コイノハナ


 戦艦にはおよそ似つかわしくないものが、エターナルの休憩室の端にひっそりと置かれている。
 ラクスがそっと持ち込んだ、電子ピアノ。
 エターナルのクルーたちは皆コーディネイターで、音楽の専門教育を受けていた者も多い。弾くくらいなら少し練習すれば誰でもできるようになる。
 ただ、戦時中だから、と誰もそのピアノに触れようとはしなかった。

 だから、そのピアノに気付いて、興味を持って白と黒の鍵盤を弾いたのはナチュラルのカガリとマリューだけだった。


「なんだか懐かしいわね・・・」

 マリューが笑って、音階を確かめるように指一本で何かの曲を奏でる。思い出すままに鍵盤を押さえて、リズムも何もあったもんじゃないが、切ないような短調のメロディに、カガリが気付く。

「それ、歌があったよな?…どこの童謡だったっけ?」
「さあ…母がよく歌っていたの」

Bloomed and bloomed
What flower bloomed?
The lotus flower bloomed
Bloomed at last,
Withered unawares

 歌い終わったマリューが鍵盤から手を離して振り返ると、カガリは少し不満げに電子ピアノを見つめている。

「童謡ってそんなもんかもしれないけどさ…。なんか結末に納得がいかないよな」
「…そうね。でもこの歌のようなのかもしれないわ。花も、人も、ね」
「まあ、お2人とも、その歌の続きをご存知ありませんの?」

 いつの間にかラクスが休憩室の入り口で2人を見守るように立っていた。

「ラクスさん!…あら、恥ずかしい。ヘタな歌を聴かれちゃったわ」
「いいえ。とてもステキなお歌でしたわ。私も歌いたくなってしまいました」
「さっきの歌の続き、ラクスが歌ってよ」

 マリューとカガリがピアノの前に手招いて。
 ラクスは最初の和音だけを左手で押さえた。

Withered and withered
What flower withered?
The lotus flower withered
Withered at last,
Bloomed unawares, again

 透き通る歌姫の声に、マリューもカガリも惜しみなく拍手を贈る。
 ラクスが2人にニッコリと笑う。

「ステキなお歌でしょう?私も以前一度聴いて、どうしても忘れられなかったのです」
「本当ね。前半しか覚えてなかったから、どうしてこんなに悲しい歌がいつまでも歌われているのか不思議だったの」
「私も前半しか知らなかった。納得いかない童謡じゃなかったんだな。うん、すごくいい歌だな」

 ラクスがメロディラインだけを弾いて、その短い曲を繰り返し鳴らすように電子ピアノを操作する。
 短調のメロディが切なく繰り返される。

「花も、人も、この歌のようなのかもしれませんわね」
「童謡じゃ…ないようにも聴こえるな」
「母は…恋の歌だって言ってたのよ」

 マリューが遠い時を思い出すような笑顔を見せたとき。
 カガリとラクスも、幼いながらも同じ想いが胸の中に咲いた。

 マリューにはペンダントの人の恋。
 ラクスにはアスランとの恋。
 カガリにはアフメドから貰った想い。
 それぞれに。枯れてしまった花。

 そして、これからまた咲く、新しい花。



End




詞は「ひらいた ひらいた」です。
NHK教育「ドレミノテレビ」で前にううあ(UA)が歌ってたんです。
恋の歌、だよねぇ〜コレって〜〜。
英訳はweb翻訳に頼ってます。かなりいい加減です…間違ってるよ。
2003/10/28 UP


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