第1話「南へ」

 

とあるひとつの街。

規模は大きい部類で、

人口もそれなりにいる。

そんな活気にあふれた街。

その中でも、特に勢いがあるのが、

この一軒の店であった。

 ガツガツ、もぐもぐ 

なかなかに広い店内のその右奥

ぱくぱくぱく

??「チョット、それわたしのやつ!」

??「えっ、どれ?」

 ぱくぱく

??「あ〜、せっかくとっておいたのに〜」

??「あっそうだったんだ。ごめんね〜」

??「う〜、ぜったい許さないんだから〜」

??「うぐぅ。ごめん。」

??「うにゅ〜、おいしい〜♪」

??「あっ、それ、ぼくのなのに〜」

??「うにゅっ?」

??「ひどいや、名雪さん。」

名雪「ご、ごめんね、あゆちゃん。」

あゆ「うぐぅ、美味しかった?」

名雪「うん。とっても♪」

あゆ「・・・」

名雪「・・・」

あゆ「うぐぅ〜〜」

??「わたしの盗ったくせに。」

あゆ「あれは事故だったんだよ。」

??「人の皿にあるのを取るのが事故かっ!!」

あゆ「うぐぅ、まこちゃん赦して〜」

真琴「ダメ。あなたを殺します。」

あゆ「まこちゃん、キャラ違うよ〜」

真琴「問答無用!今こそ、この隠された力を解放するとき!」

席を立ち上がろうとした、その時。

  ばこっ!!

真琴「はうっ」

・・・真琴沈黙

名雪「食事中は、もう少し静かにしないとね。」

にっこり笑ったその手には、

ごっついメニューがあるのを

あゆは見逃さなかった。

 

食事を済ませた後。

未だ沈黙している真琴を引きずりながら、

二人は歩いていた。

あゆ「ねえ、名雪さん。次はどうするの?」

名雪「そうだね。まずは泊まるとこみつけないと。」

あゆ「その後は?」

名雪「買出しかな。朝には出発したいから。」

あゆ「大丈夫かなあ。」

名雪「大丈夫だよ☆」

あゆ(名雪さんのことなんだけどなぁ)

名雪「あっ、宿屋さんあったよ。」

あゆ「ここにはベッドあるかな?」

名雪「あるといいね。ふかふかのベッド。」

あゆ「うん。早く行こうよ。」

名雪「あん、待って〜。」

駆け出したあゆを追う様に名雪も後に続く。

そして、案内された部屋で一休み。

あゆ「わ〜い、ベッドあるよ〜」

名雪「うん。ふかふかしてるね〜」

まだ沈黙している真琴を、とりあえずベッドに寝かせてから、その感触を楽しむ。

あゆ「まこちゃん、まだ起きないね。」

名雪「そうだね。」

あゆ「きつすぎたんじゃあ?」

名雪「う〜ん、手加減はしたよ〜」

あゆ「それじゃあ、打ち所かなあ?」

名雪「でも、困ったね。起きてくれないと、買出し行けないよ。」

あゆ「ぼく、まこちゃん看てるよ。」

名雪「うん。でも、できたら、どっちかにお手伝いしてほしいな。」

あゆ「そうだね。たくさん要るもんね。」

名雪「うん。

次の場所までどれくらいかわからないし・・・」

あゆ「う〜ん。」

途方にくれている二人の横で、真琴は我知らずか、気持ちよさそうに眠っている。

名雪「真琴、気持ちよさそうだね。」

あゆ「ぼくたち、こんなに悩んでるのにずるいよ。」

名雪「でも、置いていくのは可哀相だし・・・」

あゆ「ほっぺたつねってみようよ。」

そう言うと、あゆは真琴に近づき、

真琴のやわらかそうなほっぺたを・・・

がばぁっっ

あゆ「うぐっ、び、びっくりした〜」

真琴が突然起き上がった。

あゆ「し、しんぞうがとびだしそうになったよ〜」

余程驚いたのだろう。

あゆは目に涙を溢れさせている。

一方の名雪は・・・

名雪「あっ、真琴。おっは〜。」

いたって、普通だった。

あゆ(ぼくが怖がりなんじゃないだよもん。

名雪さんがおかしいんだよもん。)

あゆは自分にそう言い聞かせた。

まだショックのせいか、言葉使いが微妙に違っていることには気付いていないようだが。

真琴「・・・」

名雪「・・・」

あゆ「・・・」

真琴「・・・」

名雪「ま、真琴?」

真琴「に」

あゆ「に?」

真琴「逃げて〜〜」

あゆ「え〜〜!!」

 ゴンッッ

その瞬間、

名雪の拳が真琴の後頭部を捉えていた。

真琴「はっ、わたしは・・・?」

きょろきょろと辺りを見渡す。

真琴「ここは・・・?」

名雪「真琴、ちゃんと起きた?」

真琴「名雪?」

あゆ「ここは、今日、泊まるところなんだよ。」

真琴「ふ〜ん。あっ、ふかふか。」

名雪「真琴、気持ちよさそうに寝てたよ。」

あゆ「そうそう。ぼくたちずっと悩んでたのに。」

真琴「そうなんだ。ごめんね。」

あゆ「ううん、いいんだよ。

それより、何の夢みてたの?」

真琴「夢?」

あゆ「うん。」

名雪「『逃げて〜』って、叫んでたよ?」

真琴「え〜と、たしか・・・

車に乗ってて・・・」

あゆ「えっ、運転してたの?」

真琴「ううん。運転は女の人だったよ。」

あゆ「知ってる人?」

真琴「顔はあんまり覚えてないケド、多分。」

あゆ「それで、それで?」

真琴「その人の運転、すごく危なくて・・・」

あゆ「危ないの?」

真琴「うん。すっごくスピード出したり、遅かったりするのよ。」

あゆ「楽しそうだね〜」

真琴「最悪よ!『危ない』って、何度も言ってるのに、

『大丈夫ですから☆』って、笑ってるんだから。」

あゆ「うわぁ、すごいひとだね〜」

真琴「横道からおじいさんが出てきた時は絶対轢く

と思ったわよ。」

あゆ「それで、逃げて〜だったんだ?」

真琴「そうなのよ。あ〜夢で良かった。」

あゆ「すごい夢だよね〜、名雪さん。」

あゆは名雪の方を向いた。

あゆ「な、名雪さん?」

しかし、いつもの彼女は居なかった。、

そこには、

目は焦点が合わず、宙を彷徨い、

ガタガタと小刻みに震えている少女が居た。

あゆ「どうしたの?名雪さん!!」

名雪「・・・わたし・・・知ってる。」

あゆ「え、な、何を?」

真琴「ひょっ、ひょっとして・・・」

名雪「それ、わたしのお母さん・・・」

あゆ「え〜〜」

真琴「きゃ〜〜」

名雪「お母さんが車を運転したの、

一度だけあるの。」

あゆ「そ、それで・・・?」

名雪「おじいさんが出てきてから先は覚えてないよ。」

全員「・・・」

謎ジャムに次ぐ禁断の話題を、望みもしないのに知ってしまった彼女たちの、その日の晩御飯は、あとにも先にも静かなものであったと言う・・・

 

 翌日

何とか気を取り直した三人は仕度を整え、

宿を後にした。

真琴「次はどこに向かうの?」

名雪「ん〜、とりあえずは南に向かうしかないよ。」

あゆ「わかってるのは南に行くことだけだもんね。」

真琴「だって。ピロ、あとはよろしくね〜」

ピロ「うにゃあ。」

ピロは一声鳴くと、その姿をジープへと変える

真琴「いくわよ、ピロ。」

真琴はそう言って、最初に飛び乗る。

名雪「ピロ、お願いね〜」

あゆ「おまかせするね〜」

それに続き、乗り込む二人。

真琴「さぁ、ピロ発進よ!!」

ピロ「うにゃあ〜ん。」

ごうん

ブロロロ・・・

三人は向かう・・・

ただ一つわかっていることを頼りに・・・

『南へ』

自分たちを待つもののために・・・

 

 

 次回予告

三人がたどり着いた小さな村。

そこに住む仲の良い姉妹。

姉を誇りに思う妹・・・

妹を何より愛する姉・・・

「いつもいっしょに・・・」

そんな二人の、ささやかな願い・・・

しかし、

そんな二人の夢すらも闇は呑み込んでしまう。

次回 最遊戯 第2話

『一番大切なもの』

???「読んでくれない人・・・嫌いです。」