かがくののおと 25


実際的な,自由エネルギーの計算

  1.  注目する化学反応において,化学式を構成する各物質についての,求める温度での,生成モル自由エネルギーが既知であれば,これは問題がない.ここでは,25℃における物質の標準生成モルエンタルピーと標準モルエントロピーから,任意の温度における,生成モル自由エネルギーを計算する方法について述べる.

     

     

     物質を加熱すると,温度が上昇する.加えた熱エネルギーが,膨張仕事を差し引き,物質に,振動,回転,並進などのエネルギーモードによって蓄えられる.すなわち,加えられた熱エネルギーは,エンタルピーとして,物質に保存されているのである.エンタルピー変化に対する,温度の上昇する割合が,定圧熱容量(Cp)である.従って,逆に,求める温度と物質についての定圧熱容量(Cp)がわかっていれば,その温度における,物質の生成エンタルピーを求めることができる.この計算は,定圧熱容量(Cp)を温度 (T)について積分することになる.

             式 25.1

     一般的には,定圧熱容量(Cp)は,温度の関数として,実測値が得られている.しかし,条件によっては,定数として計算しても,それほど誤差はない.Cpが一定とできる場合には,積分項は,単に,Cpと温度差(T-298)の積である.

     


     例  水について,25℃液体から200℃蒸気まで加熱したときの,エンタルピーを求めて見よう.必要なデータは,

     液体の水の298Kにおける,標準生成エンタルピー ΔHf,298  -285.8 kJ/ mol
     液体水の定圧モル熱容量 25-100℃        Cp    75.2 J/K mol  一定と仮定
     液体から蒸気への,蒸発モルエンタルピー     ΔHvap   40.66 kJ/ mol
     気体水の定圧モル熱容量 100-200℃        Cp    37.1 J/K mol  一定と仮定

     求める,200℃における,水蒸気のエンタルピーは,

         ΔH473 = ΔH298 + ΔH298-373 + ΔHvap + ΔH373-473

             = -285.8x1000 + 75.2 x ( 373 - 298 ) + 40.66 x 1000 + 37.1 x ( 473 - 373 )


     

     上の例において,水がどのように,外界から受けた熱エネルギーを蓄えているかを,考えてみなさい.

     

  2.  標準モルエントロピーから,任意の温度における,モルエントロピーを計算する方法も,ほぼ同じ方法である.エントロピーの増加量は,式21.2であり,一定圧力のもとで,流入する熱は,Cpで表されるので,

            式 25.2

     Cpを一定と仮定すると,積分の外に出るので,

            式 25.2b

     Tで積分すると,

            式 25.2c        

     あるいは, 
           

     


     例  エンタルピーのところで示した例と同様に,水について,25℃液体から200℃蒸気まで加熱したときの,エントロピーを求めて見よう.必要なデータは,

     液体の水の298Kにおける,標準エントロピー S   69.9 J/K mol
     液体水の定圧モル熱容量 25-100℃     Cp   75.2 J/K mol  一定と仮定
     液体から蒸気への,蒸発モルエンタルピー ΔHvap   40.66 kJ/ mol
     気体水の定圧モル熱容量 100-200℃     Cp   37.1 J/K mol  一定と仮定

     求める,200℃における,水蒸気のエントロピーは,

         S473 = S298 +  ΔS298-373 + ΔSvap + ΔS373-473

             = 69.9 + 75.2 x ln( 373/ 298 ) + 40.66 x 1000/373 + 37.1 x ln( 473/373 )


     

  3.  任意の温度における,ギブス自由エネルギーは,次式により求まる

     

             式 25.3

     ある状態において,エンタルピーΔHは,その状態の持つエネルギーの総量,エントロピーSは,その状態の持つ,エネルギーの受け皿の大きさのと解釈しよう.受け皿が小さいほどと,外部に取り出せるエネルギーΔGが大きくなる.

     

  4.  反応の自由エネルギー変化を温度の関数として表すことができる.式 25.3を使い,各物質の自由エネルギーを求め,それらから,反応の自由エネルギー変化として,

     反応のΔG(T) = 生成物のΔG(T)の合計 - 反応物のΔG(T)の合計

     反応が1つの相内で起きる場合,反応のΔH(T)  は,あまり変化しないことが予想される.従って,エントロピー項が温度変化に対して,強く影響を与える.

       

     


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Updated, Nov.24, 2007