銀座の行列−産経抄
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産経抄 09年6月3日
テキ屋の寅さんが見たら地団駄(じたんだ)を踏んで悔しがっただろう。
なにしろ、おフランスの老舗宝石店が、5千円もするダイヤモンドの原石を
5千人の善男善女にタダでばらまきましょうと口上しただけで、たちまち銀座を
ぐるりと一周する大行列ができたのだから。
▼もちろん、そこは海千山千の商売人。長い行列を耐え忍んだ末に
もらったダイヤをリングに加工してもらうと、あら不思議。
5万円也の加工料をとられる。ペンダントだと7万円もするそうな。
▼こうして新聞やテレビにタダで取り上げられるのも計算のうちだったろう。
損して得とれとはまさにこのことだ。
最近、えげつなさの足りない関西商人は大いに見習ってほしい。 (後略)
(引用終わり)
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最初に確認しておきたいのは、この銀座の行列には
「関西商人」は一切かかわっていないということである。(当然「テキ屋の寅さん」も)
にもかかわらず、産経抄はなぜ唐突に「関西商人」を出したのだろうか。
この出来事を伝えるサンケイスポーツの見出しでは
【
目“輝かせて”無料ダイヤに1.5キロの列
】となっているが、
現実はとてもそんな生易しいものではなく大きく混乱したようである。
いくら見出しや文章でとりつくろっても、この出来事に対する普通の人の反応は
テレビの出演者自身が正直に表情に出している。
「まるで汚いものを見るような」と表現されたリポーターの目
スタジオの表情
自称5000円の無料ダイヤのために怒号とともに銀座で並んだ人たちが情けない。
そういう商法で人を釣る宝石商が情けない。
そういう宝石商があの銀座で堂々と店を構えていることが情けない。
この銀座の行列は、多くの人がこういう思いを抱くであろう、
そういう出来事だったのだ。
しかし産経抄はその思いを素直に書くことはできない。
東京でしかもあの銀座でなんとも情けない出来事が起きた。
そんなことは認めたくないから。
こう考えると、冒頭の疑問に対する答えはおそらく次のようである。
産経抄にとっては、
銀座の行列の情けなさから自らの目を逸らし
同時に読者の目をも逸らす魔法の言葉が、
唐突すぎる 「関西商人はえげつない」 だったのだ。
この文章は「テキ屋の寅さん」も侮辱してる。
「テキ屋の寅さん」は品物を広げた店先に集まった客が、
怒号を上げるという商売は決してしていないはずである。
もちろん、こんな商法が「損して得とれ」の商法であるはずがない。
いかにも世間知らずの新聞記者が陥りそうな知ったかぶりである。