バッテリーの知識 (社)電池工業会 資料より | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
1.バッテリーの構造 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
1.1 バッテリーとは・・・ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
蓄電池(バッテリー)とは2種類のことなった電極と電解液などから構成されており、その持っている化学的エネルギーを、電気的エネルギーとして取り出すことができ、また逆に外部から電気的エネルギーを与えると、元の形の化学的エネルギーとして蓄えることができる装置である。 |
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1.2 バッテリーの構造 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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バッテリーには構成物の相違によって、種々の種類があるが、自動車用バッテリーにはペースト式鉛バッテリーが使用されている。自動車用バッテリーの重要な役割は、エンジン始動時のスタータに電力を供給することである。エンジン回転中には発電機(オルタネーター)によって定電圧で電力が供給されバッテリーも定電圧で浮動充電されるシステムになっている。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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正極板および負極板は上図に示すような鉛合金製格子の空間に、鉛粉や酸化鉛を希硫酸で練って作ったペーストを充てんして、乾燥、化成などの工程を経て、正極板は二酸化鉛、負極板は海綿状鉛を活物質としたものである。格子は活物質を保持して、脱落を防止することと、外部と活物質の間の電気伝導の役目をはたすもので、機械的強度があり、硫酸に対する耐食性が大きく、かつ電導性のよいことが必要である。 一般に格子はアンチモンまたはカルシウムなどを添加した鉛合金であり、添加金属は鉛を固く、強くし、かつ格子の製造を容易にするために用いられる。正極板の活物質である二酸化鉛は、こげ茶色の結晶性微粒子集合体で、多孔性に富み、粒子間を電解液の拡散浸透が自由にできるように製造されているこの活物質は粒子間の結合力が比較的乏しいので、使用年月の経過につれて、結晶性粒子が破壊されて微細化し、最後には極板から脱落して、バッテリーの寿命がつきる原因となることが多い。 負極板の活物質である海綿状鉛は、灰色で多孔性と反応性に富み結合力が強いため、正極板の二酸化鉛のような脱落は少ないが、使用年月が長くなると、結晶が成長して極板の多孔度を減少させ、寿命がつきることが多い。これを防止するために、膨張剤を活物質に添加し、寿命の延長をはかっている。セパレーター(隔離板)は正極板と負極板の間に挿入され両極板のショート(短絡)を防止するために使用される。両極板がショートすれば、バッテリーは蓄えた電気的エネルギーを短時間に失い、電流を取り出すことができなくなる。 |
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セパレータの必要条件は、非電導性で多孔性に富み、電解液の拡散が自由に行われ(電気抵抗が低く)、機械的にも丈夫で酸にも耐え、極板に悪影響をおよぼすような物質を溶出いないことである。このような条件を満足するものとして、合成樹脂セパレータが使用されている。セパレータには平板状のもの、袋状のものなどがある。これらのセパレータは、ガラスマットを併用して使う場合と、ガラスマットを使用しない場合とがある。ガラスマットは非常に細いガラス繊維を縦横に交差させフェルト状にしたもので、これを正極板とセパレータの間に配し正極板を加圧することにより、活物質の脱落を防止する役目をする。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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極板群は正極板、負極板およびセパレータの必要な枚数を重ね合わせ、極柱付ストラップに溶接したものである。セル(単電池)は1個の極板群より構成されたバッテリーで、その開路電圧は極板の大きさや枚数に関係なく、約 2.1Vである。自動車用の12Vバッテリーは、セルを6個直列に接続している。 電槽は合成樹脂で上図のように一体に成型され、12Vバッテリーでは六つのセルに区画されている。一般に電槽の各セル底部には「くら」があり、正極板、負極板の足部が別々の「くら」に乗るようになっている。くらの役目は極板群を支えるとともに、極板から脱落した活物質の沈殿、堆積によるショートを防止することである。ふたは主として合成樹脂の一枚ぶたで、接着剤または溶着により電槽の完全に接着させ、機密を保つようにしている。このふたには、希硫酸、精製水の注入あるいは電解液の密度(比重)*1、温度の計測のための液口がある。この液口から電解液が漏れたり、ごみが入らないように合成樹脂の液口栓がしてある。この栓の上部または測部には排気孔(細孔)があり、バッテリー内部から発生する水素ガスおよび酸素ガスを放出するようになっている。 |
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*1:電解液の密度を『比重』とも呼ぶが、正しくは密度である。しかし従来からバッテリーに関しては比重という呼び方が一般的であり、判り易いため、ここでは以下、『比重』と言う。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
各セルは鉛合金で直列に接続されている。接合部の太さは、大きなエンジン始動電流が流れても、電圧の降下が少ないように設計されている。バッテリーに使用される電解液は硫酸と水を混合した無色・無臭の希硫酸で、いずれも純度の高いものを使用する。電解液は正極板の二酸化鉛、負極板の海綿状鉛と反応して、流れ込んだ電流を蓄えたり、電気を発生させる作用を行うばかりでなく、セル内部の電流の伝導を行う。電解液の比重は、一般に完全充電時に電解液温度20℃において1.280±0.010のもが使用されている。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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なお、希硫酸(硫酸濃度10%を超えるもの)は毒物劇物取締法で劇物に指定されており、その取扱には十分な注意が必要である。バッテリー用希硫酸は化学的に純粋なものでなければならない。純度の低いものを用いると、正極板の腐食作用を早め、あるいは自己放電を大きくして寿命を短くする。したがって、最初に用いる電解液はもちろんのこと、使用中の電解液にも、他から不純物の入らぬよう注意しなければならない。バッテリー用希硫酸は日本工業規格(JIS K 1321)に規定されている精製希硫酸を用いる。なお、希釈、補水などに用いる精製水は(社)電池工業会規格(SBA S0404)で規定された蓄電池用精製水による。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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温度が著しく低下すると希硫酸は氷結するが、その氷結は硫酸の比重によってことなる。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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比重約1.290のものが一番氷結しにくい。その氷結は−75℃付近であるが、それより高くても低くても氷結しやすくなり、その氷点は高くなる。バッテリーの完全充電時の電解液比重は1.280(20℃)であるから氷結しにくいが、放電して比重が1.100(20℃)くらいに低下すると、その氷点は−10℃前後となり、氷結しやすくなる。電解液の氷結はバッテリーを破損するから、バッテリーを放電したまま放置しないで、必ず完全に充電しておくことが必要である。 |
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2.バッテリーの種類 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2.1 バッテリーの形式とは・・・ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
JIS(JIS D 5301 始動用鉛蓄電池)による形式の表示法では、バッテりーの性能と寸法などがわかるようになっている。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
[形式の意味]
@: 55 の意味⇒ 性能ランク A: D の意味⇒ 幅X箱高さの区分
B: 23 の意味⇒ 長さ寸法(cm)の概数 C: L の意味⇒ 端子の位置
ドイツDIN規格バッテリーの形式の表し方
@: 5 の意味⇒ バッテリーの種類
A: 63 の意味⇒ 20時間率容量を表示 B: 18 の意味⇒ 登録番号 仕様の違いにより連番で取られる(サイズ・端子位置・排気構造等の違い) 米国SAE規格バッテリーの形式の表し方 米国のバッテリーの形式は、SAE規格で基本が決められており、実用的にはそれを展開した形の SAEとは Society of Automotive
Engineers の略(米国自動車技術委員会) |
2.2 バッテリーの供給形態による種類 | |
バッテリーは電解液の有無および極板の状態などにより、「液入充電済バッテリー」、電解液を注入してから使用する「即用式バッテリー」の2種類がある。液入充電済バッテリーは、いつでも使用できるように、初充電を完了しているものである。液入充電済バッテリーは、放置中に必ず自己放電をするので、容量が減少し電解液の比重が低下する。また蒸発のため液量も減少する。従って長期間放置した場合は、バッテリーが十分働かなかったり、また極板が劣化し寿命に影響を与える恐れがあるので必ず定期的に(2〜3ヶ月毎)充電を行って使用開始することが望ましい即用式バッテリーは電解液を注入して使用できるものであるが、電解液注入後に充電を行い使用開始することが望ましい。このバッテリーでは、完全充電状態にある正負両極板が特別な方法により酸化しないように乾燥して組み立てられ、注液時まで極板が外気に触れて酸化しないよう液口部がシールなどで密閉されたものである。従って使用開始のために電解液を注入するまでは、絶対に密閉部を開かないように注意しなければならない。使用に際しては、まず液口栓を外すと同時に、その排気部分の密閉部(シールなど)を必ず開封すること。注入する希硫酸は、そのバッテリーの完全充電時と同じ比重のものとする。 |
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2.3 使用中の特性 形態による種類 | |
バッテリーは極板格子体の合金およびそれに応じて決まる特性、形態により分類される。 |
自動車用 バッテリー |
アンチモンバッテリー | |
ハイブリッドバッテリー | ||
カルシウムバッテリー | ベント形(液口栓付) | |
シール形(制御弁式) |
自動車用バッテリーでは、アンチモン含有量を極力少なくしたり、アンチモンの代わりに微量のカルシウムを添加した鉛合金の格子が極板に使用されている。これらの極板の組合わせおよび極板群構成により、いろいろの種類がある。 |
. | アンチモン バッテリー |
ハイブリッド バッテリー |
カルシウム バッテリー |
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格子合金 の種類 |
正極 | 鉛−アンチモン | 鉛−アンチモン | 鉛−カルシウム |
負極 | 鉛−アンチモン | 鉛−カルシウム | 鉛−カルシウム |
・アンチモンバッテリー | |
正極板、負極板ともに、格子にアンチモンを含有した鉛合金が使用されているバッテリーである。格子合金中のアンチモンは機械的強度を増すなどの効果がある反面、バッテリー使用中の減液や自己放電の大きな原因ともなる。従って、使用中の定期的な補水の実施および長期放置の場合は定期的な充電が必要 | |
・ハイブリッドバッテリー | |
正極板と負極板とで異なる鉛合金の格子が使用されているバッテリーの総称であるが、正極板に鉛−アンチモン合金格子、負極板に鉛−カルシウム合金格子が使用されているハイブリッドバッテリーが一般的に用いられている。 | |
・カルシウムバッテリー | |
正極板、負極板とも鉛−カルシウム合金の格子が使用されているバッテリーである。このバッテリーは、自己放電および減液特性が良好である。 | |
・シール形バッテリー(制御弁式バッテリー) | |
このバッテリーは鉛−カルシウム合金の格子を使用した正負両極板、特殊セパレーター、極板とセパレータをうるおす程度に注入した電解液を有し、シール構造としたものである。このバッテリーでは、内部で発生したガスが極板に吸収されるため、原理的に使用中の電解液減少がなく、補水不要である。 自動車バッテリーとしては、通常の液式であるベント形(液口栓付)が主流であるが、保守が出来ない場所に搭載されるなどの場合には、このシール形が使用されることが多い。 |
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3.バッテリーの反応 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
3.1 バッテリーの化学反応 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
バッテリーの放電時の化学変化は、正極活物質の二酸化鉛(PbO2)が硫酸鉛(PbSO4)に変わり、負極活物質の海綿状鉛(Pb)も硫酸鉛(PbsO4)に変わる。そして、電解液中の硫酸(H2SO4)が水(H2O)になっていくためため、電解液比重は放電に伴って低下する。充電時の化学反応は、この逆である。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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3.2 バッテリーの起電力 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
バッテリーの起電力はセル(単電池)あたり約2.1Vであり、電解液の比重および温度によって多少異なるが、容量の大きさには無関係である。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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3.3 放 電 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
バッテリーから電気的エネルギーを取り出すことを放電といい、反対に外部の電源から電気的エネルギーを加えて、元の状態に回復させることを充電という。バッテリーを放電すると(たとえば点灯した場合)電解液中の硫酸は正極板、負極板の活物質と反応して、硫酸鉛と呼ばれる化合物を作る。従って放電が進むにつれて、硫酸の消費量が増加し、電解液中の硫酸分が少なくなり、濃度が低くなる。消費される硫酸の量はバッテリーから取り出された電気量に正比例する。硫酸が極板の活物質と反応して消費されるとバッテリー電圧が降下して、電流を取り出すことができなくなる。このように放電するにつれて、電解液濃度が降下していく現象を利用して比重計を使用することにより、バッテリー中に残存する電気量を推定することができる。 |
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3.4 充 電 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
放電したバッテリーに外部の電源から、電流を送り込むと、正極板、負極板の硫酸鉛が分解されて硫酸は極板をはなれて電解液中に戻り、元の濃度になる。同時に極板の活物質も元の状態に戻り、再び電流を取り出すことができるようになる。充電が進んでバッテリーが完全充電状態に近づくと、負極板から水素ガス、正極板から酸素ガスが発生する。これらのガスは爆発性を有するので、バッテリーに火気を近づけたりショートやスパークをさせてはならない。 |
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3.5 電解液と比重変化 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
比重1,280とは、その重さが水の1.280倍あることである。バッテリーを放電すると電解液中の硫酸分は極板の活物質と反応し、硫酸鉛となるために、電解液の比重は低下する。電解液の比重は吸込比重計などを使用して測定する。吸込比重計はゴムの握りのついたガラス筒などのスポイトの中に比重目盛を施したガラス製の比重(浮き子)が入っている。スポイトで電解液を吸い上げると、液中に浮沈する比重計(浮き子)の液界面の目盛が比重を示す。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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上図は比重目盛の正しい見方を示したもので、目の位置をスポイト内の液面と平行に置き、表面張力で盛り上がった液面の目盛を読まなければならない。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
比重と充電状態 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
吸込比重計で電解液の比重を測り、その値によってバッテリーの充電状態を推測することができると述べたが、正確をきするには電解液面が規定の高さになっていること、補水した場合は充電して電解液をよく攪拌してから測定する必要がある。表に充電状態と電解液比重(20℃)との関係を一般的なバッテリーについて求めた一例である。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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温度補正 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
比重計で測定した比重は温度補正しなければならない。この比重値は温度が変わると異なった値を示し、温度が高いと低く、温度が低いと高くなる。これは温度が高いと電解液容量が増加し、冷えると減少するからである。一般にバッテリーの電解液比重は温度20℃を標準として用い、変化の割合は温度1℃の上昇に対し比重は0.0007低下し、温度1℃の降下に対し比重は0.0007上昇する。ある温度で測った比重を標準温度20℃における比重に換算するには、次式を用いる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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例1は夏期の場合で、測定比重値から見ると10%位放電した状態と考えられたが、標準温度に換算すると実際は完全充電状態に近い状態となっている。 例2は冬場の場合で、測定した比重を見ると完全に充電されているようであるが、実際は90%程度の充電状態である。 |
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4.バッテリーの諸特性 | ||||||||||||||||||||||
4.1 バッテリーの規格 | ||||||||||||||||||||||
バッテリーの容量、高率放電、充電受入、寿命などの試験方法は、JIS規格(JIS D 5301始動用鉛蓄電池)に詳細に規定されている。また、関連する外国のバッテリー規格として米国のSAE規格、ドイツのDIN規格などがある。下記の表は、容量・高率放電性能試験の概要について規格別に示したものである。 | ||||||||||||||||||||||
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4.2 放電特性 | ||||||||||||||||||||||
バッテリーの容量 | ||||||||||||||||||||||
バッテリーの容量とは、完全充電されたバッテリーの端子電圧が所定の放電終止電圧になるまで放電する間に取り出すことの出来る電気量で決められている。バッテリーの容量を示すとき、放電率または放電電流を明示する必要がある。放電率は放電電流の大きさを示すもので、バッテリーの容量は取り出す電流の大きさによって大きく変わるためである。 | ||||||||||||||||||||||
(1) 5時間率容量 | ||||||||||||||||||||||
日本の自動車用バッテリーでは5時間率容量が使われている。これは完全に充電したバッテリーを電解液温度25±2℃に保持し、5時間率容量の1/5の一定電流(5時間率電流)で電圧が10.5Vに降下するまで放電したときの容量である。 | ||||||||||||||||||||||
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たとえば、12V120アンペア・アワー(Ah)のバッテリーは24A(=120Ah÷5h)の電流で放電し、電圧が10.5Vに降下するまで行う。その放電時間(h)と放電電流(Ah)の積を容量(Ah)と称し、この場合の容量を5時間率容量(Ah/5HR)といい(定格容量ともいう)放電を打ち切る電圧を放電終止電圧という。 | ||||||||||||||||||||||
下図は5時間率放電電流で、電圧が10.5Vまで放電した場合の特性図の一例である。 | ||||||||||||||||||||||
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(2) リザーブキャパシティ [RC] | ||||||||||||||||||||||
5時間率容量はバッテリーの放電容量を知るためには適切な方法であるが、自動車の充電系統が故障した場合、電気負荷へはバッテリーから必要な電力が供給される。そのための必要容量の基準についてはリザーブキャパシティという試験方法があり次の方法で評価する。 | ||||||||||||||||||||||
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上記の条件でバッテリーを放電した場合、端子電圧が10.5Vに達する迄の時間を測定する。この持続時間を(分)で表した値をリザーブキャパシティと称している。即ちバッテリーの大きさに関係なく25℃で25Aの一定の電流で放電した場合の放電時間を(分)で表したのがリザーブキャパシティである。 | ||||||||||||||||||||||
放電率と容量 | ||||||||||||||||||||||
バッテリーから取り出しうる容量は、放電電流の大きさによって変化する。すなわち放電電流が大きいほど取り出せる電気量(容量)が小さく、放電電流が小さいほど取り出せる電気量(容量)が大きくなる。その理由は、放電電流が大きくなるほど電解液の拡散(放電の進行に併う化学反応)が追いつかなくなるためで、極板活性物質細孔内での硫酸の量が減少するためである。下図は放電率と容量の関係を示した図である | ||||||||||||||||||||||
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温度と容量 | ||||||||||||||||||||||
バッテリーの容量は、電解液温度によって大きく変化する。その変化の状態は、下図に示すとおり温度が下がると容量は小さくなる。従って容量を表示するときは、その温度を明示しなければならない。 | ||||||||||||||||||||||
バッテリーの容量は、25℃を基準とする。 | ||||||||||||||||||||||
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始動性能 | ||||||||||||||||||||||
バッテリーのエンジン始動能力は、エンジンをスタータで、始動する際の大電流に相当する電流でバッテリーを放電させたとき、どれだけ高い放電電圧を維持できるかによって評価される。エンジンを始動させるときにバッテリーからスタータに流れる電流は、エンジンの排気量、回転速度などにより異なるが、普通の乗用車では常温で約100〜300A程度である。周囲温度が低くなると、潤滑油の粘度が増し、始動に要する電流もまた増加する。 | ||||||||||||||||||||||
JIS規格(JIS D 5301)では低温時の始動性能を次の項目に規定している。 | ||||||||||||||||||||||
(1) JIS規格による低温高率放電特性 | ||||||||||||||||||||||
・-15℃150A、300A、または500Aで放電した場合、5秒目(または30秒目)の電圧 ・-15℃150A、300A、または500Aで放電した場合、電圧が6Vになるまでの放電持続時間(分) |
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(2) コールドクランキング電流(CCA) | ||||||||||||||||||||||
米国のSAE規格、ドイツのDIN規格による低温始動性能 自動車バッテリーでは、エンジン始動に必要なイグニッションコイルへの電圧、スタータへの電流と電圧およびエンジンのクランキング時間が要求されている。 |
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バッテリーの状態:完全充電状態 試 験 温 度 :−18℃±1℃ |
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上記の条件で端子電圧が30秒目に7,2V(DIN規格の場合は9.0V)となるような放電電流を求める。この電流をコールドクランキング電流と称している。なお、JIS規格では、SAE規格による評価法を参考として取り入れている。 | ||||||||||||||||||||||
自己放電 | ||||||||||||||||||||||
バッテリーは電解液が入った状態で外部回路につないで放電させなくても、時間の経過と共に徐々に電気エネルギーが失われていく。この現象を自己放電といいバッテリーの種類によってその値は違うが、25℃で1日あたり0.1〜0.3%である。一般に電解液の比重濃度および温度が高いほど、化学反応などにより自己放電量は大きくなる。 | ||||||||||||||||||||||
下図はバッテリーの種類による、25℃における放置期間と自己放電との関係例である。 | ||||||||||||||||||||||
![]() 系列1:カルシウムバッテリー 系列2:ハイブリッドバッテリー 系列3:アンチモンバッテリー |
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4.3 充電特性 | ||||||||||||||||||||||
放電したバッテリーを定電流充電したとき、端子電圧・電解液比重および液温などの時間と共に変化する様子を充電特性という。 | ||||||||||||||||||||||
(1)充電中における端子電圧の変化 | ||||||||||||||||||||||
最初は急に上昇し、その後は緩やかに上昇を続け、電圧が約14.4V(セル当たり約2.4V)に達する頃から再び急激に上昇、15〜17V(セル当たり約2.5〜2.8V)に達して一定値を維持する。 a.充電電流が大きいと電圧は高い値を示す。 b.電解液温度か高いと電圧は低い値を示す。 c.電解液比重が高いと電圧は高い値を示す。 |
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(2)充電中における電解液比重の変化 | ||||||||||||||||||||||
充電中の比重はガス発生の始まるまでは、電解液の攪拌が行われないので、その上昇は緩やかであるが ガス発生が始まると急激に上昇し、充電終期には最高値に達してその後は一定値を維持する。 | ||||||||||||||||||||||
(3)充電中のガス発生 | ||||||||||||||||||||||
電圧が約14.4V(セル当たり約2.4V)に達する頃からガス発生が盛んになり、充電終期が近づくに従って増加し、完全充電状態に達した後は、供給電力の殆どが水の電気分解(ガスの発生)に消費されるため充電電流に相当するガスを発生し続ける。このようにガス発生の遅速、発生状態は充電を判定する上で重要なばかりでなく、内部ショートなどの故障発見の重要なチェックポイントである。 | ||||||||||||||||||||||
4.4 バッテリーの寿命 | ||||||||||||||||||||||
液入り充電済バッテリーは、保管・放置など使わなくても経年劣化を伴い、容量が徐々に低下し寿命が進行する。JIS規格では、寿命終期のとりかたの基準としてある特定の条件のもとで充放電を行い、そのバ ッテリーの定格容量に対して、ある割合以下に低下するまでの充放電回数(サイクル)で判定している。 しかし、同じバッテリーでも使用条件、使用環境、メンテナンス(日常点検)、車両側の充電装置、取付け場所などの要因によって寿命は異なるので、簡単に言えないが、乗用車の寿命では、2〜3年のものが多い。 | ||||||||||||||||||||||
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5.バッテリーの充電のしかた | |
車輌の正常な使用条件のもとでは、走行によってバッテリーは充電され常に充電状態に保たれるよう設計されている。しかし、車両を長期間使用しなかったり、バッテリーが長期間放置されたり、ライトの消し忘れなどでバッテリーが放電してエンジン始動が困難な状態になる。このような場合には、充電器を使用しバッテリーの充電が必要である。バッテリーの充電には直流を通電し、充電器の電圧、電流の調整方法により普通充電と急速充電とがある。 | |
5.1 普通充電 | |
・定電流充電法 | |
5時間率容量の1/10の電流で充電を行う。 | |
・定電圧充電法 | |
一定の電圧をバッテリーに与えて充電するもので、車両の充電系(オルタネータとレギュレータ)による充電もこれに相当し、電流制限定電圧方式になっている。充電初期にはバッテリーの放電状態に応じて制限限度の大きな充電電流が流れ、充電進行に伴ってバッテリーの端子電圧が一定電圧に達すると、充電電流は減少して設定電圧と温度条件に見合った浮動充電電流となる。この充電方法はガス発生が抑えられて電解液中の水分解が起こりにくく、比較的短時間に効率よくバッテリーが充電できる長所あある。しかし、初期に大きな充電電流が流れるため、これに応じた大容量の充電器が必要であり自動車用および産業用バッテリーなどに採用されている。また、ガス発生が抑えられ電解液比重を均一に調整するため、ガス発生による電解液攪拌のために定電流充電法を併用する必要がある。 | |
・準定電圧充電法 | |
定電圧充電の変形で、一般の充電器ではこの充電方式が広く採用されている。放電しているバッテリーでは、初期に大きな充電電流が流れて端子電圧が上昇し、これが電圧ドロップ(抵抗)となってバッテリーへの充電電圧を制御している。充電の進行に伴ってバッテリーの端子電圧も徐々に上昇し、充電電流も減少していく。 | |
・急速充電法 | |
深い放電状態にあるバッテリーを応急的に短時間でエンジン始動可能な程度にするため、大きな電流(5時間率容量の値以下)で充電してその放電量の幾分かを補うものが急速充電である。この充電方法は、バッテリーを完全充電するものではない。急速充電は大電流で充電するため、電解液温度が上昇する、ガス発生が多い、充電効率が良くないなどの短所がある。従って、長期間放置されたようなバッテリーの充電には適当ではない。充電時間は30分以内とし、電解液温度は55℃を超えないようにする必要がある。これを超えるとバッテリーが劣化して、寿命が短くなるなどの悪影響が出てくる。 |
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5.2 充電の方法と特性 | |
・初充電 | |
バッテリーに電解液注入後、最初に充電するものを初充電という。初充電は通常メーカーで行い、液入り充電済バッテリーとして販売されている。即用式バッテリーは、電解液を注液し充電して使用するものである。即用式バッテリーでは保管経歴(保管温度、密封状態、液口栓の締付け状態など)により充電に要する時間は大幅に変わり、一般に保管期間6ヶ月までの場合、規定充電電流で3〜5時間程度である即用式バッテリーでは電解液が入っていない。電解液の注入は、バッテリーを水平な場所に置き液口栓を取外し、添付された電解液比重1.280(20℃)の希硫酸を1セルずつ最高液面線(UPPER LEVEL)またはふたの液口下端の液面指示装置先端まで入れる。注入する電解液の温度は、15〜35℃の範囲とすること。約30分経過すると液面が低下するので、再度電解液を補充して充電を行う。 | |
・回復充電(充電) | |
車両のライトの消し忘れなどによる放電やバッテリーの長期放置(車両の長期不使用も含む)による自己放電で容量を失った場合には、エンジン始動が困難になる。回復充電(充電)はバッテリーの容量を回復させるために行うものである。 |
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5.3 充電器の取扱 | |
(1)充電器の選び方 | |
・充電するバッテリーの公称電圧と同じ電圧の充電器を選ぶこと。充電器に切替スイッチがある場合には、電圧設定を行う。2個のバッテリーを同時に充電する場合は、24V用の充電器を使用して直列に接続すること。 | |
(2)充電器とバッテリーとの接続手順 | |
・充電器の電源と電流調整ツマミがOFF(切)になていることを確認し、充電器のコードをコンセントに差し込む ・プラス充電クリップをバッテリーのプラス端子に、次にマイナス充電クリップをバッテリーのマイナス端子にしっかり固定すること。逆に接続すると、機器損傷やバッテリー爆発の原因となる。 ・充電器の電源をON(入)にし、次に電流調整ツマミを回して充電電流を調整する。充電終了後は電流調整ツマミをOFF(切)にし、次に充電器の電源をOFF(切)にする。 |
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(3)充電電流と充電温度の管理 | |
・充電電流はバッテリーの要項表の普通充電電流以下の値に、急速充電ではバッテリーの5時間率容量の値以下で30分以内に設定すること。 ・充電中に電液温度が45℃を超える場合は、充電電流を下げるか充電を一時停止すること。急速充電の場合、電解液温度が55℃を超える時に同様な処置を行う。 |
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(4)充電完了のめやす | |
・バッテリーの各セルからさかんにガスが発生し、充電中の端子電圧が15.0V以上、または電解液比重が1.270(20℃)以上になっている状態をいう。 | |
(5)充電後のバッテリー点検 | |
・電解液面が最高液面線(UPPER LEVEL)にあることを確認し、液口栓を緩みがないようにしっかりと締付けること。バッテリーの外観が汚れている場合には、水洗いするか湿った布で清掃する。 | |
(6)充電時の安全取扱い | |
・充電器の取扱説明書を熟読すること。取扱を誤ると、バッテリーの引火爆発の原因となる。 ・バッテリーを充電すると水素ガスが発生するので、火気を近づけず風通しの良い場所で行うこと。 ・充電器の電源がON(入)の状態で充電クリップをバッテリーに接続したり、充電中に充電クリップの取外しをしないこと。スパークにより爆発の原因となる。 ・電解液面が最低液面線(LOWER LEVEL)以下に低下した状態で充電をするとバッテリー爆発の原因となる。従って、電解液面が液面線間の半分以下に低下している場合は、充電前に精製水を最高液面線(UPPER LEVEL)まで補充し、最高液面(UPPER LEVEL)以上に入れないこと。液もれの原因となる。 ・充電時にはバッテリーの液口栓が外せるものは取外し、発生するガスが拡散しやすいようにすること。液口栓には電解液が付着しているので、皮膚や衣服に付けないこと。 ・充電直後のバッテリーは、30分以内には車両に取付けないこと。 ・やむを得ず車両に搭載したままで充電する場合は、バッテリーに接続されている車両側のマイナスケーブル端子を取外すこと。 |
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下記の『バッテリーの知識』については社団法人・電池工業会の資料から構成したものです。 <社団法人・電池工業会へのリンク> |