音速太夫 



 夜の花町の賑やかしさも次第に更けてきた頃。
 大店の若君相手に極上の夢を売り、部屋を辞す太夫に、禿の子兎がそっと耳打ちをする。

「奥のお部屋でお待ちです」
「Thanks. ここから先はもういいからおやすみ、クリーム」
「えっ…でもお食事などお運びした方が」
「無一文で花魁遊びするヤツに、もてなしなんて必要ないさ」

 そんな悪態をつきながらも、太夫の微笑みは今夜最も美しくて、子兎もほうと吐息を零す程。
 静かに廊下を渡ってゆき、客間というより物を置くような小部屋へ。障子に映る行燈の赤が、彼の瞳を思わせる。

「遅くなりました」

 面伏せて障子を開き、客人の気配を探る。顔を上げればやはりと思う。
 伸ばした背筋に、腰に差したままの太刀。修行の続きかと笑いたくなるほど生真面目に座っている。
 部屋に入り障子を閉めると、太夫は他の客相手の時とは違う歩みで、客人の前へ座る。

「最近来ないから、死んだかと思ってたぜ、シャドウ」
「遠出をしていた」

 袖の中から小さな漆塗りの鏡を出して、太夫の手に乗せる。
 曇りのない鏡の裏は黒に映える金の蒔絵。
 加賀のあたりで騒動があったとは聞いていた。それを収めてきたのだろう、命を賭けて。
 土産物は嬉しいけれど、本当に嬉しいのは、必ず生きてここで戻ってくれること。

「お前ほどの剣士、家督を継げだの嫁を取れと言われたりだの、するだろ?無理に茶屋通いすること無いんだぜ?」
「ソニック、ボクがキミを自由にする」

 それは身請けという意味なのかは不明だが、十分に嬉しい言葉だった。
 身体は見世に囚われていても、心だけはいつも自由だったから、影色の剣士との恋が太夫には真実の幸せだった。

「愛してる、シャドウ」

 告げれば嵐のように口づけられ、重い着物から抜け出る蝶のように身を軽くする。
 引き倒される勢いで襦袢の裾を割られ、あらわになった胸のふくらみを汚れた麻の衣へ押し付ける。
 はやく、はやく、と急かすように。

「キミが多く客を相手にしていることは知っている。正直嫉妬しているが、それでも」
「…それでも?」

 ふたたびシャドウが太夫に接吻する。こんどは優しく、熱を与えあうように。
 そこからは言葉も無く、二人の呼吸ばかりが小さな部屋にこぼれてゆく。


 残り短い夜を、甘い息で満たすまで。

















やっちまいましたぜ!花魁ソニックさんwwww


2010.05.17


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