かがくののおと 22
自由エネルギー
系と外界(周囲)の関係
外界から系に熱が流入してきた場合について,考える.流入してきた熱エネルギーは,系を構成する物質に受け取られる.その仕組みが必要である.受け取り,保持する方法は,物質の並進エネルギーや回転エネルギー,振動エネルギーなどのモードによる.
系を構成する物質が,ヘリウムなどの単原子分子であれば,受け取った熱エネルギーは,並進エネルギーに変換されることになる.2原子分子以上の気体であれば,回転エネルギーの形でも蓄えられる.固体であれば,原子間の振動エネルギーで蓄える.
系から外界に熱が流出した場合について,どうなるであろうか.やはり,外界を構成する物質に受けとられ,並進エネルギーや回転エネルギー,振動エネルギーなどのモードによって蓄えられるのである.
系にエネルギーが流入してくると,(膨張による仕事を外界にしたうえで,)系のエンタルピーが増加する.また,ノート21で見たように,状態の数が増える.すなわち,エントロピーが増加する.
系からエネルギーが流出した場合もおなじである.系のエンタルピーが減少し,熱が流出する.このことは,外界のエントロピーが増加することになる.
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図 22.1 |
われわれ観測者は,系だけでなく,外界も含めた全体を見る必要があるのである.ある変化において,系のエネルギーと外界のエネルギーの合計は,不変である.これは,熱力学第1法則である.エネルギーの保持されている場所と保持の仕方が変わるが,合計量は変化しない.
変化が観測された場合は,系のエントロピーと外界のエントロピーの合計は,増大している.これは,熱力学第2法則である.仮に,一方のエントロピーが減少していても,もう一方がその減少量を補う以上に増加していれば,系のエントロピーと外界のエントロピーの合計としては,増加することになる.
変化とエントロピーの増加
熱力学第2法則を化学反応などの変化にあてはめると,次式になる.
ΔS全体 = ΔS系 + ΔS外界 > 0 式 22.1
我々に見える変化(化学反応)は,確率的な結果である.変化を動かしている力はなく,もっとも可能性の高い状態が観測されているだけである.それゆえ,つぎの2つの表現は,いずれもただしい.
エントロピーが増大する方向に変化する
変化によってエントロピーが増大している
熱力学第3法則 エントロピーの積算
熱力学第3法則は,エントロヒ゜ーの基準を示しており,絶対0度で,エントロヒ゜ー 0である.これは,絶対0度において,基本的には,すべての運動が停止しており,可能な状態の数が,1つしかないと考えるからである.基準がはっきりしているので,われわれの生活する温度におけるエントロピーの値も,絶対値をえることができる.
式21.2により,流入するエネルギーとそのときの温度から,エントロピーの増加量が得られる.すなわち,任意の温度におけるエントロピーは,絶対0度から,エントロピーの増加量を積算することで求めることができる.
物質に,熱エネルギーを入れると,物質内部にエネルギーが保持され,物質内部の状態数,すなわち,エントロピーを増加させることである.その結果,温度が上昇する.任意の温度について,系のエンタルピーとエントロピーを求めるためには,熱エネルギーと上昇する温度の関係,熱容量がわかればよい.
自由エネルギー
化学反応などの変化を調べるには,系と外界のエントロピー変化を調べればよい.系のエントロピー変化は,基準からの積算によって得ることができる.それでは,外界のエントロピー変化はどうすればいいのであろうか.
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図 22.2 |
先に,系から流出したエネルギー(発熱反応)は,外界に流入するエネルギーであることを述べた.外界にとっては,エネルギーの流入によって,エントロピーが増加する.すなわち,系のエンタルピーの減少で,外界のエントロピーの増加を表せることになる.式 22.1 において,外界のエントロピーを系のエンタルピーに置き換えると,
式 22.2
となる.さらに,両辺に温度- T をかけると,式のディメンジョンがエネルギーのディメンジョンとなる.
式 22.3
系の状態関数
TΔS全体 を ΔGとおくと,重要な式がえられる.
式 22.4
ΔG は,ギブスの自由エネルギーとよばれ,系の状態を示す重要な関数である.ギブスの自由エネルギーの減少は,全体のエントロピー変化の増加と等価である.
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