11月の終わり


 もうすぐ誕生日ですね。
 何か欲しいものとか、あったらプレゼントしますよ。
 仲間達のそんな言葉に、笑って適当に欲しいものを言ってみる誕生日の1週間前。
 展望室で青く煙って見える地球をぼんやりと眺めながらひとときの休息。

「あら?珍しい。お一人ですか?」
「なあに?マリューもこっちに来るなんて珍しいでしょ」
「探してたんです。ムウ、来週お誕生日でしょう?私も何か欲しいものが無いか聞いてみようと思って」
「何でもいいよ。マリューがくれるものなら」

 彼女には特に注文をしたくない。
 きっといろいろ考えて俺を喜ばせてくれるだろう。
 …自惚れてるよなぁ、なんて考えてると、嬉しいのに何故かため息が漏れてしまった。
 不審そうに彼女が俺を見つめている。

「ごめん。ちょっと感傷的になってた」
「昔の、こと、ですか?」

 頷いて答える。
 こんな風に、誕生日を祝ってもらえるなんて、軍隊に入ってから、だから。
 毎年、誰かが祝ってくれた。その人達は、今はもう会えない場所に。
 そして、子供の頃は…。

「11月の終わりって、何にも無いんだ」
「何も?」
「俺しか残らないってさ。色が」

 断片だけでは判らないだろう。
 今更言いよどむ自分に、やり場無く苛立つ。
 マリューはじっと待っていてくれる。
 本当に、いい女だよな。

「秋が終わって、樹木の葉も全部落ちて、少し経てば冬の雪が降る。けど、11月の終わりにあるのは、ただ空にある青と太陽の金だけだって」
「…あなたの色ね」
「それだけしか無い。だから寂しいんだってさ。俺の母親には、ね」

   −お前を見るたび、寂しい季節を思い出す−
   −お前がいるから、私は寂しいの−

「俺は、誰一人として幸せにできるひとなんていやしない。ただ、生きて死んで、11月の空に還るだけだと、そう思ってたから」

 ずっとそんなことばかり考えていた。
 思い出すのは、冷たい風。自分以外には何も無い空。

「あなたは生きて、まだその空の色を宿したままだわ。私は、あなたの色がとても好き」

 ふわり、と微笑むマリューの瞳は、もうひとつの11月の終わりの空の色。
 母親みたいだと言えば怒られてしまうだろうか。



end



え?終わり?(汗)
お誕生日ネタはもうちっと明るめにやりたいんで、これは予備話です。(笑)

2003/11/25 UP


--- SS index ---