諸 言



 凡そ世界の人口は六十八億五千萬餘であつて、それぞれに集まつて國を成してゐる。 國は世界に二百餘國あると云ふが、民族の範疇を以て之を分てば、實に其の数は三千餘族である。
 諸民族は、各々その本源より分かれ出でて「姓」を称し、 諸姓は、之よりさらに分かれて「氏」を冒すと云ふ。

 世界各國の諸氏、その数を尋ぬるに、之に限り無し。
或研究者の説に依らば、本邦に於てはその「氏」二十萬餘種、「家紋」は二萬餘種あり。鎌倉の創めに 諸家、之を為してより、久しくつたふるに八百餘歳の歴史なり。 而して諸家は其々にその用ふるに至る由來いはれあり。 珍氏、奇氏も必ずやその由縁ありと。また同氏、同紋の諸氏は、各々その 本源もとを辿れば一に交わること多しと雖も、 奇遇にして一に帰す例もまた稀に有り。夫々懇ろに傳來したる事あらざれば、 その本源を忘ふ例もまた大に有り。

 然して本編にて系圖を聚むる処の意義はかくの如し、一に、貴重なる歴史的価値のある内容を示し、 文化遺産の散逸を防ぐ事に有り。二つに、本編に録することで、廣く意見を集め、異傳、誤説を糺し、 正説を後世に残さむと思ふ事に有り。三つに、かつて紙面に記されしもの、その紙幅に遇されて、 追記、訂正に煩たりしが、本編に録する事によりて、その簡便たるを得むとする事に有り。 四つに、原書の草筆、癖字、異字を清し、西紀元を附する事によつて、その便覧に備ふる事に有り。 更に云わば、世に系圖の籍は数あれど、皆、それ「帯に短し、襷に長し」の類にて、 その眞をるに つたなきものである。
 予、譜を考する事を幾許いくばくか。 つきつめて きはまり無し。依て茲に老境に屈せず、 関係諸氏のすこぶるに盡力せらるゝ処を以て之を上梓す。其の徒ならざる事を欲す。