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■庭師は傍観す■
公爵家で庭師として仕事をこなすペールは同室の少年を探していた。
「ガイを見ていないかい?」
すれちがった衛兵に尋ねても首を横に振られる。
小用に出かけたらマルクトの菓子が手に入った、幼いガイの好んだ品。
それらと縁遠くなった彼にこっそり与えようと思ったのに、一体どこへ行ったのだろうか。
廊下を歩きながらペールは『ガイ』と少年を呼ぶことに慣れたことを苦笑した。
ちゃんとした連なりと敬称付きで呼んでやりたい。彼はペールの真の、そして唯一の主なのだから。
仇の懐であるこの邸内でそれは禁忌、それでも…ペールはかぶりをふった。
まだ幼さの残る年と言うのにガイはペールへ甘えることを決してしない。なら自分も過去への甘えを払うべきだ。
生きのこったガイが内面も強くあることを嬉しく思う。
しかしあまりに思い詰めた所があることがペールは不安であった。自由時間は道場や人目につかない場所で稽古。
睡眠は浅く、ささいな物音で起き上がる。
ガイはずっと敵陣を生きている、ぴんと張った糸のような神経を休ませることがない。
そんな生き方をさせてしまっていることを亡くなった彼の両親や彼に申し訳なくも思うのだ。
少しだけでも穏やかにいられるよう。ペールは努力してきたがあまり効果が得られないままだった。
中庭への戸を開くと陽光がペールの目にさした。
昼下がりの暖かい光。照らされて輝く金髪をペールは見つけ出す。
「おーいガイ!」
返事はない。近付いてさらに呼ぼうとして、やめた。
眠る公爵家の子息の頭を膝に抱えガイもまた深く眠り込んでいた。使用人として過ごしているのだ、このように子守り中に居眠りをしていたことが判明したら罰せられる。
しかし、ガイに穏やかな眠りが訪れたのはいつ以来だろうか。
ペールの見守る中、ガイの体は前のめりに、ルークの方へ傾いていく。
この体勢の変化で目が覚めそうなものだが、ガイはまだ深く眠りの世界に入っていた。
復讐者とその対象。こんな風に二人で和んだ時間を与えることは危険だ。
復讐を成し遂げた時、ガイが心を壊す可能性が出てくる。そもそも復讐を成すことができなくなる。
起こさねば、引き戻さねば。
どこへ?
復讐と、猜疑の道へ?
眠るガイとルークは安らかで幼い寝顔をしていた。
いつまでも、こうしては居られないだろう。
やがて決着をつけるものや出来事がおこる。それが自分ではないだけで。
ペールは二人と対角の花壇の方へ移動した。
せめて目覚めが二人を分かつまで。見守ろうか。
傾きかけて優しい日の光が、円形の中庭に注がれていた。
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めんどかったし同じお題でページ違うのも不自然なんで
絵とSS一緒にしちゃいました。一方しか見たくなかった方はスミマセン。
2006/2/28
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