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バッテリーの知識 (社)電池工業会 資料より

 1.バッテリーの構造 

1.1 バッテリーとは・・・
   蓄電池(バッテリー)とは2種類のことなった電極と電解液などから構成されており、その持っている化学的エネルギーを、電気的エネルギーとして取り出すことができ、また逆に外部から電気的エネルギーを与えると、元の形の化学的エネルギーとして蓄えることができる装置である。

1.2 バッテリーの構造
バッテリーの主要部品
部品名 主な材料
正極板 鉛・鉛合金(活物質は二酸化鉛)
負極板 鉛・鉛合金(活物質は海綿状鉛)
セパレータ 強化繊維・合成樹脂
電槽・ふた 合成樹脂
電解液 希硫酸
   バッテリーには構成物の相違によって、種々の種類があるが、自動車用バッテリーにはペースト式鉛バッテリーが使用されている。自動車用バッテリーの重要な役割は、エンジン始動時のスタータに電力を供給することである。エンジン回転中には発電機(オルタネーター)によって定電圧で電力が供給されバッテリーも定電圧で浮動充電されるシステムになっている。
鋳造格子 エキスパンド格子
   正極板および負極板は上図に示すような鉛合金製格子の空間に、鉛粉や酸化鉛を希硫酸で練って作ったペーストを充てんして、乾燥、化成などの工程を経て、正極板は二酸化鉛、負極板は海綿状鉛を活物質としたものである。格子は活物質を保持して、脱落を防止することと、外部と活物質の間の電気伝導の役目をはたすもので、機械的強度があり、硫酸に対する耐食性が大きく、かつ電導性のよいことが必要である。
一般に格子はアンチモンまたはカルシウムなどを添加した鉛合金であり、添加金属は鉛を固く、強くし、かつ格子の製造を容易にするために用いられる。正極板の活物質である二酸化鉛は、こげ茶色の結晶性微粒子集合体で、多孔性に富み、粒子間を電解液の拡散浸透が自由にできるように製造されているこの活物質は粒子間の結合力が比較的乏しいので、使用年月の経過につれて、結晶性粒子が破壊されて微細化し、最後には極板から脱落して、バッテリーの寿命がつきる原因となることが多い。
負極板の活物質である海綿状鉛は、灰色で多孔性と反応性に富み結合力が強いため、正極板の二酸化鉛のような脱落は少ないが、使用年月が長くなると、結晶が成長して極板の多孔度を減少させ、寿命がつきることが多い。これを防止するために、膨張剤を活物質に添加し、寿命の延長をはかっている。セパレーター(隔離板)は正極板と負極板の間に挿入され両極板のショート(短絡)を防止するために使用される。両極板がショートすれば、バッテリーは蓄えた電気的エネルギーを短時間に失い、電流を取り出すことができなくなる。
袋状 平板状ガラスマット付
   セパレータの必要条件は、非電導性で多孔性に富み、電解液の拡散が自由に行われ(電気抵抗が低く)、機械的にも丈夫で酸にも耐え、極板に悪影響をおよぼすような物質を溶出いないことである。このような条件を満足するものとして、合成樹脂セパレータが使用されている。セパレータには平板状のもの、袋状のものなどがある。これらのセパレータは、ガラスマットを併用して使う場合と、ガラスマットを使用しない場合とがある。ガラスマットは非常に細いガラス繊維を縦横に交差させフェルト状にしたもので、これを正極板とセパレータの間に配し正極板を加圧することにより、活物質の脱落を防止する役目をする。
極板群 12V用電槽 12V用ふた
   極板群は正極板、負極板およびセパレータの必要な枚数を重ね合わせ、極柱付ストラップに溶接したものである。セル(単電池)は1個の極板群より構成されたバッテリーで、その開路電圧は極板の大きさや枚数に関係なく、約 2.1Vである。自動車用の12Vバッテリーは、セルを6個直列に接続している。
電槽は合成樹脂で上図のように一体に成型され、12Vバッテリーでは六つのセルに区画されている。一般に電槽の各セル底部には「くら」があり、正極板、負極板の足部が別々の「くら」に乗るようになっている。くらの役目は極板群を支えるとともに、極板から脱落した活物質の沈殿、堆積によるショートを防止することである。ふたは主として合成樹脂の一枚ぶたで、接着剤または溶着により電槽の完全に接着させ、機密を保つようにしている。このふたには、希硫酸、精製水の注入あるいは電解液の密度(比重)*1、温度の計測のための液口がある。この液口から電解液が漏れたり、ごみが入らないように合成樹脂の液口栓がしてある。この栓の上部または測部には排気孔(細孔)があり、バッテリー内部から発生する水素ガスおよび酸素ガスを放出するようになっている。
  *1:電解液の密度を『比重』とも呼ぶが、正しくは密度である。しかし従来からバッテリーに関しては比重という呼び方が一般的であり、判り易いため、ここでは以下、『比重』と言う。
  
   各セルは鉛合金で直列に接続されている。接合部の太さは、大きなエンジン始動電流が流れても、電圧の降下が少ないように設計されている。バッテリーに使用される電解液は硫酸と水を混合した無色・無臭の希硫酸で、いずれも純度の高いものを使用する。電解液は正極板の二酸化鉛、負極板の海綿状鉛と反応して、流れ込んだ電流を蓄えたり、電気を発生させる作用を行うばかりでなく、セル内部の電流の伝導を行う。電解液の比重は、一般に完全充電時に電解液温度20℃において1.280±0.010のもが使用されている。
比重と硫酸濃度
比重
(20℃)
1.10 1.15 1.20 1.25 1.26 1.28 1.30
硫酸の濃度
(重量%)
14.7 21.4 27.7 33.8 35.0 37.4 39.7
   なお、希硫酸(硫酸濃度10%を超えるもの)は毒物劇物取締法で劇物に指定されており、その取扱には十分な注意が必要である。バッテリー用希硫酸は化学的に純粋なものでなければならない。純度の低いものを用いると、正極板の腐食作用を早め、あるいは自己放電を大きくして寿命を短くする。したがって、最初に用いる電解液はもちろんのこと、使用中の電解液にも、他から不純物の入らぬよう注意しなければならない。バッテリー用希硫酸は日本工業規格(JIS K 1321)に規定されている精製希硫酸を用いる。なお、希釈、補水などに用いる精製水は(社)電池工業会規格(SBA S0404)で規定された蓄電池用精製水による。
蓄電池用希硫酸の基準
(JIS K 1321-1994)
項目 不純物の限度
比重(5℃/4℃) 1.20〜1.40
硫酸分 27〜50%
強熱残分 0.005%以下
NO-(硝酸イオン) 0.001%以下
NH+(アンモニウムイオン) 0.001%以下
Cl-(塩化物イオン) 0.001%以下
Fe(鉄) 0.001%以下
As(砒素) 0.0001%以下
Cu(銅) 0.001%以下
Mn(マンガン) 0.00005%以下
KMnO過マンガン酸カリウム
      還元性物質(O)
0.0003%以下
蓄電池用精製水の基準
(SAB S 0404-1998)
項目 単位 品質
濁度 度(カオリン) 2以下
pH 5.8〜8.6
伝導率 μs/cm 10以下
塩化物イオン 0.0001以下
0.0001以下
強熱残分 0.001以下
過マンガン酸カリウム
還元性物質(O)
0.005以下
   温度が著しく低下すると希硫酸は氷結するが、その氷結は硫酸の比重によってことなる。
   比重約1.290のものが一番氷結しにくい。その氷結は−75℃付近であるが、それより高くても低くても氷結しやすくなり、その氷点は高くなる。バッテリーの完全充電時の電解液比重は1.280(20℃)であるから氷結しにくいが、放電して比重が1.100(20℃)くらいに低下すると、その氷点は−10℃前後となり、氷結しやすくなる。電解液の氷結はバッテリーを破損するから、バッテリーを放電したまま放置しないで、必ず完全に充電しておくことが必要である。
 
 2.バッテリーの種類 

2.1 バッテリーの形式とは・・・
   JIS(JIS D 5301 始動用鉛蓄電池)による形式の表示法では、バッテりーの性能と寸法などがわかるようになっている。
 

形式の意味
国産車用 55D23L の場合

55 23
@ A B C

    @: 55 の意味⇒ 性能ランク
      5時間率容量と始動性能の程度によって区分したものであり、50未満は2刻み、50以上は5刻みとする

    A:  の意味⇒ 幅X箱高さの区分

記号 幅X箱高さ
(最大mm)
サイズ*1
127X162 A17,A19
129X203 B17,B19,B20,B24
135X207 C24
173X204 D20,D23,D26,D31
176X213 E41
182X213 F51
222X213 G51
278X220 H52
*1 記号(A〜H)と長さcmの概数でバッテリーの
寸法が決まるため、この二つを一般的にサイズと言う

    B: 23 の意味⇒ 長さ寸法(cm)の概数

    C:  の意味⇒ 端子の位置

L タイプ R タイプ 記号なし


ドイツDIN規格バッテリーの形式の表し方
欧州車用 563−18 の場合

63 18
@ A B

   @:  の意味⇒ バッテリーの種類

0〜4・・・6Vバッテリー
5〜9・・・12Vバッテリー
5: 12Vで容量100Ah未満
6: 12Vで容量100Ah台
7: 12Vで容量200Ah台

   A: 63 の意味⇒ 20時間率容量を表示

   B: 18 の意味⇒ 登録番号 仕様の違いにより連番で取られる(サイズ・端子位置・排気構造等の違い)
                        番号が異なっても互換性ある場合がある

米国SAE規格バッテリーの形式の表し方

   米国のバッテリーの形式は、SAE規格で基本が決められており、実用的にはそれを展開した形の
   ”BCIグループah で標準化が進められている。

       SAEとは Society of Automotive Engineers の略(米国自動車技術委員会)
       BCIとは Battery Council International の略(国際電池評議会)


2.2 バッテリーの供給形態による種類
   バッテリーは電解液の有無および極板の状態などにより、「液入充電済バッテリー」、電解液を注入してから使用する「即用式バッテリー」の2種類がある。液入充電済バッテリーは、いつでも使用できるように、初充電を完了しているものである。液入充電済バッテリーは、放置中に必ず自己放電をするので、容量が減少し電解液の比重が低下する。また蒸発のため液量も減少する。従って長期間放置した場合は、バッテリーが十分働かなかったり、また極板が劣化し寿命に影響を与える恐れがあるので必ず定期的に(2〜3ヶ月毎)充電を行って使用開始することが望ましい即用式バッテリーは電解液を注入して使用できるものであるが、電解液注入後に充電を行い使用開始することが望ましい。このバッテリーでは、完全充電状態にある正負両極板が特別な方法により酸化しないように乾燥して組み立てられ、注液時まで極板が外気に触れて酸化しないよう液口部がシールなどで密閉されたものである。従って使用開始のために電解液を注入するまでは、絶対に密閉部を開かないように注意しなければならない。使用に際しては、まず液口栓を外すと同時に、その排気部分の密閉部(シールなど)を必ず開封すること。注入する希硫酸は、そのバッテリーの完全充電時と同じ比重のものとする。

2.3 使用中の特性 形態による種類
   バッテリーは極板格子体の合金およびそれに応じて決まる特性、形態により分類される。
自動車用
バッテリー
アンチモンバッテリー
ハイブリッドバッテリー
カルシウムバッテリー ベント形(液口栓付)
シール形(制御弁式)
   自動車用バッテリーでは、アンチモン含有量を極力少なくしたり、アンチモンの代わりに微量のカルシウムを添加した鉛合金の格子が極板に使用されている。これらの極板の組合わせおよび極板群構成により、いろいろの種類がある。
. アンチモン
バッテリー
ハイブリッド
バッテリー
カルシウム
バッテリー
格子合金
の種類
正極 鉛−アンチモン 鉛−アンチモン 鉛−カルシウム
負極 鉛−アンチモン 鉛−カルシウム 鉛−カルシウム
 ・アンチモンバッテリー
   正極板、負極板ともに、格子にアンチモンを含有した鉛合金が使用されているバッテリーである。格子合金中のアンチモンは機械的強度を増すなどの効果がある反面、バッテリー使用中の減液や自己放電の大きな原因ともなる。従って、使用中の定期的な補水の実施および長期放置の場合は定期的な充電が必要
 ・ハイブリッドバッテリー
   正極板と負極板とで異なる鉛合金の格子が使用されているバッテリーの総称であるが、正極板に鉛−アンチモン合金格子、負極板に鉛−カルシウム合金格子が使用されているハイブリッドバッテリーが一般的に用いられている。
 ・カルシウムバッテリー
   正極板、負極板とも鉛−カルシウム合金の格子が使用されているバッテリーである。このバッテリーは、自己放電および減液特性が良好である。
 ・シール形バッテリー(制御弁式バッテリー)
   このバッテリーは鉛−カルシウム合金の格子を使用した正負両極板、特殊セパレーター、極板とセパレータをうるおす程度に注入した電解液を有し、シール構造としたものである。このバッテリーでは、内部で発生したガスが極板に吸収されるため、原理的に使用中の電解液減少がなく、補水不要である。
自動車バッテリーとしては、通常の液式であるベント形(液口栓付)が主流であるが、保守が出来ない場所に搭載されるなどの場合には、このシール形が使用されることが多い。

 
 3.バッテリーの反応 

3.1 バッテリーの化学反応
   バッテリーの放電時の化学変化は、正極活物質の二酸化鉛(PbO2)が硫酸鉛(PbSO4)に変わり、負極活物質の海綿状鉛(Pb)も硫酸鉛(PbsO4)に変わる。そして、電解液中の硫酸(H2SO4)が水(H2O)になっていくためため、電解液比重は放電に伴って低下する。充電時の化学反応は、この逆である。
[充放電中の化学変化]
正極板 電解液 負極板 放電 正極板 電解液 負極板
PbO2 2H2SO4 Pb
PbSO4 2H2O PbSO4
二酸化鉛 希硫酸 海綿状鉛 充電 硫酸鉛 硫酸鉛

3.2 バッテリーの起電力
   バッテリーの起電力はセル(単電池)あたり約2.1Vであり、電解液の比重および温度によって多少異なるが、容量の大きさには無関係である。
 

3.3 放 電
   バッテリーから電気的エネルギーを取り出すことを放電といい、反対に外部の電源から電気的エネルギーを加えて、元の状態に回復させることを充電という。バッテリーを放電すると(たとえば点灯した場合)電解液中の硫酸は正極板、負極板の活物質と反応して、硫酸鉛と呼ばれる化合物を作る。従って放電が進むにつれて、硫酸の消費量が増加し、電解液中の硫酸分が少なくなり、濃度が低くなる。消費される硫酸の量はバッテリーから取り出された電気量に正比例する。硫酸が極板の活物質と反応して消費されるとバッテリー電圧が降下して、電流を取り出すことができなくなる。このように放電するにつれて、電解液濃度が降下していく現象を利用して比重計を使用することにより、バッテリー中に残存する電気量を推定することができる。

3.4 充 電
   放電したバッテリーに外部の電源から、電流を送り込むと、正極板、負極板の硫酸鉛が分解されて硫酸は極板をはなれて電解液中に戻り、元の濃度になる。同時に極板の活物質も元の状態に戻り、再び電流を取り出すことができるようになる。充電が進んでバッテリーが完全充電状態に近づくと、負極板から水素ガス、正極板から酸素ガスが発生する。これらのガスは爆発性を有するので、バッテリーに火気を近づけたりショートやスパークをさせてはならない。

3.5 電解液と比重変化
   比重1,280とは、その重さが水の1.280倍あることである。バッテリーを放電すると電解液中の硫酸分は極板の活物質と反応し、硫酸鉛となるために、電解液の比重は低下する。電解液の比重は吸込比重計などを使用して測定する。吸込比重計はゴムの握りのついたガラス筒などのスポイトの中に比重目盛を施したガラス製の比重(浮き子)が入っている。スポイトで電解液を吸い上げると、液中に浮沈する比重計(浮き子)の液界面の目盛が比重を示す。
比重値の見方 比重が高い場合 比重が低い場合
   上図は比重目盛の正しい見方を示したもので、目の位置をスポイト内の液面と平行に置き、表面張力で盛り上がった液面の目盛を読まなければならない。
 比重と充電状態
   吸込比重計で電解液の比重を測り、その値によってバッテリーの充電状態を推測することができると述べたが、正確をきするには電解液面が規定の高さになっていること、補水した場合は充電して電解液をよく攪拌してから測定する必要がある。表に充電状態と電解液比重(20℃)との関係を一般的なバッテリーについて求めた一例である。
 
比重値と充電状態の関係(一例)
電解液比重(20℃) 充電状態
1.280 100%
1.240 75%
1.200 50%
1.160 25%
1.120 0%
 温度補正
   比重計で測定した比重は温度補正しなければならない。この比重値は温度が変わると異なった値を示し、温度が高いと低く、温度が低いと高くなる。これは温度が高いと電解液容量が増加し、冷えると減少するからである。一般にバッテリーの電解液比重は温度20℃を標準として用い、変化の割合は温度1℃の上昇に対し比重は0.0007低下し、温度1℃の降下に対し比重は0.0007上昇する。ある温度で測った比重を標準温度20℃における比重に換算するには、次式を用いる。
 
20=S+0.0007(t−20)
    S20 :20℃の時の比重
    S   :t℃の時の比重
 
[例1]20℃より温度が高い場合 [例2]20℃より温度が低い場合
 比重計の読み :1.260  比重計の読み :1.280
 電解液の温度 :40℃  電解液の温度 :-5℃
S20=1.260+0.0007(40-20) S20=1.280+0.0007(-5-20)
   =1.260+0.0140    =1.280-0.0175
   =1.274    =1.262
従って、20℃に換算した場合の比重 は1.274である。 従って、20℃に換算した場合の比重 は1.262である。
   例1は夏期の場合で、測定比重値から見ると10%位放電した状態と考えられたが、標準温度に換算すると実際は完全充電状態に近い状態となっている。
例2は冬場の場合で、測定した比重を見ると完全に充電されているようであるが、実際は90%程度の充電状態である。

 4.バッテリーの諸特性 

4.1 バッテリーの規格
   バッテリーの容量、高率放電、充電受入、寿命などの試験方法は、JIS規格(JIS D 5301始動用鉛蓄電池)に詳細に規定されている。また、関連する外国のバッテリー規格として米国のSAE規格、ドイツのDIN規格などがある。下記の表は、容量・高率放電性能試験の概要について規格別に示したものである。
 
JIS,SAE,DIN規格のバッテリー性能試験方法の概要
. JIS(日本) SAE(米国) DIN(ドイツ)
規     格 日本工業規格 米国自動車技術委員会規格 ドイツ標準規格
容 量 性 能 25℃:5時間率容量(Ah)
5時間率電流×放電終止
電圧10.5Vまでの持続時間
(h)との積を容量(Ah)という
RC:リザーブキャパシティ
(分)
25A(約27℃)10.5Vまで連続
放電した場合の持続時間を(分)
で表したもの
25℃:20時間率容量(Ah)
20時間率電流(A)×放電終
止電圧10.5Vまでの持続時間
(h)との積を容量(Ah)という
高率放電性能
(始動性能)
低温(−15℃)高率放電時
の初期電圧(V)と持続時間
(分)
放電電流:150A,300A,500A
CCA:コールドクランキング
電流(A)
0°Fの温度で放電した場合、
30秒目電圧が7.2Vとなるよう
な高率放電電流
CCA:コールドクランキング
電流(A)
−18℃の温度で放電した場合
30秒目電圧が9.0Vとなるよう
な高率放電電流

4.2 放電特性
 バッテリーの容量 
   バッテリーの容量とは、完全充電されたバッテリーの端子電圧が所定の放電終止電圧になるまで放電する間に取り出すことの出来る電気量で決められている。バッテリーの容量を示すとき、放電率または放電電流を明示する必要がある。放電率は放電電流の大きさを示すもので、バッテリーの容量は取り出す電流の大きさによって大きく変わるためである。
   (1) 5時間率容量
     日本の自動車用バッテリーでは5時間率容量が使われている。これは完全に充電したバッテリーを電解液温度25±2℃に保持し、5時間率容量の1/5の一定電流(5時間率電流)で電圧が10.5Vに降下するまで放電したときの容量である。
 
容量=放電電流×放電終止電圧までの放電時間
Ah=A×h
     たとえば、12V120アンペア・アワー(Ah)のバッテリーは24A(=120Ah÷5h)の電流で放電し、電圧が10.5Vに降下するまで行う。その放電時間(h)と放電電流(Ah)の積を容量(Ah)と称し、この場合の容量を5時間率容量(Ah/5HR)といい(定格容量ともいう)放電を打ち切る電圧を放電終止電圧という。
     下図は5時間率放電電流で、電圧が10.5Vまで放電した場合の特性図の一例である。
 
   (2) リザーブキャパシティ [RC]
     5時間率容量はバッテリーの放電容量を知るためには適切な方法であるが、自動車の充電系統が故障した場合、電気負荷へはバッテリーから必要な電力が供給される。そのための必要容量の基準についてはリザーブキャパシティという試験方法があり次の方法で評価する。
   
バッテリー状態 :完全充電状態
試 験 方 法 :25±2℃
放 電 電 流 :25A
     上記の条件でバッテリーを放電した場合、端子電圧が10.5Vに達する迄の時間を測定する。この持続時間を(分)で表した値をリザーブキャパシティと称している。即ちバッテリーの大きさに関係なく25℃で25Aの一定の電流で放電した場合の放電時間を(分)で表したのがリザーブキャパシティである。
 放電率と容量
   バッテリーから取り出しうる容量は、放電電流の大きさによって変化する。すなわち放電電流が大きいほど取り出せる電気量(容量)が小さく、放電電流が小さいほど取り出せる電気量(容量)が大きくなる。その理由は、放電電流が大きくなるほど電解液の拡散(放電の進行に併う化学反応)が追いつかなくなるためで、極板活性物質細孔内での硫酸の量が減少するためである。下図は放電率と容量の関係を示した図である
 温度と容量
   バッテリーの容量は、電解液温度によって大きく変化する。その変化の状態は、下図に示すとおり温度が下がると容量は小さくなる。従って容量を表示するときは、その温度を明示しなければならない。
   バッテリーの容量は、25℃を基準とする。
 始動性能
   バッテリーのエンジン始動能力は、エンジンをスタータで、始動する際の大電流に相当する電流でバッテリーを放電させたとき、どれだけ高い放電電圧を維持できるかによって評価される。エンジンを始動させるときにバッテリーからスタータに流れる電流は、エンジンの排気量、回転速度などにより異なるが、普通の乗用車では常温で約100〜300A程度である。周囲温度が低くなると、潤滑油の粘度が増し、始動に要する電流もまた増加する。
   JIS規格(JIS D 5301)では低温時の始動性能を次の項目に規定している。
  (1) JIS規格による低温高率放電特性
        ・-15℃150A、300A、または500Aで放電した場合、5秒目(または30秒目)の電圧
    ・-15℃150A、300A、または500Aで放電した場合、電圧が6Vになるまでの放電持続時間(分)
  (2) コールドクランキング電流(CCA)
米国のSAE規格、ドイツのDIN規格による低温始動性能
自動車バッテリーでは、エンジン始動に必要なイグニッションコイルへの電圧、スタータへの電流と電圧およびエンジンのクランキング時間が要求されている。
 バッテリーの状態:完全充電状態
 試 験 温 度 :−18℃±1℃
 上記の条件で端子電圧が30秒目に7,2V(DIN規格の場合は9.0V)となるような放電電流を求める。この電流をコールドクランキング電流と称している。なお、JIS規格では、SAE規格による評価法を参考として取り入れている。
 自己放電
 バッテリーは電解液が入った状態で外部回路につないで放電させなくても、時間の経過と共に徐々に電気エネルギーが失われていく。この現象を自己放電といいバッテリーの種類によってその値は違うが、25℃で1日あたり0.1〜0.3%である。一般に電解液の比重濃度および温度が高いほど、化学反応などにより自己放電量は大きくなる。
 下図はバッテリーの種類による、25℃における放置期間と自己放電との関係例である。


系列1:カルシウムバッテリー
系列2:ハイブリッドバッテリー
系列3:アンチモンバッテリー 

4.3 充電特性
   放電したバッテリーを定電流充電したとき、端子電圧・電解液比重および液温などの時間と共に変化する様子を充電特性という。
   (1)充電中における端子電圧の変化
     最初は急に上昇し、その後は緩やかに上昇を続け、電圧が約14.4V(セル当たり約2.4V)に達する頃から再び急激に上昇、15〜17V(セル当たり約2.5〜2.8V)に達して一定値を維持する。
  a.充電電流が大きいと電圧は高い値を示す。
  b.電解液温度か高いと電圧は低い値を示す。
  c.電解液比重が高いと電圧は高い値を示す。

   (2)充電中における電解液比重の変化
     充電中の比重はガス発生の始まるまでは、電解液の攪拌が行われないので、その上昇は緩やかであるが ガス発生が始まると急激に上昇し、充電終期には最高値に達してその後は一定値を維持する。
   (3)充電中のガス発生
     電圧が約14.4V(セル当たり約2.4V)に達する頃からガス発生が盛んになり、充電終期が近づくに従って増加し、完全充電状態に達した後は、供給電力の殆どが水の電気分解(ガスの発生)に消費されるため充電電流に相当するガスを発生し続ける。このようにガス発生の遅速、発生状態は充電を判定する上で重要なばかりでなく、内部ショートなどの故障発見の重要なチェックポイントである。

4.4 バッテリーの寿命
 液入り充電済バッテリーは、保管・放置など使わなくても経年劣化を伴い、容量が徐々に低下し寿命が進行する。JIS規格では、寿命終期のとりかたの基準としてある特定の条件のもとで充放電を行い、そのバ ッテリーの定格容量に対して、ある割合以下に低下するまでの充放電回数(サイクル)で判定している。 しかし、同じバッテリーでも使用条件、使用環境、メンテナンス(日常点検)、車両側の充電装置、取付け場所などの要因によって寿命は異なるので、簡単に言えないが、乗用車の寿命では、2〜3年のものが多い。
寿命の進行に伴う一般的な現象
・補水間隔が短くなる。
・バッテリーあがりが多くなり充電が必要となる。
・エンジンの掛かりが悪くなる。
・アクセルの踏み込みによりライトの明暗がでる。
・電解液量や比重のセル間バラツキが大きくなる。
・電解液がにごる。
・方向指示器の点滅時間が長くなる

 5.バッテリーの充電のしかた 
 車輌の正常な使用条件のもとでは、走行によってバッテリーは充電され常に充電状態に保たれるよう設計されている。しかし、車両を長期間使用しなかったり、バッテリーが長期間放置されたり、ライトの消し忘れなどでバッテリーが放電してエンジン始動が困難な状態になる。このような場合には、充電器を使用しバッテリーの充電が必要である。バッテリーの充電には直流を通電し、充電器の電圧、電流の調整方法により普通充電と急速充電とがある。

5.1 普通充電
 ・定電流充電法
   5時間率容量の1/10の電流で充電を行う。
 ・定電圧充電法
   一定の電圧をバッテリーに与えて充電するもので、車両の充電系(オルタネータとレギュレータ)による充電もこれに相当し、電流制限定電圧方式になっている。充電初期にはバッテリーの放電状態に応じて制限限度の大きな充電電流が流れ、充電進行に伴ってバッテリーの端子電圧が一定電圧に達すると、充電電流は減少して設定電圧と温度条件に見合った浮動充電電流となる。この充電方法はガス発生が抑えられて電解液中の水分解が起こりにくく、比較的短時間に効率よくバッテリーが充電できる長所あある。しかし、初期に大きな充電電流が流れるため、これに応じた大容量の充電器が必要であり自動車用および産業用バッテリーなどに採用されている。また、ガス発生が抑えられ電解液比重を均一に調整するため、ガス発生による電解液攪拌のために定電流充電法を併用する必要がある。
 ・準定電圧充電法
   定電圧充電の変形で、一般の充電器ではこの充電方式が広く採用されている。放電しているバッテリーでは、初期に大きな充電電流が流れて端子電圧が上昇し、これが電圧ドロップ(抵抗)となってバッテリーへの充電電圧を制御している。充電の進行に伴ってバッテリーの端子電圧も徐々に上昇し、充電電流も減少していく。
 ・急速充電法
   深い放電状態にあるバッテリーを応急的に短時間でエンジン始動可能な程度にするため、大きな電流(5時間率容量の値以下)で充電してその放電量の幾分かを補うものが急速充電である。この充電方法は、バッテリーを完全充電するものではない。急速充電は大電流で充電するため、電解液温度が上昇する、ガス発生が多い、充電効率が良くないなどの短所がある。従って、長期間放置されたようなバッテリーの充電には適当ではない。充電時間は30分以内とし、電解液温度は55℃を超えないようにする必要がある。これを超えるとバッテリーが劣化して、寿命が短くなるなどの悪影響が出てくる。

5.2 充電の方法と特性
 ・初充電
   バッテリーに電解液注入後、最初に充電するものを初充電という。初充電は通常メーカーで行い、液入り充電済バッテリーとして販売されている。即用式バッテリーは、電解液を注液し充電して使用するものである。即用式バッテリーでは保管経歴(保管温度、密封状態、液口栓の締付け状態など)により充電に要する時間は大幅に変わり、一般に保管期間6ヶ月までの場合、規定充電電流で3〜5時間程度である即用式バッテリーでは電解液が入っていない。電解液の注入は、バッテリーを水平な場所に置き液口栓を取外し、添付された電解液比重1.280(20℃)の希硫酸を1セルずつ最高液面線(UPPER LEVEL)またはふたの液口下端の液面指示装置先端まで入れる。注入する電解液の温度は、15〜35℃の範囲とすること。約30分経過すると液面が低下するので、再度電解液を補充して充電を行う。
 ・回復充電(充電)
   車両のライトの消し忘れなどによる放電やバッテリーの長期放置(車両の長期不使用も含む)による自己放電で容量を失った場合には、エンジン始動が困難になる。回復充電(充電)はバッテリーの容量を回復させるために行うものである。

5.3 充電器の取扱
 (1)充電器の選び方
   ・充電するバッテリーの公称電圧と同じ電圧の充電器を選ぶこと。充電器に切替スイッチがある場合には、電圧設定を行う。2個のバッテリーを同時に充電する場合は、24V用の充電器を使用して直列に接続すること。
 (2)充電器とバッテリーとの接続手順
   ・充電器の電源と電流調整ツマミがOFF(切)になていることを確認し、充電器のコードをコンセントに差し込む
 ・プラス充電クリップをバッテリーのプラス端子に、次にマイナス充電クリップをバッテリーのマイナス端子にしっかり固定すること。逆に接続すると、機器損傷やバッテリー爆発の原因となる。
 ・充電器の電源をON(入)にし、次に電流調整ツマミを回して充電電流を調整する。充電終了後は電流調整ツマミをOFF(切)にし、次に充電器の電源をOFF(切)にする。
 (3)充電電流と充電温度の管理
   ・充電電流はバッテリーの要項表の普通充電電流以下の値に、急速充電ではバッテリーの5時間率容量の値以下で30分以内に設定すること。
 ・充電中に電液温度が45℃を超える場合は、充電電流を下げるか充電を一時停止すること。急速充電の場合、電解液温度が55℃を超える時に同様な処置を行う。
 (4)充電完了のめやす
   ・バッテリーの各セルからさかんにガスが発生し、充電中の端子電圧が15.0V以上、または電解液比重が1.270(20℃)以上になっている状態をいう。
 (5)充電後のバッテリー点検
   ・電解液面が最高液面線(UPPER LEVEL)にあることを確認し、液口栓を緩みがないようにしっかりと締付けること。バッテリーの外観が汚れている場合には、水洗いするか湿った布で清掃する。
 (6)充電時の安全取扱い
   ・充電器の取扱説明書を熟読すること。取扱を誤ると、バッテリーの引火爆発の原因となる。
 ・バッテリーを充電すると水素ガスが発生するので、火気を近づけず風通しの良い場所で行うこと。
 ・充電器の電源がON(入)の状態で充電クリップをバッテリーに接続したり、充電中に充電クリップの取外しをしないこと。スパークにより爆発の原因となる。
 ・電解液面が最低液面線(LOWER LEVEL)以下に低下した状態で充電をするとバッテリー爆発の原因となる。従って、電解液面が液面線間の半分以下に低下している場合は、充電前に精製水を最高液面線(UPPER LEVEL)まで補充し、最高液面(UPPER LEVEL)以上に入れないこと。液もれの原因となる。
 ・充電時にはバッテリーの液口栓が外せるものは取外し、発生するガスが拡散しやすいようにすること。液口栓には電解液が付着しているので、皮膚や衣服に付けないこと。
 ・充電直後のバッテリーは、30分以内には車両に取付けないこと。
 ・やむを得ず車両に搭載したままで充電する場合は、バッテリーに接続されている車両側のマイナスケーブル端子を取外すこと。

  
 6.バッテリーの故障 

6.1バッテリーの寿命と故障の概要
   バッテリーには寿命があり、寿命とは使用中にその性能が徐々に低下してエンジン始動が困難になってきた状態をいう。寿命は、車両の使い方やバッテリーのメンテナンスのしかたでも大幅に変わってくる。寿命末期の一般的な現象は次のとおりである。
 
  • 補水間隔が短くなる。
  • バッテリーあがりが多くなり充電が必要となる。
  • エンジンの掛かりが悪くなる。
  • アクセルの踏み込みにより、ライトの明暗がでる。
  • 電解液量や比重のセル間バラツキが大きくなる。
  • 電解液がにごる。
  • 方向指示器の点滅時間が長くなる。
   これらの現象が現れた場合は、バッテリーの充電を行う。充電しても性能が回復しないときは、バッテリー交換を行う。一方、バッテリーの故障(エンジン始動が困難)はその多くが日常点検や手入れ不十分によるものである。バッテリーが故障した場合に、早期の故障原因を見極めるための点検と診断は、次の方法による。

6.2故障の診断法
 ・外観点検
   バッテリーの電槽やふたが亀裂などで破損している場合には、電解液が漏れて車両を損傷するため取替える必要がある。著しい変形のある場合には、過大電流充電による過熱か、取付金具での締付け過ぎによるものなのか原因を調べる必要がある。必要に応じて車両のレギュレーター電圧を点検すること。レギュレーター電圧に異常がある場合は、バッテリー内部に何らかの損傷が及んでいることが考えられる。液漏れ、著しい汚れがある場合には、液口栓の緩み、バッテリーの破損や電解液面の高さを確認し、湿った布で清掃すること。最高液面(UPPER LEVEL)を超えている時は、スポイトなどで抜き取る。液口栓の排気孔にゴミなどの付着によるつまりがないことも確認すること。乾いた布で拭き取ると静電気により、引火爆発する恐れがある。
 ・液面点検
   バッテリーの電解液は充電時の水の電気分解や自然蒸発により、水分のみが僅かずつ減っていく。電解液が最低液面線(LOWER LEVEL)近くまで減っていると、充電受入性の低下による充電不足やバッテリーの極板やセパレーターが空気中に露出して寿命に悪影響を与える。精製水を最高液面線(UPPER LEVEL)まで補充すること。但し、最高液面線以上に補充すると振動などで電解液があふれ、車両を損傷する。電解液面が全セル著しく低下している場合はバッテリーが過充電されていることも考えられるため、必要に応じ車両のレギュレーター電圧の点検も行うこと。また、電解液面がセル毎に大きくバラツキがある場合はバッテリーが劣化していることが考えられ交換も必要である。
 ・比重と充電状態の点検
   バッテリーの充電状態は、電解液比重の測定やインジケーターにより確認することができる。
 
  • バッテリーは放電量に対応して電解液比重が低下するので、比重測定を行うこと。
  • 蓋または液口栓に取付けのインジケーターの色と形状を表示ラベル(充電状態と液面状態がわかる)で照合すること。
   電解液比重が各セル一様に低下(比重差0.04以内)している場合は、バッテリーが放電しているので充電後再度点検すること。
電解液比重が特定セルのみが低い場合は、精密点検が必要である。
電解液比重がセル毎に大きくバラツキがあって低下(比重差0.04以上)している場合は、バッテリーが寿命になっていることも考えられ使用可否の判断が必要である。

6.3 バッテリー故障の内容
 ・取付け不良
   @ 取付金具の締付け
     締付けが強すぎる場合、バッテリーに過大な締付け力が加わるため電槽の変形・破損・電槽とふたとが亀裂ハズレを起し、液漏れになる恐れがある。締付けが不足の場合、車両の振動に伴いバッテリーに著しい振動が加わるためバッテリーの電槽破損、液口栓の排気孔からの液漏れ、極板活物質の早期脱落による劣化でバッテリーの寿命が短くなる恐れがある。
   A ケーブル端子の締付け
     締付けが強すぎる場合、バッテリー端子に過大な締付け力が加わるめ変形・亀裂が生じる恐れがある。
締付けが不足の場合、車両の振動に伴いケーブル端子の接触緩みによる始動不良・充電不足、スパークによりバッテリー内部から発生するガスに引火爆発する恐れがある。
   B 手入れ不足
     ケーブル端子やバッテリー端子の手入れ不足の場合、腐食・変色に伴う接触不良による始動不良、充電不足になる恐れがある。
 ・排気孔部のつまり
   バッテリー内部からは水素ガスの発生があり、液口栓の排気孔から外部に放出している。排気孔がつまった場合には、バッテリー内部の圧力上昇により電槽やふたが破裂する恐れがある。液口栓の排気孔がつまる原因としては、ゴミなどの付着によるつまり、接続ケーブルなどによる排気孔のふさぎがある。
 ・電解液の過不足
   バッテリーの電解液は、規定液面の最高液面線(UPPER LEVEL)と最低液面線(LOWER LEVEL)の中間以上に保つ必要がある。電解液が減った場合には、最高液面線(UPPER LEVEL)まで精製水を補充すること。
   @ 電解液が過剰の場合
     規定液面の最高液面線(UPPER LEVEL)以上に補水した場合、車両の振動やバッテリー内部から発生するガスで液口栓の排気孔から液漏れ・液あふれにより、車両や機器を腐食する。液漏れは硫酸分の流失によるバッテリーの容量低下や、液リークによる電槽・ふたなどを焼損する恐れがある。
   A 電解液が不足の場合
     規定液面の最低液面線(LOWER LEVEL)以下に低下した状態の場合、極板が空気中に露出しその部分が白色硬化して性能低下をきたすばかりでなく、充電しても性能の回復が困難でバッテリーの寿命が短くなる。電解液面が最低液面線(LOWER LEVEL)以下に低下した状態で使用を続けるとバッテリー内部の部位の劣化が促進され劣化部分が火点となり発生するガスに引火爆発する原因となる。
 ・電解液の凍結
   電解液は、その比重に対応した温度以下になると凍結をはじめる。電解液が凍結すると体積膨張を起すため、極板活物質崩壊による性能劣化や電槽の破損を起す。これは電解液比重低下(充電不足)状態での放置によるものである。特に寒冷地では、バッテリーは常に電解液比重1.240以上に保つことが必要である。
 ・充電不足
   バッテリーを長期間充電不足のままで使用(車両のオルタネーター故障や端子の締付け不足に起因)したり、長期間放置(車両の長期不使用)したりすると、極板には充電しても元に戻りがたい白色の結晶を生じ次第にその結晶が大きくなる。これをサルフェーションといい性能低下を起すばかりでなく、この結晶がセパレーターの細孔内に成長すると貫通、ショートにより寿命になって電圧降下が促進される。充電不足のまま放置すると、バッテリーが十分に機能しないため冬場には始動不良を起したり、電解液の凍結を生じたりする。
 ・過充電(過大電流充電含む)
   バッテリーの電解液が異常減少(電解液面の低下)したり補水を頻繁に必要とする場合には、過充電(過大電流充電含む)されていることが考えられる。これは車両のオルタネーター故障や充電器によるものである。過充電による過剰な電気量は、電解液中の水の電気分解により酸素・水素ガスの発生を促進しプラス極板表面からは酸素ガス、マイナス極板表面からは水素ガスを放出する。このためプラス極板の活物質の脱落やプラス極板の格子腐食を助長して極板を劣化させる。さらに電解液比重が高く(濃縮)なるため、セパレーターの酸化劣化やマイナス極板活物質を粗い砂状に変えることにより、バッテリーの性能劣化を促進する。過充電されたバッテリーは、電解液面が低下するばかりでなくガス発生の増大により異臭を伴った酸霧が液口栓の排気孔から飛散したり、電解液面の上昇により液があふれたりして、取付金具などの金属類の腐食および液リークによる焼損の原因となる。過充電が長時間にわたると、バッテリーが過熱され電槽・ふた・液口栓の変形や変色の原因となる。
 ・大電流放電
   プラス端子とマイナス端子との金属工具などによるショート、車両の燃料切れなどによるエンジン始動の繰返し、ブースターケーブルの間違った取扱いで、バッテリーを大電流(定格容量の10倍以上)で放電させると内部の接続部品が溶断破損する。外観では判りにくいが、ショートの場合には端子にスパーク痕が残ったりする。接続部品が溶断破損した場合には、電圧が12V前後であっても電流が殆ど流せなくなる。
 ・付着物による損傷
 バッテリー端子に接続ケーブルを取付けた後、端子にグリースを塗布すると錆止めに効果的である。しかし、それ以外の部分に油脂、ガソリンなどの有機溶剤が付着するとバッテリーが損傷する恐れがある。電槽やふたや液口栓に亀裂、膨潤軟化、変形、変色が生じたり、液口栓に取付られているゴム製部品が変形、膨れたりする。また、液口栓の排気孔のつまりやコーションラベルのはがれ、変色の原因ともなる

6.4 バッテリーの不具合が起きた時の技術サービス
   バッテリーの不具合で販売店に持ち込まれた場合、バッテリーの使用可否の判定を行い使用可能であれば充電をしてユーザに返却する。調査結果によってはバッテリーの交換を行う。
   バッテリーの故障は、その多くが日常点検や手入れ不十分によるもの、あるいは車両の電気系統の不具合によるものである。故障原因が、バッテリー自身なのかどうか十分に調査する必要がある。
   車両の使用条件(電気負荷の使いすぎ、充放電のアンバランス、車両の長期放置)などによってバッテリーが故障したと考えられる場合には、正しい使用方法を指導する必要がある。

6.5 バッテリー使用可否の判定
   バッテリーが継続して使用できるかどうかを判定するには、外観、液面、充電、放電などの点検を行う必要があるが、特に充電点検は重要である。使用後ごく短期間で発生する始動不良は単なる放電による場合が多く、充電することによってほとんどのものは回復することが実証されている。従って、使用可否の判定にあったては充電することが必要である。
 ・外観点検
   電槽やふたに亀裂や変形が生じていないか調べること。電槽が著しく変形している場合には、過大充電電流による過熱や、バッテリーの締付けが強すぎることが原因である。電槽が変形している場合には、バッテリー内部においても何らかの損傷が及んでいると考えられるため、新品と取替えることが望ましい。
 ・比重の点検
   比重計で比重を測定すること。比重が1.030(20℃)以下の場合は、サルフェーションの疑いがある。従って、充電による充電点検が必要である。尚、比重測定できないほど液面が短期間に低下している場合は、充電系統の故障と考えられるので車両側も点検する必要がある。
 ・充電による点検
   充電による点検は、充電開始前に精製水で液面調整し、普通充電電流でバッテリーが完全に充電されるまでの経過状態により行う。下表はその概要を示す。
   (1)電圧
   @ 充電初期に極端に電源電圧を上げないと、電流が流れないようなことはないか?
      サルフェーションの場合によく見られる現象である。この時18V以上のかなり高い電圧を加えると、電流が流れ始めることがある。この場合は充電を十分に行えば一応使用できるが、長期間の使用に耐えることは期待できない。
   A 充電終期の電圧が15V以上あるか?
      充電中の電圧は、十分にガス発生している状態で15V以上あるのが普通である。電圧が15Vを下回る場合は使用不適当なことが多く、内部劣化の疑いがある。
   (2)比重
   @ 比重が十分上昇するかどうか?
      完全に充電しても比重が1.240(20℃)以上に上昇しない場合は、極板がサルフェーションまたはショートを起している疑いがある。
   A 比重のバラツキがあるか?
      充電終期の各セルの比重差が0.04以上、あるいは特定セルが極端に低い場合はショート、液漏れの疑いがある。
   B 電解液温度
      充電中に、電解液温度が異常に上昇することはないか?
      充電中に液温が異常に上昇する場合は、一般にプラス極活物質の脱落が多いことによる極板底部及び側部でのショートの恐れが多く、寿命終期によく見受けられる。
   C ガッシング
      充電終期において、ガス発生が非常に少ない場合にはショートを起している疑いがある。このような状態では一般に比重は低い。
  
 
充電時の点検事項とその状態(概要)
点検事項 状  態 原  因(推定) 使用の可否
充電開始直後の電圧
(常温)
端子電圧15.0V以上 サルフェーション 要精密点検
充電開始30分目の電圧
(常温)
端子電圧12.6V以下 ショート
サルフェーション
不  可
充電中の電解液、端子
などの温度
特に上昇の著しいもの 電解液の場合はショート、
サルフェーション
端子の場合は溶接不良など
不  可
充電終期のガス発生 各セルほぼ同様に発生 良  好
特定セルが遅れる ショート 不  可
充電終期の電圧
(常温)
端子電圧15.0V以上 良  好
端子電圧15.0V未満
特定セルがガッシングしない
特定セルの比重が低い(0.04以上)
ショート、不純物混入 不  可
充電終期の比重
(20℃)
1.270以上 良  好
各セル比重差が0.04以上 ショート、液面調整の誤り 不  可
特定セルの比重が低い(0.04以上) 液漏れ、あふれなど電解液の逸失 要精密点検
ショート 不  可
 ・放電試験
   バッテリーテスタは較的大きな電流で数秒間放電させた時のバッテリーの端子電圧を電圧計で表示する構造になており、良否の判定を色、またはデジタル数値によって表示している。一般的なバッテリーテスタの表示(放電5秒目の指示色)を下表に示す。
 
バッテリーテスタの指示と判定例
バッテリーテスタの指示 バッテリーの
始動性能
充 電 の 要 否
緑または青 良好
  • そのまま使用可能
要注意
  • 性能が不足しているので、エンジンが始動し難い場合もある
  • 充電をして再点検のこと
性能低下交換
  • 直ちに充電すること
  • 完全に充電を行っても再び赤の範囲を示す時は、接続部の接触不良か、あるいはバッテリーがショート、サルフェーション、寿命などであるから取替えのこと。

6.6 内部故障の状態
   外観点検、比重点検、充電点検、放電試験などで明らかに内部不良と判断されたものに対して、さらにその原因がどこにあるかを調べたい場合に解体調査をすることがある。しかし、解体は作業が複雑で危険を伴うので通常はメーカーが行うものである。参考までに解体により明らかになる内部故障状態の代表例を下表に示す。
 
内部故障の状態の代表例(概要)
部品 状況 現象 原因
極板 サルフェーション
(極板白変、
不還元性白色
硫酸鉛の生成)
  • 極板が白色をおびている
  • 電解液比重が低い
  • 放電中の電圧が低い
  • 放電中の電圧が高い
  • 充電しても回復しない
  • 長期の放置(保管中に充電を行わなかった)
  • 車両のオルタネーターによって十分に充電されなかった
  • 液切れ
マイナス極板の収縮
  • 性能低下
  • 活物質の硬化
  • 過充電
  • 高温使用
プラス極板格子
の腐食
プラス極板格子の内部まで黒褐色でボロボロとくずれる
  • 過充電
  • 電解液比重の高過ぎ
  • 高温での充放電
  • 不純物の混入(塩酸、硝酸、海水、有機酸など)
活物質の脱落
  • 性能低下
  • ショート
  • 過充電、過放電
  • 電解液比重の高過ぎ
  • 高温での充放電
  • 過大電流による充電
  • 逆充電
  • 振動大
  • 深い放電の繰り返し
ショート
  • 特定セルの比重が低い
  • 充電して放置した時比重低下が早い
  • 極板群の湾曲、格子の伸び腐食またはセパレータの破損によるプラスマイナス極板のショート
  • 極板から脱落した活物質が極板側部または上下部堆積しショート
セパレータ セパレータのずれ・破損
セパレータ細孔内への活物質の浸透
  • ショート
  • 過放電
  • 振動大
  • 長期間の放電
  • 電解液比重の高過ぎ
  • 周囲温度の高過ぎ
  • 高温での充放
接続部品 接続部品の腐食・折損・溶解
  • 始動不良
  • 不純物の混入(塩酸、硝酸、海水、有機酸など)
  • 過大電流放電、振動大
  • 高温での充放電
  • 液不足使用
 ・極板群
   (1)ショートは、プラス・マイナス極板から脱落した活物質が極板群下部や側部に付着していたり、セパレータに鉛が浸透し貫通していたりすることもある。
   (2)使用中に異物が混入してセパレータの縁をまたがってプラス・マイナス極板でショートしたり、セパレータを破って貫通していたりすることがある。
   (3)極板群の湾曲や格子の伸び腐食によって、プラス・マイナス極板やストラップ部でショートしたりすることがある。
 ・プラス極板
   長期間正常に使用した場合は、極板の活物質が微細化し脱落するのが普通である。
   (1)極板格子の腐食
     長期間過充電された場合は、格子は腐食されて非常に脆くなり、ついには使用不可能となる。
   (2)極板活物質の著しい脱落
     バッテリーの取付が緩くてバッテリーの振動が激しい場合にも生じる。この場合、格子には伸び腐食が見られないから過充電とは区別できる。
   (3)極板格子の伸び、破断
     極板の外枠が伸びたり、破断する場合がある。これは正常な場合でも起こりうるが、特に使用状態が異常で、過充電による場合や極板の一部しか充放電にかかわっていない場合に多く見受けられる。
   (4)変色
     電解液が減少し、電解液面低下により極板が空気中に長時間露出した場合には、液中に浸っていない部分は他の部分に比べこげ茶色が薄いか白色となり、液面の上下ではっきりと色分けされる。このように長時間空気中に露出した極板は、回復させることができない。
 ・マイナス極板
   良好な充電状態のマイナス極活物質は海綿状鉛で、普通灰色をしており、硬い平らなものでこすると、金属光沢を生じ、爪で十分傷つく程度の軟らかさを持っている。
   (1)砂状化
     高比重、高温の場合に生じ易く、特に比重が1.300以上では著しく砂状のざらざらしたものになり性能が低下する。砂状化が著しい場合には活物質の脱落につながる。
   (2)サルフェーション
     プラス極と同様に充電不足のまま放置したり、電解液面が低下して極板が空気中に露出したまま放置された場合などに生じる。
   (3)変色
     極板表面をこすれば除くことができる程度の付着物は、主にバッテリーの中に混入した金属不純物により生じる。また白変は(2)項の原因によるサルフェーションである。
   (4)収縮・硬化
     バッテリーを過充電状態で長く使用した場合はマイナス極活物質は収縮して、亀裂か格子との間に隙間を生じたり、あるいは硬化したりする。この場合は砂状化と異なり、活物質にざらざらした感じは」ないが、性能低下が大きい。
 ・セパレータ
   (1)セパレータの貫通
     極板が劣化し、格子が折損した場合、セパレータを突き破り、ショートすることがある。また、過放電などで電解液比重が非常に低い状態でバッテリーが放置された場合、電解液中に極板などの硫酸鉛が溶出して充電中にセパレータの微孔中に鉛が浸透、折出し貫通ショートの原因となることがある。
   (2)セパレータ・ガラスマットのずれ
     バッテリーの取付が悪くて、バッテリーの受ける振動が激しい場合や、極板群の圧迫度が不足している場合はセパレータ・ガラスマットが浮き上がったり、ガラスマットがずれ落ちたり、あるいはセパレータの下端がくらと擦れ合ってU字形に磨耗したりする。
 ・接続部品
   接続部品の腐食は不純物の存在のほか、高温下における過度の充放電使用や電解液面が最低液面線(LOWER LEVEL)以下に低下した状態で使用を続けた場合などに生じる。溶断は外部でのショートなどによる過大電流または、端子の締付不良による発熱などによって生じる場合が多い。また折損は外部より加えられる過大な力あるいは、振動によって生じるもので何れも取扱不良である。なお、接続部品不良によって生じる場合もある。
 


下記の『バッテリーの知識』については社団法人・電池工業会の資料から構成したものです。

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