第33章 より良い駆動方式をもとめてその2(タンゼンシャルスクリュードライブ)

期待したベルトドライブであったが、実際にフィールドテストの結果は残念ながら、思わしいものではなかった。
非常に大きなピリオデイックエラーがでるのだ。これまでのそれは周期1分で(+-5”)程度であったものがこんどは約50分周期(ウォームギヤの1回転に相当)。なんと最大10’くらい(誤差5%)。念のためデジタルスケールで測定してみたが、同様だった。
これは当初からある程度覚悟したことではあったが、これほどひどいことになるとは全く予想だにしていなかった。どうしてこんなに大きなエラーが生じるのであろうか?

原因として誰もが考えるのは、ドライブプーリやドライブギアの偏心であろう。ところがどんなに測定してもこんな偏心はない。偏心は大きく見ても1/100mmのオーダ(つまり0.1パーセント以下)。本当の原因はウオームギアの製作誤差、つまりギヤピッチに不揃いがあるのであろう。しかしこれを測定しようにも測定器具もない、もちろん高精度の歯切り盤もあるわけがない。唯一根気良く摺り合わせを行うしかないと考え、摺り合わせを行ったが、歯型がなくなるほど摺り合わせをしても、改善されはするが、満足できる値には達しない。これ以上やっても無駄と考え、ひとまずこの方式はあきらめ別の方法をかんがえることとした。

それは、温故知新だが。

タンゼンシャルスクリュー方式(長ネジ式駆動)

に再び挑戦するのだ。というのは筆者はこれまで種々(ウォームセクタ、ベルトドライブなど)の方法を実際に試してきたがこれら経験を総合すると、このタンゼンシャルスクリュー方式がダントツだったからである。さすがに30分をこえる長時間の追尾ではタンゼンシャルエラーが明瞭となり問題があるものの、短時間の追尾ならば精度も再現性も申し分ない。ウォームセクタ、ベルトドライブなどは追尾速度が不安定で、明らかに劣る。

タンゼンシャルスクリュー方式のタンゼンシャルエラー(ネジが揺動する方式を使えばエラーはタンゼンシャルでなくコサインエラーとなるが)は計算してみればわかるが、意外に小さいもので、60分の追尾でさえ、わずか0.2mm/90mmの誤差(木星5〜6個分)と結構実用的なのだ。下手なギヤを使うよりはるかに正確だ。さらに欲張って80分の追尾にしても0.6mm/120(80分追尾)約0.5パーセントの誤差で、100倍のアイピース視野から出てしまうことはない。

タンゼンシャルスクリュー方式(長ネジ方式)でしかもタンゼンシャルエラーのまったくでない方法があれば最強だが。とネットなどでも情報を集めて見たが、やはり情報は見つからない。一筋縄にはいかないようだ。今回他の方法ではどうしても駄目という結論に達したのを機に、本気になってタンゼンシャルスクリュードライブを再検討することとした。そしてかねて考えていたあるアイデアを実践してみることとした。
それは。

タンゼンシャル(コサイン)エラーをキャンセルする

というものだ。ネジ単独ではどんなにあがいてもタンゼンシャルエラーからのがれることはできない。それなら、ベースにスクリュー(長ネジ)ドライブを使い精度をキープ、長時間追尾にでる誤差、つまりタンゼンシャル(コサイン)エラー分だけを別に設けた機構で補正してやる方法だ。もしうまい方法があれば最強の駆動装置が作れるはずだ。しかし具体的な方法は?簡単で確実な方法があるのだろうか。下手なキャンセル機構は百害あって一利なし。

リンク機構はどうだろう、しかし単純なリンク方式では平均的な誤差は小さくするのは簡単だが、、追尾の全行程にわたって完全に誤差を0にすることは不可能だ。誤差を完全になくすには相当複雑なリンクを組む必要がある。 もしこれが出来たとしても剛性の低下で使い物にはなるまい。ということでボツ。

次にカムを利用する方法を考えた。カムが高精度に作れるか?が問題だが、カムなら自由な曲線を作ることができるから理論上、全追尾行程で誤差をゼロ(0)にすることができるはずだ。これは圧倒的なアドバンテージだ。

リセットがやり難い問題は割りナットを採用することでクリア。割りナットは狂いが少ない球面軸受けだ。やっと構想がまとまり、設計、製作し、プロトタイプの実験機ができあがった(下図)。とりあえず、カムは図面をみながらヤスリで削っただけだ。(こんな精度でいいのかな〜♪)

念のため、デジタルノギスで追尾速度を測定したかぎりでは、追尾速度やタンゼントエラーも問題ないようだ。これは期待できそうだ。しかしこれ以上はデジタルノギスでは無理で、実際の天体を観測しながら修正するしかない。早くフィールドテストをしたい。が、いかんせん天気が悪い。

フィールドテスト

ようやく天気が回復、初めてのフィールドテストを実施した。
いつもの通り、100倍の視野に十字を張ったアイピ−スを用意して恒星プロキシオンを観察したところ、追尾全行程(80分)にわたって、全体として追尾エラーはかつて経験したことがないほど少い。(途中、最大30分間追尾して誤差が全く認められない所もあり)、いきなりこの精度をたたきだしたのには驚いた。

追尾開始でピリオデイックエラーがすこし(20”/1分間追尾)残っているが、未だネジの摺り合わせをしてないためだろう、この方式は見かけは無骨だが性能は文句なしだ。最終評価はさらに長時間の検証を待たねばならないが、安価、自作の容易さ、かつ超高精度追尾が得られるなど、自作派に最適。文句なくお勧めだと言い切っていいだろう。
その後ネジの摺り合わせを実施したところ予想どおりピリオデイックモーションエラーはほぼ消滅した。気になる追尾精度だが、現在、ピリオデイックエラーを含んで、全行程80分間の追尾でひかえめにみて±40”はキープできている。これは誤差;±1/2000以下0.005%に相当する。(この間ネジが120mm進むので60ミクロン以下の誤差)カムの高精度仕上げができれば5”以下くらいまでは可能なようだが、そうなれば架台全体の精度が追い付かなくなるだろうから、そんな精度はいらない。

TOP ページへ