梅田の『ジャドール』で待ち合わせをしていたある日のハナシ。待ち合わせだからと、店のドアから遠くない席を頼んだが、待つ間、ドアを開けたひとりの女性に目を奪われた。いや、より正確を期せばその女性が穿いていたデニムに眼を奪われたのだ。

ほど良く色落ちしたブルーデニム、しかしその大腿部にはザックリとふたつの裂け目が口を開け、そこから衝撃的な赤のレザ−パネルが姿を現していた。それはフルカウントがエイジングの新しいスタイルとして提案した、レザーパネルジーンズだった。

MSにとって、これは新鮮な驚きだった。フルカウントからレザーパネルジーンズがリリースされたのは知っていたが、穿き込む事自体を楽しみと考えるMSにとって、「デニムにエイジング加工を施し、引き裂き、あげくレザーを張り付けたジーンズなぞ邪道」と言うのが偽らざる心境だったからだ。
しかし実際に街で見かけたソレは、単純にカッコ良かった。もちろん、MSはジーンズをリジッドから、じっくり穿き込むのが大好きだ。だが物事の価値は単一ではない。異なった視点で楽しむジーンズがあってもいいハズだ。

コダワリを持つことはどんな分野であれ、多少の知識があれば簡単なことだ。しかし行き過ぎた、あるいは偏狭な価値観は、新しい価値観の醸成を阻んでしまう。それは自ら新たな享楽を失うことでもある。
そもそも、ジーンズはそのルーツをワークウェアに持つことは周知の事実である。

自戒の念を込めて「悪しきマニア的に」詳述すれば、リーバイスがウエストハイ・オーバーオールに501の品番を与えたのが1890年代。ヒップポケットがそれまでの1つから2つになったのが1902年、レッドタブが取りつけられたのが1936年。それまで剥き出しだったヒップポケットのリベットがコーンシルド・リベットとなり、現在へと繋がるスタイルとなったのが1937年のハナシだ。

第二次大戦ではデニムはその強度から重用され、それ故に軍関係者以外がデニム製のウェアを購入することは難しく、ジーンズの代名詞である501の大半はミリタリーアイテムとして活躍することになる。

そんな501がデイリーウェアとして街へと回帰した50年代にアイビースタイルの東部向けに後の505の原型となる551Zが登場し、プレシュリンクやスキュー加工といった技術の進歩がワークウェアから逃れ、新しいファッションとしてのジーンズを可能にした。

オールド・リーバイスの復刻としてスタートしたフルカウントは、ヴィンテージ・レプリカブームを経て、自分達の考える良いジーンズの創造へと舵を切り、現代の街場に馴染むデニムスタイルを提案している。

このジーンズは股上が浅く、ワタリの細さと相まって腰回りのシルエットを生む。また膝下から僅かに広がるブーツカットのスタイルは、ワークウェアとしてのジーンズとは一線を画す、美しいシルエットを描き出した。

かつてワークウェアであったジーンズのレプリカからスタートしたフルカウントが、オリジナリティへの思考錯誤を重ねる内で、よりデザイン性の高いレザーパネルジーンズを生み出したコトは、ジーンズが紡ぎ続けてきた変化の系譜を鑑みれば、ある種必然の流れなのかもしれない。
そしてその変化はフルカウントに限ったハナシでは無い。リーバイスが生み出した5ポケットスタイルのジーンズはある種の雛型と言える。しかし時代はひとつの価値観に留まることはない。多くのブランドが、デザイナーが、デニムと言う素材を当然のモノとして捉え、これからもまた新しいジーンズを生み出し続けるだろう。

ジーンズもまた「藍より出て、藍より青し」なのである。
チェーンステッチで仕上げられた裾に若干のアタリが見える。このデニムに似合うウネリが現れるのはいつの話だろうか。
色落ちさせたデニムと近いブルーのカーフレザーが縫い
込まれ、クラッシュ特有のインパクトが生まれる。
タイトなシルエットを活かすためにも、モタつく裾はカット。シルエットはお気に入りだが、やはりこの裾には若干の寂しさを覚えてしまう。ドゥニームなどは裾上げ後の再加工を受けつけているのだが…。
フルカウントの定番モデルとは異なり、
センターにはフルカウントの黒いタグが
付く。またコーンシルド・リベットも縫製
技術の進んだ現代では不要なディテー
ルであり、このモデルでは省かれた。
舞台の裏側をのぞけば、デニムにしっかりとレザーを縫い付けた職人の姿を垣間見ることができる。
FULLCOUNT  Leather panel Jeans
Leather panel Jeans