7-6.I MISS YOU



 ランドルフは、アンヌを抱くと、灯りを手に、階段を上がった。
寝室は、と、尋ねようとしたが、灯りをかざして、ドアが開いたままの部屋を見つけると、そのまま中へ入った。
ランドルフは、キャビネットの上に灯りを置き、アンヌをベッドに下ろし、化粧着を脱がせると、そのまま横にならせた。
そして、ベッドの端に座ると、身体を捻って、アンヌの頭の向こう側に手を突き、その瞳を覗き込んだ。
濃緑の瞳には、怯えがあった。
頬は、青ざめ、強張ったままだった。
その時、ランドルフは、アンヌの真実を知ったような気がした。
いくつも重ねた心の鎧を取り払ってみれば、恋に慄く、アンヌというひとりの娘の姿があった。
そのアンヌを見て、無垢なのだと。
アンヌは、無垢なのだと、ランドルフは、気づいた。
アンヌにどのような罪や過ちがあるにせよ、ランドルフは全てを受け入れる覚悟だった。
自分は、犯罪組織の一員だったと打ち明けたアンヌだった。
だから、そのような組織の一員であったならば、アンヌは、もう無垢ではないかもしれないと、よぎっていた。
数々の罪を犯す者が、身体だけ無垢だと思ってはいなかった。
だから、今、アンヌの身体が無垢だったと知って、その健気さを目の当たりにしたようだった。
どんな犯罪に手を染めようが、染まりたくはない、染まり切ってしまいたくはないと言う娘の純粋な想いに、触れたようだった。
それ故に、この契りの意味と重さを、ランドルフは胸に刻んだ。
「アンヌ」
ランドルフの低い声に、アンヌは身体を震わせた。
「怖くないよ。任せてればいい。楽にしておいで」
ランドルフはそう言うと、アンヌの手を取って、その手のひらに自分の唇を押し付けた。



 ランドルフは、テールコートとベスト、ネクタイを取って、壁際にあったドレッサーに置くと、アンヌの傍に戻って来た。
一度、アンヌと口づけを交わし、濃緑の瞳に、愛してると告げ、ランドルフの指が、静かに、ネグリジェの上から、アンヌの身体を這い出す。
思わず、逃れようとするアンヌの身体を、何度も引き寄せて、宥め、大丈夫、怖くないと、囁き続けた。
ランドルフは時間をかけて、自分の指をアンヌの肩に、腕に、腹に、足に這わせ、馴染ませた。
眼を閉じて、手を握りしめ、耐えるようだった身体から、次第に力が抜け、背けがちだったアンヌの身体が、次第に、ランドルフに向き合って来る。
ランドルフはそのアンヌの身体を、そっと抱きしめた。
「・・・お慕いしています」
アンヌは、目を閉じたまま、ランドルフの背に腕を回して、 そう呟いた。
「お慕いしています、ランドルフ様・・・」
「アンヌ、ランディだ」
「・・・ランディ、ああ・・・、わたくしのランディ」
うっとりと呟く、アンヌのネグリジェの上から、ランドルフはその乳房に触れた。
途端に、ランドルフの背に回るアンヌの腕に、緊張が走り、力が籠る。
アンヌは、思わず、身体をよじっていた。
けれども、ランドルフの指に慣れていたアンヌは、すぐに吐息を上げ始めた。
ランドルフの指が、先端をそっと摘まむと、思わず、声を漏らした。
ランドルフの手は、ネグリジェの上から、アンヌの乳房を優しく揉み、アンヌは、その優しい愛撫に、酔った。
ランドルフは、乳房を優しく愛でながら、アンヌのネグリジェの裾をたくしあげる。
アンヌに触れた瞬間から、ランドルフは、アンヌが、ネグリジェの下に、何も着けていないことが、分かっていた。
予想通り、ネグリジェをたくしあげてすぐ、脚から足の付け根、秘所が露になり、羞恥で、身を捻ってランドルフの視線から逃げようとする、アンヌの胸のリボンを解いて、ネグリジェを取り去った。
一糸纏わぬアンヌが、ランドルフの眼に入った。
しなやかな、アンヌの身体だった。
「いや・・・」
ぴたりと膝を閉じたまま、身体を背けるアンヌを、自分の方へと引き戻し、ランドルフは、耳元で、とてもきれいだと、囁いた。
しなやかで引き締まっている分、女性らしい胸の丸みや柔らかい曲線が十分だとは言えない身体に、気後れをしていたアンヌだった。
けれども、ランドルフは、アンヌへ称賛の言葉を繰り返し、愛撫を繰り返した。
乳房に直で触れられ、唇で愛でられて、先ほどとは比べ物にならない、愉楽が、アンヌを責め立てる。
アンヌの唇から絶え間ない吐息が上がり、ランドルフは、自身も高まりを覚えた。
ほっそりと長い脚は、ぴたりと閉じられたままだったが、ランドルフは、そのまま膝を押し上げると、後ろから秘所に指で触れ、そっと花芯をなぞった。
思わず、アンヌの唇から、喘ぎが漏れた。
ランドルフは、そのまま、指で触れ続け、やがて、アンヌの緩んだ膝を自分の方に向けて大きく拓かせた。
アンヌは、羞恥で顔を背けた。
自ら望んだこととはいえ、愛する男の前に全てを晒す行為を、すぐに受け入れることは出来なかった。
「大丈夫?」
アンヌの脚の間に入ったランドルフは、自分もシャツを取ると、アンヌの瞳を覗き込み、気遣った。
アンヌは、黙って、ランドルフの男らしい身体に腕を伸ばし、ランドルフは優しく抱きしめ返して、アンヌの体に染みついた、ガーデニアの香りを吸い込んだ。
直に触れ合う肌は、互いのぬくもりを、愛情を、伝えあった。
ふと、ランドルフは、アンヌの薬指を何度か擦ってから、ごめんと、呟いた。
普通なら、契りを交わす時には、女の薬指にはめられているはずの品がないことを、ランドルフは、詫びた。
アンヌは、小さく、首を振った。
「すぐに、指輪を作らせて・・・、君が気に入るのを、すぐに作らせて、式を挙げよう。ドレスも、特別なものを用意して、君は、アウラで一番の花嫁になるんだ」
アンヌは、答えなかった。
黙ったまま、そっと微笑んだ。
この方で、良かった・・・。
生涯で一度きりの方が、この方で、本当に、良かった・・・。
アンヌは、心からの愛情を込めて、ランドルフの首に、唇を押し当てた。
再び、ランドルフは、アンヌの身体に唇をあてて、愛撫を始める。
ランドルフの唇は、アンヌの秘所に辿り着き、アンヌは、ランドルフに与えられる快感に、嬌声を上げた。
ランドルフは、少しでも、潤いを与え、楽にしてやりたかった。
今、指でさえ、痛みで顔を歪めるアンヌが、じき訪れる濃密な交わりに、痛みを覚えないはずがなかった。
アンヌの花芯から溢れる潤いを確かめてから、ランドルフは全てを脱ぎ捨てて、アンヌの脚の間に、膝をついた。
眼を閉じてランドルフを待つアンヌの花芯に、ランドルフ自身をあてがう。
そして、入るよ、と告げて、ゆっくりと、アンヌの熱い花芯を割った。
焼けつくようなその痛みに、アンヌは、思わず、声を上げる。
どれほど優しく押し開かれようと、どれほど潤いを与えられようと、初めて男を受け入れる行為は、激しい痛みを伴った。
アンヌは、その強い痛みを堪えようと、逞しいランドルフの腕を、強く握った。
やがて、破瓜の血が、シーツに落ちた。
本当ならば、もう止める方が、アンヌの身体は楽になるに違いなかった。
止めて、自らで終わらせてしまうことを、知らないランドルフではなかった。
もしも、この契りが、欲求のためだけものであれば、ランドルフはそうしていた。
けれども、この契りには、違う意味が込められていた。
ランドルフにとって、この契りには、アンヌの過去を全てを背負い、共に罪を背負う意味があった。
ランドルフは、キャビネットの上にあったタオルで、アンヌの出血を拭うと、再び、アンヌに挿入した。
アンヌの中は、狭く、温かく、優しくランドルフを包んだ。
アンヌは、声を上げて痛みに耐え、ランドルフの唇からは、快感を耐える呻き声が、漏れた。
男に拓かれたばかりの、アンヌの未熟な身体に、恍惚の時は訪れなかった。
それでも、自分の身体が、愛しい男に、陶酔を与えているのだという歓びが、心の奥底に沸き上がった。
ランドルフは、時間をかけて、アンヌの最奥まで進んだ。
途中、ランディ、と、何度も苦し気に息を漏らしながら、縋り付くアンヌが、たまらなく愛おしかった。
苦しそうに呼吸するアンヌに、
「痛む?」
ランドルフは、心配そうに、そう尋ねた。
アンヌは、小さく頷いてから、
「でも、このままで・・・。どうか、もう少し、このままで・・・」
懇願するように、告げた。
「僕も、このままで・・・、君を感じていたい・・・」
しばらく、そうして、ふたりは、互いの熱を交わし合って過ごしあった後、ランドルフは、動き始めた。
次第に強く、アンヌの中へと、放つために。
アンヌに打ち付けながら、ランドルフは、この契りの向こうに、二人の未来があるのだと、信じて疑わなかった。
この契りは、ランドルフにとって、始まりの時だった。
一方、アンヌにとっては、一度きりの夜だった。
終わってしまう。
もう、これで、終わってしまう・・・。
次第に激しくなる律動に、アンヌの心は悲鳴を上げた。
ランドルフが呻き声を上げて、アンヌの中に放った時、アンヌも声を上げていた。
それは、歓びの声なのか、哀しみの咆哮なのか、自分でもよくわからなかった。



  冬の遅い夜明けの時刻よりずっと前に、アンヌはベッドから、身体を起こした。
途端に、背後から、腕が伸びて来る。
「まだ、早いよ。もう少し、一緒に眠ろう」
ランドルフは、そう言って、アンヌをブランケットに連れ戻そうとした。
「ランドルフ様・・・」
「ランディだ。もう忘れた?」
笑いを含んだ声で、ランドルフは言い、ベッドに起き上がって、背後から、アンヌを抱きしめ、首筋に唇をあてた。
ふたりとも、まだ、素肌のままだった。
「もう少し、眠ったら、早めに一度帰るよ。朝は、まだ昨日の夜会の宿泊客がいるから、その相手を務めて、昼から迎えに来る。一緒に、僕の屋敷に行って、僕たちが結婚することを、両親に報告しよう。心配はしないでいい。僕たち二人のことについて、母には、今後一切、口出しをさせない」
アンヌは、そのランドルフの言葉が、耳に入らない様子で、ベッドの脇に、置かれてあったネグリジェを取って被ると、立ち上がり、ランドルフの傍を離れた。
「夜が明ける前に・・・、人目につく前に、お帰りください」
ランドルフに背を向けたまま、アンヌはそう呟いた。
「アンヌ・・・」
「わたくしは、誰とも結婚するつもりはありません。理由は、以前、お話しした通りです」
「僕は、君の罪を一緒に背負う。その覚悟なしに、君を抱いたりはしない」
「わたくしは・・・、そのようなことを望んではいません。わたくしは、とうに結婚は、諦めています。普通の女性としての幸せを求めるには、あまりにも多くの罪を犯してしまいました。わたくしの手は、闇色に染まっています。許されるとは、思っていません。わたくしのこの罪を、誰かに一緒に背負ってほしいなどと・・・、夢にも思っていません」
ブランケットをまとったランドルフは、アンヌの後ろに立ち、背後から、その身体をそっと包んだ。
「君の苦しみは、僕の苦しみだ」
「いいえ・・・、いいえ、あなたは、わたくしに関わってはいけません。あなたは、マーガレット様の望まれるように、ふさわしい方を迎えるのです」
そう言いつつ、アンヌは、顔を背けた。
言葉とは裏腹に、アンヌの肩は、小さく震えていた。
そのアンヌをいたわる様に、背後からアンヌを抱きしめる腕には、強い力が籠った。
「もう、そんなことは出来ない。君を忘れて、他の女性を選ぶことなど、出来るはずがない」
「それでも・・・、そうしなくてはならないのです。あなたは、モーガン家の当主としての務めを、果たさなくてはなりません。もし、それでもまだ、あなたがわたくしを求めると言うのなら・・・、わたくしは、このアウラを去ります」
「アンヌ・・・」
「わたくしの望みは、アウラで綿花を育てていくことです。人の暮らしに役立つものを作ることこそ、わたくしの生きがいです。けれども、あなたが、これからも昨夜の様にわたくしを求めるというのなら・・・、わたくしは、この地を去ります。どちらにせよ昨夜のようなことが人に知られれば、わたくしは、本当にこのアウラにいられなくなります。結婚前に、男性と夜を過ごす女性が、どのように酷い中傷を受けるかは、よくご存じでしょう」
「だから、早く結婚を・・・」
「結婚は、望んでいません!」
ランドルフの腕の中で、アンヌは、叫んだ。
込み上げる感情と戦うように、アンヌは大きく息をついた。
「結婚は・・・、望んでいません。どうか、もうお引き取りください。人目につく前に。 わたくしから、生きがいを奪うようなことは、やめてください。・・・本当に、もう二度とここへ来てはいけません。・・・昨夜、わたくしたちは、幻を見たのです」
「幻?」
「・・・そう、夜が明ければ、消えてなくなる幻です。幻を、追ってはいけません・・・」
絞り出すような声で、アンヌは言った。
アンヌを抱きしめる腕に、ランドルフはもう一度、力を込めた。
そうして、黙って、身支度を整えると、ランドルフに背を向けて立ち尽くす、アンヌの元へと戻って来た。
顔を上げさせて、ランドルフから視線を逸らすアンヌの瞳を、しばらく見つめ続けてから、唇を重ねる。
「愛しているよ、アンヌ」
ランドルフは、微笑んで、そう告げ、寝室を離れた。



 ランドルフが部屋を出るのと入れ替わりに、灯りを手にしたエマが、姿を見せた。
随分、早い時間にも関わらず、エマは、既に、身支度を整えていた。
「アンヌ様・・・」
エマは、昨夜、アンヌの身に起こったであろう事態に、ひどく、動揺していた。
「そこから、入って来てはいけません」
寝室の扉の前に立つエマに、鋭く、アンヌは告げた。
エマに、見せるわけにはいかなかった。
結婚前のエマに、男と女が、愛し合った痕跡が生々しく残るベッドを。
「エマ、裏の炉に火を入れなさい」
アンヌは、エマに、そう命じた。
「アンヌ様・・・」
「下に降りて、炉に火を入れるのです、エマ」
強い口調で、再びそう促した。
エマが、下がると、アンヌは、シーツを引きはがした。
ランドルフと交わした痕跡を、灰に変えるために。
「アンヌ」
ふいに、名前を呼ばれたような気がして、思わず、はっと、アンヌは振り返った。
「すぐに、指輪を作らせて・・・、君が気に入るのを、すぐに作らせて、式を挙げよう。ドレスも、特別なものを用意して、君は、アウラで一番の花嫁になるんだ」
耳の奥で、昨夜のランドルフの声がこだました。
アンヌは、目を閉じて、突き上げて来るような胸の痛みを、呑み込んだ。



 エマが、階下へ降りると、玄関にランドルフの姿があった。
ランドルフはエマを待っていたようだったが、昨夜、アンヌとランドルフの間に起こった出来事を思えば、今、エマは、どのようにして、ランドルフに接するべきか、わからなかった。
「ランドルフ様・・・」
「エマに、伝えたいことがあって」
エマの姿を見つけると、ランドルフは、そう声をかけた。
「何でしょうか・・・」
「僕は、しばらく、ここへ、来られないと思う。だから、少しの間、アンヌのことを頼むよ。いや・・・、僕の妻を、よろしく頼む」
ランドルフは、穏やかに微笑んで、エマに、そう告げた。