左のピアノ、及川さんは右。
 近藤さんの弾き姿は、放課後の音楽室で、ひとり静かにピアノを弾いている少年のように折り目正しい。
 一方、及川さんはまたもやハンマー投げ。3回くらい飛ばしたかしら。弾きながら数回大口開けて・・・まさにハンマー。途中で椅子がガタンとずれて。。。
 弾き姿はそんな感じだったけど、演奏はまさに「誘惑しあう男女のさま」。白熱したかけひきが目に浮かぶよう。
 くっついては離れ、離れてはまた抱き寄せ合う・・・ぎりぎりのきわどい感じ。唇があと数ミリで触れ合いそうなのに・・・まだ触れ合わない。
 うぅぅぅぅぅぅぅ!
 あまりのきわどさに聴いてる方が汗をかく!!!!!
 この先、どーなるんだろ、このふたりの行き着く先は、、いったいどーなるんだ!?
 目の前でいきなり「パチン!」と手を叩かれたような感じがした。
 曲が終わったのだった。えっ!終わり!?あ、そうなの、終わりなの・・・?いいところで急に幕を下ろされたようにただただ呆然。
「これ以上はきわどすぎてお見せできません」
「そうよ、ダメダメ」
 弾き終わって客席に礼をするふたりに、そんな言葉を言われたような気がした。
 あぁぁぁぁ、イジワルねえ。
 私はカバンからハンカチを出し、手のひらの汗をぬぐったのだった。

 もちろんアンコールあり。2台ピアノで演奏。シューベルトの軍隊行進曲は一台のピアノで連弾。
 いいな、いいなぁ、楽しそうだなーーーー♪ふたりはプライベートでも仲がいいそうだけど、ホントにそんな感じ。近藤さん、心底楽しそうでしたものー。

 鳴り止まぬ拍手の中、舞台袖から女性がふたり登場。偉大なるピアニストたちに花束を贈呈。いいなぁ〜〜〜私もあの役、やってみたいよお。
 花束を抱えた及川さんと近藤さんは・・・その花束を、
 そおれっ!と、客席へ!
 客席:「ひやぁぁぁぁぁっ☆」

 3大ピアニスト公演は「幅広くいろんな人に・無条件に楽しんでもらおう」というスタンスに思えたけれど、今回の及川さんとの共演は「本格的に・でも楽しく」といった印象を受けました。
 とても内容の濃い演奏会でした。及川さん、近藤さん、ブラヴォー!!!

***********

 さてさて、サイン会。
 今、私の経済状況はかなりキビシイのですが、及川さんを間近で見てみたいのでCD購入。「激情のリスト」というのを買った。及川さんの「激情」・・・それは楽しみだ。早く家に帰って聴こう。
 ところで、今日は一枚しか買ってないけれど、サインはどうなるのだろう。あ、そうか、パンフレットにしてもらうのだろう。入間の3大ピアニストに行ったときもそうだったし、今日のパンフレットの表紙にはふたりのサインを入れてもらうのにちょうどいい空白がある。
 そして行列に並ぶ。今日もウンザリするほど長い列。
 私の前にいた親子が及川さんと近藤さんのCDを一枚づつ開け、親は子に「この写真の顔の人のトコにこれを出すのよ。間違えたら失礼だから気をつけてね」と言っていた。そして向かいに並んでいた女性は「CDじゃなくジャケットにしてもらうのよ。CDにマジックで書くと音が割れちゃうからね」とお連れさんに話しかけていた。
 あれ!パンフレットにしてもらえるんじゃないの?アタシ、及川さんのしか買ってないけど・・・もしや近藤さんのも買わないと近藤さんにサインしてもらえないのん?
 えーーーっ、でもでも入間の時も1枚しか買わなかったけどちゃんと3人にサインしてもらえたよ・・・パンフレットに。
 あ!そういえばあの時はCD買ったら整理券をもらったなぁ。
 そうだよな、、、そうでもしないとパンフレットなんてみんなもらってるんだからCD買わなくてもこの列に並べるやん。
「あのー、一枚しか買ってないんですけど、おふたりにサインいただけるんでしょうか?」
 向かいに並んでいた女性がスタッフに声をかけた。
「いいですよ。でも一枚のCDにふたりのサインが並ぶことになりますけど」

 えっ、えええええー!やっぱCDにしてもらわなきゃならんのか。パンフレットはダメなのかっ!?いえいえ、アタシはパンフレットにしてもらうぞ!及川さんのCDしか買ってないことが近藤さんにバレるとまずいじゃないか!

(想像:シーンその1)
 私;「今日はパンフレットにサインお願いします」
 スタッフ:「CDはお買い求めでしょうか?」
 私:---及川さんの「激情のリスト」を二人の目の前で出す。「ハイ、ちゃんと買いました・・・」
 近:(アレ・・・浮気されちまったぜ。もしかして今日のオレはイケてなかったのか?及川君の方がよかったのか?)

 いやーーーーん。
「いろんな人の演奏を聴いてほしい。僕のファンで終わるのではなく、いろんな音楽を聴いて「音楽ファン」になってほしい」
 近藤さんはよくそんなことを言っているから、他の人のCDを買ったって全然構わないのだろうが・・・。

(想像:シーンその2)
 近:(2ヶ月前の八幡でのサイン会の時のようにそれはそれは眩しい笑顔で)「いつもいつもありがとうございます!」
 私:そんな彼の目の前に及川さんの「激情のリスト」を差し出す。
 近:「あ・・・」(ほんの一瞬、顔が曇る)

 で、できない・・・・・・。

 別に構わないんだろうけど・・・。しかし彼がよくてもアタシが納得できない。なぜならば、

 彼の笑顔を曇らせるようなことをしてはならない、どんなことがあっても!!

 そりゃアタシだってたまには他の人の演奏や、ピアノ以外の楽器の音も聴いてみたいと思う。でもでも、彼には「あなただけヨ♪」と思わせておきたい!!!
 私は、彼になんの不安もなくピアノを弾いていてもらいたいのだ!
 アタシひとりくらい減っても近藤さんには何の影響もないでしょうが・・・でもそう考えちまったらサミシイやん?
 そうよ、そうそう!ひとりひとりが彼にとってのonly oneなのよっ、今コレを読んでくだすってるそこのアナタ!アナタも「only one」!!

 ということでサイン会、断念。私は泣く泣く行列から離れた。
 そして最前列付近へダッシュ!今回は遠巻きに見物しよう。少しでもいいポジションをゲットしなければ!ところが、
「サインはプログラムにしますので、みなさまプログラムをご用意ください」
 スタッフがそう言っていたので素早くあと戻り。
 あーあ、随分後ろになっちゃったわー。
 会は滞りなく行われていた。あっという間に及川さんのそばへ。
 なんて色白なの。そして顔・・・ちっちゃい!意外や意外、「野獣は小顔」なのだった。
 及川さんは身を乗り出してひとりひとりに手を差し出していた。「ありがとうございます、ありがとうございます、いやぁありがとうございます!」と言いながら。
 椅子から腰浮いてたで。でも、「ええ人やなぁ〜♪」と感心。私も握手をしてもらうことができた。
 次はいよいよ近藤さんのもとへ・・・と思いきや、ここでしばらく動きが止まる。スタッフの進行が早すぎたようです。
 しばし待つ。及川さんも身を乗り出すのをやめ、じっと椅子に座ってました。
 時間は有効に利用しよう。ぼうっと待っていてはもったいない。せっかくだから私は及川さんに声をかけてみることにした。
「あのー、ひとつ聞いてもいいですか?」
 及川さんは再び身を乗り出して、「ハイハイ!いいですよっ!」

 私:「及川さんって、日本人ですか?」

 だってさ、すごく情熱的な演奏だったんですもの。もしかしたらどこか他の国の血が入ってるのかもしれないと思ったんですもの。だって、ハンマーの室伏は「室伏コウジ」って日本人の名前だけどハーフやし・・・あ、そういえば室伏も「コウジ」、及川さんも「コウジ」やん!?

 及:「に、日本人ですよ・・・」

 やはりかなり退いていたようだった。ま、いいか。旅の恥はかき捨てならぬ、サイン会の恥はかき捨てですから。
 でも、こんな質問、失礼だったかなぁ・・・・・・。

 私:「すごく情熱的な演奏をされるので」

 及:東北の血はね、熱いんですよーーーーツ」

 「すごく情熱的な演奏をされるので、もしかしたらどこかの国とのハーフなんじゃないかと。それくらい素敵な演奏でしたよ」
 と言いたかったのだけど、言い切る前に「東北の血はうんぬん」と返されたのでそれ以上何も言えず。。。
 熱いんですよーッツの言葉、とっても熱くて圧倒されましたです。

 列が動いて、やっと近藤さんのおそばへ。次から次へと流れてくるパンフレットと格闘されてました。そりゃもう、顔を上げるヒマもないほど彼は忙しそうでしたが、やっぱりしゃべりたいしぃ。アタシは顔の前で手を振って注意を喚起。すると彼は顔を上げて、
「おっ!」
と言ってくださいましたのです。 エヘヘ、でれでれ。
 私:「2ヶ月ぶりですねー」 
 近:「そうですねー、なんか久しぶりのような気がしますねえ」
 エヘヘ、でれでれ。
 私:「次は西宮!ワルトシュタイン、楽しみにしてます!」
 近:「あ〜、ぜひぜひ〜」

 ついつい、自分の追っかけ計画を言ってしまう私。自分の予定ではなく、今日の彼の演奏についての感想を言うべきだと思うのだけど、、、もう頭は次の公演のことでいっぱいになってしまう。あかんなぁ。
 次回はがんばろう。

 うーん、それにしてもホントに楽しみだな。西宮での「ワルトシュタイン」!!!
 ところで及川さんて東北出身だったのか・・・だからあんなに色白だったのだなあ、納得。 

ウェイウェイ・ウー :上海情熱 at blue note  2004.8.21 大阪ブルーノート

 憧れの楽器、二胡の音色を聴きに。一時期は本気で習おうと思いましたが、時間の確保が難しく・・・何よりも私には音楽の才能もないし、お金の無駄遣いかな、と。
 というわけで「聴く側」にまわることといたしました。
 二胡は中国の弦楽器で、甘くせつない音色がとても素敵です。最近は中国楽器の人気がすごく、かつて他の人の二胡コンサートのチケットを買おうとしましたが『完売』で行き逃したという経験があります。それくらいの人気なのです。
 今回は会社の同僚がチケットを早々にとってくれたので、私はやっと「念願の二胡の音色を生で」聴くことができたのでした。

 ニューヨークセレナーデ、上海セレナーデ、上海ブギウギ。
 前半は明るめのメロディー。ドラムとピアノとベース、そして二胡の音色。
 上海ブギウギ、楽しかったなぁ。思わず「ウキウキワクワク〜」って口ずさみそうに。
 ブルーノートは2回目だけど、『飲みながら食べながら』演奏を聴くことができるというのが魅力なんだけど、どうも演奏中にモノを食べる気がしない、というか「食べるのを忘れてしまう」って感じ。
 今回はお酒も飲まなかった。
 というのも・・・ここに来る前にベルギービール専門店というところに行き、とびきり旨いビールを4杯ひっかけてきましたゆえ。

 中盤は思いきりオリエンタルに。ドラム担当が座布団を敷き、床に座る。彼の前には大きな壷と長ーーい木の笛、鈴etc。
 ステージも暗くなり、壷を手で叩く音、中に息を吹き込む音などをバックに二胡が歌う。怪しげ〜な雰囲気で。
 曲のタイトルは「不夜のともしび」。暗い闇の中に導かれるように聴き入る。この世であってこの世でない、未知の世界との境界線をさまよっているような気分になる。

 ウェイウェイさんは日本に来て13年だそうだ。ちょっとなまりがあるけれど日本語はペラペラ。
 日本はいろんなジャンルの音楽で溢れてる
 彼女は日本に来て、まずこのことに驚いたそうだ。そして「海綿が水を吸い込むような」勢いで彼女は音楽に満ち溢れた日本で活動するようになったそう。
 日本は日本でいろいろ問題の多い国に思えるけど、世界的に見るとやっぱり恵まれた自由の国なんだろうか。
 
 ちなみに彼女は最近「教則」のCDを発売したそうです。ん!近藤さんと同じだ!

 後半はこの楽器の「甘くせつない」音色を存分に生かした曲たちで。
 「母への想い」「この愛をお姉さんへ」
 「この愛をお姉さんへ」というのは妹さんとの合作だそうです。妹は歌をやっているらしく、この曲に歌詞をつけてくれたそう。残念ながら今日は歌はなかったけれど。でも歌ってもらってもチンプンカンプンだっただろうけど(悲)。あぁ、バイリンガルになりたい!!英検準1級の学習、苦しんでおりますぞー、こりゃきっとまた落ちますぞー、試験に2回も落ちるのは車の修了検定以来か・・・いや、まだ落ちたと決まったわけではない、あと1ヶ月半あるっ!!こんなトコに来てないで勉強しろよー!!
 
 この楽器、ホントに不思議な魅力がある。楽器というより何か生き物が「鳴いている」「呼んでいる」みたいな感じがするのです。
 初めて聴くのになぜかなつかしい・・・そんな感じもします。母親のおなかの中にいるときってこんな感じなのかも。
 遠くから優しい声が聞こえてくる、みたいな。

 日本は音楽であふれた国。
 これからもいろんな音楽に触れていきたいなぁと思った夜でした。

サマー・ポップス・コンサート   2004.8.1 ザ・シンフォニーホール(大阪)

 (指揮) 藤岡幸夫  (管弦楽) 関西フィル・ポップス・オーケストラ

 ** 第1部 夏の日のポップス **
 ラ・クンパルシータ / 「ウエストサイドストーリー」より / エーゲ海の真珠 / ひき潮 / 慕情 / 「サウンド・オブ・ミュージック」より / ムーン・リバー / ルンバ・キャリオカ

 ** 第2部 あの日の名画音楽 **
 「男はつらいよ」より / ひまわり / ニューシネマパラダイス / ゴッド・ファーザー / 風と共に去りぬ / タイタニック / バック・トゥ・ザ・フュ−チャ−

 映画音楽を聴きにいってきました。たまにはこういうのもいいかな、と。
 私、クラシックな楽器でポップスが演奏されるのって結構好きなんですよね。
 このコンサート、母と行くつもりにしていたのだけれど、突然キャンセルされてしまった。
「暑いから外に出たくなーい」
 こんな理由で4000円のコンサートを蹴るヤツがいるだろうか・・・愚かな母よ。
仕方がないのでダーリンを誘って出かけた。
 今日の会場はシンフォニーホール。ココ、好きなんですよねー。私は関西ではこのホールが一番好き。ほんとにきれいに響くので。

 まずはタンゴの名曲「ラ・クンパルシータ」。題名だけ聞くと「?知らねーなぁ」って感じだけど、誰でも絶対聴いたことある曲です。
 コンサートの雰囲気は終始なごやか。司会者の女性と指揮者の藤岡氏がマイクを握り、曲目説明やその映画にちなんだ自分の思い出話などを盛り込みながら進む。
 客層は年配の人が圧倒的。「青春時代に観た映画の音楽を聴きながら、若かりし日をなつかしみ」たいのか。
「今はコンピュータグラフィックの技術が進んで、映画も『なんでもあり』みたいになってしまったけれど、昔はお金をかけて舞台設定をして、音楽も本格的なクラシック曲を採用して、見ても聴いてもスケールの大きなものが多かったですね」
とは、藤岡氏の談。
 私も最近の映画音楽にはついていけそうもない・・・・・・。スターウォーズくらいまでかしら。ジョンウイリアムス指揮のボストンポップスを3回聴きにいったけれど、もはや10年以上昔の話・・・・・・・。あ、最近では「宮崎シリーズ」の音楽はいいわね。でもそれくらいかなぁ。

 第1部はわりと昔の映画音楽ばかりが演奏され、知らない曲が多かったけれど、雰囲気的には「印象派」っぽい感じ。山や海や太陽や月や、自然の美しい情景が浮かんでくるような曲でまとまっていました。

 第2部は私も知っている曲ばかり。
 意外にも心に残ったのが「男はつらいよ」。クラリネットのソロでメロディーが歌われた。
 うちのダ−リン、20代のくせに寅さんの大ファン。ほとんどをビデオにとり、あの有名な「寅さんの自己紹介(生まれは葛飾柴又、姓は車、名は寅次郎・・・とかなんとかいうやつ)」をそらで言えるし、寅さんが死んだときには写真展にも足を運び、挙句の果てにはうちのネコにまで「寅次郎」と名づけ、さらに将来、自分の子供に「さくら」と名づけるといってきかない。
 ヨーロッパに留学すると「完全にヨーロッパにかぶれる」人と「日本のよさを改めて認識し、日本大好き」になる人と、ふたてにわかれるそうだ。藤岡氏は後者で、イギリスに留学中、大河ドラマと寅さんは妹にビデオを送ってもらって熱心に見ていたそう。将来は不安だし、寂しいしで、日本映画のビデオを見ては涙したそうだ。
 今日は満席、立見までいた。このコンサートは毎年開かれているそうで、リピーターも多そう。ちなみに藤岡氏がポップスを振るのはこの時だけだそうだ。
「夏は大阪で、関西フィルとともに過ごします」
とのこと。

「風と共に去りぬ」のタラのテーマ。うちの母はこれが聴きたいがためにこの日のチケットを取った。母は本当にこの曲が好きで、私が高校生の時分に吹奏楽をやっていた頃には「今度の演奏会でタラのテーマやって!!」と口うるさかったものだ。
 曲はともあれ、小説を読んだあとで映画を観ると幻滅するというのは誰もが経験することだろうが、私はこの「風と共に去りぬ」の映画ほどその思いを強く抱いたことはない。
 小説は面白かった。こんな名作はまたと生まれることはないだろうと思う。
 私は大学生の頃に読んだけれど、バイト中にも話の続きが気になって仕方なく、トイレにまで持って入り、用を足す数十秒の間でも本を開いていた。
 全て読み終わるとその足でレンタルビデオ店へ。
「アシュレイはなんであんなにブサイクなんや!?」「メラニーはもっと痩せてなきゃいかん!」と怒り心頭。
 アメリカ南北戦争の戦時下で強くたくましく生き抜くスカーレットの姿には舌を巻く。女に生まれたからには生涯一度は読まなくてはならない、と思う小説です。タラのテーマも随分メジャーな曲なのですが、戦争で全てを失ったスカーレット、そして愛する人にさえ去られてしまったスカーレットが「明日には明日の風が吹く!」と言いつつ凛と顔を上げ、荒野の風に吹かれている姿が目に浮かぶ。
 昔の映画は音楽がきれいで繊細で、しかも壮大だった。あぁ、昔はよい時代だった・・・・・・と、私まで年よりじみた感慨にふけってしまった。

 関西フィルポップスオーケストラとは、この演奏会の時だけの名称で、いわゆる「関西フィル」と同楽団です。今度は12月23日、クリスマスムード満載で演奏会をするそうです。
 早く買わないと売り切れますよん。行きたい方は今すぐに申し込みましょう。

 

近藤嘉宏 :ピアノ名曲ベスト   2004.7.4 八幡市文化センター(京都)

第1部
 シューマン: アラベスク 
 ベートーヴェン: ピアノソナタ第14番「月光」
 ドビュッシー: 月の光 / 亜麻色の髪の乙女
 リスト: 愛の夢 第3番 / ラ・カンパネラ

第2部 
 ショパン: ノクターン第8番 / ノクターン第20番「遺作」 / エチュード第3番「別れの曲」
        エチュード第5番「黒鍵」 / エチュード第11番「木枯らし」 / 幻想即興曲 / 英雄ポロネーズ

アンコール
 ショパン: ノクターン第2番 / 小犬のワルツ / プレリュード第24番


 梅雨の中休み。じとっと蒸し暑い関西に近藤さんがおいでになる。気の毒だなぁと思いながらも「もっと来てくんなきゃイヤ」と思ってしまう今日この頃である。
 京阪八幡市駅に到着、バスを待つ。ホールへはここからバスで3駅。ホールへ行くのにバスに乗る、なんて初めて?かも。
 時刻より5分ほど遅れてバスが来た。もちろん超満員・・・あつーーーぃ・・・彼に会いにいくのもこりゃまたひと苦労、いつものひと苦労、しかしやっぱり「ウ・レ・シ・イ」のである♪
 今日は日曜日。私事ですが、先月部署異動を申し出て、めでたく受け入れてもらえることとなり、日曜日が定休日となった。今までは日曜日といえば毎回休暇をとらなければなりませんでしたが、これからは何の心配もなく日曜日のコンサートに足を運べるのです。異動後初めての日曜日・7月4日。この記念すべき日曜日に近藤さんの演奏を聴けるなんて、何か運命的なものを感じざるをえない、とまたもや危ない妄想にひたる私であった。オホホホホ。(異動を申し出たのは、やはり「仕事と家庭の両立が時間的・精神的・体力的に厳しくなってきたからで、けして近藤さんのコンサートのためだけではありませぬ)。


 ホールに到着。なかなかよさげな感じ。まずはCD売り場をチェック。
 今日買えば、特製ポストカードがもれなくもらえるらしい。
 うーーーーむ。ポストカード、ほしいなぁぁぁ。あれだけ1枚100円くらいで売ってくれんかなぁ、としばらく眺めていたけどあきらめた。
 ポストカードはソナタのCDのジャケットと同じ、近藤さんが耳に両手を添えてるやつだった。ほしーなぁ・・・でもジャケットと同じだものな、あまり意味ないか・・・と迷うこと数分。
 あぁ、ソナタのCDを買うのは今日にするべきだった。
 最初はそのつもりだったのだ。
 しかしソナタのCD発売日が6月23日だったのがいけなかった。頼みもしないのにその日は仕事が休みだったのだ。朝からソワソワしてしまい、家にじっとしていられなくて、梅田の●ワーレコードに走ってしまった。店はまだ開いてなかったので外でしばらく待ったあと、開店と同時にソナタCDめがけてまっしぐら。その日一番最初の客になった私。
「あのー、近藤さんのイベントないんですか?」
と、レジで店員に詰め寄ってみた。
「ないですねー」
「2年ほど前はあったから今回もやるかな、と思ったんですけど」
「もう、うち、ピアノ置いてないんです」
だってさ・・・ちッ、シケてんなぁ!ピアノ置いてないだとぉ?そんなだから『大阪は文化水準が低い』とか言われるんだよッ!ちきしょう、渋谷ではイベントやるのに、なんで大阪ではやらないんだよーっ!

 ホールの中に入る。座席は17列目。本当は3列目くらいで聴きたいのですが、なかなか取れないので、最近はすっかりあきらめモードに入っていて、発売日過ぎて何日も経ってからチケットを買うのでこのありさま。
 ステージにはピアノ、そして大きな花器にいけられた花が。なんだか子供のピアノの発表会みたいな雰囲気。なかなか新鮮だけど、こういうのは初めてなのでやっぱり違和感が・・・。
 今日はひとりで来たし、あたりを見回しても知っている顔がいないので、さっさと座席についた。はやくはじまんないかなぁ。。。親鳥を待つヒナ鳥のような気分で近藤さんが出てくるのをひたすら待った。
 そう、私はヒナ鳥・・・お腹をすかせ、巣の中で口をぱくぱくさせながら親を待つ・・・。
 客電が落ち、近藤様のご登場。
 空から舞い降りてきた親鳥の姿を見つけ、いっそう口をぱくぱくさせるヒナ鳥な私。
「今日のピアノは20年ほど前のピアノなんです。僕も弾くのを楽しみにしていました」と近藤さんはにっこり♪どんな理由であれ、近藤さんが「楽しみにしていた」と言ってくれるのがしあわせ。あなたがうれしいと私もうれしい。いつまでも「楽しんで弾いて」ほしいデス。

 ピアノに向かう近藤さん。親鳥がやっと巣に到着。ヒナ鳥においしいエサを・・・ピアノから発せられる音たちがヒナにとって一番のごちそう。
 近藤さんは渡り鳥。日本全国で待つヒナ鳥たちのためにとっても忙しそう・・・暑さのせいか、私の妄想癖はとどまるところをしらない。

 アラベスク。音符がふわふわと頭上から降ってくる。私はヒナ鳥・・・いや、違う。
 私は魚。近藤さんに飼われている魚・・・水槽の中にそっと振りかけられたエサ、ゆっくりゆっくり水に溶けながら降ってくるそれを私は夢中で口に入れる。パクパクパク・・・。
 ホールに集った客はみな魚・・・魚たちは彼の与えてくれる音符を求めて泳ぎ回る。←もはや誰にも止めることはできないこの妄想癖。これもすべて彼の魅力と暑さのせいだとご勘弁くだされ。
 月光。少しお腹がふくれたところで奏でられるこの曲。魚たちは静かに聴き入る。ホールへ到着するまでの、あのうだるような暑さ。そんな苦しい記憶はどこかへ消えてしまった。外界から完全に遮断された空間の中で聴く、美しくも力のある音色。
 新譜のCDを聴いたときも思ったけれど、近藤さんのベートーヴェンは最近、とっても低音が充実している。今日の演奏は20年前の古いピアノ。いつものニューヨークスタインウェイではない。ニューヨークのキラキラした透明感はベートーヴェンには似合わない。今日のピアノはどこのメーカーかは知らないけれど、落ち着いた響きでとても心地よかった。
 月の光と亜麻色の髪の乙女。この2曲はニューヨークで弾いてほしい。次回はぜひともピアノを2台用意していただいて・・・と冗談はさておき。
 私事ですが、7月から部署異動、一日中机に向かって輸出申告書を作成する毎日。目の疲れが相当蓄積されているのだろう、眠くはないが目を開けているのがつらくなってきた。目を閉じて聴いたこの2曲。まさに「夢見ごこち」という言葉がぴったりだ。
 鍵盤をやさしくなでるように弾く近藤さん。八幡市文化センター大ホールという名の大きな水槽。かわいい魚たちをいつくしむように、彼は水面に優しく指を触れる。そのたびに水面がなだらかな弧を描く。。。その柔らかな振動に魚たちはうっとり酔いしれる。
 愛の夢とラ・カンパネラ。私は前々から考えていたのだ。近藤さんはリストの生まれ変わりではなかろうか、と。
 この2曲もそうだが、『ハンガリー狂詩曲6番』や『マゼッパ』等を弾く近藤さんを見ていると、どうにもこうにも『ハマリすぎ』だと思うのだ。
 ちょいとアンタ。それ、前世から弾いとったやろ?
と突っ込みを入れたくなる。それくらい「似合っている」感じがする。
 もうひとつ言うと(私の個人的希望ですが)、やはりリストのような「かっこいい曲」は「かっこいい人」に「かっこよく」弾いてもらいたい。
 今日のパンフレット。近藤さんの経歴紹介文から一部抜粋。

 コンサート動員も好調で、99年から00年にかけて大阪フェスティバルホールで行われた計12回のコンサートはチケットの完売が相次ぎ、記録的な観客動員と共に絶賛を博した。01年には世界的指揮者、チョン・ミュンフンの主宰する「セブン・スターズ・ガラ・コンサート」に出演、Jクラシックの旗手として参加し、チェリストのジャン・ワンたちと熱演を繰り広げた。
 甘いルックスと、確かなピアノ技巧と情熱的な演奏で、特に女性からの支持が高く、今後の国内外における活躍が大いに注目されるピアニストである。

 「演奏家に惚れるには、演奏のみに惚れるべきである」みたいなクラシック特有のオカタイ雰囲気を足蹴りにするかのようなこの紹介文!!私は近藤さんの演奏のみならず、顔も好きだし、「もしかして天然?」と思わせるようなお人柄も大好きですけど、それが何か?
 以前に本で読んだのですが、リストは女性にモテモテだったそうで、演奏会では彼のピアノ技巧に気絶する女性が相次ぎ、さらにピアノに置き忘れられた彼のハンカチを女性達が奪い合ったそうだ。(リストは「わざと」ハンカチを置き忘れ、女性達が繰り広げるハンカチ争奪戦を陰から面白がって見ていたそう。その他、演奏中に客席の女性に流し目をおくっていたとかいう噂もあるらしい。近藤さんはそんなことしないけどね。残念←??)
 リストが今も生きていたなら・・・サイン会は長蛇の列、サイン会が終わっても写真を撮りたがる女性たちが彼を取り囲み、そして彼が退場する際には別れを惜しんで手を振り続ける女性が大勢いたに違いない。
 やはり近藤さんはリストの生まれ変わりなのだろう。誰が何と言おうと、誰かがどこかで何か言うかもしれんが、この場ではそう結論づけさせていただくことにしよう。


 後半のショパン。「木枯らし」には驚いた。近藤さん、今回はかなり冒険したのかなぁ。出だしの部分が今までと全然違った。ものすごくゆっくり、静かーに弾いたのだ。最近続いている『神聖敬虔路線』がここに顕著に表れていた。
 それにしても手汗の処理には苦労されているようだ。最近近藤さんは手にクリームを塗りながら弾いている。あのクリームはなんだろう、と思っていたら、なんと「リップクリーム」だそうである(ファンサイト掲示板での書き込み情報による)。このあいだの西宮では容器入りのクリームだったが、今回はスティック状だった。
 というわけで私も近藤さんにならって、会社でリップクリームを指に塗り(手のひらに塗る勇気は出なかった)、書類をめくってみた。
 余計に滑らないですか???やはり私には「ゴム製・リング状・青色指サック」が最適のようである。←一度はめたら一日快適、何度も塗りなおす手間も時間もかからない。今度文具屋が来たら、近藤さんのために「透明指サック」を製造してくれないか相談してみよう。←冗談です。
 アンコールは3曲。ノクターン第2番・・・静かで淡々としたメロディーの中に、時折見える妖艶さがなんとも魅惑的。
 小犬のワルツの次は!プレリュード24番!!!
 嵐の夜に聞く雨、風、雷のような旋律。さきほどの2曲と違い、情熱のかたまりに豹変する近藤さん。音をホールの天井に壁にガンガン響かせつつの演奏。四方八方から反響する音の嵐に吹きさらされる。
 最後の低音三つ。ガーン、ガーン、ガーン。この音を弾く時、近藤さんは客席に背中を向ける格好になる。
 嵐のあとの静寂の中に残る音三つ、そして近藤さんの背中。
 最後の音が消えるまで近藤さんは客席を振り返らない。

 このポーズがかっこいいのよねっ!!もう、すべてが完璧!!!

 そして最後の音が消えた。今回もきれいに決まった!!
 ブラヴォーッ!!!
 

 あーーーーー。
 爽快な気分で外に出た。次はサイン会、今日はソナタのCDにサインしてもらうのだ!と意気揚揚と列に並ぼうと・・・、
 げーっ、なんやこりゃ?どこまで続いとるんや、これは?最後尾を求めて歩いているととうとう会場の外に出てしまった。並んでいるのはやっぱりほとんどが女性。さすがリストの生まれ変わりなだけのことはある。
 そうして炎天下に放り出された私は「これも彼に会うためよのぉ」と自分で自分をなぐさめた。
 長蛇の列、とは読んで字のごとく、長い蛇のようにクネクネ曲がっている列のことを指すのだろうが、今回は近藤さんに対して『垂直』一列に並ばなければならないのだった。近藤さんの周辺はブースで仕切られていたので、顔を見られるのはサインをしてもらう一瞬だけ、というガードの固さだった。
 今日はソナタCDの感想を言ってみよう、とシナリオを描いていたけれど、これじゃあ話もできんわな、残念だけど今回はさっさとずらかろう。
 だんだん近づくにつれ、混雑のすさまじさが際立ってきた。
「はい、次の人!」とスタッフが私の前に並んでいる人の頭の上から手を伸ばし、CDジャケットを取り上げてしまった。ジャケットは近藤さんとご対面する前から取り上げられてしまう・・・そして自分が近藤さんの前に出た時には『サイン済ジャケット』を受け取るだけ、という方式になっていた。今回は一度に6枚のCDを発売したこともあり、複数枚買う人もいたので、近藤さんはてんやわんやという感じだった。
 ええい、この仕切りを取らんかっ!こんなに仕切るからこんなに窮屈なんだよぉ・・・近藤さんの目の前に並べられたたくさんのジャケット。アタシのはどこに行った?他の人のと間違えて持って帰られるんじゃなかろうか、と私は近藤さんの顔も見ず、ジャケットばっかり目で追っていた。そして前の人が帰っていき、私はところてんのように垂直に近藤さんの前に押し出された。が、私はまだ自分のジャケットがちゃんと残っているかどうかに気をとられ・・・だって、それほど大切なものなんですもの!
 「あ!」
 と、声がしたので見やると、近藤さんがにっこり微笑んでいた・・・とは気のせいかもしれんが、私は、あと気温が一度高かったら鼻血を出していたかもしれまへん。
 アタシのジャケット、もうサイン済。受け取ったら帰れということなのだろうが、もうひとふんばり。
「私の名前を入れてもらってもいいですか?」
 念願のベートーヴェンのCDなのだから、これはぜひとも記念に残るようなものにしておきたい。
 近藤さんはお疲れだろうに、ハイハイと快くOKしてくださった。
 波打ち寄せる海岸。その右端に近藤さんがシブいお顔でたたずんでいるという、ジャケットの裏表紙の写真、ステキよねえ。私はその写真の下の方を指差し
「このあたりに、『あっこちゃんへ』と」
 と、いい歳をして『ちゃん』指定。
 前日にダンナに「近藤さんに『あっこちゃんへ』って書いてもらおうと思うねん」と言うと「イタイヤツって思われるからやめとけ」と注意を受けたが、私のイタさはもう充分に近藤さんに伝わっていると思われるので気にしない。
「あっ、こ、ちゃん」
 近藤さんはそう言いながらさらさらと書いてくれた♪が、、、そのまま固まってしまった。

  あぅあぅ・・・だから言ったよのぉ・・・下の方に書いて、って。

 あっこちゃん、と書いたところで、スペース切れ。「へ」を書くと海辺でたたずむ近藤さんの顔に字がかぶってしまう。
「あっこちゃん・・・うー・・・」
 マジックを握りしめたまま困惑する近藤さん。しかし「へ」を書いてもらわなくては。私は考え込む近藤さんの頭の上から言った。

「へ!」

「へ・・・?」
 近藤さんは、まだ困っていたけれど、私はさらにもうひと声、

「へ!!」 

 近藤さんは行を変えて「へ」の文字を書いてくれた。
 わーい、「あっこちゃんへ」と書いてもらえたわー♪ しかしよくよく見ると・・・

   あっこちゃん
    へ

 こんな感じの仕上がりだった。「へ」は改行、なぜかやたらと字がデカイ。
 なんかヘン・・・と思いながらも、目標達成、やっぱりうれしい私なのでした。

 今回はお見送りせずに帰りました。だって「駅までの臨時バス、これが最終でーす!」とスタッフが何度も何度も叫ぶんですもの。ちょっと心残りでしたが、この次に会社の人とビアガーデンの予定があったしぃ。
 そうして私はしあわせな気持ちで「日曜日の電車」に揺られつつ、帰途についたのでした。

 うーん・・・このプログラム、もぅネタ切れだぁ。演奏についての詳細・感想をお望みの方には申し訳ないです。またもや、自分のことばっかり書いてしまいました。

近藤嘉宏 :ピアノ名曲ベスト2004   2004.5.29 西宮市民会館アミティホール(兵庫)

第1部
 シューベルト: 即興曲第3番 変ト長調 作品90-3
 ベートーヴェン: ピアノソナタ第8番「悲愴」
 ラヴェル: 水の戯れ 
 バラキレフ: 東洋風幻想曲「イスラメイ」

第2部 
 ショパン: エチュード ホ長調 作品10-3 「別れの曲」 / エチュード ハ短調 作品10-12「革命」 / 前奏曲第15番 変ニ長調 作品28-15 「雨だれ」 / 前奏曲第23番 ヘ長調 作品28-23 / 前奏曲第24番 ニ短調 作品28-24 / スケルツォ第2番 変ロ長調 作品31

 リスト: 愛の夢第3番 / ハンガリー狂詩曲第6番

アンコール
 ショパン: ノクターン第2番 / リスト: 「ラ・カンパネラ」


 ここしばらく同じプログラムが続いていた近藤さんだったが、今回はシューベルトやバラキレフ、ショパンの「雨だれ」等、初めて聴く曲がたくさんあり、私はこの日をとってもとっても楽しみにしていたのでした。

(開演前)
 今日は東京のファンの方とご一緒させていただくことに。大阪に来るのは初めてだという彼女。ではランチは「たこ焼き」にしましょう、ということで、大阪駅前マルビルの地下にあるたこ焼き屋へ足を運ぶ。
 ココ、かなりの人気店でいつも行列ができる。テーブルにたこ焼きの鉄板が置いてあり、自分で焼きながら食べるのだ。味は特別旨いというわけでもないけれど、「自分で焼くことに意義がある」ってな感じ。
「大阪の家には必ず一家に一台たこ焼き機がある」と言われているらしいが、それはウソです。私の家にはありません。
 この店、学生時代に一度だけ行ったことあったけど、私も友人もたこ焼きが上手く焼けず、ボロボログチャグチャにしてしまった。でも今回は店がすいていたので店員がマメに私たちのテーブルに来てくれ、焼くのを手伝ってくれたのでなんとかうまくいきました。
 近藤さんならきっとたこ焼きを上手くひっくり返すに違いない・・・。リストを弾くあの手にぜひとも千枚通しを握らせてみたい。ラ・カンパネラを弾くときの、あの素晴らしい手の動き・・・たこ焼き100個くらいあっという間に焼けるだろう。
 話は変わり、この東京のお友達とは今日が初対面。ココに時々遊びにきてくださる、のんのんさん。どこでココをお知りになったのか聞いてみたら、「近藤さんのことをインターネットで調べていたらひっかかった」ということでした。てっきりファンサイト関係から流れてきた人だと思っていたのでびっくりすると同時にとっても嬉しかった♪素性の知れない個人がやってるサイトに書き込みとかするのってすごい勇気がいったと思うんですよねー。
 たまにイヤなこともあるけど、やっぱりHPやっててよかった!と思った私なのでした。
 ランチのあとは西宮へ。私の母と伯母、いとこと合流。

(開演)
 近藤さん、全身黒の衣裳で登場。ファンの方ならご存知かと思いますが、あのしわしわ加工のツメ衿タイプのやつです。アレ着ると近藤さん、ますます痩せて見えるのよねぇ・・・(悲)。
 そしてトーク始まる。私の座席は21列目だったので近藤さんの表情はよくわからなかったけど、まぁまぁお元気そう。近藤さんの声ってほんと癒されるわぁ。
 いよいよ演奏へ。
 シューベルトの即興曲第3番から始まり。私の友達が「この曲はホントに涙が出るほどいい曲だから頑張って聴いてきて」と言っていたので、かなり気合を入れて聴く体制に入る。
 意外としんみり系?近藤さんはいろんな曲を弾かれるけれど、やっぱり「キラキラ明るく美しい」イメージが基本。でもこの曲の演奏で「基本的イメージ」が少し変わった。なんだか今日の近藤さんは「内省的」なのだった。その印象は最初から最後まで続いた。
 ベートーヴェンの「悲愴」。ものすごく重かった・・・1楽章だけでどっと疲れてしまった。この曲、こんなに長かったっけ?客席から拍手が起こった。知らない人には無理もない、それくらい1楽章が長く聴こえた。
 近藤さんは座ったまま客席に笑顔を向けた。そして手で「止めて止めて」と観客に拍手を止めさせる仕草を。
 2楽章もゆったりと。先月の北海道での演奏とは全然違う印象。正直、先月はあまりに軽くてガッカリしたけれど、今日は重すぎるくらい重かった。
 すごくよかった・・・私は好きです、こういう重たあい感じ。そのままの流れで3楽章、そして終結・・・あぁ、ため息。
 心地よい重量感に包まれた次に演奏されたのはラヴェルの「水の戯れ」。今日のプログラムは「雨だれ」も入っている。近藤さん、梅雨入り前を意識?ピアノで季節感を・・・心憎い演出ではないか!甘い匂いの春風から雨の季節へと移りゆく微妙な感じ・・・湿った空・長々と降り続く雨・憂鬱・・・。
 それを近藤さんがさわやかな「水の戯れ」でやんわりと忘れさせてくれた。水がこんなに美しいものならば、それが空から降ってくるなんて、なんて素敵なことだろう!と思ってしまう。
 そしてお楽しみ、バラキレフの「東洋的幻想曲『イスラメイ』」。私、バラキレフなんて名前、初めて聞きました。なのでちょっとだけ本で調べましたけど、ロシアの作曲家なんですね。あまり詳しくないけど、ロシアの作曲家って「壮大でスケールの大きな、派手めの曲を書く」ってイメージが強く、それに東洋のオリエンタルムードが重なるのかと思うとわくわくしたのだ。しかし・・・
「東洋的幻想曲という題名がついていますが、メロディーには東洋のイメージはありません」
と、近藤さんが最初のトークで言ったのでガックリ。近藤さんの奏でる怪しげで色っぽいオリエンタルさを期待していたのになぁ。
 近藤さんの言うとおり、東洋のイメージは全然しなかった。しかも漠然とした曲で、つかみ所のない感じ。弾くのも難しそうだけど、聴くのも難しかった。この曲はきっと「何度か聴いているうちにやっとそのよさがわかる」という類いのものだろう。
 休憩後、ショパンが6曲続いた。特によかったのはプレリュードの3曲。
 前半から続いている「内省」がここでピークに。一音一音を深く考え込むように弾く近藤さん。
 時折物憂げに顔を上げ、振り上げた手を宙で止め、再び視線を落とし、鍵盤に両手を置いたままうなだれ・・・。
 ・・・・・・なんかすごく「思い悩んで」いるように見えた・・・・・・
 深い悩み、強い願い。何かに祈るように弾く近藤さんの姿が印象的だった。
 私のお友達で、近藤さんのコンサートのことを「ミサ」と表現する人がいる。妙な表現だなぁと思っていたけれど、なるほど、「ミサ」という表現もはまっているかもしれない。
 祈る近藤さん、捧げられた祈りに頭を垂れる聴衆。教会の、高い窓から差し込むひとすじの光に祈りをこめて。
 敬虔な気持ちにさせられた、そんな「プレリュード」だった。迷える子羊たちの魂はたったひとりのピアニストによって救われたのだった。
 リスト2曲。「愛の夢」も引っぱって引っぱって長い演奏。
 「ハンガリー狂詩曲6番」、やっぱりかっこいい〜〜!完璧な演奏に、客席からブラヴォーの声が。
 今日は2000円というチケットの安さから、子連れの客がたくさんいた。花束を抱えて舞台に駆け寄る子供2名あり。私も子供ができたら近藤さんに花を持って行かせよう。フフ。
 アンコールでは「ラ・カンパネラ」が。最近の近藤さんはすごく速く弾くので「ラ・カンパネラ」ではミスタッチが目立って、聴いててつらかったけれど、今日はちょっとテンポを落とし、タッチも完璧!!!「近藤さんのラ・カンパネラがいつもこんなだったらいいのになぁ」と思いました。

 全体的に内省的で、静かに内にこもっていくような感じ。曲想も「シブめ」ですごくいい感じ。素敵なプログラミングでした。でもファンとしては「近藤さん、何か悩んでいるのかなぁ」などと余計な心配をしてしまうおそれあり。
 
(サイン会)
 並ぶ。母と伯母といとこを待たせてまで。だってぇ・・・先月の北海道、サイン会なかったんですものおおおお!←しつこくネに持つ。
 てんやわんやの人ごみの中で、さくらさんに遭遇する。
「近藤さん、演奏中にクリーム塗ってた」「あ!やっぱり?」「汗止め?」「制汗デオドラント?」
 近藤さんの手汗拭きながらの演奏はおなじみですが、今日は手にクリーム塗りながら弾いてました。初めて見る光景だったんで得した気分♪
「近藤さん、髪型変わった?」「そうやなぁ、なんか坊ちゃん刈りっぽい?」「イヤやわぁ、前の方がよかった・・・」「うん、なんか・・・昔、『チェッカーズ』にあんな人いたよな?」「そー、おったおった!」
 近藤さん、キノコカットになっていた。いつチェンジしたのかしら。

 毎度サイン会に並ぶ私に母は呆れる。
「だってさー、近くで顔見るの2ヶ月ぶりなんやから。今日は久しぶりやわぁ」
「2ヶ月で(久しぶり)なん?」
 これには母ばかりでなく、いとこも笑っていた。
「うん!めっちゃ久しぶりやわ〜〜〜♪」
 と、浮かれる。
 思えば去年の10月初旬を皮切りに近藤さんに会わなかった月はないのだった。なんという幸せだろう。サイン会に並ばなくとも終わりまで待って写真&お見送りは欠かさず、気がつけば8ヶ月連続で通い詰め。「2ヶ月ぶりで久しぶり」とギャグを飛ばせる自分に酔いしれる。
 順番が回ってきた♪今日はちょっと勇気を出して、
「こんにちはぁ〜〜〜♪」
 と、手を振りつつ近寄ってみた。近藤さんは、、、

「あ〜!おひさしぶりです〜」

 と。エヘヘ、そーよね、やっぱ(久しぶり)よね♪♪♪
 私は大変胸を熱くし、感無量で答えた。「おひさしぶりですー」と。
 あぁしあわせ・・・・・・ いや、ちょっと待てよ。 彼は本当の意味で(久しぶり)と言っているのかもしれんだろ。そうだ、そうに違いない。結構苦労して毎月休みをとっているのに、彼にとって私は「たまにしか来ないヤツ」って認識なんだわ!
 アタシって一重まぶたで印象薄い顔だからなぁ・・・(沈)。
 ウチの会社、土日休みにくいの!「今度の日曜、なんとか出勤できませんか?」と上司や先輩に言われるたびに「あぁ・・・その日はちょっとぉ、、、とっても大事な用事がありましてぇ」と、アタシは随分と『役者』を演じてきましたのよ!それに一応「家庭」というモノもありますのよ。行くなと言われても行きますけれどね、でもいくら好きで行っているとはいえ、毎月追っかけるのは結構大変なのよ・・・そんなにまでして行くのはひとえに「あなたの演奏が素晴らしい」からヨ!!!(ひさしぶり)だなんて誤解よーッ!!
 と、浮かれ気分もすっかり消え去る。

「あっ!でも!先月も北海道まで行ったから、全然久しぶりじゃないですよ」
 と、私は(久しぶり説)をきっぱり否定。
 私は毎月、毎月聴きに来ていますぅぅぅ!!

 近藤さんはキョトンとした表情で、

 「でも、それでも、いっかげつぅ・・・?」

 ????????????
 
 月に一度じゃ足らんのか。そうか・・・。そうか??
 
(いっかげつぶりでしょう?それは《ひさしぶり》でしょう、アナタの場合。違うの?)
と言わんばかりに不思議そうに首をかしげる近藤さん。
 そうか・・・月に一度で「大変」だとは私の思い上がりだったのか。
 もっと追っかけなきゃいかん!!とことんこの人を。まだまだ足らんのだ!!!
 近藤さんはそうやって、私の心に燃えさかる「愛の炎」にますます油を注ぎこむのだった。
 話しかけるのはものすごく緊張するので、私はいつも会話のシナリオを頭に描き、イメージトレーニングを欠かさないが、近藤さんのリアクションは予測しにくい・・・。毎月追っかけ、北海道まで行ったと言えば喜んでくれて「ありがとうございます」的な言葉をかけてくれると思いきや・・・。「でも1ヶ月?」と言われ・・・。確かに去年の秋はひと月に2度も3度も出かけたことがあったけどなぁ。。。
 私の頭の中は真っ白に。気がついたときにはこう口走っていた。
「近藤さん、先月はサイン会もせずに帰っちゃって。ちょっとプンプン!」
 近藤さんはシブ柿を口に入れたような表情で「あぁ、あのときねえ、ホントに時間なかったんですよー」と。
 北海道のみなさま、次回はサイン会してくれるといーですね。
「お忙しいでしょうけどお身体に気をつけてください」と最後は真面目にアイサツしときました。
 近藤さんて面白いわ。。。普段はどんな人なんだろ。意外と『無礼系』??
 でも、好き♪いつまでもついていくわ〜(でも6月は予定ナシ。すんませーん)
 今日はお話できてよかった。いつものごとく、ビミョーにかみ合ってなかったけどね。

 最後に補足。
 今回の主催はアサヒファミリーニュース社というところなのですが、いつもパンフレットが充実してます。近藤さんの写真&インタビュー記事付だし、客から集めた感想文を近藤さんに届けてくださるし、さらにそこからいくつかを次回のコンサートの時に載せてくださるのです。今までいろんなとこまで追っかけましたけど、ここの主催のが一番リキ入ってる。ホールはいつも満員だし、チケット販売の方もかなり頑張ってくださっているのではないかと。
 前回のコンサートは昨年12月25日でした。昨年のレポにも書いてますが、この日はアタシとダーリンの結婚記念日♪そして次回は9月25日なんですが、その次は・・・なんとまた12月25日なんですよぉぉぉ♪今年の結婚記念日もこれでバッチリ!
 帰宅後、開口一番、「今年も『結婚記念日IN西宮』やで!!」と報告。2回言ったけど2回とも無視。。。でもまだ時間はたっぷりある。必ず説得しますとも。


森山直太朗 :新たなる香辛料を求めて   2004.5.26発売

 今回はコンサートレポートではなく、CDのご紹介&感想を。
 
「新たなる香辛料を求めて」は5月26日発売のニューアルバム。私は早々に予約を入れ、発売日前日にCD屋に飛んでいった。
 私たち夫婦は給料が出るとそれぞれに生活費を出し合い、残りを自分の小遣いにする。自分の趣味で買うCDは自分の小遣いから買うべきで、生活費はパンや牛乳や洗剤やネコのえさ代にする。しかし、
「直太朗のCDに限り、ふたりの生活費から買ってもいい」
と、我が家の家計を握るダーリンの許可が出た。直太朗は我々夫婦にとってパンや牛乳なみの「生活」に欠かせない存在となっているのです。
 夫婦揃ってハマっているのですね〜。テレビをめったに見ない私にダーリンはしばしばメールを打ってくる。
「今夜O時から直太朗がテレビに出る!」「今夜のドラマで直太朗の歌が流れる!」夫婦は慌てて帰宅し、テレビにかじりつく。
 テレビでしゃべる直太朗は歌での真面目なイメージと違って、ちょっとおとぼけキャラだ。そこがまたカワイイ♪

 以後、ニューアルバムの曲を紹介。
***茶色は歌詞、紫は『新星堂new release infomation & interview magazine `pause`』においてインタビューに答える直太朗の言葉を引用)***

(太陽)
 ちょっと一曲歌わせて 今訊いておきたいことがある 
 いつか僕もあなたも白髪になって 忘れてしまうだろうけど

 花咲き誇るこの小さな列島にこれ以上何を望みますか 殿様じゃあるまいし
 透き通る風に誘われて土筆の子供が顔を出した いつかのあなたのように

 銀河に浮かぶこの辺鄙な惑星の六十億分の物語 それは終わらない約束
 草木も眠るあの聖なる夜に 偶然あなたが生まれ落ちた
 輝く奇跡を信じ 生きる


花咲き誇るこの小さな列島にこれ以上何を望みますか 殿様じゃあるまいし」
 う、、、言ってくれるじゃないの・・・。
 人間、欲望は尽きないものじゃない?ねえ???アンタはどーなのよ、ここまで売れたからにはでっかい野望持ってんでしょ。

「全く無いものから一つの作品に、無から有に向かって行く時っていうのは、常に客観性を持っていないと凄くさまよってしまう事が往々にしてあって。人間だから体調も崩すし、感情の起伏もある。常に自分の程度、身の丈っていうのをキチっと理解できていないと、調子を落とした時に一番いい時の自分を想像してしまって物事をフラットに見られなくなる。自分はこの程度じゃないか!ってことの認識をちゃんとしていないと、冷静にできなくてさまよってしまうことがあるんだなぁ、と」

 冷静なのね・・・そーいえば近藤さんもおんなじようなことを雑誌で語っていたなぁ。

(紫陽花と雨の狂想曲)
 君と初めて出会った日から 僕の時計は壊れているのさ

 雨に濡れたこの僕はアイロニー ずっとここで待っているのさ
 名前も生い立ちも知らないのに 赤い糸が見えているのだ
 こうなったら仕方ないや 後を付けて君を護るよ

 君の家の灯りが消えた後 お迎えに行くよ 僕らロミオとジュリエット
 忍び足で君の眠る部屋のドアを開けたら

 紫陽花と雨の狂想曲
 紫陽花と雨の狂想曲
 紫陽花と雨の狂想曲
 紫陽花と雨の狂想曲


 ストーカーか?ううん、ちょっとした遊びゴコロなのよねー。ちなみに『紫陽花と雨の狂想曲』のフレーズは『あじさいとレイニーラプソディー〜〜』って歌っているようです。 アップテンポの楽しい曲です。
 
(愛し君へ)
「言葉なんてただの記号」だと直太朗は言う。

「その言葉をどれだけ立体的に捉える事ができるか?表現することができるか?ってことは、たぶん人間だけが持っている大きなテーマだと思う。だからナイフやコンピュータなんかよりも、人間は言葉を使う事にもっと神経を配らなきゃいけないんじゃないかなぁ」


 言葉は単なる記号であり、それをどこまで感情に近づけていけるか、という挑戦を試みているのがこの「愛し君へ」だと思う。
 足りない、足りない、言葉が追いついていない、と私はこの曲に関して思う。

 いっそ 最後まで 最後まで 信じられる力を僕にください
 例えばそれが 偽りでも

 朝の光に 君が消えてしまいそうで 僕はまた眠った振りをした

 伴奏はピアノのみ。しっとりしたバラード調の曲で、月9(だったと思う)のドラマの主題歌になっているので知っている人も多いだろう。
 朝の光に君が消えてしまいそうで・・・そんなことがあり得るはずがないのに、こういう感情はわかるような気がする。こんなこと考えたって仕方ないのに、つい考えてしまう。だからわざと目をそらし、考えないようにする。眠ったフリをするように。
 恋愛してる時ばかりではなく、ふと「これは全部夢ではなかろうか」とか「今の幸せが永遠に保証されているわけではない」とか思うことがある。愛し合って結婚してもいつか来る別れ、どんなに愛情を注ぎ込んでもいずれは自分のもとを離れてしまう我が子、そして全てを置き去りにしていつか必ず死んでいく自分。
 そんなことを改めて考えた。
 歌詞は短く凡庸だけど、そこに込められた万感の想い。でもこの曲の周りには愛が、言葉で表現しきれなかったたくさんの想いが、行き場をなくしてキューキュー泣きながら浮遊してるような感じがする。もっと伝えたいのに、言いたいのに、でもどうすればいい?もどかしくてどうしようもなくて泣きたくなる・・・そんな感じ。

 愛する人への感謝の気持ち、素晴らしいことに触れた喜び、たとえば感動的な音楽や風景に出会ったとき、言葉で表現しきれないもどかしさを感じることがしばしばあり、でもそれをどうしても伝えたく、でもそれには陳腐な言葉を羅列しなければならない・・・そのもどかしさ、くやしさ・・・言葉を持ってしまった、また伝達方法が『言葉』しかない人間の悲しさがこの曲から伝わる。
 この曲を聴いて多くの人が涙を流す理由が、なんとなくわかる。人間とは『言葉にできないたくさんの想い』を抱えながら生きている生き物なんだろう。

 個人的には伴奏がピアノオンリーってのもポイント高し♪ 

(旅立ちの朝)
 君が今も 静かな眠りの中にいることを願う
 決して何にも妨げられずに
 車輪のない列車に乗って 旅人は旅立ちの理由を考えた

「一人になるべき時もある。人一人では生きていけないとか、一人じゃ何もできないとまでは言わないけれど、人一人が出来る事って凄く限られているってことをまず受け止めなければいけない。人と関わる事で人生に大きな空気を持たせられたりもするんだけども、また一人になるべき。だからこそ一人になるべき場所もあるし、時もある」

 一人でいた時間って私はどれくらいあったのだろう。結婚するまでは実家にいたし、一人で寝て起きてゴミ出して仕事に行って帰って風呂に入って、っていう生活もしてみたほうがよかったのではないか、と思ったりする。たまに一人旅をしてみるくらいじゃダメだなぁ。忙しい日々の中で「ひとりになりたい」と思うことは実は幸せなこと。ほんとにひとりだったら「ひとりになりたい」とは思わないはずだもんねえ。
 この歌のように「旅立つ理由を考えてまで一人になるべき時がある」場合というのは主に恋愛関係において、ありがちな感じ?『コイツといたら自分がダメになってしまう』と思ったことは私にもありました・・・。こういう場合にきれいさっぱり別れてひとりになる方を選んだ人の方が、のちの人生いい感じになるのかもしれません。しかし正直言うと「切れ目なくカレシができる人」ってうらやましいけどね。
 あ、なんか違う方向へ話がいっちゃいました?すんませーん。

(青春のメモワール)
 ノックアウトされたリングサイドに、僕は一人腰を下ろした
 薄れゆく意識の中で、君の姿を探した
 闇雲に出したパンチは 尽く空を切り裂いた
 倒れてはまた立ち上がり 時が過ぎるのを待っていた

 スローモーションで蘇る 君の笑顔はいつも優しくて
 終わりなき孤独のシャドー 君と駆け抜けた since 1968


 上記のとおり、時代設定は1968年。もちろん直太朗が生まれる前のこと。どうして1968年なのか?
 この時代といえば70年代の高度成長期の直前で、学生運動とか紛争とかビートルズとかが全盛の時代。この時代の独特の情熱、狂気、人間の生臭さが満ち満ちている感じに興味を持ったのだそう。「世の中は混乱していたけれど人々の意思は熱く、激しく、はっきりしていた」みたいな。
 1968年といえば、私の生まれる1年前ですけど、東大安田講堂の事件とか見てても全然実感湧かない。随分昔のことのような気がして。学生がこんな強固な意志をもっていた時代があったのか!って、まるで自分が生まれるずーーーと前に起こったことのような気がします。しかし自分が生まれた時期と同時期の出来事なんですよねぇ・・・しみじみ。アタシも歳を取ったもんだワ。
 もし、あの時代に青春時代を送っていたらそれはそれで楽しかったかも、とは思います。ただし、学生運動に参加するのはヤだけど。
 
(例えば友よ)
 今、僕らは変わらない時代の尖端で 戸惑いながらも 未来へと続く扉を叩く
 例えば友よ 隣の芝が気になったら よく見てみろよ 何もないだろ

 遍し空へ 偉人たちの涙を胸に共に羽ばたこう 
 今じゃないけど 時は来るだろう 例えば友よ


「隣の芝には何もない」「共に羽ばたこう!今じゃないけど
 クールなようで実はあったかい言葉だなぁと思う。

(声)
 これ、歌詞がいいの、とっても!愛とはなんだろう、私の考えてる『愛』に結構近い感じ。言葉にしてくれてありがとう!って直太朗に感謝。
 愛とは「求めるもの」でもなく「与えること」でもない、と思う。「無償の愛」って言葉、私はとても嫌いなんです。有償だとか無償だとかそんなハナシ、イヤラシくないですか?

 あなたの歩む道と あなたを育むものすべてが どうかいつも輝かしくあれ

 ああ夏の日 風に吹かれ 雲に焦がれ あなたはどこへ
 ああ愛とは ああ愛とは 何も語らず 静かに そっと肩にかかる雨


 今 私の胸の中に息衝くのは 確かな誇り
 ああ あなたが ああ あなたが 今日もどこかで 真綿のように 生きているということ


 愛とは・・・風のように雲のように雨のように、ただそこにふわりと存在しているもの。あげたりもらったり有償だったりタダだったりする「物」じゃない。
 山に行った時に思うんです。「なんかホッとするんだよなぁ、この山がいつもここにある」ってことに。
 愛する人からそんな風に思ってもらえる人になりたいです。何も語らず、静かに肩にかかる雨のような愛を「漂わせ」ている人に。

(生きとし生ける物へ)
「直太朗、やりおったな!」
 この曲が新曲として出たとき、思った。曲はまだ聴いてない、題名を聞いただけでそう思った。
「生きとし生ける物へ」
 
「見たままというか、ただただ目に映る世界を自分なりにスケッチしたら、こういう作品になってしまいました」
 
 タイトルだけ見ると『強烈なメッセージソングなのだろうな』という印象を受けるが、直太朗はあくまで客観的視点で見た風景をそのまま書いただけなのだと言う。

「だけど、一度そこに聴き手の意思が加われば、その風景は幾重にも広がっていくし、自ずと『生きる』って事に対する自分なりの意味っていうものを見出せると思うんですよね」

 私が直太朗に惹かれる理由はココなんだろうと思う。彼の方から提示されるものは客観的なもので、決して押しつけがましくなく、聴く側の想像を膨らませられるだけの隙間を与えてくれ、個々人が自分なりの答えを見出せるような自由を与えてくれる、そんなところ。

 生きとし生ける全ての物へ注ぐ光と影
 花は枯れ大地は罅割れる そこに雨は降るのだろう


 このフレーズが特に好き。男声コーラスを交えて徐々に盛り上がっていくの。心にスゴイ力が湧いてきます。

 光の当たる場所にいるときもあれば、影でわびしい思いをすることもある。でも光も影も生きるもの全てに平等に与えられているものなのだ。
 花は枯れ、大地がひびわれるほどに乾ききっても、やがてそこに雨が降る。必ず降る、恵みの雨が。そしてまた花が咲く。
 人生に山があり谷があるのは、花が咲いたり雨が降ったりするのと同じく「自然の法則」なのかも。ただそれだけのことなのかもね。
 
(革命前夜、ブラックジャックに興じる勇者たち)
 オルゴールの音色をバックに直太朗が詩を朗読する。他の歌と違い、歌詞カードに詩は書かれていないので黙ってCDに聴き入るしかない。
 オルゴールの気だるい音色&幼さの残る、直太朗のちょっと甘い声。

 あぁ、洗脳されそーーーーー。。。

(今が人生)
 地平線に転がる太陽 悩める子羊の胃潰瘍 星空に微睡む色模様
 幸せの鐘のなる方へ 健やかなる僕らの日々よ もっともっと さあ舞い上がれ


 前半の歌詞の韻、面白い。

 今こそが人生の刻 満ち満ちる限りある喜び 風立ちぬ不穏な日々の只中で 僕は何か思う

 やけに明るい感じの曲。常にバックにコーラスが。
  今が人生!今が人生!!今が人生!!!って。
 ええ、そうですとも、今が人生よ!←歌につられて若返り。さあ、あなたも一緒に歌い、踊りましょう!←踊りたくなるような曲なのよ、ホント。

(なんにもないへや)
 狭い部屋に6本のマイクを置き、ボーカルを録るというより、部屋の鳴りとか空気感を録ったものだそうです。

 なんにもないへやのなかをぼくは
 ありもしないじぶんらしさでかざってしまうんだよ

 いつかときがきたら ぼくはまどを まどをあける

 いつかときがきたら ぼくはへやを このへやをすて
 まちうけるこんなんなひびのなかを やるかたないかおであるいていくんだよ

 まちうけるこんなんなひびにぼくは かけがえのない仕合せをかんじているんだよ

 
 うう、、、涙。人間て弱い生き物なのね。。。よくさぁ、学校出ても就職しないで海外をうろうろする人っているやん?「自分を見つけに行く」って言葉を残して。そういう人に聞いてみたいんだよね・・・「見つかったの?」って。親からの仕送りをセコセコ貯めて、数十万そこらのお金で海外旅行に出かけて、それで自分が見つかったら苦労なんてしないよなあ。
 と、若い人にこんなイヤミを言うようになったら終わりですね。
 この曲の「ありもしないじぶんらしさ」って言葉が気に入りました。

 しばらくこの1枚のCDに聴き入る日々が続きそうです。
 以上、終り。

近藤嘉宏 :ベートーヴェン3大ソナタを弾く   2004.4.25 札幌コンサートホールKitara

 行ってきましたわよ、北海道まで。

(第1部)
 ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27-2 「月光」
 ピアノソナタ第26番 変ホ長調 作品81a   「告別」
(第2部)
 ピアノソナタ第8番  ハ短調 作品13 「悲愴」
 ピアノソナタ第23番 ヘ長調 作品57 「熱情」
〈アンコール)
 シューマン:アラベスク/ ショパン:ワルツ第7番/ ベートーヴェン:悲愴第2楽章

 実は先月も札幌に行った。幼なじみが札幌に住んでいるので14年ぶりに会いに行ったのだった。航空券は1月の半ばにバーゲンで買った。その時は近藤さんが4月に札幌で弾くということは知らなかった。
 もう少し早く知っていれば・・・悔やんでもあとの祭り。近藤さんの弾くベートーヴェンは私にとって神の声に等しいほどの魅力を持っているとは言うものの・・・いくらなんでもしがないOLには北海道まで追っかける財力はない。
 忘れよう、全て忘れよう、近藤さんが北海道でベートーヴェンを弾くなんてことは忘れよう。
 そう思って出かけた先月の札幌。インターネットで探した安ホテルにチェックインするために地下鉄に乗り、下りた。
 下りた瞬間、まっさきに目に入った看板。

「札幌コンサートホールKitara 当駅徒歩7分」

 アッ!ここや、ここ!!近藤さん、今度ここに来るんや!!

 やはり忘れられなかった。看板指差しダンナに向かって絶叫。
 あっ、そう、行くの?
 と、軽くあしらわれ、神のいたずらとしか思えないこの仕打ちにうなだれた。
 コンサートには行けないが、ホテルからこんなに近いのならちょっと行ってみよう、とダンナを誘うも、
   行く意味がない。
 と、断られた。近藤さんには会えないけれど、ホールに行けばチラシがおいてあるかもしれない。せめてチラシだけでも欲しかった。
   明日朝、ひとりで行ってもらってこい。オレ、寝てるから。
 またもや軽くあしらわれ、仕方なくそのとおりにした。ホールは開いてなかったのでチラシをもらうことはできなかったけれど、ホールの素敵なことといったら!
 Kitaraホールは中島公園という公園の中にひっそりたたずんでいる。広い池で鴨が泳ぎ、白樺が生え、小さな川に流れる水が、積もった雪をすこーしづつすこーしづつ溶かしていた。
 今までいろんなホールに行ったけれど、こんなに美しい場所にこんなに美しく建っているホールを私は見たことがなかった。

 3月上旬の中島公園 Kitaraホール正面



 どうしても行きたい。ここで近藤さんの演奏を聴けたらどんなに素晴らしいだろう。
 さて、どうしたら行けるだろうか。
 @航空券の値段を調べた。高い、とても手が出ない。
 A夜行バスが出てないか?出てるわけないだろ。
 B寝台車を乗り継いで、なんてのはどうか?ダメだ、時間がかかりすぎる。

 家に帰ってきてからも悩んだ。そしてふと思い当たった。
 マイルがそろそろ貯まっている頃ではないだろうか!!1月の時点では13000マイルだったはず。あと2000マイルあれば行ける。デジカメやビデオを買った分が加算されてなんとかなっていないだろうか。早速ネットで調べた。
 16000マイル
 ひゃーーーやったーーーー!
 しかし、、、2ヶ月連続で北海道に出かけるなんて。。。
 と、私は日頃はめったに感じることのない「家庭の主婦」としての自覚をしたのだった。往生際が悪い。
 とりあえずもう少し考えよう。空席はどれくらいだろう。マイルの積算数の次は空席照会をしてみた。マウスをクリック!
 残席1
 マウスをクリック!頭より先に指が動く、とはこういう時のことを言うのだろう。
 これはきっと神のお導きに違いない。ホテルがホールの近くだったこと、マイルがぎりぎり貯まっていたこと、空席が最後のひとつだったこと。

 迷える汝よ、行くがよい、近藤のベートーヴェンを聴くがよい。
 そうそう、お導きよ、神さまのね。だから言うとおりにしないとバチが当たっちゃうのよね。

 というわけで札幌に行くことになったのである。めでたし。
 

 新千歳空港に降り立つと黒い雲が・・・あれ?なんか降ってる?雨?いや雪?
 エエッツ!アラレやないかい!空港はアラレの猛吹雪。滑走路脇の芝はどんどん白くなっていく。
 こ、こんなに寒いのか、北海道って・・・。飛行機を降りるとアラレは止んでぼたん雪に。しかしいずれにしろ寒いことには変わりはない。
 でも大丈夫。1月に名古屋でご一緒させていただいた、北海道にお住まいのnaocoさんからのメールで「今の時期は本州との気温差を一番感じる時期かも」とアドバイスいただいてたので私はコートを持参していた。助かった〜〜〜。

 が、幸い札幌市内に出るといいお天気になった。ホールへは開場1時間前に到着。先月に来た事もあり、迷わずすんなり行けた。
 ホールの中のカフェで昼食をとることに。「本日の魚料理」というメニューを注文したが、結構本格的なフレンチって感じ。ここはホテルか?と思うほどのリッチなテイストのホールだった。
 開場したのでホール内へ入る。木造りで舞台後ろにはパイプオルガン、客席はゆるやかな流線型のデザインで天井にはシャンデリアみたいな照明器具。外だけでなく中もとっても素敵なのだった。

 いよいよ開演(毎度毎度ながーい前置き付でゴメンなさいね)。
 近藤様のご登場。
 いつ見てもス・テ・キ♪今日はあなたを追って、津軽海峡を越えてまいりました。
 ♪伊丹発の航空機を降りたときから、千歳空港は雪の中ァ〜
 などとひとりで酔いしれている間に『月光』が始まった。

 ・・・・・・。
 あれっ???なんか違う・・・ような気が。気のせいかなぁ。
 鍵盤、下までちゃんと押してる?どうしたの、近藤さん!疲れているの?
 と、いうのが正直な感想・・・・・・。私にはなんだか音が浅く聴こえたのだった。高音になると特に「音がカチャカチャいっている」みたいな・・・・・・。ホールのせいだろうか、それとも調律の関係だろうか、それとも、やっぱりお疲れなのだろうか。そういえば弾きながら鼻をすするような仕草をしてるような気が。風邪ひいてらっしゃるの!?あぁなんてこと!!
 今年の近藤さんは超忙しい。新しいCDの録音もたくさんされるし、北海道でのコンサートも増えたし、関西の方にもたびたび来てくださることになっている。夏には毎週のようにコンサートをされるみたいだし。大丈夫かなぁ。。。
 来年はデビュー10周年で、さまざまな企画もあるみたいだし、ベートーヴェン3大ソナタを全国展開していくとのことだけど・・・これ、しんどいだろうなぁ。ベートーヴェンを弾き続けるなんて相当な体力精神力がいるに違いない。大丈夫だろうか・・・(と心配するフリをしながらも『弾いてくれ』と何度も言ったり書いたりしてるワタシのようなファンの存在は近藤さんにとって暴力か?)。
 同じ曲を同じ人が弾いても時に全然印象が違うことがある。もちろんそれはホールの音響や聴く側の精神状況なども影響してくるんだろうけど、今まで「これぞ最上級!」と思えるほどの演奏を聴かせてもらっているだけに(去年秋の奈良大和郡山城ホールでの「月光」、フェスティバルホールでの「熱情」、今年の名古屋での「悲愴」)今回の演奏はどれも物足りない感がした。
 今回は特に「遠方への遠征」であることと、演奏曲目に対する思い入れが強かったこと(またベートーヴェンに関する本買って読んでしまったヨ)もあり、ちょっと肩すかしをくらったような気がした。
 いくらお客であろうとも、演奏者に毎回毎回ハイテンションで最高の力を出し切れ、と要求するのは酷なことかもしれない。けれどその想いはそれだけ近藤さんに大きな期待をしているからで、近藤さんならきっとその期待を超えるほどの演奏をしてくださる、と信じているからこそ!なのよね。
 これからも信じてついてゆくから、がんばって!

 今回は「告別」が一番よかった。名古屋の時はさほど印象に残らなかった曲だったのに。
 さざ波が寄せるようなキラキラっとした曲の感じが今日の弾き方によく合っていたと思う。名古屋の時はなんともいえない哀愁が漂っていたような感じだったけど、今回はさらっとした感じで、響きのいいホールにすっと馴染んでた。この曲の新たな魅力を発見できて「目の覚める」思いがしました。うん、ブラヴォー。

 ここで休憩。
 なんとnaocoさんは偶然にも私の真後ろの席にいらっしゃった。そして初対面のもーさんがお声をかけてくださった。もーさんとはめぐみさんとこの掲示板で時々やりとりはさせていただいていたので、いつかお会いできたらいいなぁと思っていたのでとっても嬉しかった♪
 一緒にCDを買いに行く。先月の大阪ではあれもこれもとたくさんのCDが売っていたけれど今回はいつもと同じ品揃え。サイン会で近藤さんに「あなたを追って北の果てまでやってまいりました」と言おうと思っていたので1枚買った。
 
 そして2部。
「悲愴」が始まる。これまた名古屋とは全然違う雰囲気。ぴちぴち跳ねるような弾き方が印象的。もしかしたら今回は調子が悪いのではなく、こういう路線に変更したのかもしれない。陰のないベートーヴェンへと。

 ベートーヴェン以前の音楽がどちらかといえば感覚的で、生活の中の空間を満たすような存在であったのに対して、ベートーヴェンは初めて、音を言葉のように論理的に扱い、直接人の心に働きかけ、その精神を満たしていくことを意図して、作品を残していった。言い換えれば、ベートーヴェンは音で物を考え、音楽によって思想哲学を伝えようとした最初の作曲家ともいえよう。〈プログラムから抜粋)

 そう、ベートーヴェンは音というより言葉、音楽というより哲学、という印象を持っている(もちろん近藤さんの今までの演奏を聴いてそう思った)私。
 今回、近藤さんはご自分の奏でる音にどのような意味を込めてらっしゃったのか。私には見えなかったな、言葉が。

 ラストの「熱情」。
 速い速い速い!猛スピードで弾く近藤さん。指が絡まりそーーー。ちびくろサンボに出てくるトラのごとく、ぐるぐる回って最後には溶けてバターになってしまいそうな感覚になっている間に終わってしまった。

 弾くのも速いが帰るのも早かった。 
 今回はサイン会ないんだとー。今までサイン会のなかったコンサートなんてあっただろうか?記憶にない。今回に限ってなんで?なんで?なんでやぁッ!!!

 せっかく津軽海峡を越えて追っかけてきたというのに。

 逃げられた!!

 とまったく自分勝手に憤慨しつつホールをあとにした。
 思いがけず時間ができたのでnaocoさんともーさんと3人でお茶をした。
 うん、今思えばサイン会がなくてよかったかも(笑)。だって札幌にお住まいのファンの人たちとお話できるなんてめったにないことですもん。
 おふたりさま、ありがとうございました&ごちそうさまでした。またどこかでお会いできますように!

春の中島公園 ホールのすぐそば


  

近藤嘉宏 :ピアノ名曲ベスト   2004.3.20 和泉シティプラザ・弥生の風ホール(大阪)

第1部
 シューマン: アラベスク 
 ベートーヴェン: ピアノソナタ第14番「月光」
 ドビュッシー: 月の光 / 亜麻色の髪の乙女
 リスト: 愛の夢 第3番 / ラ・カンパネラ

第2部 
 ショパン: ノクターン第8番 / ノクターン第20番「遺作」 / エチュード第3番「別れの曲」
        エチュード第5番「黒鍵」 / エチュード第11番「木枯らし」 / 幻想即興曲 / 英雄ポロネーズ

アンコール
 ショパン: 小犬のワルツ・ワルツ第7番 / ベートーヴェン: 「月光」第3楽章 / リスト: ハンガリー狂詩曲第6番


 午前中降っていた雨が上がった。近藤さんがいらっしゃる時は必ず雨が上がるのが不思議である。
 今日の会場は「和泉中央」駅徒歩3分。和泉中央ってどこぉぉぉ?
 大阪の南の地域には「和泉」と名の付く駅がたくさんある。和泉府中、和泉砂川、和泉鳥取、和泉橋本、和泉大宮。泉佐野、泉大津、泉ヶ丘・・・。しかもどれも似たような位置にあるからややこしい。
 電車を乗り継いで会場へ。山に抱かれたベッドタウンといった感じで、住宅しかなさそうなところ。弥生の風ホールもショッピングモールの延長にある、って感じ。
 ホールに入ると早速プログラムを手渡され、「CDリスト」なるものも配布されていた。私はもらえなかったので詳細はわからないけど、近藤さんが出しているCD一覧とコメントが書かれたものらしかった。
 CD売場を見て驚いた!「kyohei tsutsumi」以外は全て置いてあった(美月さんの談)。私が唯一買いそびれていた「エリーゼのために」。ネットで探しても知り合いに聞いても中古CD店を探しても売っていなかった・・・すっかりあきらめていたCDが目の前にあるではないか!
 即購入。今買わないと今度こそほんとに手に入らないかもしれない。
 わーーーい!これで全部揃ったぞーーーっ!!
 と、私は心の中で拍手喝采。しかし・・・。
 今日はヒーリング系のCDもたくさん置いてあった。なんで近藤さんに関係ないものまでおいてあるんだろうと思いきや、「1曲だけ」近藤さんの演奏が入っているCDだった。この『政策』は今回だけだろうか、それとも今後も続くのか・・・?
 「全部揃った」などとは甘いのだった。まだまだあるぞ、近藤さんのCDは。
 あー、お金貯めとかないと・・・・・・。

 さてさて今回のホールの様子であるが、シックなモノトーン系でなかなか雰囲気のいいホールだった。響きもよかった。
 今回のチケット、かなり出遅れて買ったわりにはいい席だった。
 そして開演。
 ホールが一瞬まっくらに。おや、停電かしら?と思うほどの暗さ。いつだったかどこぞやのホールで「客席まっくら&近藤さんの顔だけにライト」ということがあったが、あんなことになりやしないかと一瞬ヒヤリ。
 しかしそんなこともなくステージはすぐに明るくなり、近藤さんがお出ましに。特に変わった様子もなさげ。髪が少し伸びたかな。
 そしていつものように解説が始まり・・・アラベスクから演奏。
 あー、これこれ、これよねぇ。
 7回目の「名曲ベストプログラム」。どうして関西では毎回のようにこのプログラムなのだろう、何か意図があってのことだろうか(決して批判ではない)。チケット買うのに出遅れた理由はいろいろあるけど、「同じプログラムだし毎回行くこともないかなぁ」と思ったことも事実です・・・。仕事も忙しいしダンナのバースデーだし家にいようかな、なんて・・・。と、テンション幾分低めで出かけたコンサートでしたが、やっぱり思うのでした。「来てよかった!」と。
 先月の神戸よりも落ち着きのある演奏で、1部も2部もしっくりしっとりとホールの空気に溶け込んでいて。近藤さんも楽しそうに伸びやかに弾いてらっしゃいました。「絵をみているような感じで聴いていただければ(ドビュッシーの曲についての解説)」とおっしゃってたけれど、音だけでなく、ピアノを弾くあなたが一枚の『絵』なのよねえ・・・。
 近藤さんてホントにピアノが好きなんだなぁ・・・ホールを満たす生き生きキラキラした音を聴くと感動というより「安心」するのは私だけでしょうか?『世の中、まだまだ捨てたもんじゃない』って。
 私は音楽に詳しくはないし、ピアノも弾けない。シロウトのくせに近藤さんの音楽を語るな、近藤さんの演奏しか知らないくせに、と思われているかもしれないし思われても反論はできないけれど・・・でも私の中では「全てが完結している」のだ。近藤さんが一番だ、と。
 この世の全てを洗い清めるような、あの透明な音のつらなり。全てが静まり返る瞬間。心の中にしんしんと静かに降り積もる一音一音・・・。近藤さん以外の演奏も聴いたことがあるし、感嘆したこともあるけれど、やっぱり近藤さんは他の演奏者とは違う何かを持っている。
 ピアノを弾く近藤さんはとってもステキなので目を閉じて聴くのはもったいような気もするけれど、私はあえて目を閉じてみる。
 落ちて落ちて落ちて全てを捨てきった時の感覚ってこんな感じなんだろうな、と思う。全てを捨てきるなんて普通に生活してれば絶対不可能だけれど、近藤さんの演奏中は別。
 全て捨てて無に・・・と言いたいところだけれど、残るものがある。
 それはナミダ。悲しくないのに、心がこんなに穏やかなのに涙が出る。こんな体験をさせてくれるのは私にとって近藤さんの演奏だけである。

 「月光」と「英雄ポロネーズ」のあとには『ブラボー!!』の声が。女性の声もしてたなあ。こういう盛り上がりって好きだな。やっぱりアタシは関西人。遠征に行ったら「客の静けさ」に驚くことありますもん。
「すごいねぇ!力強い演奏で感動したわぁ」と辺りにいたおば様方も絶賛。
 久々にCD買ったのでサイン会に並ぶ。ついでに来月の北海道追っかけ計画も報告。私も頑張りますから近藤さんも頑張ってくださいねー♪
 でも「マイルが貯まったから往復タダで行く」ということは内緒。ココだけのハナシね。
 
 帰り道。今日はひとり。ふと大学時代を思い出した。
 講義に出席するために出かける私。
 出席すれば単位がもらえる・・・そんな講義があったなぁ。。。
 あと、H教授の『政治機構論』てのがあったなぁ。毎年、試験の御題が一緒なの。試験の時期になると模範解答が出回り、それを丸暗記して書けば単位がもらえるという「楽勝科目」だった。私も友達から模範解答を入手したものだ。何年も前に卒業したであろう、どこの誰だか知らない人の書いた解答・・・。

 どうしてこんなことを思い出したのだろう。
 私は今、パソコンに向かい懊悩する。近藤先生の出した御題。
「名曲ベストについて述べよ」
 H先生の試験のようにはいかないのが苦しいところである。

 すいません。アタシ、プロの物書きじゃないので・・・。
 私が書かなくても、ファンの皆様それぞれの心の中に『名曲ベストのベスト』がおありになることでしょう(私は去年11月の奈良、大和郡山城ホールでの名曲ベストが『ベスト』かな)。それで充分のような気がします。近藤さんの演奏はいつもどおりに素敵でした。
 しかしよいものはいつ何度聴いてもよい。今回改めて実感いたしました。

 次の関西での公演は5月です。新しい曲を聴けるのが今からすごく楽しみです。

近藤嘉宏 :バレンタインコンサート2004   2004.2.14 神戸新聞松方ホール(神戸)

第1部
 シューマン: アラベスク 
 ベートーヴェン: ピアノソナタ第14番「月光」
 ドビュッシー: 月の光 / 亜麻色の髪の乙女
 リスト: 愛の夢 第3番 / ラ・カンパネラ

第2部 
 ショパン: ノクターン第8番 / ノクターン第20番「遺作」 / エチュード第3番「別れの曲」
        エチュード第5番「黒鍵」 / エチュード第11番「木枯らし」 / 幻想即興曲 / 英雄ポロネーズ

アンコール
 ショパン: ノクターン第2番 / ベートーヴェン: 「悲愴」第2楽章・「月光」第3楽章 / リスト: ハンガリー狂詩曲第6番

(開演前)
 今日の連れは夢子ちゃんご夫婦。彼女はファン歴1年で、今回が初遠征。彼女とは昨年10月のティアラこうとう(東京)でのコンサートの時に知り合った。素敵なダーリンがいるにもかかわらず、「毎日近藤色」なところが私ととても似通っている。
 JR神戸駅でおち合った私たちは早速松方ホールへと歩き始めた。夢子ちゃんのダンナさんは「立ち止まるときはエスカレーターの右に立つ」ことにどうしても抵抗があるようだったが、革のパンツが似合う素敵なひとだ(うちのダーリンには絶対ムリ)。そしてなんといっても嫁とともに遠征してくれるところがステキだ。
 ところで夢子ちゃんのダンナさんの名前は「よし○×さん」というのだが、こともあろうに夢子ちゃんは時々ダンナさんを「よしひろさん」と呼んでしまうことがあるそうだ。
 こりゃあヒドイ!
 しかも神戸まで道連れに!皆様、ヒドイ女と思われるかもしれないがそれは違う。夢子ちゃんは今日お誕生日なのだった。この遠征はダンナさんからのバースデープレゼント。ダンナさんは夢子ちゃんのおねだりを優しく叶えてくれたらしい。
 ええなぁ、、、麗しき夫婦愛・・・・・・。

(開演)
 さてさて、開演である。この「名曲ベスト」は数えてみれば今日で5度目。来月もあるから合計6回も聴くことになる。そのうえ全く同じ曲が入ったCDも出ているからすでにもう「血となり肉となった」感がしないでもない。新しい曲を聴きたい、と思う一方で「もうすぐこのプログラムは聴けなくなるのだ」と思うと少し寂しい。
 近藤さんご登場。今日はトークあり。曲は毎回同じでもトークは毎回違うので感心する。今日も長い間お話してくださった。
「お話が上手だわねぇ」
 隣に座っていた見ず知らずのご婦人が感嘆していた。
「そうですよねー、毎回思いますよね」と答えると、
「まぁ!いつもこんなにおしゃべりなさるの!?私、今日が初めてだから」
とおっしゃる。
 初めて足を運んだ動機、というのがファンとしてはとっても気になる。
「今日はどんなきっかけでいらしたんですか」と聞いてみると、小山実稚恵さんのリサイタルに行ったときに今日のチラシが配られていた、とのことだった。その方の年齢は私の親とさほど変わらないほど?とお見受けしたが、最近ピアノを習い始めたそう。
 私も習おうかしら、と単純な私はすっかりその気に。あとでダーリンに相談しよう。100%足蹴にされるだろうが。
「パーティに出たかったんだけど、すぐ売り切れちゃったみたいで」
と、その方はとっても残念そうにしておられた。そしてどうしたらそんなに早く近藤さんの情報を手にできるのか、と聞かれたので「インターネットが早いですよ」と言っておいた。しばらく話しているうちに、ご婦人は私の耳もとでささやいた。
「ところで近藤さんて独身ですか?」
 ・・・・・・やはり気になるか。今までいろんな人とコンサートに行ったが、母も伯母もいとこも友達も会社の同僚もみんなこの質問をしてくるので面白い。
 ちなみに私は「知るのが恐ろしかった」クチ(←???)なのでこんな質問を誰かにしたことはない。

 気を取り直し、演奏の感想に移るとしよう。
 ふんわりふわふわと始まったアラベスク。このホールはとってもよく響く。確かここは「骨伝導なんとか方式」という造りになっていて、耳の不自由な方たちにも音楽を楽しんでもらおうという心が尽くされたホールだと聞いたことがある。

 響きすぎるからいけないのか・・・今回はちょっとシビアな感想になってしまうけれど、、、なんか「心乱れてる」みたいな感じに聴こえた。アラベスクだけでなく第1部全体的に・・・。
 あくまで、私個人の感想です。気のせいかな・・・。
「ラ・カンパネラ」はきっと鍵盤が汗でつるつるになってたんだと思う。音が飛んで曲に穴があいてしまってた。近藤さんはいつもクールで端正な演奏をされるし、技術も驚くほど「完璧!」な方なので、やっぱりミスなタッチの演奏を聴かされると悲しくなってしまう。
 というわけで第1部はなんとも不完全燃焼なまま終わった。
 あくまで、私個人の感想ですから。

 休憩時間、私は友達の席へ。彼女は高校時代の友達で、最近彼氏ができ、ホットな交際をしている。ぜひともバレンタインデーを神戸で!と誘いをかけると喜んで今日のチケットを買ってくれた。
「素敵な感じやん!お顔もかっこいいわ〜」と彼女は言ってくれた。そして、
「もちろんこれも行くんやろ?」
 と、パンフレットの間にはさんであった来月の和泉のチラシを私の目の前に。
「当たり前」
 
 第2部はショパン。
 これはよかった!私はさほどショパンには魅力を感じなく、2部はいつもなんとなく聴いてしまうのですが、今日は2部の方がよかった。「8番」、「遺作」の奥深い哀愁と「別れの曲」・・・。わずかな余韻を残しつつ「黒鍵」へと。
「別れの曲のあとはしっかり時間をとってほしいよな。もうちょっと余韻に浸りたいのになぁ」とダーリンは言う。私は近藤さんのやり方でいいと思う。この曲であまり余韻に浸ってしまうと悲しくなるから。
「バレンタインコンサートと銘打ってるんやから『別れの曲』は外さなあかんやろ」とさらにダーリンはほざいていたが、聞き流す。
 そして「木枯らし」へ。今日も力入ってる感じ。
 カチン、カラカラ・・・乾いた音がした。あとで聞くとこの曲の途中、ピアノの弦が一本切れたそうだ。
 弦を切ってしまうほどの力に、近藤さんはどんな思いをこめたのだろう・・・
と、私はまたしても妄想の世界へ(怖)。
 幻想即興曲と英雄ポロネーズ。客席は音の嵐に包まれたのでした。

 拍手なかなか鳴り止まず。アンコールへと。さて今日はどんな曲を聴かせてもらえるのだろう。実はアンコールが一番楽しみだったりして。
「ノクターン第2番」。おなじみであるが、とても好きな曲なので何回でも聴きたい。次は「小犬のワルツ」あたりかしら・・・と思っていると、
「『悲愴』の第2楽章を」
 うわーっ!ウレシー!!思わず声を出して言ってしまった。2部のオールショパンの流れからしてアンコールもショパンで来るのかと思いきや、この展開!!近藤さんはベートーヴェンを披露してくださった。できれば全楽章弾いてほしいが、5月に西宮で聴けるのでその時まで楽しみに待とう。今日は西宮前夜祭(今、昼だけどさ)だ!!
 語りかけるように弾かれるこの2楽章、とっても好き。夢を見てるよう・・・。短い夢だけどそれでもいい。近藤さんの演奏を聴くとき、この世のあらゆるものに感謝したくなる・・・まさに今がその瞬間だ。
 短くて甘い夢の次は・・・なんと!「月光」の第3楽章っ!!!今日はなんてスペシャルなコンサートだろう。いつもの名曲ベストだと思いきや、意外すぎる展開に私は感激を通りこして動揺。この曲をアンコールで弾いてくれるなんて初めての経験!!!
 また今夜も眠れなくなりそうだ。あぁ、あなたって人はなんて罪つくり・・・(怖)。
「もう充分・・・帰って・・・」と頭フラフラになりながらも客席の流れに乗って拍手を送る。
 リストのハンガリー狂詩曲第6番!ひゃああああ!この曲もステキよね〜!近藤さんは最初のトークで「リストはたびたび人を招いて演奏会を開きましたが、彼の演奏会では『気絶』する人が出たようです」と言っていたけれど、近藤さんのコンサートで気絶した人はいるかなぁ。「気絶寸前」な人はいっぱいいるだろうけど!私みたいにね!
 そうして「特別スペシャルな名曲ベスト神戸版」は幕を閉じた。

「最後の曲、なんていうんや?アレ、よかったなぁ、あんな曲初めて聴いた。最初はなんかヘンな曲やな、思たけどよかったわ」
「オレは実は『月の光』を楽しみに来たんや。近藤、あんな曲も弾けるんかぁ」
 以上ふたつはダーリンの主な感想。中学生の頃、初めて『月の光』を聴いたとき、ダーリンは大変驚いたそうだ。ホンマに『月』と『音もない水面』が目に浮かんだ、と。近藤さんは技巧派で楽譜をきっちり弾くカタイ人、という印象をダーリンは持っていたらしいが『月の光』のような譜面や音符の見えない絵のような曲を近藤さんがきれいに弾かれたことに驚いていた。

(tea party)
 よし、いい感じでパーティに行けそうだ。その前にちょっとお手洗いに、とダーリンとバイバイする。
「あっこちゃん、ダンナさんはパーティには出ないの?」
 夢子ちゃんが聞く。
「なんで?出るに決まってるやん」
「そうだよね、、、でもさっきダンナさん『ボクは出ませんよ』って言ってたよ」
 なにーーーぃ?まだそんなこと言うとんかい!トイレを出るなりダーリンを捕まえる。
「オレも100人の中に入ってんの?金持ってないぞ」
「もう払ってあるから心配せんでもええ」
「マジぃ?出なあかんの?」
 ダーリンはいつまでもダダをこねる。おかしいな、パーティのことはちゃんと言っておいたはずなんだけどな。しかしダーリンは本当に『知らなかった』というような顔で私を見る。そんなはずはない!だってゆうべ私は嫌がるダーリンを取り押さえて白髪染め(ダーリンはまだ20代のくせにごま塩頭・・・)を施したのだ。「明日は近藤さんにお会いするからオシャレして行かんとな」と言いつつ。ダーリンは全て聞き流していたのか?
「夢子ちゃんとこも夫婦で出るのに、アンタひとりでどこで何するつもり?ひとりで街中ふらつくんか?」
「・・・・・・」
 夢子ちゃん夫婦とはパーティのあとにご飯を食べにいく約束をしていたもので。
「ちきしょう、なんでオレが近藤のチョコレートパーティに出なあかんねん・・・」
 ダーリンはすっかりふてくされた様子で先にパーティ会場に入ってしまった。
「目立たない後ろの方のテーブルにいようぜ」
とのことでダーリンは場所をとってくれていたが、しばらくして高嶋社長の声が後ろから響いた。
「げげっ!こっちが前かッ!」
 一番後ろに控えたつもりが一番前の特等席になった。これはウレシイ誤算。ダーリンのキープしたテーブルに夢子ちゃん夫婦、さくらさん、美月さんを呼ぶ。
 社長の挨拶は長々と続いた。私はすっかり背を向けるような形でケーキをほおばる。パーティで出されたケーキは結構なボリュームがあり、本格的においしいケーキだった。そして紅茶も。ミルクティーで生クリームが浮かんでて美味!
 早く食べてしまわないと!近藤さんが出てこないうちに!と大急ぎで食べる。今思えばせめて社長の方を見ながら食べるべきだった。すんません。

 そうして近藤さん登場。黒のタートルネックに紺色のズボンといういでたち。
 なんて華奢なのっ!まるで少年のようだわ・・・♪ 
「オイオイ、なんやねん、この席。一番前の正面やないかぁ・・・」
 ダーリンは自分がキープした席を自分で激しく後悔していたが、もはや誰も自分の話を聞いていないと察するとおとなしくなった。
 今日のパーティの方式は『質問形式』だった。
 パーティの前に質問用紙が配られていたらしい。そして回収された質問用紙を社長がランダムに選んで近藤さんに答えてもらうという。
「みなさんに平等に近藤と話をしていただきたいのでこの形式にしました。じゃないと『厚かましい人』が近藤を独占してしまいますんで」みたいなことを社長は言っていたけれど・・・そんなにスゴイんかな、関西のファンて。そんなことないと思うけどなぁ。とは言っても私はパーティには2回しか出たことないからよくわからない。
 さて今回の私たちであるが、なんと終演後にあちこちうろついていたので用紙をもらいそびれてしまった。なので「自分のが読まれたらどーしよ」という緊張感もなく、ただただ美しい少年のお顔を見つめていた。
 これでいいのよ・・・今更あなたに聞きたいことなど、もうないの。ホントはすこーしあるけどな・・・公衆の面前ではなくこっそり聞いてみたい(危)。 
 以下、質問と回答一覧。

*ピアノを辞めたいと思ったことはあるか
 学生時代は思ったが、今は辞められない状況。(当然だわね・・・アタシたちの夢を一身に背負っているんだもの)

*子供の頃はどんな教材を使っていたのか
 バイエルとかブルグミュラーとか。(私たちの年代はそうよね・・・バイエルはもちろん赤と黄色よね?)

*トリルを上手く弾きたいのですがどうすればいいでしょうか
 僕もトリルは得意でないですが、指使いを1・3・2・3にするとやりやすい。(えー、余計難しそう・・・)

*犬と猫とどっちが好き?
 猫。(わーい、私とおんなじだ!)

*バレンタインの思い出は?
 ないですね、全然ない。(嘘つきネ!)

*好きなタイプは?
 特に「タイプ」って決めてる方じゃないんですよね。(好きになった人が理想、ってとこかしら?私も特に「タイプ」ってないものな。ダーリン&近藤さんという全然違うタイプに心惹かれる自分の気持ちを説明できない故)

*ドイツ語で何かしゃべってください
 これ出たとき、近藤さん、上の奥歯が見えるくらいに大口開けてのけぞって笑ってた。「留学前にドイツ語学校に行かなかったのがいけなかった」と苦笑いされていたけど、「今日はありがとうございます。11月の演奏会も来てください」とドイツ語でおっしゃっていた。ドイツ語を話されるのは5年ぶりくらいだそうだ。

*趣味は
 オーディオ関係。

*国内ではどこが好きですか?
 魚が好きなのでおいしい魚が食べられる所、海の近くがいい。ちなみに好きなホールは『神奈川県立音楽堂』です。(よし、次の遠征はココにするかな)

*どんな本を読まれますか(これ、個人的にすごいいい質問だなぁと思ったけど)
 あんまり読まない。昔は時々推理小説なんかを読んだけど・・・。

*嫌いな曲は
 ベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア」。(ガーン!そうなの・・・?冗談だと言って、お願い〜〜〜!!と、あともう一曲別の作曲家のを挙げていたけど忘れた)

 こんなもんかなぁ・・・もっといっぱい質問出されてたけど忘れてしまいました。お許しを。パーティ中にメモ取るのも変だし。
 次のCDの予定を誰か聞いてほしかったなぁ・・・次はぜひともベートーヴェンを!「月光」「悲愴」「熱情」、、、ハンマークラヴィーアがだめなら「ワルトシュタイン」がいいわぁ!!!(切実)

 パーティには加羽沢美濃さんがいらしてて、社長は「みなさん、温かく迎えてあげてください」と言っていた。なんでも彼女は、
 「近藤さんのファンは女性ばっかりだしコワイ・・・」みたいな印象を持ってるようだ。
 そうか、やっぱりコワイか・・・(なぜか自己嫌悪に陥るアタシ)
 
 質問会が終わるとサイン会へ移行。行列ができる。
 もうCDには全部サイン入れてもらったし、サインには充分満足している私は列に並ばずに同じテーブルの人たちと談笑。
「オレ、ココに書いてもらおうかな」
 と、ダーリンはシャツの腹をめくり、肌着を披露。夢子ちゃんのダンナも悪ノリし、「目と口書いてくださーい!って言おうかな」 
 肌着を見せ合う男たちに不審気な眼差しが送られた。
 私も悪ノリし、隣に立っていたさくらさんにささやいてみた。
「手に書いてください、って言ったらどうやろ?」
「わ!手首差し出すの?」
 手首とは言っていないが・・・。さくらさんは清楚なお嬢様風で、どこからどう見てもお嬢様然としているのだが、実は私は前々から彼女のお笑いセンスに注目しているのだ。
「あの山盛りのチョコレート、どうすんのかな」
「スタッフで分けるんかなぁ」
「いくらなんでも全部は食べられへんやろし」
「食べたら太るしなぁ」
「太るのはいいけど糖尿になられたら困るなぁ」
「・・・糖尿のピアニスト・・・」
「うーむ・・・・・・」

 サイン会が終わると次は写真撮影会の列ができた。後ろの方に並んだ我々のすぐそばにはひとりでお茶する加羽沢さんの姿があった。←すごい寂しそうに見えた。
「加羽沢さんも一緒に並びましょっか」
 と、うちのダーリンが・・・加羽沢さんはひどく緊張した面持ちで「いいえ・・・」と。そこまでマジに対応されるとチトつらい・・・。

 教訓その@・関東の人にはむやみに話しかけるものではない。
 
 加羽沢さん、すみませんでした。

 そしていよいよ我々の番が回ってきた。
「あー、どーもどーもっ!」
 と、まるで電器屋のオヤジのように近藤さんに話しかけるダーリン。
「あっ、どうもどうも」
 と、つられるようにして答える近藤さん、彼もまた電器屋のノリで答えてくだすった。美少年から電器屋へ・・・。
「もうかりまっか?」「ボチボチ・・・」なんて会話がいまにも聞こえてきそうだ。
 そうしてスリーショットで写真を撮らせてもらい、私は近藤さんに、アンコールでベートーヴェンを2曲も演奏してもらえて嬉しかったことを言い、バレンタインのプレゼントを渡した。ドキドキ!
 近藤さんが「すみません〜」と言いつつ受け取ってくれたその瞬間、ダーリンのうらめしそうな声が・・・

「ボクはもらってないんですよね・・・」
 
 教訓そのA・本命チョコは朝一番に渡すべし。

 エッ!い、いや、あの、その・・・・・・と、やたらにうろたえる声が聞こえたような。頭の中真っ白け状態だったのでよく覚えていない。
 こりゃあヒドイ!自分の亭主には何も与えず、しかも目の前で白昼堂々他の男にプレゼントを渡す妻・・・とんでもない悪妻だ・・・「悪」以外の何物でもない。

「ダンナさんにもさしあげてくださいー」
 と、ひきつった顔で近藤さんに言われ、フラれ気分ですごすご退散。
 
 あぁ、どうやったらしっとりしっくり近藤さんと話ができるのだろう。なんかいつもかみ合わない・・・きっと向こうもそう思っているだろう・・・(沈)。

 これより先、弁解。
 うちのダーリンはチョコレートが大好き。もちろん今までバレンタインデーにはチョコレートを欠かしたことはない。
 今日は帰りの道中で二人きりになってから渡そうと思っていたのだ。帰り道に、そうね、マンションの下のコンビニを過ぎたあたりで駆け出そう、そうして振り返ってダーリンの名前を呼ぶのだ。そうしてダーリンが追いついてきたらカバンからチョコを出して渡そう。もちろん「好き♪」の言葉も忘れずに。←実際このとおりに実行しました(照)。「好き♪」って言ったら「知っとったわい」だって。

 ダーリンは「近藤、エライうろたえとったなぁ」と笑いつつも、「オレの顔、覚えとったなぁ」(←ホンマかいな?まァ、インパクトあるからな、アンタは・・・)と、嬉しそうだった。よかった、よかった。しかし近藤さん、ゴメンなさい。
 そんなこんなで面白い一日だった。このあと夢子ちゃんご夫婦と中華を食べにいき、夜遅くまで楽しく呑んだ。私は今まで「うちの夫婦が世界一」と思っていたけれど、夢子ちゃんとこも素敵なご夫婦だった。
 夢子ちゃんは平日は普通に働いて、週末(夏の間だけ)関東のとある高原でカフェを営んでいる。
 高原でカフェを、との夢をやっとの思いで叶えたけれど、その道のりはかなり険しかったらしい。土地の売買のことでいざこざがあってオープンを一年ずらせてしまうことになり、毎日気がおかしくなりそうなくらい泣いて暮らした日々があったんだけれど、そんな時に近藤さんのピアノに出会い、本当に励まされたんだと言っていた。だから近藤さんにも頑張ってほしいのだ、と語る夢子ちゃんと、隣で優しく微笑むダンナさんの姿が印象的だった。
 いろんなファンがいて、いろんな期待と夢を背負った近藤さん。これからもたくさんの夢と希望と愛を私たちに与えてねーーー!と願わずにはいられない今日この頃デス。


 


近藤嘉宏 :ベートーヴェン3大ピアノソナタ   2004.1.30 伏見・電気文化会館(名古屋)

(第1部)
 ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27-2 「月光」
 ピアノソナタ第26番 変ホ長調 作品81a   「告別」
(第2部)
 ピアノソナタ第8番  ハ短調 作品13 「悲愴」
 ピアノソナタ第23番 ヘ長調 作品57 「熱情」

 2004年追っかけ第1弾!!見よ、この豪華プログラムを!!これが追っかけずにいられるかっ、というわけで名古屋まで行ってきました。
 
(開演前)
 名古屋まで在来線で行くことにした。3時間ちょいで行けるし、経費も節約しよう。
 16時過ぎに名古屋駅交番前で待ち合わせ。今日は名古屋在住の4416さん、北海道からの遠征naokoさん、そして京都のめぐみさんと4人で。名古屋駅周辺で開演前に仲良くお茶。めぐみさんとお話するのは久しぶりだし、naokoさんとは初対面、4416さまも去年の10月以来だから久しぶり。
 思えば不思議な縁である。大勢いるピアニストの中から近藤さんという人を見つけ、魅了され、そして出会った私たち。住んでる地域も年齢も職業も違うのに、ずっと昔からの友達のようだ。
 たのしい時間は過ぎ、喫茶店をあとにした。めぐみさんは日帰りだけど、その他の3人は「終演後の呑み会」を企画していたのでホテルにチェックイン。こりゃコンサートか呑み会かどっちがメインかわかりゃしない。が、こういうお友達の存在もうれしい。
「ホールはね、なにこれ、こんなとこにホントにあるの?ってとこにあるから」
 4416さんが言う。確かにそうだった。なんだこりゃ、オフィスビル?みたいなビルに入り、エレベーターで地下に下りた。扉が開いても人影なし。そして気のせいかもしれないけど病院みたいな匂いが・・・。
 廊下にホワイトボードが置いてあり、近藤さんの写真チラシが貼ってあり、その下に『←こちらです』とマジックで書かれていた。
 矢印に導かれ移動。やっと入口にたどり着けた。うん、ホントにホールだわ。しかもなかなかいい感じ。小さくもなく大きくもなく。
 もらったプログラムには曲目の解説が書いてあった。今日はトークはないのだろう。それでよし!今日ばかりは『トークはいいから早く弾いて!』と思ってしまうだろうから。
 ベートーヴェンのピアノソナタ4曲、それを大好きな近藤さんの演奏で。そして私は名古屋までやってきた。
「情熱にカラダを押されるようにして電車に乗り込む」、あの遠征時の喜び。あぁアタシにはこんなに夢中になれるものがある・・・。
 これだから遠征はやめられん。

 今日の座席は11列目。決して前の方ではない。
 実は私は去年の段階で『来年は遠征はするまい』と思っていたのだった。今これだけ好き放題やれるのは私に子供がいないから。来たるベく「育児に追われ、家を空けられない日々」に備え、我慢することをそろそろ覚えなくてはならない。
 というわけでいくら近藤さんがベートーヴェンを弾こうとも「絶対に行かない」と固く心に誓ったのだった。
 今回の発売日が来ても私は我慢した。きっとそのうち関西でも弾いてくださるはずだ。その日までこの試練に耐えよう。この試練は私にとって必要な試練なのだ。
 しかし名古屋は東京よりもうんと近い。在来線でも気軽に行ける・・・いやいや、それでも家を空けることには変わりはない。しかも夜の公演ならば日帰りはできないではないか。きっと名古屋でこの演奏は絶賛を浴び、関西でも弾いてみよう、と近藤さんが思ってくださることを信じて待つべきだ。きっと必ず近い将来、私の思いは実現する。それを信じて待とう。
 チケットを買わずに耐える日々・・・そして迎えた昨年11月23日。大阪フェスティバルホールでのコンサート。
 ・・・・・・あの日聴いた近藤さんの『熱情』!!
 名古屋チケット、翌日即買い!
 しかし出遅れたため11列目。あぁ無駄な抵抗はやめて己の本能に従うべきだった。             

(開演)
 しんと静まり返ったホール。近藤さんが現れた。

 弾くぞ。

 にこやかな笑顔の下に見える強い意思。今日は何も言わず、まっすぐピアノに。

 厳かに始まった「月光」
 「スイスのルツェルン湖で、月の光に揺れる小舟のようである」
 ドイツの詩人で音楽評論家のルードヴィヒ・レルシュタープがこのソナタの第1楽章についてこう述べたというのは有名な話である。

 月の光に揺れる小舟に乗って出かけよう、安息の地へ。
 何も見ず、何も聞かず、全身を脱力し、全てをどこかに預けて落ちるところまで落ちてみる。現実には絶対にできないこれらのことを、この曲が実現してくれる。
 第3楽章の迫力。曲が進むにつれ安息の地から現実に引き戻される感覚がするが、聴き終ったあとにいつも感じる「胸のすくような思い」は快感である。
 
 「告別」
 この曲を近藤さんの演奏で聴くのは初めて。CDも出てないし、どこかで弾いたという噂も聞いたことがない。今日が初演?
 近藤さんはこの曲を仕上げるのにどれくらいの時間を要し、どんなことを考えたのだろう。
 この「告別」というタイトルはベートーヴェン自らがつけたらしい。この曲が書かれた時期、ウィーンは政情が悪化し、ナポレオン率いるフランス軍の攻撃を受けていたようだ。疎開地へ避難する貴族の中にはベートーヴェンの最大のパトロン、ルドルフ大公もおり、彼は翌年にウィーンに戻ってきたが、その一連の出来事をこの曲で表現したらしく、1楽章は「告別」、2楽章は「不在」、3楽章は「再会」というタイトルがつけられている。
 以上のことは当日配られたパンフレットに書いてあり、私はこの曲の出来上がったいきさつを初めて知ったが、以前にベートーヴェンに関する本を読んだ時、この「告別」が書かれた時期、ベートーヴェンは憧れていたゲーテとの文通が実現したり、大作曲家としての地位も確立し、さまざまな人と親交を深め、演奏や作曲にも精力的に取り組んでおり、精神的にとても幸せな時期だった、と書いてあった。
「しあわせなベートーヴェンの心情」とはどんなんだろう。どうしても「不幸」のイメージが捨てきれないが・・・さて、いかに?

 なんて軽やかな曲調、そして演奏。別れのイメージなんか全然ない。でも・・・ふとしたところで哀愁が漂っている・・・。別れの悲しさではない、もっと別のもの。
 楽あれば苦あり。この楽しさも喜びも決して長くは続かないのだ、と予言めいたものを感じる。
 人生とはそういうものなのだ。近藤さんの演奏は淡々としていたけれど、「無意識の中の諦念」みたいなものがかなり精密に表現されてたと思う。私の勝手な感想ですが。
 全然わかんないけど、この曲、かなり難しいんじゃないかなぁ。。。私にもしピアノの技術があったとしてもこの曲はどう弾いていいかわかんないと思う。「楽あればずっと楽して楽したい」と思っている私には「諦念」という感情を表現するのはムリかもしれない。
 一応誤解のないように申し添えておきますけれど、、、近藤さんによる「諦念の感情の具現」が心にしみたと思ったのであって、決して「弾いてる近藤さんに諦念が漂っていた」と言っているのではないです。
 でも35歳。微妙な年齢なんだよなぁ・・・いろいろと。自分もそうなのでよくわかる。。。
 しかしまだ35歳、働き盛りの年代だ。これからもますます飛躍してーーー!新しい曲を披露してくださった近藤さんに感謝、そして期待にますます胸ふくらんだ。

 「悲愴」
 この曲のタイトルも「告別」と同様、ベートーヴェンがつけたものだそう。この「悲愴」という言葉の意味は「悲劇的」「悲しみ」というよりは、「感動的」「感情に訴える」との意味が込められていたようである。
 やっぱりそうなのか。納得。

 ベートーヴェン28歳の頃の作曲。やはりこの曲は若い頃に作ったもの、という感じがする。全楽章ともに溌剌として聴いていて心和む。
 2楽章の旋律の美しさには言葉も出ない。近藤さんの演奏で聴くとなおさら。ゆっくりとかみしめるように弾く近藤さん。
「この人は、どうしてこんなにも優しいのだろう」
 すさんで疲れた心、ささくれだった心を、近藤さんは柔らかな綿のような音色でそっと優しく包んでくれる・・・・・・。この曲も次のCDにぜひとも入れてほしい曲のひとつだ。
 名古屋まで来てよかった。休みをとってきた甲斐があった。この音に包まれるためなら家を空けることも会社を休むこともどうということはない。何時間電車に乗ったって、この演奏で抱きしめてもらえれば・・・・・・感無量。生きててよかった、心からそう思える。
 誠実で優しい音の連なりに、思わず涙がこぼれた。
 
「熱情」
 私は今まで近藤さんの「月光」が一番好きで、ご本人にも「近藤さんの月光が死ぬほど好きです!」などと言って、近藤さんを固まらせたことがあったが、実は最近は「熱情」の方に心惹かれている。
 ベートーヴェン35歳の頃の作曲。それを35歳の近藤さんが弾く。

 思えば5のつく年齢というのはいつも悩みでいっぱいだったような気がする。
 15の頃は初めての受験。これはただ目の前に迫った「入試」という課題にとりあえず取り組むしかなく、気がつけば乗り越えていた、という感じだった。
 25の頃は学生気分がようやく抜け、さてこれからどう生きていこうかと初めて真剣に自分の将来について考えたような気がする。転職を考えはじめたのもこの頃である。でもこの頃は若かった。自分の努力次第で何でもできる、変えられる、と信じていた。
 35歳・・・・・・。私も今年35になるが、自分の力だけでどうにでもなると信じるには、もう年をとり過ぎた。これは私の個人的な思いだけれど。どう妥協し、周りと折り合いをつけていくかの方に心を割かなければならない年齢になったと思う。
 「熱情」を聴くと、いつも心乱れる。35歳のベート-ヴェンの精神的な苦悩、その中であがき苦しんでいる姿、心の叫びがいやでも聞こえてしまうから。

 先日「ラスト・サムライ」という映画を見たが、名古屋で聴いた「熱情」とだぶってやりきれない思いになった。
 時代はサムライの時代から近代へ。最新式の武器が次々と生産される中、馬に乗り、刀一本で闘い続けようとするサムライ。弾丸の雨の中を刀を振り上げて突き進む。自分の行いに疑いを持たず。
 でも最新式の武器の前で、刀一本では勝てるわけもなし。サムライはいよいよ自決をする。信じた友の腕に抱かれて腹を切る。
 最後の言葉は「Perfect」。
 時代の流れにのまれるくらいなら、自分の納得のいくやり方で死を選ぶ。死を恐れる姿は微塵も見えない。
 かっこよすぎる。
 そんな生き方、普通の人はできるわけないのだ。
 ベートーヴェンも一度は遺書を書いたりしたことがあったらしいが、結局生きることを選んだ。あがいてもがいて苦しみ自暴自棄になりながらも。叶わぬ恋に身をこがし、耳が聴こえなくなろうとも、それでも生きることをやめなかった。
 生に対する執着。どうにもできない現実を、魂の内なる叫びを、音符に込めて。
 これが長年の時を経ても彼の音楽が愛され続ける所以だろう。

 1楽章の心のざわめき。静めようと思う気持ちと叫びたい気持ちとの葛藤。
 2楽章。全てを諦めたあとに訪れる平安。一切をふっ切ると世界はこんなに静寂なのか。
 そして3楽章・・・・・・。

   魂の、内なる叫びを、聴け、聴け、聴け!

 息もつかせぬ勢いで叩かれ続ける鍵盤。

   聴け、聴け、聴け!!!

 その圧倒的な力に押しつぶされないように踏ん張ってしまう。
 黙って聴け、そしてついてこい、と言わんばかりの演奏。
 息をするのも忘れ、音にしがみつく。黙ってぶらさがっていく。
 振り落とされないように腕に力をこめて。
 迷うこともなく、ためらうこともなく、信じてついていけるものを私は知っている。
 今夜、改めて、確信した。

 客席にはブラヴォーの声が何度もこだまし、解き放たれた何百もの魂が浮遊していた。

 素晴らしい演奏だった。思うことはそれだけ。

(終演後)
 
日帰りのめぐみさんは「熱情」を聴かずして帰ってしまった。
 泊まり組の3人は出待ちを決行。「出待ち」というと聞こえはよいが、要するに「待ち伏せ」である。ホール裏の楽屋出入口でひたすら待つ。暗くて寒いがそのうち「魂の代弁者」は現れる。
「今日、ぶっちゃけ、聞いてみようかと思うんだけど・・・・・・近藤さんに」
 4416さんが言う。
「何を?」
「出待ちってイヤですか?って。イヤって言うならこれからやめようかと思うんだけど」
「出待ちしてる人間に向かって『イヤです』とは言えんやろ・・・・・・」
 と、言いながら私は内心びびった。出待ちってやっぱり迷惑だろうか。

「近藤さーん、出待ちってヤですかぁ?」
「うーん、ウレシいですよ・・・って言うべきでしょうか?」

 なんて言われはしないだろうか・・・なーんて(あの日の傷は癒えない。←参照;昨年12月のレポ)。
 そうこうしてる間に近藤さんが現れた。
「お疲れさまでしたーーー」
 3人で叫ぶ。
 ありゃりゃ!どーもどーも、といった感じな近藤さん。ベートーヴェン4曲弾きこなした彼の労をねぎらうどころか、逆に近藤さんから労をねぎらわれた。遠いところをどーも、大変でしょう、って。
 なんのその!!!
「今日は北海道からも来てますよ」
と、4416さんは自分以外のファンに対する心配りも忘れない。彼女はいつでもそうなのだ。
 それに比べ、私ときたら・・・・・・。
「関西でも・・・」と私は道路の向こう側で微笑む近藤さんに叫んだ。ところが隣で同じような叫び声がする。自分ばかりが出しゃばるべきではないと反省し、一旦声をひそめたが、隣の声も同時に静まった。
「関西でも・・・!」
「・・・・・・!」
 また隣の声とかぶる!その間に近藤さんはどんどん遠ざかっていった。スタッフに囲まれるようにタクシーに向かう近藤さんの姿はもう見えなくなっていた。
「関西でも」「関西でも」「関西でも」と3、4回、隣の声を伺いつつ、私は叫んだ。もう完全に近藤さんの姿は見えない。ここは暗いし。
 もう声をひそめている時間はない。

「関西でも、ベートーヴェン、弾いてくださーーーーいッ!!!」
 見えない影に向かって叫ぶ。
 私の、魂の叫び!!

「はぁーーーーい!」

 姿は見えずとも声は聞こえた。

 Perfect。
 腹を切ったサムライのような心境で、私は本懐を遂げたのであった。

 それにしても、近藤さんって誠実な人なんだなぁ。遠くの声にもきちんと答えてくださるなんて。

 名古屋まで行ってよかった。

 そしてお楽しみ。我々は夜の街へと繰り出し、午前2時過ぎまで呑み屋で語り合ったのだった。
 おつきあいくださった4416さん、北海道のnaokoさん、ありがとうございました。
 naokoさんはとっても上品な奥様、といった感じの方。この寒いのにパンストとパンプスなのには驚きました。
「北海道でもこれよー」
 おそれいりました。。。。。。
 4416さんとは同じホテルに泊まり、一緒に朝食も食べました。帰りの電車も途中まで一緒。
 駅のホームで私に手を振る彼女の笑顔はとてもキュートで、女の私でも抱きしめたくなるほどチャーミングでした。
 こんなことを言うと彼女は照れると思うので、こっそりココに書いておくわね。うふっ♪


Saya :JAZZ PIANO   2004.1.28 大阪ブルーノート  


 大阪の夜は長い。今夜はジャズに酔いしれよう。
 と、いうわけで、一度行きたいと思っていたブルーノートに出かけることにした。
 アーティストはSaya。ジャズといえば「歌」というイメージが強いが、この人は歌手ではなく、ピアニスト。アメリカに単身で飛び込み、自分の手でデビューを勝ち取ったという、非常にパワフルなパイオニア精神を持った人だ。
 その生き方、見習いたい!
 
 開場は18時。座席は先着順で案内されるので1時間ほど前から並んだ。19時の開演まで1時間。まずは食事を楽しむ。イタリア料理がメインのようで、なかなか美味、お酒の種類も豊富・・・(嬉)。
 お腹がすいていたのでたくさん注文しすぎた。開演までに食べきってしまわなければ、と焦っていたら友人が「聴きながら食べてもいいねんで」と言うのでホッとし、同時に自分の世間知らずを恥じた・・・(汗)。
 Sayaの音楽はCDで一度聴いたことがあった。とっても心地よい「リラックスジャズ」といった感じで、ショパンの別れの曲などをアレンジしたものもあり、洋楽やロックにはイマイチなじめない私もすんなり自然に溶け込めた。
 なんといっても「飲みながら聴く」というのも魅力的。←某氏のコンサートの時は大変なリキを入れて聴き、息をするのも忘れてしまうので、こーゆーリラックスモードで音楽を楽しむことも私にとっては楽しみであったりする。
 
 ステージに出てきた彼女はとても華奢で可憐。黒のワンピースに網タイツ&ヒールの高いブーツといういでたち。スタインウェイピアノの前に座ると、コントラバスとドラムの男性たちも登場。そして演奏が始まった。
 チャイコフスキーのくるみ割り人形から「花のワルツ」。地下のライブハウスでお酒を飲みながら聴く、花のワルツ・ジャズバージョン!予期せぬ展開にドキドキ。明るい曲想はそのままに、ジャズ特有の「気だるさ」が含まれたなんとも不思議な感じ。アレンジにこの曲を選ぶという彼女の斬新な感性に驚いた。次はぜひともベートーヴェンの「悲愴」の第2楽章なんかにチャレンジしていただきたい。いいと思うんだけどなぁ。
 次の曲は「カムトゥギャザー」。ビートルズのナンバーだそうだ。そして最新アルバムから「Bloom」、「Our delight」と続く。
 ピアノが色っぽく歌い続ける。弾く人によってこんなにも歌い方が変わるなんて!!長い髪をふわりふわりと揺るがしながら弾くSaya。その横では弦とドラムが熱い演奏を繰り広げている。
「大阪のお兄さんたち」とSayaは彼らのことを紹介していたが、大阪人の自己主張の激しさに改めて・・・呆れるどころか感動。今夜は「Sayaのステージ」であることには違いないが、それでも彼らは彼女を引き立てつつしっかり自分を、自分の楽器の素晴らしさを主張していたのだった。その熱き思いがピアノにも伝わっていたのか、Sayaもとっても楽しそうだった。
 音楽を愛するものによる、音楽を愛する者のためのステージ。
 小さい空間ではあったけれども、これこそまさに「音を楽しむ音楽」ではないだろうか・・・などとほろ酔い気分の頭で考えた。
 そして「別れの曲」「マホガニーのテーマ」「イントゥザスカイ」そしてラストの曲へ。ラストの曲はなんていう曲か聞き取れず。
「イントゥザスカイ」が一番心に残った。どの楽器も大音量で弾きまくり。「大空に向かって急な坂道を一気に駆け上がっていくイメージ」で演奏します、とのSayaの解説どおり。この時ばかりは飲むのをやめ、演奏にぐいぐい引き込まれた。私だけでなく、観客みんながそうだったと思う。

 音楽を愛するものによる、音楽を愛する者のためのステージ。

 難しいことは抜きにして、たまにはのんびりとこういう音楽を聴くのもいいと思う。おいしい料理とお酒を片手にね。←酒飲みは一生治らん。

 以上。簡単ではございますが。リラックスすると記憶も曖昧になるようです。ご勘弁。
 


関西フィルハーモニー管弦楽団・ニューイヤーコンサート   2004.1.17 文化パルク城陽 (京都)


 第1部
  J.シュトラウス  喜歌劇「こうもり」序曲
  ガーシュイン   「ラプソディー・イン・ブルー」 / ピアノ:青柳 晋

 第2部
  J.シュトラウス  ポルカ「雷鳴と電光」
  J.シュトラウス  「アンネンポルカ」
  J.シュトラウス  ワルツ「美しく青きドナウ」
  エルガ−      「夕べの歌」
  レハール      ワルツ「金と銀」
  エルガー      行進曲「威風堂々」第1番

 アンコール
  J.シュトラウス  「ラデッキ−行進曲」

 今日はオケを楽しんだ。藤岡幸夫指揮、関西フィルの演奏。会場は京都の城陽市にありちょっと不便な感じがしたけれど、すごく立派なホールで驚いた。
 図書館やプラネタリウムもあるらしい。入口は吹き抜けになっていて、明るい日ざしがさんさんと降り注ぐ。
 ここでウエルカムコンサートと題して、フルート&ハープの二人演奏が。「春の海」「荒城の月」「上を向いて歩こう」などが演奏された。入口で演奏するのでもちろんタダ聴き。子供連れの主婦もたくさん来ていた。

 文化パルク城陽のHPを見ると「振舞い酒!舞台の花花花!キレイな和服姿の女性のお出迎え!今年はどんなお迎えをするかは、お楽しみに〜」と書かれていた。やけにハイテンションだ、この楽団。
 ウエルカムコンサートが終わり、しばらくウロウロしていると、開演10分前になったので階段を上がってホールへ行った。そしてそこには・・・
 振舞い酒!!!
 小さなプラスチックのコップに入れられた日本酒がテーブルに並べられていた。
 早速口にする。
 私:「ん!樽酒やな!」 ダーリン:「おお♪」
 こんなことならもっと早くに来ておけばよかった・・・と後悔しつつホールへ入る。
 舞台に花花花!!!
 とっくに正月気分など抜けているはずだったのに、ここで復活。今日はシュトラウスの曲もたくさん入ってるし、ちょっと遅い新年気分を味わおう。
 しかし、キレイな和服姿の女性は見かけなかった。開演10分前に行ったのがいけなかったのか?まぁ、キレイなオンナなど別に見たいとも思わないけど。

 そして開演。シュトラウスの「こうもり」から始まった。これは個人的にとてもなつかしい曲。学生時代、地元の吹奏楽団で楽器をやってた頃に演奏したことのある曲だ。「踊りだしたくなるような楽しい曲」との紹介があったけれどそんな感じ。
 指揮者の藤岡さんは慶応大学文学部卒業だそうだ。音大じゃないの?そしてイギリスに渡り、ノーザン音楽院指揮科を卒業。
 人生、いつでも方向転換ができるのね・・・。
 歳はいくつか知らないけれど、結構若かった。振り方もとてもエネルギッシュ。指揮者が元気だと演奏する方も元気になれるというのは本当だと思う。指揮者と演奏側の「ホットな関係」が垣間見られて、聴いている方も楽しい気分になれた。
 そしていよいよ。ラプソディー・イン・ブルーに。一度生で聴きたいとずっと思っていた曲!学生の頃、この曲が演奏されるのをテレビで見たことがあり、その時のピアノは黒人の人だった。それがものすごーーーーーくかっこよくて!!!
 今日、ピアノを弾くのは青柳さん。正直、青柳さんがこの曲を弾くということに「ピン」とこなかったけれど・・・
 舞台にはサックス奏者も何人か登場。シュトラウスのヨーロッパからガーシュインのアメリカへ。
 やっぱりかっこいいーーー♪華やかで華やかで華やかなこの曲。いろんな楽器がいろんな音を奏でる。トランペットのミュート音も久々に聴いた。ほわほわほわわ〜ん♪
 そして青柳さんのピアノ。
 ダ:「青柳くん、結構入ってんな」←近藤さんのことは「近藤」と呼び捨てだが青柳さんのことは「くん」付けで呼ぶ。
 青柳さん、入ってる〜!「今、世界で一番カッコイイのは、このオレだ!」と言わんばかりだ。今までも何度か青柳さんの演奏を聴いたことはあるけれど、今日はかなり「入って」いた感じ。きっとこの曲がそうさせるんだろう。 
 私:「青柳さんもいいやろぉ?近藤さんとはまた違った魅力で」
 ダーリンは顔をしかめた。言わんとしていることはわかる。あえて書くまい。
 ダ:「ニカラグアで生まれた、ってのがミソやな」
 私:「うん、お父さんが商社マンやったらしいで」
 ダ:「やっぱりニカラグア生まれってのが違いのヒケツやな。生まれからして近藤とは違う。近藤もニカラグアで生まれなあかんかったんとちゃうか?」
 と、やたらと「ニカラグア、ニカラグア」と連発するのだった。
 青柳さんは商社マンだった父の赴任先のニカラグアで生まれ、アメリカで5歳の頃からピアノを始めたそうだ。ガーシュインの曲を操る青柳さんの様子には、アメリカ育ちの面影がはっきりと見えた。ダーリンの「ニカラグアで生まれたってのがミソ」という言葉もあながち間違いではないかもしれない。
 ちなみに私は今日までニカラグアはアフリカにあると思っており、ダーリンにバカにされた。
 夢のような演奏が終わり、アンコールへ。もちろん青柳さんへのアンコールだ。何を弾くんだろう、とわくわくしていたら、青柳さんが客席に向かって、あの渋いお声で・・・
「リストの愛の夢」
 ワーオオオオゥッ!!!青柳さんの愛の夢!!これは得をした!私は青柳さんの弾く愛の夢が大好きなのだっ。
「と、ラ・カンパネラを」
 アンコールはリストの有名曲で。
「この人の『愛の夢』、すっごくすっごくいいねん!」 
 隣に座るダーリンにしきりにささやいた。すでに私の興奮は頂点。
 そして・・・甘くやわらかな音色が・・・そう、これが、これが彼の愛の夢よ。
 カンパネラはミスタッチがちょっと気になったかな。。。でも後ろの席のご婦人は「す、す、すごーい!」と大感激していた。

 第1部が終わり、外へ出るとまだ振舞い酒が残っていたので飲んだ。
私:「帰りまで残ってたらえーのにな」
 「雷鳴と電光」は打楽器、とくに大太鼓が面白かった。雷鳴の表現だろう。太鼓の担当は結構年配の方だったが、ダダダダン!(最初小さくだんだん大きく、そしてすぐに引く。ブラヴォー♪)と上手く表現されていた。
 エルガーの曲が2曲入っていた。「夕べの歌」・・・これはエルガーを知っている人なら「わー、エルガーだわ」と思うほど、エルガーっぽい曲だと指揮者が言っていた。
 残念ながら私はエルガーと言えば「威風堂々」しか知らんのだなあ。でもとってもきれいな音色の続く曲だった。どの部分がエルガーっぽいのか知っていればもっと面白かっただろうに。
 レハールの「金と銀」。この曲は昔はよく演奏されたみたいだけど、今はあまり耳にしなくなった曲だそうだ。『年配の方の方がよく知っておられると思います』との説明があった。
 でも聴いたことあるぞ、これ。どこで聴いたんだろう。
「金の柔らかい部分と銀の固い部分とのコントラストが楽しい曲」との説明もあったので耳を集中させたけれど、どこが柔らかくてどこが固いのか、よくわからず。でも新年にふさわしい、明るい曲で楽しかった。
 そして「威風堂々」。ダーリンはこの曲のためにここに来た。「青柳さんのガーシュイン」と言ってもダーリンは無反応だったが、「威風堂々」とささやくと飛びついてきたのだ。
 この曲はいいよねえ。高校時代に吹奏楽で演奏したなあ。この曲をやりたくてやりたくて随分根回ししたなぁ。(昔は自己主張のできないムスメだった私。部室の黒板などに『今度の演奏会では威風堂々をやりましょう!』などと匿名で落書きなどしていた。なさけな・・・でも見事取り上げてもらえたのだった)
 前半部分の華やかな曲想、そして中盤以降の荘厳なメロディー・・・イギリスの国家的なイメージまでをも抱かせるこの曲。石の砦でがっしり固められた国家のイメージ。こんな砦で阻まれては相手はその場で手を合わせてひざまずくしかないだろう。
 おいそれ、とは近寄れない。でもつい見に行きたくなってしまう。何度でも聴きたくなる不思議な曲だ。
ダ:「やっぱりこの曲はええなぁ」
 ダーリンも大満足だ。誘ってよかった。
ダ:「オレはやっぱりオケがいいわ」
 ピアノソロには誘うなということだな。残念だがそれはできない。←来月は近藤さんのソロに行くことが決まっている。

 アンコールはラデッキ−行進曲!アンコールなのにプログラムには前もって曲目が書かれてあった。『アンコール:ラデッキ−行進曲』と。
私:「書いてあるということは準備しとけ、ってことやろうな」
ダ:「なんの?」
私:「手拍子!!!」
 ウイーンフィルのニューイヤーコンサートでは必ずこの曲が演奏され、客は手拍子で参加するのだ。いつもテレビで「いいなぁ、楽しそうだなぁ」と思う。子供を産み仕事を辞めればもう二度とヨーロッパに出向くなどという贅沢は許されないであろう私は、この場面を見ては将来を悲観するのだ。
 指揮者の藤岡さんは指揮台の上で客席に向かって今日の来場のお礼を述べ、「今年もよい年になりますように。そしてまた来年、ここでお会いしましょう!」
 その声とかぶりながら曲が始まった。そして手拍子も。
 これ、やりたかったんだよなーーーー。うーん、楽しい♪演奏者と客席は一体化。楽しいわ♪

 退屈な曲なんて一曲もなかった。開演前はフルートとハープの音色、そして新年にふさわしくシュトラウスを存分に楽しみ、ガーシュイン、青柳さんの愛の夢、そして威風堂々にラデッキ−行進曲。
 これで2500円よ!!
私:「今日はお得やったなあ。これで2500円やで」
ダ:「えっ!そんなに安かったんか!それはお得やな」
私:「青柳さん、ちゃんとギャラもらったかな」
 思わず人の心配までしてしまうほどの安さ。

 ぜひ来年も行きたいと思った。これはお買い得です。みなさまもぜひ。
 ちなみに終演後、酒は残ってませんでした。まだたくさん残ってたはずなのになあ・・・。

 以下、余談。帰りの道中で。
私:「指揮者の藤岡さんて藤岡弘と親戚かなあ」
ダ:「ちゃうやろー」
私:「でもなんか雰囲気が似てへん?実は親戚や、って聞いてもみんな驚かへんやろ」
ダ:「ちゃうやろー、でもオバチャンとかにモテそうな感じやな」





 新春狂言2004「二人袴」「靭猿」   2004.1.7 近鉄劇場 (大阪)

 今年は近藤さんだけでなく、ピアノだけでなく、いろんな芸術に触れてみようと思う。でも時間とお金には限りがあるので近藤さんが最優先になりますが・・・。
 今年の第一弾はなんと、「狂言」。西洋芸術ではなく日本の伝統芸能!これはぜひとも着物で参上しよう、というわけで、会社の同僚とふたり、着物を着て出かけた。昨年10月にも着物でお出かけしたがその時はピンクの着物。今日は黄土色のシックなもので髪の毛もちょっと大人っぽくまとめてもらい、しずしずと。友人は薄いピンクの着物を着ていて、なんとそれは彼女自身の手作りだ。彼女は和裁士の資格を持っていて、今の会社に勤める前は自宅で着物を作って店に卸していた。しかしだんだん家に閉じこもって仕事するのがイヤになり、和服の会社に転職、海外へ。ベトナムの工場でベトナム人に和裁を教えていたという、変わったキャリアの持ち主。
 

 今回の演目は「二人袴(ふたりばかま)」と「靭猿(うつぼざる)」主な出演者は野村万作、野村万斎、野村裕基。野村家三代の共演である。
 万斎の最近の活躍はめざましい。狂言も和泉家の本家騒動で随分と一般人の目にとまるようになってきた。
 今日のチケットもなかなか入手困難だった。まずは抽選に当たらなければならない。昨年はその抽選に漏れてしまい涙をのんだ。今回はめでたく当選したのでチケットを購入できた。代金は7000円。かなり高い・・・。それでも客席は満員で立見席(5000円)も売られていた。狂言は関西ではあまり演じられることがない(場所がないらしい)ので、今回はとても貴重な体験ができた。

  まずは万斎氏がひとりで出てきた。独吟で「雪山」。たったひとりで吟ずるその声は氏の風貌にふさわしく、細くてスイートな感じだが決して弱々しくはない。
 しかし・・・やっぱりよく意味がわからない・・・。狂言なんて見たことないし言葉もわからないから面白くないかもと思っていた私はここでちょっと不安になる。
 詩吟が終わると万斎氏は30分くらいかけて今日の演目のあらすじや用語、狂言の基礎知識みたいなものをこまかくこまかく説明。パンフレットにもあらすじと用語説明が書かれていたが、さらに出演者の口で説明してくれる。見慣れている人には「そんなことは知っているからさっさと始めてくれ!」と思われそうだが、初心者にとっては実にありがたいこと。
 近藤さんも演奏前に曲目説明をしてくださるが、こういう親切さが「広く一般の人にも楽しんでもらう」という効果を生み出し、今まで敬遠してされてきた芸術分野にも活気を取り戻させるのだろう。
 世の中にはいろいろ楽しいことがあるのだから、自分の好みの世界だけにとどまっているのはほんとにもったいない話。興味がなくともとりあえず一度は体験してみようと私は常々思っている。

 ようやく舞台が始まった。まずは二人袴。 これは「むこ入り」の際の話。
「むこ入り」とは婿養子に行くということではなく、結婚後に夫が嫁の家に挨拶に行くことだそうだ。
 普通、婿はひとりで挨拶に行く。結婚するほどの年齢なのだから当然だろう。しかしここに出てくる婿はダメ婿。嫁の家に一人で行く勇気がないので自分の父親についてきてくれと懇願する。当然親は「そんなみっともないこと」と跳ねつけるが、息子にどうかどうかお願いしますと頼まれるうちに「ではついていってやろう」と言ってしまう。
 親子は嫁の家の門前まで行き、父親は礼装の「長袴」を息子に着せてやる。ひきづって歩かなければならないほど長ーい袴を親がいちいち着せてやる。礼装もひとりで着られないほどのダメ息子ぶりは見ていて笑える。
 長袴を着せ終わると父親は「では帰るぞ」と言って立ち去ろうとするが「いやーん、外で待っていて(口語訳)」と息子に泣きつかれ、父親も「しょーがねえなあ、おまえは」と言いつつ外で待つことに。
 ところが父親は嫁の家の太郎冠者(お付の者)に見つかってしまい、「これはこれはダンナさまのお父様ではありませんか!こんなとこで何をしてらっしゃるんですか、ぜひともお入りくださいませ」と言われてしまう。
 父が戸惑っていると太郎冠者は家に駆け込み、舅と婿が語りあう部屋まで行き「外でお父上がお待ちです」と報告する。舅はびっくりして「それはなんと!ぜひともお通ししなさい」と。婿は慌てて「父じゃありません。使いの者です」と言うが、太郎冠者は「いえいえ、私はよーく知っています。あれは確かにお父様でした!」と言い張る。
 婿は仕方なく父親を呼ぶことに。太郎冠者に呼んでこさせろ、と舅に言われてもそれを振り切り、太郎冠者に「私が呼んできます」と言われても「いいえ私が呼んできます」と振り切った。
 なぜすんなり父親を家の中に呼べないのか。それは礼装の長袴がひとつしかないからだった。嫁の家に普段着で入るわけにはいかない。婿は外へ出て袴を脱ぎ、父はそれを履いて家の中へ。婿は普段着になってしまったので中へは入れず外で待つ。
「これはこれはお父様、外でお待たせするとは大変失礼いたしました」と舅は丁寧に迎えるが「あれ?息子さんはどうされました?」ということになる。では息子を呼んできます、と退席。袴がひとつしかないので一緒には登場できない。親子は何度か苦しいやりとりを続けたあと、とうとう舅に「ふたりで揃って来てください」と言われ・・・
 親子は袴を前半分と後ろ半分のまっぷたつに破ってしまう。そして前掛けのように前だけ袴を巻きつけて「後ろを決して見られるなよ」と最新の注意を払いつつ舅の前に登場。ふたりのぎこちない動きが客の笑いを誘う。
 そしてなんとか酒の席にこぎつけ、すっかり楽しくなっている舅は「踊ってくれ」と婿に頼む。そこで婿は踊ってみせるが縦横にしか動けないのでなんとも不自然だ。「どうして回らないのか」と舅に詰め寄られ、困惑しきった婿は踊りの途中で「あっ!!あれは何だ!!」と空を指差し、舅が目線をそらした隙にすばやく回る。
 そんなこんなで逃げ切ろうとするが・・・やっぱり最後には後姿を見られてしまい・・・それで幕は終わる。
 要するに笑い話なのだった。出演者の着ている和服はラフなもので、歌舞伎のような濃い化粧もしていなくナチュラル。
 ドリフのコントの文語版、みたいな(表現が適切でないかもしれんが)。そんな気軽な感じで楽しめた。言葉がわからないかも、なんて心配は杞憂に終わる。

 次は「靭猿」。万作・万斎・裕基の親子三代夢の共演である。万作は大名役、万斎は猿回し役、裕基は猿の役。裕基はこれが初舞台。まだみっつかよっつ(どっちか忘れてしまった)の子供。
 大名は狩りの途中で偶然猿回しに出会う。猿回しが連れていた猿の毛並みが気に入り、ぜひとも自分の靭(矢を入れる筒)に張りたい、と猿回しに迫る。当然猿は殺されなければならない。殺して皮をはいでよこせ、と。猿回しは何度も抵抗するが大名に弓矢で脅され、泣く泣く猿を殺そうとムチをふりあげる。
 が、猿はいつもの稽古の合図だと思い、舟を漕ぐマネをする。そのけなげさに猿回しは「私の命はともかく、猿だけは助けてやってください」と泣きすがる。
 実にかなしい物語なのだ。
 猿回しと猿の固い絆に心を打たれた大名はついにあきらめる。そのお礼に猿回しは猿に芸をさせ、大名を喜ばせ、ハッピーエンド。
 猿にはセリフがない。ただ「ミャ−ミャ−ミャ−」という鳴き声だけ(これは猿じゃなくネコの鳴き声では?なんて思ってしまった)で、動作もピョンピョン跳ねたり体を掻いたりするだけ。
「映画でもなんでも『子供が活躍する話』と『動物もの』はウけるんですよねー。今日は子供が動物役をするんですから間違いなくウけるはず。絶対かわいいですから!」と万斎は演目説明の際、親バカぶりを発揮していた。
 確かにかわいくて顔がほころんだが、「これからこの子は大変な苦労をするんだろうなぁ」とちょっと気の毒になってしまった。

 以上、簡単ではありますが、終わり。
 日本の伝統も侮れませんなぁ。でも7000円なので気軽には行けないけど・・・。不況の波は芸術分野に大打撃を与える(万斎も嘆いてたけど)のだよなあ。
 どうにかならんかなぁ。