第2話「一番大切なもの」

 

 一行は、森林地帯を背にしたところにある、小さな村に来ていた。

てくてく

あゆ「・・・」

名雪「・・・」

真琴「・・・」

てくてく

・・・

あゆ「・・・ねえ。」

名雪「ん?どうしたの?」

あゆ「ぼくたち・・・何かしたかな?」

名雪「どうして?」

あゆ「なんだか、みんなが睨んでる気がして・・・」

真琴「さては・・・またやったわね!」

あゆ「う、うぐっ、な、なにを・・・?」

真琴「どうせ、また、わたしたちがいないときにどっかの店のもの、盗ったんでしょ?」

あゆ「うぐぅ、ひどい。

僕をそんなふうに見るなんて・・・」

真琴「前科もちの言う科白じゃないわね。」

あゆ「うぐう。名雪さん・・・」

あゆは名雪に助けを求めて、話をふる。

名雪「犯ったの?」

あゆ「やってないもん!!」

ぶんぶんと頭を振る。

名雪「うそうそ。

でも、ここでは、余所者はあまり歓迎されないみたいだね。」

名雪(ちっちゃな子供までが怖がってるし・・・)

 ここまで幾度か、挨拶代わりに、軽く頭を下げていた。しかし、皆一様に、冷たい眼差しを向けるだけだった。

名雪(何があったのかな?)

 不思議には思ったが、話が聞けなければ考えようが無いので、胸の内に留めるだけにする。

真琴「でもさあ。

こんな調子じゃあ、どこにも泊まれないわよ。」

あゆ「うぐぅ。街にいるときくらい家の中がいいよ。」

名雪「でも、泊めてもらえそうにないね。」

あゆ「うぐぅ。また車?」

名雪「う〜ん、どうしよう?」

 道の真ん中で考え込む3人。

 そんなとき・・・

???「旅の方ですか?」

 声のほうを振り向く3人。

そして、一筋の光明が小柄な少女を照らす。

あゆ「えっ、あ、うん。」

???「そうですか。では、お泊りの所にお困りではありませんか?」

真琴「よくわかるわね。」

???「はい。知らずにこの村に来られた方は、みなさんそうですから。」

名雪「やっぱり、そうなんだね。」

???「はい。残念ながら・・・」

真琴「それで?わたしたちに何か用?」

???「あっ、ごめんなさい。

よろしかったら、うちへいらっしゃいませんか?」

あゆ「でも・・・」

???「大丈夫ですよ。わたしの家、宿屋ですから。」

名雪「でも、わたしたちが迷惑にならない?」

???「それも大丈夫です。この村の人たちは、関わりたくないだけですから。」

 少女は屈託のない笑顔でそう言った。

名雪「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」

???「はいっ。それじゃあ早速ご案内しますね。」

 言うと、少女は、くるりときびすを返して歩き始めた。

???「あっ、そういえば・・・」

 と、急に立ち止まると、3人の方を向き、

???「自己紹介がまだでしたね。

わたしは栞っていいます。」

名雪「わたしは名雪だよ。」

あゆ「ぼくはあゆ。よろしくね。」

真琴「わたしは真琴よ。」

栞「名雪さんに、あゆさんに、真琴さんですね。

改めて、よろしくお願いします。」

名雪「こちらこそ、お世話になります。」

 4人は再び、栞を先頭に歩き始めた。

あゆ「栞ちゃんって何歳?」

栞「16ですよ。」

名雪「わたしの1つ下だね。」

真琴「いっしょ、いっしょ♪」

あゆ「うん。ぼくともおなじだよ♪」

栞「えっ?」

あゆ「うぐぅ。ヒドい。」

栞「ご、ごめんなさい。わたしったら・・・」

あゆ「ううん。いいんだよ。どうせぼくなんて・・・」

名雪「と、ところで、栞ちゃんは一人っ子?」 気まずい空気を察した名雪が、素早く話題を変える。

栞「お姉ちゃんがいます。わたしの一つ上ですから、名雪さんと同い年ですね。」

名雪「そうなんだ〜」

栞「多分、家に居ると思いますよ。」

名雪「わっ、楽しみだよ〜」

栞「あっ、ここです。」

 一軒の家の前で、栞が立ち止まる。

それは、二階建てで、普通の家より少し大きいものだった。

栞「みなさん、中へどうぞ。」

名雪たちは家の中へと入って行った。

入ってすぐの正面にテーブルと椅子がある。

栞「ここがいわゆる食堂というものです。

お食事はこちらで召し上がってくださいね。」

最後に入ってきた栞が説明を加える。

 栞「それと・・・お部屋ですけど・・・」

  部屋へと案内しようとしたときだった。

???「しおり〜?帰ったの〜?」

一階の奥、台所と思われる所から澄んだ女性の声がした。

栞「あっ、お姉ちゃんです。」

栞は「呼んできますね。」と名雪たちに一声かけて、食堂の奥へと姿を消した。

あゆ「どんなお姉さんなのかな?」

名雪「きれいな声だったけど。」

真琴「嫌な奴じゃなきゃいいけど・・・。」

あゆ「仲良くなれるかなぁ。」

名雪「栞ちゃんともすぐに仲良くなれたから、きっと大丈夫だよ。」

あゆ「うん。そうだね。」

 栞「お待たせしました〜〜。」

  少しして、栞がパタパタと駆けて、戻ってきた。そして、その後ろには、おそらくは栞の姉であろう女性がいた。

あゆ「わぁ。」

  その女性を見て、あゆが感嘆の声をあげた。

ウェーブのかかった長くきれいな髪。

淀みの無い澄んだ瞳。

均整のとれたスタイル。

いわゆる美人というやつである。

名雪「きれいな人だね。」

あゆ「うん。すごいね〜」

???「あなたたちが・・・旅の人?」

名雪「はい。」

???「そう。

とりあえず、自己紹介しておくわ。

わたしは香里。栞の姉。香里でいいわ。」

名雪「わたしは・・・」

香里「名雪さん・・・ね。」

名雪「えっ?」

香里「さっき、栞から聞いたから。

それで、カチューシャの方があゆさん。

猫を連れているのが真琴さんね。」

真琴「わっ、当たってる。」

香里「ふふっ。よろしくね。」

名雪「お世話になります。

それから、わたしたちのことも呼び捨てでいいよ。」

香里「わかったわ、名雪。」

名雪「うん。」

名雪は、満面の笑みを浮かべた。

 

夜、

名雪たちは全員で食事をとった。

あゆ「あっ、このスープ美味しい♪」

真琴「この、舌にとろける感じがグーね。」

香里「そう?ありがと☆」

名雪「う〜ん・・・」

香里「?名雪、どうかした?」

名雪「うん、どうしたらこの味が出せるのかなって・・・」

香里「ふふっ、それはね・・・」

名雪「あっ、そうなんだ。なるほど〜。」

あゆ「栞ちゃん、こんな素敵なお姉さんがいていいなぁ。」

栞「はい。わたしも嬉しいです。」

香里「わたしは、料理くらいはできる妹が良かったわ。」

栞「ぎくり・・・」

あゆ「えっ、そうなんだ・・・」

栞「わたし、ちょっと不器用なんです。」

香里「味音痴は不器用とは言わないわ。」

栞「ひ、ひどい。

そんなこと言うお姉ちゃんは嫌いです。」

香里「ええ、嫌いで結構よ。」

あははと部屋中が笑いで溢れた。

 

食事の後、

栞「名雪さんたちは、いつまでいらっしゃるんですか?」

名雪「う〜ん、明日かなぁ。」

栞「そう・・・ですか。残念です。」

名雪「ゆっくりしたいけど、待ってる人がいるから・・・」

栞「彼氏・・・ですか?」

名雪「ふふっ、女の子だよ。」

栞「そうですか。でも、ドラマみたいでかっこいいですよね♪」

名雪「そ、そうかな?」

栞「そうですよ。いいなぁ。」

名雪「栞ちゃんは香里と何処か行ったりしないの?」

栞「はい。お姉ちゃんドケチですから。」

香里「栞!さっさとお皿持ってきなさい!!」

栞「はぁ〜い。」

 栞は慌てて台所の奥へと駆け出していった。

名雪「さてと、わたしも部屋に戻って寝よっと。」

 

 翌日、

名雪たちは買出しついでに村を歩いて回ることにした。そして、香里が「買い物ついでに」と、案内役を買って出た。

香里「それじゃ、栞、少しの間、留守番よろしくね。」

栞「はい。皆さん、お姉ちゃんをお願いします。」

香里「心配しなくても、あなたみたいに迷惑はかけないわ。」

栞「そ、そんなこと言うなら、お姉ちゃんの部屋を私仕様にしちゃいますから。」

   栞はそう言って、よよよ・・・と泣きながら、顔をストールで覆う。

香里「うっ、悪かったからそれだけはやめて。」

栞「わかってくれればいいんです。」

香里「じゃあね。それと、料理は禁止だからね!」

栞「う〜〜」

香里「帰ってきたら付き合ってあげるから。」

その言葉を聞いて、栞の顔がぱっと輝く。

栞「うん。ぜったいだよ!」

香里「はいはい。」

栞「いってらっしゃ〜い。」

   栞は姿が見えなくなるまで見送り続けた。

栞「さてと、掃除くらいはしておかないと・・・」

   家の中へと戻った栞は、身の凍る思いをした。

 

名雪たち一行は市場へとやってきていた。

あゆ「あっ、果物屋さんがあるよ!!」

   「こっちの人はお魚屋さんかな?」

   あゆは楽しそうに辺りをきょろきょろと見渡している。

真琴「う〜〜」

   こちらも負けじと見渡している。

名雪「真琴は何を探してるの?」

真琴「肉まんやさん!!」

香里「それはないわよ。」

真琴「そ、そんなぁ〜」

   真琴はがっくりと肩を落とす。

香里「可哀想なこと言ったかしら?」

名雪「大丈夫だと思うよ。」

香里「そ、そう?ならいいんだけど・・・」

真琴「あっ、焼き芋み〜つけたっ!!」

   そういって、一軒の店に突撃する。

名雪「ほらね?」

香里「そ、そうね。」

   そんなやりとりをしながら、お互いの買い物を終えたときだった。

   「うわ〜」

   「きゃ〜」

   「か、火事だ〜」

   突然、辺りが喧騒に包まれた。

あゆ「ね、ねえ、何があったのかな?」

真琴「さぁ?あっ、あそこ燃えてる。」

   真琴はそう言って、一方を指差した。

香里「・・・」

名雪「えっ、あっちの方角って・・・」

   名雪がそう言うより早く、香里は駆け出した。

名雪「あっ、香里!!」

   三人も遅れて駆け出した。

 

   栞は動けなかった。

   誰もいないはずの家に誰かが居る。

   そして、食卓の椅子に腰掛けている者は、たしかに自分を見ている。

   栞は精一杯の力を振り絞って口を開いた。

栞「だ、誰なんですか?」

???「う〜ん、いいねえ。」

栞「早く出て行ってください。」

???「それに、この状況でそれだけの口が聞                 けるとは、ますます好い。」

男は静かに席を立つと、栞のほうへと歩み寄った。

栞「い、いやっ、来ないで!人を呼びますよ!!」

男「やってみるがいいさ。」

  男は嘲り笑う。

栞「えっ!?」

男「ほらよっ、外を見てみな」

  そう言われて、栞は外へ出た。

栞「そ、そんな・・・」

  栞が目にした光景・・・

  それは、辺り一面の燃え盛る炎。

栞「なんてひどい・・・」

男「さあ、助けとやらを呼んでみるか?」

栞「うぅ・・・」

男「なぁに、大人しくしてりゃ、殺しはしないさ。」

栞「何が目的なんですか?」

男「挨拶だよ♪」

栞「!?」

  栞は一瞬、言葉を失った。

男は続ける。

男「で、この村に来たら、女がいた。

どうだ、理解できたか?」

栞「・・・はい。」

  栞は力なく答えた。

  自分がもう、自由ではないことを知った。

自分には抗う力がないことも分かっている。

  それに、力の差は歴然だ。

男「素直で結構。まぁ、嫌がるのを無理矢理ってのも悪くはなかったがな・・・」

  男が栞に手を伸ばす。

  「(お姉ちゃん・・・助けて・・・)」

栞はただ、心の中でそう叫び続けた。

 

「(そこの角を曲がれば・・・)」

香里は急いだ。

間違いなく、火の手は家に近づくにつれて、強くなっていた。

角を曲がったとき、

香里は愕然とした。

目の前に広がる炎一面の光景に・・・

香里「そ、そんな・・・栞!!」

   家の前に着いたとき、安堵した。

奇跡的に、まだ家は炎に包まれてはいなかった。

香里「栞!!」

   扉を開け放ち家の中へと飛びこむ。

香里「しおり―!!」

   香里は家中を駆け回った。

   「(ガスで倒れているのかもしれない。)」

   そう思い、一部屋一部屋見て回った。

   しかし・・・

   妹の姿はどこにも無かった。

   「(もう、避難したのかしら)」

   玄関まで戻ってくると、名雪たちの姿があった。

香里「名雪・・・」

名雪「・・・香里、栞ちゃんは?」

   香里は何も言わない。

ただ静かに首を横に振った。

名雪「そう・・・なんだ。」

あゆ「きっと、もう何処かに避難しちゃったんだよ。」

真琴「真琴もそう思う。とりあえず、ここは危ないよ!」

名雪「そうだね。香里、とりあえずわたしたちも・・・」

香里「ええ、わかっているわ。」

   真琴を先頭に家を出た。

  「(栞・・・無事でいるわよね・・・)」

最後に香里は、もう一度だけ振り向いて、

彼女たちの後に続いた。

 

その後、近くの広場で、みんなで手分けして栞を探した。

香里「(栞・・・どこにいるの・・・)」

香里は人ごみの中を捜し歩いた。

あたりは、火の手から逃れた人で溢れていた。

怪我人の姿も見える。

香里は、妹の姿が怪我人にダブったとき、

ぞっとした。自然と歩みが速くなる。

   どん

人にぶつかる。

香里「あっ、ごめんなさい。」

言葉だけを言い、先を急ごうとする。

だが、

???「あっ、ちょっと・・・」

呼び止められる。

 

香里「(人が急いでるときに・・・)」

苛立ちながらも振り返る。

???「やっぱり、香里ちゃんかい。」

それは、向かいのおばさんだった。

おばさん「あんたは無事だったんだねぇ。」

香里「ええ。それより、妹を見ませんでしたか?」

おばさん「・・・」

香里「?」

おばさん「栞ちゃんは・・・」

おばさんは一度、ため息をついて、声を落として言った。

おばさん「襲ってきた化け物に連れて行かれちまったよ・・・」

香里「!!」

衝撃が香里を襲った。

全身が震える。

ショックの大きさに体が崩れそうになるのを、なんとか耐える。

そして・・・

香里は唇を噛み締めると、駆け出した。

 

あゆ「栞ちゃん、いないね〜。」

真琴「お〜い、栞ちゃんや〜い。」

名雪「栞ちゃ〜ん」

   三人は一緒に探していた。

 真琴「ほんとに、ここにいるのかなぁ?」

 名雪「それは、わからないよ。」

 あゆ「でも、これだけ呼んでるのに・・・」

   三人は立ち止まった。

何か良い案はないかと考える。

しかし、文殊の知恵には至らなかった。

真琴「あんなのは嘘っぱちよ。偉いさんにはそれがわかんないのよ!」

 あゆ「あっ、まこちゃんがこわれた。」

 名雪「二人とも真剣に!」

 あゆ「ご、ごめんなさい。」

 真琴「でも、どうするのよ?」

 名雪「う〜ん・・・」

   そんなときだった。

???「あんたたち!」

   振り返ると、一人のおばさんが息を切らしてそばにやってきていた。

 

あゆ「あっ、見えてきたよ!」

   三人は、城を目指している。

あのとき・・・

おばさん「あんたたち、香里ちゃんの知り合いだろう?」

名雪「はい。」

おばさん「だったら、あの子達を助けてやっておくれよ!」

真琴「どういうことよ?」

おばさん「栞ちゃんが化け物に連れて行かれちまって、香里ちゃんにその話をしたら・・」

名雪「おばさん、場所は?」

・・・

名雪「待ってて、香里、栞ちゃん!!」

 

香里「(はぁはぁ・・・)」

聞いたとおり、城に辿り着き、侵入したはいいが・・・

 香里「栞・・・どこにいるの・・・」

通路を進む。

少し行くと、大広間に出た。

???「ほう、客か?」

香里「!!」

広間の先、玉座に腰掛けている者。

そして、そのとなりにいる見慣れた姿。

香里「栞!」

栞「お姉ちゃん!」

栞は喜びのあまり涙を流した。

男「ほぅ、貴様、この娘の姉か・・・

そいつぁ、感動もんだなぁ。」

香里「妹は返してもらうわよ。」

男「悪いが、こいつはもう、俺のもんでね。」

男の手が栞に伸びる。

香里「汚い手で、栞に触らないで。」

男「なんだと・・・」

男の顔に憎しみがこもる。

香里「栞、今助けてあげるから・・・」

男「はん、貴様も這い蹲らせてやるわ。」

香里「行くわよ!」

香里は男に向かって走り出す。

男「甘いんだよ!」

男は指を鳴らした。

   ずざざ・・・

男の前に立ちはだかる五体のゾンビ。

香里「くっ、」

男「さぁ、早くここまで来いよ。」

   そう言って、男は栞を抱き寄せた。

栞「いやぁ!」

   栞の叫びがこだまする。

男「う〜ん、いい鳴き声だ。くっくっ」

香里「あんたは〜〜!!」

香里は勢いをつけて、一体目のゾンビの頭を殴った。

   ぐしゃぁ

   「ぐぅぉぉ」

静かな唸りを残して崩れる。

二体目が腕を振り上げて下ろす。

香里はそれをかわし、横腹に掌呈を浴びせた。

   「おぉぉ」

ゾンビは吹き飛び、床に転がる。

三体目が剣を振りかざす。

香里「くっ、」

香里は後ろへ飛ぶ。

ゾンビは続けて切りつける。

香里は間合いを取ってかわす。

さらにゾンビは剣を突き出す。

香里はそれをしゃがんでかわす。

それを見て、ゾンビは剣を薙ぐ。

しかし・・・

剣の先に香里の姿は無い。

香里「はぁぁっ」

   ゴガッ

頭上からの衝撃に足から崩れる。

香里は剣を拾い、四体目のゾンビの胴を薙ぐ。

香里「ラストッ!」

五体目のゾンビに向かって、剣を投げつける。

ゾンビはそれを払いのける。

その間隙をついて、懐に入り込み、

香里「飛燕連脚!」

最後の一体が崩れ落ちた。

男「はっ、やるじゃね〜か。」

香里「あとは、あんただけよ。」

男「後悔させてやる!」

   二人は対峙した。

男「どうした?来ないのか?」

香里「・・・」

香里は何も言わず、大きく深呼吸して、

一気に間合いを詰める。

男「さぁ、楽しませてくれよ。」

香里は連撃を繰り出す。

   左右の上段パンチから回し蹴り。

さらには中・上段への蹴り込み。

   しかし、それらすべてを男はなんなくかわしてみせた。

香里「くっ」

   さすがに息が荒くなっていた。

   ここまで通用しないとは思わなかった。

男「もう終わりか?」

   平然としている男を睨みつける。

男「ほう、まだそんな気力があるのか?

  では、俺様からプレゼントだ。」

その瞬間、男は香里の目前にいた。

香里「!!」

男「遅いっ」

   男の拳が襲い来る。

香里はそれを後ろに飛んで、威力を流して受ける。

男「これならどうだ。

  ヘブンズトルネード。」

   男が翼を羽ばたかせると、竜巻が起こり、香里を襲う。

香里は両手で顔を守りつつ、身をかがめる。

しかし、竜巻は容赦なく香里を切り刻む。

香里「くっ、あぁぁ」

男「ふはは、そうだ。もっと啼け!叫べ!そして、死ね!!」

香里「きゃぁぁ」

香里は耐え切れず吹き飛んだ。

香里「くっ、かはっ」

起き上がろうとするが力が入らない。

徐々に足音が聞こえ、

香里「ぐっ」

腹に蹴りをくらい、仰向けにされる。

男「どうだ、思い知ったか?」

そう言って、男は香里の腹を踏みつけた。

香里「うぅあっ」

香里は限界だった。

もはや話すことも困難だった。

栞「お姉ちゃん!」

   うっすらとした意識の中で、栞の呼ぶ声が聞こえた。

しかし、体は動かない。

自分では妹を助けることは出来なかった。

香里はただ悔しかった。

一番肝心なときに妹を守れなかった自分が。

情けなかった。

何でもできると自惚れていた自分が。

涙が頬を伝う。

そして、それが頬から離れると同時に視界は闇に包まれた。

 

男「!!」

男は咄嗟に身をかわした。

横をふわふわと光球が漂っていた。

男「なんだ?」

それに目を奪われた瞬間。

男「なにっ!」

目の前に女がいた。

男「しまっ」

女「せぇぇいっ」

顎に一撃をくらう。

男「ぐぁあ」

男は床を転がった。

栞「みなさん!」

名雪「栞ちゃん。無事でよかったよ。」

栞「はい。ですが、お姉ちゃんが・・・」

後ろでは、あゆが香里の治療をしていた。

真琴「どうなのよ、助かりそう?」

あゆ「うぐぅ、まこちゃん、静かにしてて。」

真琴「わかったわよ。そっちは任せたからね。」

名雪「真琴。いくよ?」

真琴「いつでもどうぞ。」

男がゆっくりと立ち上がる。

男「女ぁ、よくもこのミケロ様の顔に・・・」

真琴「はん、別にたいした顔してないじゃない。」

ミケロ「うぉぉ、ぶっ殺してやる!」

名雪は身構え、真琴は小銃をかまえる。

ミケロ「くらえぇ、ヘブンズトルネード。」

   二人は左右に飛ぶ。

ミケロ「これでもくらえ。」

ミケロが羽を刃にして放つ。

名雪「きゃっ」

真琴「わわっ、ちょ、ちょっと・・・」

なんとかかわす。

再び肩を並べる二人。

真琴「やられっぱじゃない。」

名雪「とりあえず、あゆちゃんの時間を稼がないと・・・」

真琴「これでやられちゃバカじゃない。」

名雪「だから、がんばって避けてね☆」

真琴「来る!」

ミケロ「ハイパー銀色の足スペシャル。」

ミケロは上空から二人に向かって蹴りを見舞う。

真琴「はっ、ただのキックじゃない。」

名雪「真琴、早く避けて!」

二人は同時にその場から飛び退く。

  ごがぁ

さっきまでの場所がミケロを中心にめり込む。

真琴「そんなのアリ?」

真琴は涙目になる。

ミケロ「ふん、よく避ける。」

 

あゆ「(香里さん・・・)」

あゆは治療を続けていた。

向こうでは、二人が自分のために戦ってくれている。

あゆ「ぼくも早くいかなくちゃ。」

しかし、香里の意識が戻るまではどうすることもできない。

あゆ「香里さん。」

あゆは呼び続ける。

栞「お姉ちゃん。」

駆け寄ってきた栞が香里の手を握る。

あゆ「栞ちゃん。」

栞「わたしもお手伝いを。」

あゆ「うん。そのまま呼び続けてあげて。」

栞「はい。」

あゆ「・・・」

栞「おねえちゃん・・・」

あゆ「・・・」

栞「わたしのために、こんなになるまで・・・」

あゆ「・・・」

栞「ありがとう。」

あゆ「・・・」

栞「大好きな・おねえ・・・ちゃん。」

栞の目から涙が溢れていた。

その雫は頬を伝い、香里の顔に降り注ぐ。

栞「お願い、目を開けて。」

 

「(冷たい・・・)」

香里はそう感じた。

「(雨?)」

???「・・・お」

???「お・・ねえ」

香里「?」

声が聞こえる。

誰かが泣いている。

???「おねえ・・・ちゃ」

香里「・・・栞?」

???「おねえちゃん・・・」

香里「そうよ、わたしはまだ終われない。」

 

 ぴくん

   栞「!?」

  香里「っっ」

   栞「おねえちゃん。」

    香里がゆっくりと目を開ける。

   栞「うぅぅ」

   栞の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。

香里「ただいま、栞。」

香里はそっと妹の顔をなでる。

栞「お帰りなさい。お姉ちゃん。」

あゆ「きっと、もう大丈夫だよ。」

香里「あゆちゃん?」

あゆ「うん。みんないるよ。」

香里「どうして・・・?」

あゆ「友達が困っているのを助けるのは当たり前だよ。」

香里「・・・ありがとう。」

あゆ「どういたしまして。」

あゆ「あとは栞ちゃんに任せるね。ぼくはまだ、やらなくちゃいけないことがあるから。」

栞「はい。お気をつけて。」

あゆ「うん。」

 

真琴「ちょ、ちょっと、いつまでかかってんのよ。」

名雪「そろそろやばいかな?」

真琴「もう、やばいわよっ」

あゆ「ごめ〜ん、おまたせ〜。」

名雪「あゆちゃん。」

真琴「遅いわよ、あんた!」

あゆ「うぐぅ、そんなぁ。」

名雪「香里は?」

あゆ「うん、もう大丈夫だよ。」

名雪「よかった。」

真琴「それじゃあ。」

あゆ「反撃開始だよ♪」

ミケロ「今更、一人増えたところで。

    くらえ、ウインドファイヤー」

     竜巻と炎が一体と化し、三人を襲う。

   あゆ「うぐぅ〜」

     なんとかかわす。

   真琴「飛ばれたら攻撃できない。」

   あゆ「飛び道具は?」

   真琴「やるだけムダよ。」

   名雪「全部、羽で落とされちゃうから・・・」

   あゆ「困ったね。」

  真琴「降りてくるのはあのキックのときだけ。」

  あゆ「それは?」

  真琴「キックの威力が大きすぎるのよ。」

  名雪「威力を失くせたら・・・」

  真琴「賭けよね。」

  あゆ「でも、それしか・・・」

  名雪「真琴、ガンバってね☆」

  真琴「かんたんに言わないでよ。」

  あゆ「じゃあ、」

  名雪「いくよ〜」

    三人は再びミケロと向き合う。

  ミケロ「覚悟はできたか?

なら、望みどおりにしてやるよ。

ハイパー銀色の足スペシャルー」

    必殺技が三人に向けて放たれる。

  名雪「あゆちゃん!」

  あゆ「うん。」

    二人が真琴の前に出て手をかざす。

  名雪「はぁぁぁあ」

  あゆ「う〜〜」

    二人があわせた手に光が集まる。

  ミケロ「死ねぇっ」

    力と力がぶつかる。

  名雪「まだだよ〜」

  あゆ「うぐぅ、もうちょっとだけもって、                     ぼくのちから。」

  ミケロ「な、なんだと〜」

    ごうん

    力が相殺される。

  ミケロ「俺様の力と互角だと!?」

    ミケロは威力を消され、一瞬宙に漂う。

あゆ「まこちゃん。」

  名雪「今だよ。」

    反動で飛ばされる二人を尻目に

  真琴「わかってるわよ。

   くらえ、世界一の殺し屋も恐れるこの中率。名づけてゴルゴショット!」

  真琴「命!!」

    真琴の放った弾丸は一筋の光を放ち、

  ミケロ「うぉぉぉ」

    ミケロの眉間を貫いた。

  真琴「さっすが、わたし!すごすぎっ♪」

  名雪「なんとか倒せたね。」

  あゆ「ぼく、もうくたくただよ〜」

  名雪「さぁ、行くよ。」

  真琴「元気ね〜」

  名雪「ほら、香里と栞ちゃんも待ってるよ。」

 

    翌日、

村の入り口で

   栞「行っちゃうんですか?」

  あゆ「うん。」

   栞「残念です。」

  あゆ「しょうがないよ。」

   栞「あの、これ、おにぎりです。

   これくらいしかできませんが、どうぞ。」

  真琴「わっ、ありがと〜♪」

  香里「名雪・・・」

  名雪「ん?」

  香里「ありがとう。あなたたちのおかげで、またこうして妹と一緒にいられるわ。」

  名雪「どういたしまして、だよ。」

  香里「旅が終わったら、また寄ってね。」

  名雪「うん。ぜったいまた来るよ。」

   栞「みなさんの旅が無事でありますように。」

  名雪「うん。ありがとう、栞ちゃん。」

  あゆ「じゃあね。」

  真琴「ばいば〜い。」

   栞「はい、さよならです。」

  真琴「さぁ、ぴろ頼んだわよ。」

    車は走り出した。

   栞「行っちゃった。」

  香里「そうね。」

   栞「素敵な人たちでしたね。」

  香里「見た目は頼りないけどね。」

    二人は姿が見えなくなるまで見送っていた。

    そんな二人を太陽は優しく見守っていた。

 

 

    次回予告

    ぼくは夢を見た。

    夢の中で出会った

    一人の女の子。

    そして、

    回り始めた新たな運命。

    今明かされる旅の秘密。

次回、最遊戯第3話

    「出逢い。」

  あゆ「すべからく看てください。」

    

  後記なるもの

   ゆきや「ここに第二話お届けいたします。」

   香里「・・・」

   ゆきや「何か?」

   香里「第一話と量、違うんだけど?」

   ゆきや「まぁ、あれは序章みたいなもんすから。」

   香里「そう。」

   ゆきや「・・・」

   香里「それと・・・」

   ゆきや「はい?」

   香里「なんでわたしがこんなとこで、こんなことをしなくちゃいけないわけ?」

     ゆきや「独断と偏見で☆」

     香里「・・・」

     ゆきや「うわっ、冷ややかな眼差し。」

     香里「それで?」

     ゆきや「はい?」

     香里「わたしはどうすればいいわけ?」

     ゆきや「そんな、投げやりに言わなくても・・・」

     香里「・・・」

     ゆきや「妹とは楽しそうにしてたくせに・・・ぶつぶつ。」

     香里「それはあなたが・・・」

     ゆきや「栞、ただいま・・・とか。」

        バキ

     香里「殴るわよっ!」

     ゆきや「もう、殴ってる・・・」

     香里「まぁ・・・がんばりなさい。」

     ゆきや「・・・」

     香里「な、なによ?」

     ゆきや「素直じゃないんだから♪」

     香里「地獄を見せてあげるわ!」

     ゆきや「あぁ〜、すんまへん。」

     香里「待ちなさ〜い!」

     ゆきや「それでは、皆さん、第三話の後記でお会いしましょう。」

     香里「飛燕連脚!!」

     ゆきや「あわびゅっ!!」