いつか交差する運命へ
物心ついた故郷を離れ、アクア層での戦いに参戦したヤマトJは類いまれな能力を発揮し、新河軍でいたく歓迎されていた。
「まだ若いのにたいした天使だ」
「まさに神帝隊の再来だ」
戦勝祝賀会にて褒められるのはいいけれど、酒が進むにつれ皆ヤマトJを誰かと重ねて見たり、間違えたりすることが多くなる。
嫌になってヤマトJは勝利に酒を重ねる歴戦の戦士たちの輪から抜け出した。
部屋の隅にあるテーブルから食べ物をつまむ。本当は食べ物より酒が飲みたいけれど子供だからといって酒に近付けてはもらえなかった。
戦いじゃ子供も大人もなかったのに。
その大人顔負けの戦果をあげたのに、なかばヤケでジュースをがぶ飲みしていると。
ふと、気付くものがあった。
視線。
暖かく、優しく、激しい感情の籠った目で見られている。
視線の主を確かめようと祝賀会場を見渡す。
ヤマトJの位置からは死角になる壁に隠れた影があった。
「誰だい?君は…」
駆けつけて声をかけてみるが返事はなかった。
届くのは走り去る足音のみ、それもやがて消えた。
立ち去った視線の主が誰なのか妙に気になって、翌朝ヤマトJは天使や次代に会うたび聞き込んだ。
「昨日、会場の端に居たのが誰だか、知らない?」
何人に聞きに回っただろう、酒も入って記憶が曖昧な皆に聞いてもはっきりせず、些細なことだしあきらめようかと思った矢先、答える次代が現れた。
「ああ、それならクロススターだろう。昨夜も酒も飲まずに警護役を買ってでて、一人隅にいた」
クロススター、といわれてもヤマトJにはその姿がピンとこなかった。
同じ新河軍でもヤマトJには一気に仲間が増えた状態で、まだ全員の名前と顔が一致していない。
「クロススターって?天使?それとも次代?」
「美しい…あの方こそまさに天使だ。非常に可愛らしいがどこか哀愁漂うところがあって、そこがまた美しい…」
ヤマトJは長い講釈によく耐えたが、視線の主については説明してくれた美しいもの好きの次代にとって憧れであるらしいことと、名前しかわからなかった。
「もういいよ。ありがとう」
「おい、ヤマトJ。クロススターに用があるならくれぐれも粗相のないようにな」
別れがけに念を押されたが、そもそも用事らしき用はない。
「た、ただ聞いてみただけだよ。用なんてないから」
「ふん、そうか。まあお前のような子供では彼女の相手はまだ早い。あきらめて修行でもしていろ」
「なんだよ。僕はそういう意味でクロススターのことを聞いたんじゃないったら」
視線の主が誰かだいたいわかったからそれでいいのだ。
やがて戦闘で一緒になる日も来るだろう、その時ついでに聞けば良い。
この件はこれで終わりにしてヤマトJは修行仲間のギャルジャー達のもとへむかうことにした。
「ねえ、君たちはクロススターって知ってる?」
修行の合間、気がつけばヤマトJはギャルジャー達に尋ねていた。
「あ?クロススター?」
GDダンジャックに聞き返されてヤマトJは正気に返った。
クロススターのことは今度でいいって思ったのに…
つい話題に出してしまったことを後悔しているとGD牛若が首をかしげる。
「この前、彼女と一緒に戦いませんでしたか、…ああ、ヤマトJはまだ加わっていない頃でしたね」
ギャルジャー達はヤマトJより先に新河軍に入っていたし、出会ってまだ間もないのだがヤマトJもずっと一緒に戦ってきたような話振りをすることがよくある。
ヤマトJにとってもギャルジャー達はよく気の合う、長年の友達のように仲良くなったので普段気にもとめていないが。
「どんな天使だった?」
「聖ボット隊の隊長ですよ。遠目に見かけたり、通信で言葉を交わしただけですけど何故か懐かしい感じのする天使でした」
GD牛若の説明を聞いてGDダンジャックも身を乗り出す。
「それ、オイラもだ。クロススターを見てるとじんとした気持ちになるんだ」
ピーターも、フッドも一本釣りも頷いた。
「ヤマトJと会った時と、少しだけ感じが似ていたかな」
「ふうん、そんな雰囲気を持った天使なんだ。なら僕も会ったらそう、感じれるかな」
「あなたは、私たちと同じ経緯で生まれたわけではないですからわからないですけれど。会って確かめてみたらどうです?」
「うーん、でも…」
「会ってきなよ、成果があったら是非教えてくれよ」
GDピーターがヤマトJの背を聖ボット隊の待機本部へと後押しした。
「聖ボット隊はその廊下の突き当たり、緑の髪のキレイな天使がクロススターだ」
ギャルジャー達に手を振って見送られ、ヤマトJは聖ボット隊待機本部のドアをたたくこととなった。
息を吸って、はいて。勇気を出して木製のドアに握りこぶしを近づけた。
コン、コン。
「はいの〜」
高く通った声が返ってきて、ドアが開いた。
開いたドアの向こうには聞いたとおり、綺麗な大人の天使が立っていた。
自分より年上の天使なのに、ヤマトJはなぜか彼女に対して可愛いという感想を抱いていた。
「…ヤマト…………さん…?………って…来て、くれたんですの?」
名乗る前に名前を呼ばれて、ヤマトJは懐かしいと思っていた。
なるほど、GD牛若の言ったとおりだ。
でも…それだけじゃなくて、もっと…何か…。
「ヤマトさん?ヤマトさんですの?」
繰り返し呼びかけられて目の前の天使に答えることを忘れていたヤマトJは照れながらクロススターに挨拶した。
「…あ、初めまして僕はヤマトJ。あなたがクロススター?」
その時、ほんの少しだけ、クロススターが傷ついた顔をした。
自己紹介したのになんでそんな顔をするんだよ。
不機嫌そうに口をすぼめたヤマトJの様子に気がついて、クロススターはすぐに傷ついた顔をしまいこんだ。
「はいの、私がクロススターですの、聖ボット隊の隊長ですのよ。よろしく、ヤマトJさん」
微笑みながら握手を求められて、ヤマトJは自分の手と伸ばされた手を重ねた。
暖かい。
機嫌を直して笑顔を返すとクロススターが聞いてきた。
「何か御用ですの?迷っちゃいましたの?それとも…誰かになにか言われて、来たとか…?」
クロススターが視線の主かについて聞きたいヤマトJだったが、初対面で「僕を見てましたか」と聞くわけにも行かない。
何か適当な用件を…とヤマトJはしどろもどろ話を切り出した。
「明日…僕とギャルジャーで、訓練ついでに遠出するんだけど。クロススターも誘ってこいってギャルジャーに頼まれたんだ」
「はらはら〜、皆さんが誘ってくれたんですの?」
実のところそんな予定はまだ存在しないがギャルジャーもヤマトJも、勝利を収めて以来暇だ。説明すれば了解してくれるだろう。
「きてくれるかい?」
「はいの、久々にギャルジャーさん達とお話したいですの!」
集合場所と時間を決めてクロススターと別れる。
聖ボット隊待機所のある廊下を曲がってすぐ、ヤマトJは立ち止まる。
人通りがないことを確認し、どっと壁に背をついた。
無性に心が痛んでいた。感情が体を突き破りそうな感覚。
懐かしいのに、言いたいことがあるはずなのに、何もできなかった。
ギャルジャー達は懐かしかったとしか言わなかった。
ならば、こんな、何かが足りていないような感じを味わったのは自分だけなのか。
「クロススター、かぁ」
さっき会ってきた天使、姿は懐かしいのに呟いた名前は全く耳慣れない感じがして。
訝しがりながら、廊下を歩き出す。
そのうち、パワーアップすれば足りないものを埋められるかもしれない。
呼び続ければクロススターという響きにも慣れるだろう。
なりゆきとはいえ遠出をすることになったのだから、ギャルジャー達と楽しい計画を練ろう。
明日を楽しむことに思いを傾けて、ヤマトJは軽い足取りでギャルジャー達の元へ向かった。
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ヤマトJとクロススターになったエンジェルの、自分的ヤマエン補完話。
ヤマトJやギャルジャーは生まれ変わっても記憶ないだけで本人状態なつもり。
どの程度の長さになるか、どのくらいで書き上げれるかわからないから
考えてるの全話できてからUPするかと思っていたんですが…
シールの設定ほとんど詳しくないし、書ききる自信なかったんで
これきり切っても大して問題ない形で終わらせてみました。
美しいもの好きな次代は新ビのあの人だったけど、口調がよくわからないのであえて名前ぼかし(DVDが待ち遠しい〜)
実のところタイトルはクロススターにちなんで『いつか交差する星』の予定が、
ベタなんで運命にしときました。
2005.10.30
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